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更生保護法人 静修会 荒川寮
グループ名 女性の健康を考える会
グループの課題・目的  当会では,覚せい剤を中心とした薬物等の嗜癖問題を抱える寮生の比率が高いことから,全寮生を対象とし,在会中に健全な生活を作る上で必要な精神保健知識を普及することを通じて,生活行動の変容を促し,再犯防止を目指す。
プログラム実施回数 毎月1回 第3金曜日 19:00〜20:00
実施場所 集会室
 
プログラムへの出席者
 都立精神保健福柾センター精神科医師(女性),都立松沢病院精神科医師(男性),臨床心理士(女性),地元保健所保健師(女性),弁護士(男性),アサーティブトレーナー(女性),施設職員,被保護者全員
 
実施方法(具体的な進め方)
 全寮生が集まり,精神保健福祉分野の専門家(精神科医や保健師などの医療関係者のほか,臨床心理士など)による講義に参加する。講義テーマは,薬物問題に限らず,広く女性に共通する「心身の健康問題」やアルコール,ギャンブル,異性など,薬物以外の嗜癖問題についても取り上げ,質疑応答の時間も設けている。必要に応じて,グループワーク(SST,ロールプレイなど)を実施することもある。
 
プログラムを実施する際に配慮していること
 矯正施設入所中より,プログラム参加を受入条件として,環境調整の段階からプログラム参加の動機付けをしている。また,仮釈放後も,保護観察所及び当会での初回面接時にも再度参加の働きかけをしている。さらに,毎回プログラム終了後,全員にアンケートをとり,感想等で参加者の反応を検討し,次回のテーマや実施の参考にしている。なお,プログラム講師や関係者が集まり,「女性の健康を考える会」処遇プログラム打合せ会を年一回開催し,処遇プログラム実施者側の振り返りや専門家の助言を受ける機会をもつことでプログラムの充実を図っている。
 
これまでの経過
 「女性の健康を考える会」は,平成12年5月から開始した。当会では,以前から増加する薬物事犯者の指導に手を焼いていたので,「何か薬物事犯者に対して効果的な処遇をしたい」と保護観察所へ相談したことをきっかけに処遇プログラムの開発が始まった。まず,地域の社会資源の活用を検討し,精神保健分野の専門家に処遇プログラムの作成と実施方法について助言を求めた。その結果,薬物問題に限らず女性に関わる全般的な精神保健教育について取り組む提案がなされ,現在に至っている。また,「女性の健康を考える会」から,発展したものとして,「薬物対象者処遇プログラム」と「AAミーティング」がある。
 まず,「薬物対象者処遇プログラム」は,薬物事犯者に対して,平成13年1月からダルク女性ハウスの協力により,「薬害についての勉強会」としてスタートした。当初は,回復者からの実体験を聞くだけであったが,参加者から自分の話もしたいとの要望があり,ミーティング形式となる。ただ,ミーティングでは,なかなか自分の話を皆の前で話せない者も少なくなかったため,現在では,ダルクスタッフとの個別面接を全員に実施し,ミーティングへも少なくとも1回以上は参加することを義務付けるようになった。
 次に,「AAミーティング」は,平成13年12月から自助グループ(AAの女性メンバー)の協力により,「酒害についての勉強会」としてスタートした。当初は,回復者からの実体験を聞くだけであったが,AAメンバーからの助言により,素直に自分のことを話し,共感して聞いてもらえる体験が回復に有効であることから,ミーティング形式となり,毎月最終水曜日に実施している。
 
