4)染料実験:2002年度および2003年度は流れの状況を把握するために、シーマーカーと呼ばれる海難救助用の染料を用いた。ただし、2004年度は地元の船具メーカーに在庫がなく実験前の購入が間に合わなかったことなどから、ウラニンを布に詰めて使用した。この染料は、上空から航空機などを用いて垂直写真やビデオで垂直映像を撮影しないかぎりは、移動や拡散状況を定量的に捉えることは、困難であるが、比重が若干海水よりも重いために水中を漂う。そのために、波乗りするフロートよりは沖合への流れ(離岸流)に乗りやすくかつ視認しやすい特性を持つ。ただし、難点は、船舶用のシーマーカー自体は一個が約9000円と高価であること、漁協関係者から有害汚染物質ではないかとの危惧を抱かれること、また、救出用ヘリコプターに搭載されているシーマーカーは遊泳区域のように水深が浅すぎると航空機から投下しても格納装置が開かず染料が拡散しないなどの点がある。
図3.2.39 シーマーカーの拡散状況
5)赤外線カメラ;2003年度の青島海岸観測において、離岸流と海水温に相関関係があることが分かった。その物理機構については、今後の観測で明らかにされるべきであるが、離岸流域で水温が低いことが今後の観測でも立証されれば、離岸流のリモートセンシング技術として有効と考えられる。そこで、2004年度も赤外線カメラを用いて離岸流域での画像記録を行った。その結果、本年度はあまり明瞭とは言えない赤外画像がたくさん記録された。これは、本年度の観測では撮影高度を確保できず、しかも降雨や雷雨などの気象条件が重なることも多く、海水表面の水温変化を捉えにくい状況が重なったことも一因と考えている。
図3.2.40 赤外画像の記録例(青島海岸)
6)地形測量;離岸流の発生箇所の特定や数値計算のためには、できるだけ詳細な浅海域海底地形情報を測定することが望ましい。そのような観点から、(株)国際航業所有の測深精度±2.5cmの3D型レーザースキャナー(リーグル社製LMS-Z210)を使用して、浅海域地形および水表面形状の観測を2003年度に行った。図3.2.41には、ドライアップしている箇所の地形測量結果を示す。相対高さ3mおよび2mの等深線図を見れば、離岸流発生箇所となるリップチャンネルの位置が、レーザーであるために昼夜を問わず測定可能なことがわかった。
図3.2.41 3Dレーザー測深器による測量結果
7)流速場の定点観測;離岸流にアレック社製の超音波式流速計ADCPとAWAC、アイオーテクニック社製超音波式波高計を設置し流れの様子を調べた。同様の観測機材は、その他の計測機器メーカーからも販売されており、予算等に応じて購入が可能である。これらの観測機器は、通常最低でも数週間以上の観測が可能であるので、入射波浪に応じて変化する離岸流の物理特性を調査するのに適しているが、離岸流の観測箇所は砂浜が多く、そのために長期観測すればするほど埋まりやすいと言う難点がある。しかも、例えば青島海岸では離岸流域内で流れが3m/sを超える強い離岸流が存在するが、そのような箇所に大学生などの作業員を用いて計測機器を設置することは安全確保の観点から基本的に不可能であり、必ずしも観測で最も必要とされる地点に計測機器を設置できないと言うジレンマがある。また、砕波帯ではADCPが必ずしも使いやすい計測器でないことにも留意する必要がある。
なお、今回調査で用いた主な計測機器類を列挙すると、以下のようになる。
・波・流れ
WAVE HUNTER94 WH-101
Wave Hunter99Σ WH-203
長音波ドップラー流速計 ADCP Aquadopp Profiler(NORTEK)
GPSフロート
シーマーカー
・測量
DGPS(IMAP付属)
トータルステーション
HGPS
・画像
デジタルビデオカメラ ビデオカメラ
デジタルカメラ スチルカメラ
(1)代表的な海岸地形の類型化
離岸流の研究には、詳細な海底地形データが必要で、また同時に地形の判読技術が重要である。実際、海浜流の計算には格子幅の狭い詳細な海底地形データが必要であるが、浅海域の深浅測深データでこの様な条件を満足することは難しい。よって、離岸流特性の検討に関する数値計算には、空間分解能が高く、かつ、代表的な海底地形を網羅する地形の数式モデリングが必要である。そこで、浅海域の代表的な海底地形を、(1)岸沖の平衡海浜断面形状、(2)誤差関数状の沿岸砂州、(3)汀線から砕波帯にかけてのカスプ形状として、それぞれについて、以下に示すように数式モデルを用意した。なお、将来的には、(A)汀線から陸側の地形、(B)蛇行する沿岸砂州、(C)多段沿岸砂州も地形モデルに取り込む必要がある。
(2)地形の数式モデリング
浅海域の海底地形の数学的表現は、水深(x岸沖座標、y沿岸座標)=平均地形+沿岸砂州+沿岸方向の波状地形で表されるものとした。ここで、それぞれの成分地形は以下のように表現できるものとする。
(1)平均地形(岸−沖方向)d1;
d1 = u * x ^r (x)
但し、u = 0.1 r = 2/3
(2)沿岸砂州 d2;
d2 = b exp { - (x-xb) ^2 / (xb/2) } 誤差関係に類似
但し、b=バーの高さ;xb=バーの位置
(3)沿岸波状汀線付近地形(非対称波状地形を含む;カスプ地形)d3;
d3 = a(1-x/1b) * sin (2pi*(y-delta) / ramda)
但し、a=最大振幅;ib=砕波点位置;delta=波状地形に導入する非対称度
また、DELTA = DELTA1 + DELTA2で、それぞれ次のように定義される。
delta1A = skewness
delta2 = the oblique downstream orientation of the crest of unduration
delta1A = deltamax * sin (2pi*(y-delta1)/ramda)
delta2 = deltamax [ sin (2pi*y/ramda) * cos (2pi*deltal/ramda) - cos (2pi*y/ramda) * sin (2pi*deltal/ramda)]
以下にそれぞれ実地形と計算地形の代表例を示す。
図3.2.42 沖合に向かい水深が深くなる平均地形
図3.2.43 計算により求めた平均地形
図3.2.44 自然の沿岸砂州地形
図3.2.45 計算により求めた沿岸砂州地形
図3.2.46 カスプ地形(汀線付近の波状地形)
図3.2.47 計算により求めたカスプ地形
上記したような平衡海浜断面形状、沿岸砂州、波状汀線(カスプ)に加えて、汀線から陸域に向かう前浜部の地形を合成すると、以下に図示するような海底地形モデルが作成できる。なおここでは、前浜部は一様勾配の斜面を仮定している。
図3.2.48 地形数式モデルで合成された海岸地形例
図3.2.49 合成地形の深浅図
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