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a)突発性離岸流に関する結果及び考察
 2003年において7/3の00:25周辺で流速計により顕著な沖向きの流れが観測された。図3.1.15に水深0.9m地点No.5で電磁流速計によって計測された流速の時系列データと周辺波浪場の水位変動を示す。浦富海岸は漂砂による地形変化が活発であるため各地点の正確な水深を計測することは現在のところ困難である。そこで水位に関しては各々の測点で観測されたデータの1時間の平均水位を求め、全ての計測点における平均水位はほぼ同じであるという前提に基づき、その水位との差が平均水面との差として議論を展開している。また流速は1s間隔で得られたデータに対し60s移動平均を取ったものを記している。なお設置点周辺の汀線は設置時には直線状であった。
 
図3.1.15 極浅海域での計測結果
 
 図より突如として流速0.5m/s程度の沖向きの流れが出現し、5分間程度継続していることが分かる。この時の入射波は図3.1.11より波高0.5m程度、周期約5s、波向きも北〜北東からの入射で安定しており時間帯による相違は見られない。図3.1.12より風速は1m/s前後の微風であり風の影響も考えられない。水位変動に約12分程度の長周期変動が含まれていることが分かる。また各点での水位変動に着目するとNo.3、No.5がほぼ同じ変動を示しているのに対し、No.7はそれより約8分程度遅れて変動している。この長周期変動の振幅は離岸流の発生時間帯で小さくなっており、明らかに他とは異なった特性を示している。これらの結果からこの水位変動の変化が突発性離岸流発生に大きく関っているのではないかと考え、離岸流の発生した時間帯と発生していない時間帯において1時間ごとのスペクトル解析を行い、両者を比較した。
 図3.1.16にそれぞれの時間帯におけるNo.5での岸沖方向流速、No.5での水位変動のパワースペクトル並びにそれらのコヒーレンスとフェイズを示している。図中の(a)が離岸流が発生した時間帯であり、(b)が発生していない時間帯である。1時間ごとのスペクトル解析の際にアンサンブル平均を用いている。岸沖方向流速のパワースペクトルは0.16Hz(6.25sec)付近でピークが見られ、そのエネルギーも共通しており、ピーク周波数は双方ともコヒーレンスが高くなっている。しかし、ピーク周波数のエネルギーに対して長周期成分では(a)では約1000倍のスケールを持つのに対して(b)では約100倍のスケールに留まっている。このようになぜ低周波数側にエネルギーが移行するのかは分かっていない。コヒーレンスに着目するとf≧0.2Hzの短周期では水位と流速とのコヒーレンスは高いが、長周期波成分(f≦0.002付近)では離岸流が発生していない時間帯に対して離岸流発生時間帯の方がコヒーレンスが高いことが分かる。時系列によって確認された水位変動に含まれていた長周期変動(T= 720s, f= 0.0015Hz)においても同じ傾向が見られる。しかし流れは波の空間的変動によって引き起こされる。そのため周辺波浪場の状況も考慮に入れなければならず、ある1点での流速とコヒーレンスだけでは議論することはできない。
 
図3.1.16 No.5での水位・岸沖方向流速スペクトル
(拡大画面:82KB)
 
 図3.1.17は両時間帯の水位変動のパワースペクトルを比較したものである。f >0.05Hzの短周期では両者の時間帯で同じような変動傾向を見せておりピーク周波数とそのときのエネルギーもほぼ一致している。しかし、01:00と比較して離岸流の発生が観測された00:00は長周期成分の水位変動のエネルギーが小さい。また00:00はf= 0.005Hz(T= 200sec)、f= 0.007Hz(T= 145sec)の長周期成分にピークを持っているが01:00には長周期成分にピークが見られない。このことから水位変動に長周期成分があり、それと同様の成分で流速が発生したためコヒーレンスが高くなりそのとき、水位変動の長周期成分は小さくなっているという結果となった。
 
図 3.1.17 両時間帯での水位変動の比較
 
 図3.1.18に沖合・極浅海域での方向分散、図3.1.19にf < 0.01Hzの低周期成分を取り除いた沖合・極浅海域での方向分散を示す。沖波に関してスペクトル全成分での方向分散、波向に大差はないが長周期成分だけを取り出した場合、離岸流が発生しない時間帯にはある方向から拘束された長周期成分が来ているが離岸流発生時は様々な方向を向いている。極浅海域においてもスペクトル全体では離岸流発生時の方向分散性が大きくなっている。また長周期成分を見ると離岸流が発生している場合は沿岸流も発生しており、単独で1ヶ所集中する流れはない。離岸流発生時のほうが明らかに様々な方向に分布しているが離岸流が発生したから長周期成分が現れたのか、長周期成分が現れたため離岸流が発生したかは分からない。方向分散性の強い波浪が来襲した場合、波向が広い範囲に分布するため流れが引き起こされやすい。
 
図3.1.18 沖合・極浅海域での波浪方向分散
 
図3.1.19 沖合・極浅海域での長周期成分の波浪方向分散
 
 突発性離岸流の観測は非常に困難なため3年間の実測で明らかな突発性離岸流を観測できたのはこの1回であり、これらの考察が全ての突発性離岸流に適応できるのかを検討することができない。今後はこれらの考察の妥当性の検討を行うために新たな突発性離岸流を捕らえ、さらには平面的な広がりを持った各種水理量を用いた考察ができるような実測を行うことが今後の課題である。
 
b)地形性に起因する離岸流に関する結果・考察
 図3.1.20は2002年9月13日5時00分ごろより観測された急激に離岸方向の流速が上昇した一例である。流速は60s移動平均を取っている。また水位は図3.1.15と同じ処理を行い、平均水面との差を表している。
 
図3.1.20 定常流れ発生時の突発性離岸流の観測結果


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