処遇プログラムの場面
(1)プログラム開始前の準備など
 「女性の健康を考える会」は,寮の規則で全員参加を義務付けている毎月2回の「集会」のうち1回を利用しているので,寮へ入所する前の環境調整の段階(矯正施設入所中)から,プログラム参加についての誓約書提出を求めている。<資料1 誓約書>
 プログラム参加の働きかけは,保護観察所及び入所時の初回面接で確認し,再度,誓約書を提出してもらう。
 プログラム実施日は,あらかじめ食堂の行事カレンダーに書いておき,参加者が事前に都合をつけやすいように告知をする。また,当日も寮の掲示板で,プログラム実施を知らせる。
 「女性の健康を考える会」は,毎月1回(第3金曜日),精神保健福祉分野の専門家(精神科医や保健師,臨床心理士など)や弁護士などを講師に迎え,入所者全員が参加し,依存症など「こころとからだ」の問題についての講義をうけるかたちをとっている。入所者だけでなく,更生保護施設職員及び主任官も一緒に講義を受けており,時には保護観察所の職員なども参加することがある。
 時間は,日中は入所者のほぼ全員が仕事に就いているため,夕食後の午後7時から午後8時までの1時間程度にしている。
 講師には,開始15分前に来ていただき,事前に施設職員と参加者の現況等について,話す時間を持つ。また,レジュメや配布物がある場合は,参加人数分のコピーをとる。
 
(2)プログラムの実施状況
 入所者15名全員が参加。主任官及び見学の保護観察官1名も参加。施設職員は3名参加し,うち1名が司会をして,「女性の健康を考える会」を開始した。
 
プログラムの様子
 
(1)午後7時開始の10分前には,集会室に入所者全員が集まり,講師を中心にコの字型に机を並べ,参加者はお互いに顔が見えるようなかたちで着席する。参加者が講義に集中するために,主任官及び外部からの見学者は,参加者とは別の後ろに用意した机に着席する。司会者は講師のすぐ横に座り,他の職員は参加者と同じ机もしくは側らに座る。講師が講義で使うため,ホワイトボードを用意する。
(2)入所者の1人が記録係となり,講義内容などを記録用紙に書くために,講師の近くに着席する。
(3)定刻に,司会役の職員が,講師を紹介し,講義が始まる。今回,講師は都立病院の精神科医師(男性)に依頼した。講義テーマは,「依存症について」である。アルコール・薬物に限らずギャンブル,買物,人間関係などの依存症全般について,精神科医師の立場からお話をしていただく。
(4)講義終了後,質疑応答の時間をとる。最後に,参加者全員にアンケートを配り,後日回収することを司会者から参加者へ連絡する。
 
(3)プログラム終了後
 「女性の健康を考える会」終了後,事務室に戻り,施設職員や主任官が講師を囲んで,本日の講義について簡単な振り返りをしたり,個別対応について助言をいただいたりする。また,自助グループや医療機関など利用できる社会資源などについても情報提供を受ける。
 講義終了後,回収したアンケートの結果は,毎回,施設職員がまとめて,保護観察所を通じて講師の方々にフィードバックしており,次回の講義テーマの参考資料として活用していただくようにしている。
 毎回参加者全員にアンケートをとることで,入所者の反応や処遇プログラムの内容を随時チェックするとともに,入所者の指導にも役立てている。<資料2・3 アンケートおよびまとめ>
 
実施施設からのメッセージ
 処遇プログラム「女性の健康を考える会」を立ち上げる背景には,入所者の過半数を薬物事犯者が占めるという状態が続き,施設全体が落ち着かない雰囲気となり,何かとトラブルが起こりやすかったことがあげられます。私たち職員が,薬物事犯者ケースの対応に困っていて,「更生保護施設在所中の薬物事犯者に対して何か処遇できないだろうか。」と,保護観察所へ相談を持ちかけたことから,現在の処遇プログラムヘと発展していきました。この体験こそが,処遇プログラムのポリシーのように思えます。
 入所者自らが問題を自覚し,然るべきところへ助けを求め,相談することの大切さを処遇プログラムを通して,知ってもらう機会となっているようです。
 残念ながらプログラムによる具体的な効果を測定するまでに至っていませんが,寮の雰囲気も以前に比べ風通しが良くなり,施設職員に対しても不安や相談をするようになったり,自己開示することが多くなってきています。
 
<資料1>
 
<資料2>
 
<資料3>


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