日本財団 図書館


1)ヘリコプターの航行
(1)撮影高度
 離岸流をビデオ画像あるいは写真画像として認識するためには、画像内に海浜流系を構成する一連の離岸流、向岸流、そして沿岸流が撮影されることによって、離岸流の状況も把握しやすくなる。
 よって、離岸流撮影時の高度は、撮影用カメラのアングル内に離岸流帯及び向岸流帯がそれぞれ2セル程度撮影できる程度の高度を、各々の離岸流の発生規模に応じ確保する必要がある。
(2)撮影方向
 水面がきれいに見える方向や時間帯を考慮する必要がる。
 海面表面での太陽光の乱反射によって離岸流の確認が難しくなる。よって、目視、ビデオ等による撮影時には、海面での太陽光の反射をさけるために太陽を背にした向きから撮影等を行う(陸側からの撮影か海側からの撮影かはあまり問題ではない)。
 また、太陽光の乱反射による観測障害を避けるため、水面がきれいに見える時間帯に観測を行うことも考慮する場合もある。
(3)航行スピード
 離岸流がハッキリと認識され撮影もなされる場合は航行スピードは速くてもかまわないが、離岸流の特定が難しい(対象が離岸流かどうかを迷う場合等)は、当然スピードを遅くする必要がある。染料を上空から投入するとき以外あるいは、染料の拡散状況を詳細に把握したい場合以外は、ホバリングは基本的に必要ない。
 
2)潮汐と観測のタイミング
(1)大潮時か小潮時か
 離岸流は海面の上下変動が大きい場合に強い流れが発生するものと考えられるので、大潮時の方が小潮時(もしくは中潮時)より適しているといえる。ただし、潮汐の小さな日本海側はこの限りでない。
(2)上げ潮時か下げ潮時か、満潮時か干潮時か
 潮位の変動幅が大きな海域(例えば、日本海側より太平洋側)では、上げ潮時の方が下げ潮時より離岸流が大きくなる(例えば、宮崎青島海岸の場合)と考えられる。
 よって、離岸流観測は上げ潮時の方が下げ潮時よりも適していると考えられる。その中でも、上げ潮時で満潮に向かう時間帯が適しているといえる。
(3)海岸地形の把握
 海岸地形の把握は地形が干出する大潮時の干潮時が適している。
 
3)撮影機材について
(1)ビデオカメラについて(アナログかデジタルか)
 デジタルビデオを使用する
 撮影されたビデオ画像はデジタル画像として静止画像や動画として用いる(インターネット等による公開等)ことが予想される。よって、パソコンヘの取り込み可能なデジタルビデオカメラを用いるとよい。
(2)ビデオ画面の画素数
 画面の画素数は、300万ピクセル程度あれば離岸流撮影上は問題ない。
(3)シャッタースピード
 離岸流の動き自体はあまり早い動きをするものではないのでシャッタースピードはあまり気にしなくてよい。
(4)バックアップ用カメラ
 デジタルビデオカメラは2台準備(バックアップ用)。なお、望遠レンズ(28〜200mm程度)のついたスチルカメラを、状況に応じて使用することも勧められる。
(5)ズーム機能について
 離岸流を広角、あるいは拡大して撮影するため、ズーム機能付き(広角〜望遠)機能を有するものがよい。
(6)時間情報のビデオヘの記録
 時間情報は秒単位まで画像内に残る設定とすることが望ましい。時間情報が正確であれば、GPS等による位置情報から撮影位置が特定可能である。また、場合によっては静止画像の重ね合わせにより、流速そのものを推定できる可能性がある。
(7)撮影位置の記録
 撮影位置を特定するため、GPSの位置情報がビデオ画像内部に同時にインポーズされることが望ましい。しかし、これが困難な場合は、ビデオ画像内の時間情報(秒単位まで)とGPSのデータより撮影位置の特定を行う。また、調査員はPCにデータを吸い上げ易い小型GPSを持参し、ヘリコプター内の邪魔にならない箇所に設置することを勧める。
(8)撮影時の服装
 機内から窓を閉め切った窓越しの撮影では、機内の状況が窓に反射しビデオ画像に写ってしまう場合がある。よって撮影時の服装(靴下も含む)は暗色系のものを着用する必要がある。
 
4)その他
(1)撮影対象が離岸流かどうか判断に迷う場合の対応
 離岸流の撮影時において、撮影対象が離岸流かどうか判断に迷う場合は、まずは記録し、撮影後判断すべきである。判断しかねる場合には、専門家に伝送してアドバイスを受けるべきである。
(2)離岸流の認知力を高めるトレーニング法
 自然海岸における離岸流の発生箇所は、地形や時間帯により変化する場合が予想され当然にその発見は難しい場合がある。よって、離岸流の発生が明確な場所(例えば、突堤・ヘッドランド等の構造物周辺)において、離岸流発見能力を養うとよい。
(3)陸上班との共同作業時の注意点(通信手段について)
 シーマーカーを地上より投入する場合等、陸上と上空とで共同作業する場合の通信手段手法について注意する必要がある。例えば、携帯電話は、陸上では聞こえるが機内では騒音で殆ど聞こえない(但し、陸上班に指示は出せる)ので、通信手段として好ましくない。そこで、海保内の専用無線を使用することを勧める。
 
 上記したような事柄を念頭に広域探査を行えば、比較的に効率よく離岸流を視認できると思われる。広域探査時の目安になるように、以下にヘリコプター探査により離岸流の発生箇所としての可能性が高いと判断された代表的な箇所のビデオ画像を図3.2.35と図3.2.36に示す。
 
