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[資料(2)]
不登校の解消をめざして
〜今、学校に求められている3つの視点からのアプローチ〜
福岡県教育センター
 
1 不登校への基本的な対応の在り方
○不登校については、特定の子どもに特有の問題があることによって起こることではなく、どの子どもにも起こりうることとして捉え、関係者は、当事者への理解を深める必要がある。同時に、不登校という状況が継続すること自体は、本人の進路や社会的自立のために望ましいことではなく、その対策を検討する重要性について認識を持つ必要がある。
○不登校については、その要因・背景が多様であることから、教育上の課題としてのみ捉えて対応することが困難な場合があるが、一方で、児童生徒に対して教育が果たすことができる、あるいは、果たすべき役割が大きいことに着目し、学校や教育委員会関係者等が一層の充実した指導や家庭への働きかけ等を行うことにより、不登校に対する取組の改善を図る必要がある。
 
2 課題解決のための「3つの視点」
(1)予防・開発的な支援
 児童生徒のよりよい発達や学校生活への適応を目指した意図的・計画的に行う積極的な生徒指導、つまり、すべての児童生徒への予防・開発的な支援が求められている。
 不登校を生まないための予防・開発的な支援としては、自己実現を図る授業づくりや豊かな人間関係づくりに重点を置き、具体的な支援をしていく必要がある。
(2)不登校兆候を示す児童生徒への支援
 多くの不登校の児童生徒が、不登校に至る前に心身の不調を訴えたり保健室を利用したりするなどの不登校兆候を示している。このことから、不登校兆候を見逃さない不登校の早期発見と対応、心の居場所づくりを行うことが求められている。また、中学校で不登校が著しく増加することから、小・中学校の連携・協力に向けた体制づくりが急務である。
(3)不登校児童生徒への支援
 福岡県が推進している「マンツーマン方式」による対応を充実させるとともに、複雑化・多様化する不登校に対して、今後、校内・校外の指導体制を整備し、校内・校外の人的資源を活用した「チーム」を組織し、個々の児童生徒に対してよりきめ細かな組織的な対応をしていくことが求められている。
 
3 予防・開発的な支援
(1)自己実現を図る授業づくり
 子どもたちは、「〜が分かるようになりたい。」「〜ができるようになりたい。」「〜のようになりたい。」といった個々の願いを持っている。その実現(自己実現)のためには、本人の意欲や努力はもちろんのこと、教師の適切な援助・指導が必要である。
 子どもの願いを実現させるためには、生徒指導の視点に立ち、自己指導能力育成上の留意点(自己決定・共感的な人間関係・自己存在感)を生かす場を設定することを通して、子どもの学習意欲や自信を育む「学ぶ喜び」を実感できる援助・指導をすることが大切である。つまり、不登校を生まない予防・開発的な支援として、子どもが「受容される喜び」や「挑戦する喜び」「共に学ぶ喜び」「伸びる喜び」等の学ぶ喜びを実感できる授業づくりの工夫・改善が求められている。
 そこで必要になるのが、願いを引き出すための教育相談的な姿勢・態度(カウンセリング・マインド)と、実現に向けて援助・指導するための技能(ティーチング・スキル)である。
 子どもが「認めてくれる先生がいない」(小学校39%・中学校50%)と感じていることからもわかるように、教師自身が豊かなカウンセリング・マインドを持って子どもに接することは、学ぶ喜びを実感できる授業づくりにおいても大切なことであり、子どもと「心を交わしながら、学びを援助していく」支援型の教師が求められている。
 
ティーチング・スキル
(1)指導内容・方法の工夫
 単元構想・授業展開の工夫
 教材・題材の工夫、教具の工夫等
(2)指導形態の工夫
 グループ学習・ペア学習
 習熟の程度に応じた学習
 少人数学習、コース別学習等
(3)評価の工夫
 観点別学習状況の評価
 自己評価と相互評価、絶対評価、診断的評価、形成的評価等
(4)学習規律指導
 話し方や聞き方の指導等
 
カウンセリング・マインド
(1)傾聴
 非言語的姿勢・態度で(あせらず、あわてず、最後まで)聴く。
(2)受容
 内容の是非よりも言葉に込められた思いや願いを受けとめる。
(3)共感
 内容のよい点を評価し、話の内容を相手の立場になって理解する。
(4)承認
 成果を確かめ、成長を喜ぶとともに、次の目標設定への意欲を高める。
 
