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4)柏原海岸離岸流調査
 本海岸の観測では、台風0416号と0418号による高波浪で計測器が回収できず、また短期観測時にも大雨や雷雨に重なることが多く、しかも、染料では図3.2.25に示すように明瞭な沖向き流れが観測されてもフロートはなかなか沖に移動せず離岸流の定量的なデータはあまり得られなかったので、説明を割愛することにする。
 
図3.2.24 観測箇所の汀線形状およびHWL位置
 
図3.2.25 突堤に沿う離岸流
 
5)観測期間中の沖波波浪(2004年8月分)
 観測期間中の8月分について、志布志港工事事務所よりデータの提供を受けた。以下に、入射波浪の有義波高と有義周期を図示する。
 
図3.2.26 2004年8月の有義波高と有義波周期
 
3.2.2 離岸流観測手法
(1)概要
 わが国の海岸線は約3万5千kmあり、砂浜海岸、岩石海岸、礫浜海岸、干潟、サンゴ礁海岸など多種多様な海岸性状を呈する海岸より構成されている。これらの海岸のうち、一般的に遠浅の砂浜海岸で離岸流が発生しやすいと言われている。しかし、筆者が確認した約2万枚に及ぶ各地海岸の航空写真では、少なくとも大きな波がほとんど入射しない干潟以外であれば、離岸流発生事例があった。つまり、ある程度の波浪が入射する海岸であれば、全国どこの海岸でも離岸流は発生すると考えるべきである。したがって、どのような海岸性状の海岸であろうとも、離岸流の探査および調査が可能な手法を開発しておく必要がある。
 本章では、水難救助に携わる専門家から、海域利用を常時行う一般市民までの広範な読者を対象に、ローテクおよびハイテクな離岸流調査法について説明する。また、水難救助の担当者が観測を行わなければならなくなった場合の観測計画立案および実施の参考とするために、平成16年度に宮崎市青島海岸および鹿児島県志布志町押切海岸および東串良町柏原海岸で行った観測のスケジュールも記載することにした。
 
(2)離岸流の広域探査法
 沿岸域の海浜事故は、年間約1,000人規模で生じている。レジャー活動で毎年これだけの事故が生じるのは異常と考えられるが、延べ人数で国民の人口にも匹敵する海域利用者が行う海浜レジャー行為を禁止できないとすれば、体系的な水難事故予防対策が必要である。海浜死亡事故のうち離岸流によるものも多数を占めると考えられ、わが国全域で離岸流調査を行うには必然的に広域離岸流探査法の開発が必要となる。数十〜数百kmオーダーの沿岸域で離岸流の広域探査を行う場合には、航空機を用いた上空探査が迅速かつ可能性の高い手法といえる。ところが、航空機を用いての離岸流広域探査の実例は少なく、まずは海浜流の専門家でない搭乗員向けの離岸流探査マニュアルを作成する必要が生じる。そこで、第十管区海上保安本部鹿児島航空基地所属のヘリコプターにより鹿児島県・宮崎県沿岸域において3回の試験飛行を行い、航空機を用いた広域離岸流探査に関する試案を作成した。
 
図3.2.27 上空探査模式図
 
 鹿児島航空基地所属のヘリコプターにより、平成14年9月15日、平成15年6月5日、同9月30日に、1フライト約2時間〜2時間30分の行程で、宮崎県日向市から油津市、鹿児島県志布志湾岸、鹿児島湾奥海岸、鹿児島県薩摩半島南端海岸、そして、鹿児島県吹上浜海岸での広域離岸流探査を行った。探査は、目視、デジタルビデオ画像記録、スチルカメラによる静止画記録により行った。加えて、平成15年9月30日のフライトでは赤外線カメラによる水表面温度分布測定も行った。また、離岸流の幾つかについては現地踏査で発生確認のダブルチェックを行った。上空探査は、離岸流が鮮明に写っている画像、離岸流はあると思われるが画像自体がハレーションを起こしているもの、空域制限で低空撮影になり離岸流全体が展望できない画像など、マニュアル開発上必要な成功例および失敗例の両事例とも画像記録として得られた。そして、(1)ヘリコプターの航行に関しては(1)撮影高度、(2)撮影方向、(3)航行スピードについて、(2)潮汐と観測のタイミングに関しては(1)大潮時か小潮時か、(2)上げ潮時か下げ潮時か、満潮時か干潮時か?、(3)海岸地形の把握について、(3)撮影機材についての検討を行った。そして、(4)その他として;(1)撮影対象が離岸流かどうか判断に迷う場合の対応、(2)離岸流の認知力を高めるトレーニング法、(3)陸上班との共同作業時の注意点(通信手段について)等についても検討した。
 
図3.2.28 視認しやすい離岸流
 
図3.2.29 離岸流の視認(砕波と気泡)
 
 水難事故予防対策の一環として役立つことを念頭に、ヘリコプターを用いた離岸流行域探査の検討を行った結果、(1)ヘリコプターの航行:(1)撮影高度;離岸流撮影時の高度は撮影用カメラのアングル内に離岸流及び向岸流が1〜2セル程度撮影できる程度の最低高度を確保する。また、染料の拡散状況を調べる場合以外はホバリングの必要性はない。(2)潮汐と観測のタイミング;潮位変動が大きな海域では満潮時よりも干潮時側で離岸流が大きい傾向があるので、満潮時のフライトは避けるべきである。また、リップチャンネルなどの海岸地形把握は、地形が干出する大潮の干潮時が適している、ことなどが分かった。なお、本結論は暫定的なものであり、現場からのフィードバックを順次取り込みより体系的なものへ改善される必要がある。また、筆者等の経験によれば、フライト当初は搭乗員だけによる離岸流探査は若干困難であるが、専門家により説明されながら複数個の離岸流を視認すると、総じてフライト後半にはかなりの割合で離岸流を目視で探査できるようになった。このことからも、今後、適切な離岸流探査マニュアルがあれば、航空機搭乗員だけによる広域離岸流探査が可能と思われた。
 
(3)航空機搭乗員用離岸流探査マニュアルの試作
 本マニュアルは水難事故予防を目的とし、ヘリコプターを含む航空機による上空からの離岸流探査法(写真−1参照)について試案を取りまとめたものであり、今後、現場からのフィードバックに基づきより体系的なものに改良される事が望まれる。また、本マニュアルは水難事故予防だけでなく、救難活動時においても応用・改善されることを望む次第である。なお、本マニュアルで取り扱う離岸流は、沿岸域で岸から沖に向かう流れとして定義する。そのために、河口付近での河川流や、海岸構造物により沖向きに変えられた沿岸流、海岸の突出地形により斜め沖向きに向かう沿岸流なども対象とする。さらに、離岸流のスケールもビーチカスプ地形(図3.2.31参照)に伴う数十m規模のものから、(ラージ)ジャイアントカスプ地形(図3.2.32参照)に対応する数百m規模のものというように、大きく分ければ大小2種類のものがある。ただし、本マニュアルにおいては、水難事故予防および捜索活動の観点からより大型の離岸流探査に優先順位を置くものとする。
 
図3.2.30 航空機より撮影された離岸流画像
(原画;第七管区海上保安本部提供、合成;西)
 
図3.2.31 小規模の離岸流を引き起こすビーチカスプ地形
 
図3.2.32 大規模の離岸流を引き起こすラージカスプ地形
 
図3.2.33 使用する航空機の例
ヘリコプターによる離岸流探査方法
 
図3.2.34 認識しやすい離岸流の例


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