図3.2.35 突堤付近のリップチャンネル
 
図3.2.36 自然に形成されたリップチャンネル
 
(4)現場海域での調査法
 海岸での調査法に関しては、例えば、本間仁監修「海岸環境工学」(1985)や、合田良実著「海岸・港湾調査法」(1986)に、海岸工学分野で現地調査が精力的に行われた1980年代中旬までの調査法が詳述されている。また、近年の調査法に関する概略は、海岸施設設計便覧(土木学会編、2000年版)などを参考にすることができる。一方、本研究では予備調査も含めると2002年度より離岸流に関する調査を継続し各種調査機器や手法を試したが、当然、既往の全手法を試すことはできなかった。しかし、離岸流探査および離岸流特性の把握と言う意味では、他機関等における離岸流調査時の参考になるような手法も開発し、同時に、熱赤外線カメラなどの応用性に関する知見も得ることができた。そこで、本研究で用いた現地調査法の概要を以下に示す。
 
1)フロート観測;視認しやすい蛍光塗料を塗布した500ccのペットボトルフロートを多数流し、流れの位置や規模を視覚化し、以降の観測の基礎資料とする。また、フロートをビデオカメラで撮影し、広報用画像の取得を行う。なお、2003年度に吹上浜で約100個のフロートを用いた流況観測を行ったが、そのうち3個が沖合に流出し、観測当日に回収できなかった。ただし、1週間後に現地踏査を行ったときに、現場海域から約2km北側に離れた海浜に打ち上げられたものを回収できた。水難事故に関しては最終的にどこに遊泳者が漂着するかも重要な検討項目であり、簡易でしかも安価にその様なことを調査できる手法である。ただし、観測においては回収に注意しないと、廃棄物の海域投棄と言うことになりかねないので注意が必要である。また、離れた地点よりビデオ画像や写真撮影を行うので、画像解析時の視認性を考えるとより容量の大きなペットボトルを使用した方が良いようであった。また、離岸流の観測にはより高度の高いところからの目視や画像記録が有効であるために、仮設やぐらや、垂直ポールの付いたテレビ撮影車両、バケット車、はしご車、係留気球などの利用が可能であれば、使用することを強く勧める。なお、学生実習時に大洗の海浜流調査ではしご車に乗った経験や、九州地方整備局川内川河川工事事務所の協力を頂き吹上浜で災害対策用の気球システムを利用したことがあるが、風が強い場合には利用しづらいこともあり、ケースバイケースで担当者が判断せざるを得ない
 
図3.2.37 500ccペットボトルフロートの投入
 
2)小型GPSフロート観測;フロートの中に小型のGPSを内蔵させ、流況を簡便に数値化させる。流況観測にGPSを用いることで、空間的な拡がりを持つ平面流速場が計測でき、フロートの軌跡が空間座標値として直接求まる。出力データは、基本的に緯度・経度・時刻であるために、まずは、緯距・経距変換プログラムを作成し通常の二次元(x, y)座標値に変換する必要がある。流れ観測用にはサンプリングタイムを一秒に設定して位置データを得るが、生データのままでは変動が激しいので、本研究では5〜10秒間隔の移動平均を適用して位置データを平滑化し移動状況を調べた。また、流速は、約5〜10秒間隔の移動距離を、移動時間で割る事により求める手法と、観測時間中の時間・移動距離曲線の傾きを調べる方法の2種類を用いた。主に、Sony社製のHandy GPS(PCQ-GPS3S)を使用したが、現時点では生産中止になっており、今後購入を考える場合には他社のものを検討する必要がある。なお、位置精度をより高くしたければ約20cmの水平座標精度を持つDGPSの使用が可能である。本研究でも、海洋情報部所有のDGPSフロートを使用することもあったが、未回収状態になることを危惧して位置精度の高いDGPSは多用しなかった。ただし、水密性および機器回収法に自信があればDGPSフロートの使用を推薦する。
 
図3.2.38 HGPSフロート
 
3)漂流観測;従来の海岸工学の観点からは、調査に危険が付きまとうことや、海岸保全構造物の設計には離岸流がほとんど考慮されないために、離岸流域内での漂流調査は例外的な場合を除き行われなかったために、具体的な観測法を記述した文献は見当たらなかった。しかし、水難事故予防の観点からは、離岸流内での漂流者の挙動や対処法を具体的に知る必要がある。そこで、離岸流が十分対処できる程度の強さであると観測責任者が判断し、沖合に救出用の艦船を、そして、海浜にも監視用の人員を配置した後に、観測者が離岸流に流され離岸流遭遇時の状況を実体験することにした。水難事故予防の観点から、離岸流付根、離岸流内、離岸流頭、向岸流内それぞれの状況を人間の感覚で確認することが大事である。なお、漂流者は小型GPSを携帯し漂流経路および速度を定量化するようにした。2003年度の実験では、漂流者は2名で、うち一名は離岸流について知識のある海岸工学の研究者で、もう一人は、大学の水泳部員であった。両名ともに、離岸流頭に達する前の砕波帯で高波に巻き込まれ続けて危機的な状況に陥ることとなった。その教訓としては、波が十分小さいときにだけ実験を行う、あるいは、波乗りして陸側に帰る技術を持つサファーに依頼するか、高波の海象条件にも十分な経験を持つ警備救難課の潜水士に依頼すべきと考えた。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION