更生保護法人 和衷会(その1)
グループ名 |
酒害学習会 |
グループの課題・目的 |
被保護者のうち,これまで飲酒による問題行動があった者を対象として,アルコールについての正しい知識を学ばせ,アルコール依存症という病気の予防,飲酒による問題行動,健康に及ぼす影響についての自覚を深めさせることを目的とする。 |
プログラム実施回数 |
毎月2回(第2,第4火曜日)20:15〜21:15 |
実施場所 |
当会集会室 |
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プログラムへの出席者
大阪市断酒連合会々長,施設職員,被保護者(特別遵守事項に酒に関する誓約事項がある者,その他受講希望者)
実施方法(具体的な進め方)
5講座を1サイクルとして実施しているが,毎回,講師の大阪断酒連合会々長が,講話「酒害を考える」として会長自身の体験談を話され,その後,参加者から酒にまつわる体験談を発表させるなどしている。引き続き,当施設職員が,第1講座では「オリエンテーション」と「急性アルコール中毒」。第2講座では「アルコール依存症」。第3講座では「アルコールと肝臓」,第4講座では「アルコールと膵臓」,第5講座では「寮生活とお酒の問題」をそれぞれテーマにして,ビデオ・フォーラムと講義により学習している。各講座終了後に出席者からアンケートを提出させている。
なお,5講座全課程を終了した被保護者には,修了証書と記念品を授与している。
プログラムを実施する際に配慮していること
1 出席者各人宛,事前に講座内容を記載した案内書を交付し,学習会への参加予定を立てさせる。
2 酒害学習会の出席者確保のため,施設内各所に案内書を掲示する。
3 当日の講座を担当する補導職員を予め決め,講座内容(ビデオ,講義資料)を確認する。
4 酒害学習会終了後,出席者に「講座アンケート」を配布し,後日回収している。
5 同アンケートを個別処遇の参考にしている。
これまでの経過
この酒害学習会は,16年前から実施している。当会の被保護者は常時80〜90名いるが,過去の生活で,飲酒により他者に迷惑を掛けたり,生活が破綻したり,健康を害したことのある者が,常時相当数在会している。これら被保護者を自立させ,社会復帰させるためには,酒害についての正しい知識と本人の自覚を促さなければならないことから,大阪市断酒連合会に協力を求め,同会々長の援助を得ることとなった。開催日時は,最近まで同会々長の都合に合わせて開催日を定め,被保護者が集まりやすい夜間の現時間帯で実施していたが,実施日を確定した方が予定をたてやすいことから,上記「プログラム実施回数」欄記載のとおり実施することとした。
更生保護法人 和衷会(その2)
グループ名 |
酒害相談会 |
グループの課題・目的 |
この酒害相談会では,主として特別遵守事項で節酒・断酒を誓約している者を重点的に参加させるように配意し,アルコール依存症の知識習得と節酒・断酒のための具体的な相談事業を目的とする。 |
プログラム実施回数 |
毎月2回(第2,第4火曜日)14:00〜16:00 |
実施場所 |
当会集会室 |
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プログラムへの出席者
藤井クリニック(アルコール専門医院)の看護長,PSW,施設職員,被保護者(特別遵守事項に酒に関する誓約事項がある者,その他受講希望者)
実施方法(具体的な進め方)
上記アルコール専門医院の看護長とPSWを交替で講師に招聘し,6講座を1サイクルとして実施しているが,主としてアルコール依存症についての詳細な解説と質疑応答の後,個別相談面接を実施している。講座の主な内容は,「アルコール依存症<マンガ>ガイド」「依存症の症状」「アルコール依存症とは」「アルコール依存症への危険信号」「KAST(久里浜式アルコール症スクリーニングテスト)の解説」「アルコール依存症の診断基準」「アルコール依存症と『アル中』」「酔いのからくり」「依存症のメカニズム」「アルコール依存症に関する誤解と真実」「否認の背景」「否認の行動パターン」「よくある誤解と真実」「どんな薬なの(抗酒剤)」「自助グループはなぜ『きく』のか」「アルコール中毒の進行と回復」アルコール依存症からの回復の3つの原則」等である。
プログラムを実施する際に配慮していること
被保護者のうち特別遵守事項で節酒・断酒を誓約している者については,入所時にKAST(久里浜式アルコール症スクリーニングテスト)を実施し,その結果と個人情報の一部を予め講師に伝え,個別面接が有効に実施されるよう配慮している。酒害相談会終了後,講師から面接結果についての説明を受け,個別処遇の参考にしている。特に,断酒会やAAに参加させる必要のある被保護者,アルコール治療の必要のある被保護者に対しては,施設職員から個別に指導している。
これまでの経過
一昨年来,当施設の被保護者に,飲酒で問題行動を起こす者が相当数いたため,上記藤井クリニックで治療を受けさせ,抗酒剤を服用させることになったが,そのことから同クリニックの院長,看護長,PSWとの交流ができ,当施設の役割機能を説明し,協力を求めたところ,快く応じていただき,当施設へ赴いて指導をいただくこととなった。
ただ,同クリニックの業務のこともあり,当面,平日の午後で,月2回協力いただけることなり,上記「プログラム実施回数」欄記載のとおり実施している。
処遇プログラムの場面
(1)プログラムの開始前の準備など
酒害学習会の実施日は,あらかじめ玄関,エレベーター横,食堂掲示板に写真のような掲示物を貼り,参加者へ告知をしているほか,該当する被保護者に個別に通知書を配布している。同学習会は,月2回(第2,第4火曜日)の午後8時15分から午後9時15分まで実施している。参加する被保護者は,特別遵守事項に酒に関する誓約事項がある者,その他受講を希望する者等である。被保護者以外には,当施設職員が参加する。講師は,大阪市断酒連合会々長に依頼しているほか,当施設職員がビデオ・フォーラムと講義を併用して実施している。
酒害相談会の実施日は,あらかじめ該当する被保護者各人に通知書を配布している。
同相談会は,月2回(第2,第4金曜日)の午後2時から午後4時まで実施している。参加する被保護者は,特別遵守事項に酒に関する誓約事項がある者,その他受講を希望する者等である。被保護者以外には,当施設職員が参加する。講師は,アルコール専門医院の看護長とPSWに依頼している。同相談会は,被保護者の個別相談に重点を置いているので,事前に該当被保護者の情報を講師に説明している。
玄関ドアーの掲示板
(2)プログラムの実施状況
●酒害学習会
酒害学習会は,被保護者が常時7名前後参加。職員1名が講師兼世話役で参加している。
(1)集会室でロの字型にテーブルを並べ,正面は講師席として,周辺に参加者が着席する。
(2)講師の大阪市断酒連合会々長が,毎回,巧みな話術で自己の断酒体験を話されるので,参加者は興味津々の様子で聴いている。体験談は約20分で,その後,参加者からそれぞれ酒にまつわる体験談を話させている。
(3)当施設職員が,テーマに即した(今回は「アルコールと肝臓」)ビデオを放映したのち,それに関するレジュメで若干の説明を加え,話し合いをしている。
(4)5講座を1サイクルで実施しており,全課程を終了した者に終了証書と記念品を授与したが,参加者全員が称賛の拍手を送ったので,修了者は感激していた。毎回,参加者には「酒害学習会アンケート用紙」を配布し,事務室に提出するよう指示している。
講習会会場の様子
●酒害相談会
酒害相談会は,被保護者が常時6名前後参加。職員1名が世話役で参加している。
(1)集会室でロの字型にテーブルを並べ,正面は講師席として,周辺に参加者が着席する。
(2)講師のアルコール専門医院の看護長が,先ず参加者に自己紹介をさせたのち講義に入った。今回は「アルコール依存症<マンガガイド>」,「依存症の症状」,「アルコール依存症とは」,「アルコール依存症への危険信号」の解説資料を参加者に配布し,それに基づき分かりやすく説明され,その後,参加者から質疑応答がなされた。
(3)個別面接(職員は立ち会わない)で,参加者各人から講義に対する感想を聴きながら,個別事情の相談に応じていただいた。各人は本音で心情を訴えていたようだ。
(4)相談会終了後,講師から個別に対応する必要のある被保護者についての助言をいただいたが,事後の個別処遇に生かせるよう配慮している。特に,AA,断酒会等自助グループへの参加を希望している被保護者には,当施設周辺の自助グループの会場地図を配布し,積極的な参加を促している。
(5)毎回,参加者には「酒害相談会アンケート用紙」を配布し,事務室に提出するよう指示している。
個別相談の様子
実施施設からのメッセージ
更生保護施設におけるトラブルの原因として,飲酒が誘因となっている事案が相当数あることは,更生保護施設従事者の多くが経験していると思われる。当施設は常時90名前後の被保護者を収容しており,そのうち過去の生活で酒が問題であったと思われる者が,常に4分の1程度(22名前後)在所していることから,飲酒によるトラブル対策に悪戦苦闘を繰り返してきたといっても過言ではない。その対策として,16年程前から酒害学習会を実施し,被保護者に少しでも酒害教育を行い,飲酒によるトラブル防止をと努めてきた。このことで若干の効果があったと思われるものの,依然,飲酒酩酊で無断外泊,門限不守の者,帰所後にトラブルを起す者,翌日就労できない者が跡を絶たず,その対策として,アルコール専門医院で診察を受けさせ,抗酒剤を服用させるなどして,トラブル防止や就労をなんとか続けさせるといった対応策をとってきた。その関わりの中から,アルコール専門医院々長の理解が得られて,同医院の看護長とPSWに月2回当施設で酒害相談会を実施いただくようになった。その後,酒害学習会と相談会の相乗効果もあって,飲酒によるトラブルが極めて少なくなったように感じている。(児玉施設長)
参加者の感想文
(酒害学習会)(1)酒の力を借りないと何もできないような人間になりたくない。人の話やいろんな話を聞いているうちに,自分の生き方や考え方などの参考になるし,勉強にもなると思います。(2)酒を上手に飲めたら1番いいのですが,自分の性格上,調子にのって飲んでしまうので,そしたらいっそ一滴も飲まないほうが賢明だと考えるようになった。(3)他人の失敗談を聞くことによって,自分にもあてはまるものもあったし,痛感させられる部分もありました。あとは自分でいかに強い意志を持たないかんかということです。(4)本日の受講で卒業となり,有難うございました。断酒会の会長さんから聞かせてもらえた体験談(酒での失敗,断酒するためのコツ等)が特に勉強となりました。参加者が増えて,個々の体験談を話せる場になれば,より一層酒害を皆が自覚できる会になると思います。
(酒害相談会)(1)いままで1年3月もお酒を飲んでいないので,家族や私のため,けんめいに働いてよい家庭をつくろうと思っています。お酒をやめるもやめないもみんな私の意志の問題と思います。ともかく頑張るしかありません。(2)酒は飲みますが,飲酒欲求によって飲んでいると思いませんでした。怒り,空腹,疲労,孤独が関係していると思いませんでした。依存病にかかっているとは思いませんが,分からないことが多く分かって大変勉強になりました。断酒会みたいな所があると分かった事だけでも勉強になり参加して良かったと思います。(3)酒害に対する指導方法として,例えば「やめる意志」というような精神的な指導も効果的ですが,論理的な説明も大変参考になりましたので,これからもずっと続けて欲しいと思います。
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