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 地形性による離岸流の確認を行ってから機材を設置したため離岸方向の流速が20cm/sで安定しているが、5時12分頃から流速が増大し1m/sに及ぶ離岸方向流れが突如現れている。流速計設置地点と周辺波浪場との水位変動に大差は見られず、周期が約2分の長周期成分を持った変動を示している。離岸方向流れが急激に増大した時間帯では図3.1.15の突発性離岸流発生時のような長周期波の振幅に明らかな差異は見られなかった。図3.1.21はNo.5での水位変動・岸沖方向流速についてスペクトル解析を行い、それぞれのパワースペクトル、コヒーレンス、フェイズを示したものである。図より水位変動時系列の約2分程度の長周期変動の影響を受けて水位変動のスペクトルはf= 0.01Hz(T= 100sec)の長周期成分でピークを持っている。また図3.1.16に比べてこの時間帯では短周期成分でのコヒーレンスが総じて低くなっていることが分かる。これはこの時間帯は短周期成分波である風波の流速への影響よりも周辺波浪場の海浜流の影響によって岸沖方向流れが決定付けられていると考えられる。事実この時間帯は沖波波高が1mを越えており、海浜流で複雑な流れが形成された可能性がある。
 
図3.1.21 No.5での水位・岸沖方向流速スペクトル
 
 図3.1.22にrip channelが形成された汀線凸部から発生した離岸流を極浅海域で計測機器によって捕らえたものの時系列である。流速、水位は60s移動平均をとった値を用い、さらに水位に関しては図3.1.15と同様のデータ処理を行っている。図より0〜10cm/s程度で顕著な流速が発生していなかった離岸方向の流れが17:30頃から増大していることが分かる。水位変動を見ると約12分程度の長周期変動が含まれており離岸方向流れが増大する時間帯と対応して長周期変動の振幅が上がっている。またNo.3、No.5に比べてNo.7では約6分程度位相が遅れている。
 
図3.1.22 極浅海域での計測結果
 
 さらに定量的に議論するために流れが発生していない時間帯(7/7 15:00)と流れの発生が見られた時間帯(7/7 20:00)においてスペクトル解析を行った。図3.1.23に(a)7/7 15:00、(b)7/7 20:00のそれぞれの時間帯における岸沖方向流速・水位のパワースペクトル並びにコヒーレンス、フェイズを示す。図よりどちらの時間帯も同じような傾向を示していることがわかる。また突発性離岸流発生時に見られたような長周期波成分においてコヒーレンスが高くなる現象は定常的な離岸流が発生した(b)の時間帯では見られず、水位変動の長周期エネルギーの減少も起こっていない。両時間帯とも水位の長周期変動として現れたものとしてf= 0.001〜0.002Hz(T= 670sec程度)の時間帯にエネルギーが上がっている。図3.1.24に沖合・極浅海域での方向分散、図3.1.25にf < 0.01Hzの低周期成分を取り除いた沖合・極浅海域での方向分散を示す。図3.1.24より極浅海域に着目すると両時間帯で流速の違いにより大きさに差はあるが方向分散性に違いは見られない。また長周期成分を見ても突発性離岸流に見られたような明らかに特異な分散性は見られない。このことよりこの時間帯は長周期波は離岸流発生に影響を与えていないことが分かる。
 図3.1.24、図3.1.25を見て明らかに違うのは沖波の流速の方向が異なっている。出口ら(2004)によって汀線凸部から発生する離岸流は、沖波波向が斜め方向であれば離岸流が発生しない事が数値計算によって明らかになっている。図3.1.11を見ると離岸流が発生していない時間帯は沖波の波向がNW方向から入射しており、波向がN方向へと変化すると共に離岸流が発生し始める。このことから汀線凸部から発生する地形性離岸流発生は沖波の波向きに依存していることが確認できる。
 
図3.1.23 N0.5での水位・岸沖方向流速スペクトル
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図3.1.24 沖合・極浅海域での波浪方向分散
 
図3.1.25 沖合・極浅海域での長周期成分の波浪方向分散
 
(4)丹後由良海岸における実測結果
 丹後由良海岸において水深約14mの地点に設置されたWave Hunterによる計測結果を図3.1.26に示す。全データを1時間ごとに区切り、ゼロアップクロス法によって波別解析することで有義波高、有義周期を求めている。なお波向きは常にNNE方向で一定であった。図3.1.27に風速・風向の時系列データを示す。風向はS方向からの風が卓越していたため、S方向を基準にE方向を正にW方向を負にとっている。
 
図3.1.26 Wave Hunterによる沖波時系列データ
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 図3.1.28に丹後由良海岸におけるADCPの計測結果を示す。グラフは1分間おきに計測されたデータの5分間移動平均をとっている。岸沖方向は沖方向の流れを正に、沿岸方向は東方向の流れを正にとっている。図中の5層、10層、15層、20層はそれぞれ海底から1.57m、2.82m、4.07m、5.32mを表し、上層、中層、下層それぞれの流れ特性を把握することができる。
 丹後由良海岸での風向はS、SE方向に安定しており、また風速の時間変動とADCPによって計測された流速とは相関関係は見られなかった。図3.1.28より実測期間中に数回沖向き流れが発生していることが分かる。この時岸沖方向成分の流速は層によって異なった特性を示している。


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