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4)モデルと実測値の比較
 2.2において、後方散乱強度分布モデルと比較するために設定したA〜Eの5ラインについて、パラメータの組み合わせを変えたモデル計算結果との比較プロットを繰り返し行うことにより、モデルパターンと一致する条件を見出し、底質の粒径区分の推定を試みた。
 前節で実測値の後方散乱強度の入射補角に対する関係を調べた結果を踏まえて、海面反射の影響が無い入射補角30度〜60度のレンジ内の観測後方散乱強度データとモデル出力データの比較を行った。
 なお、ラインA、ラインBおよびラインCについては、東京大学海洋研究所の所有するコアサンプルから得られた情報を参考に使用することができた。
 
(a)コアサンプルからの底質情報
 東京大学海洋研究所より提供されたコアサンプルについてのデータは、図96および97に示したピクノメーターで測定した堆積物の全密度と間隙率のデータである。
 これらのプロファイルからコアサンプルの海底面最上部について読み取った全密度、間隙率および図98に示したHamilton and Baschman(1982)の経験式を用いて間隙率から求めた平均粒径φを表8にまとめた。
 
図96 コアサンプルの全密度プロファイル
 
図97 コアサンプルの間隙率プロファイル
 
図98 空隙率と粒子径の関係 Hamilton (1982)
 
表8 コアサンプルから得られた底質情報
コアサンプル 採取位置 密度(g/cm3 間隙率(%) 間隙率から求めたΦ
Knoll NO3 ラインB 1.9 65 -0.14(細れき)
Knoll NO5 ラインC 2.0 60 -0.13(細れき)
reference core ラインA 1.5 95 Φ > 11(粘土)
 
(2)モデルと実測値の比較結果
1)ラインA(7/14 01:15 左舷 リファレンスコアあり)
 
図99 観測値とモデルとの比較
ラインA
 
 ラインAでは、コアサンプルによって空隙率からHamilton and Bachman(1982)の経験式からΦ>11の粘土質であることが推定されている。
 モデル計算にあたっては、先ず、モデルの出力応答を調べた時と同様に、パラメータを表6〜8に示した方法に従って決定し、表9に示した7種類の粒径区分のうち、Clay(φ= 9)と分離できなかったAbbysal Clay(φ= 9)に替えて、粘土の限界値である(φ= 11)を加えて粒径をφ= 0.5〜11まで変化させた結果を用いた。
 しかし、図99に示したとおり、観測された後方散乱強度値は入射補角30度〜60度の範囲では-28dB付近の値をとり、φ= 11の結果よりも低く、モデルの結果とは合わなかった。
 そこで、堆積物の体積散乱パラメータであるσ2(=σv/α)の値を、0.0001よりも小さな値にした結果との比較を行った結果、入射補角30から53度の範囲でσ2 = 0.0008とした場合のClayの結果と一致した。
 Jackson(1986)によって、ラフネスが小さく、非常に“soft”な海底堆積物の観測点における、後方散乱強度が非常に小さくσ2が10-4のオーダとなる観測例が示されているが、このことは、ラインAのコアサンプルの空隙率が95%と非常に大きいことや、東京大学海洋研究所の報告においてリファレンスコアが半遠洋性泥であるとされていることと矛盾しない。


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