(2)「グループ体験学習」と人間関係づくり
 不登校やいじめなどに対して、基本的に教師は、個別にその児童生徒に対応している。状況が悪化していれば、専門家(スクールカウンセラー、医師等)と連携することもある。しかし、このような治療的(対症療法的)な支援は、不適応行動等に対する児童生徒全体への予防的効果はあまり期待できず、学級や学校全体の改善にはなかなか結びつかないのが現状である。したがって、非社会的、反社会的行動を未然に防ぐには、治療的支援に加えて、人間関係能力の素地をつくり社会性を伸ばすことにより、問題を抱えても上手に自分で処理する力をつける予防・開発的手法を使った支援が必要となる。
 その方法の一つとして注目されているのが、構成的グループエンカウンターに代表される「グループ体験学習」である。これは、グループ場面で課題を達成しながら人間関係能力を育てる手法である。目的を持った活動をグループで体験的に実施することで、メンバー間に相互作用が働く。「グループ体験学習」は、時間や内容・方法に無理がなく、これまで重ねてきた教師のティーチング・スキルを活用できる点で導入しやすい。
 グループ体験学習で得た気づきや社会的スキルは、あくまで豊かな人間関係をつくる基礎である。そこで、その基礎を深めたり発揮したりできるような活動の場を、教育活動の中で意図的に設定するような関連化が重要となる。したがって、関連化を図る際は、学級の実態からグループ体験学習のねらいを明確にし、そのねらいが達成できるエクササイズを選ぶようにする。
 
4 不登校兆候を示す児童生徒への支援
(1)不登校の早期発見・早期対応の在り方
 不安や悩みを抱えている子どもたちの多くは、様々なサインを周囲の人に発する。たとえば、学校では、(1)授業中に集中力がなくなり、生活態度が無気力になる。(2)休み時間に友だちと遊ばなくなり、一人で過ごすようになる。(3)保健室に行く回数が増える。(4)遅刻や早退の数が増える。(5)休み明けの日や特定の教科の日に、欠席しがちになる。などの状態が見られる。
 そのような時は、何もしないで「様子をみる」のではなく、早期に適切な対応をすることが大切である。子どもの話をよく聴くようにしたり、ふれあう機会を増やしたりする。また、同僚や保護者からも情報を収集し、子どもの現在の状況を把握する。
 本人や保護者への支援として、家庭訪問を行うことは大切である。子どもは「そっとしておいてほしい。」けれど「放っておかれると淋しい。」という相反する気持ちで揺れている場合がある。「あなたのことは、いつも気にかけている」という肯定的なメッセージを伝え続けることが大切である。本人が会うことを拒否しても、保護者には学校の情報を必ず伝えるなどして、「見捨てられた」というような気持ちにならないように配慮する。
 登校刺激については、画一的に「する」「しない」といった対応ではなく、その子どもの状態や学校を休みだした要因・背景等をきちんと把握した上で、適時・適切に、個々の状況に応じて対応する。直接的に登校を促せない状況であっても、あきらめずに、子どもとの関係を築こうとする姿勢をもつことが大切である。
 国立教育政策研究所生徒指導研究センターは、中1不登校生徒調査(中間報告)[平成14年12月度実施]−不登校の未然防止に取り組むために−の中で、「中学1年時の不登校生徒の3分の2は、小学校時に何らかの不登校兆候を示していた。」「中学校1年生で不登校になっている生徒の半数は、小学校時に不登校相当の経験があった。」と報告している。そこで、小学校では、不登校の早期発見・早期対応や小中の連携のために、基礎的情報を整理しておく必要がある。
 小学校において不登校を経験した生徒については、中学校入学直後の4月から休み始める傾向があるので、中学校では、入学当初という時期の重要性を認識し、生徒一人一人がよりよい人間関係をつくっていけるような配慮をすることが望まれる。
 そのためには、入学後のできるだけ早い時期に、友だちと協力して活動をする中で、人とかかわることのよさを実感したり、人との関係の中での自分の存在を感じとったりできるような機会や場を積極的に設定する。このような活動に取り組ませることにより、一人一人の生徒に自己存在感を感じさせるとともに、生徒同士のよりよい人間関係を育てていくことができる。
 
【小・中連携での情報提供に用いる調査用紙の例】
 
(2)学校での「心の居場所」づくり
 校内サポート(適応指導)教室を常設している学校は、まだ少数だが、何らかの指導をしている学校は小・中学校ともに半数を超えている。また、設置場所としては、決められた部屋がある学校は全体の半数近くで、その内訳は、相談室が最も多く、次いで保健室となっている。教室に入ることが困難な子どもたちにとって、「決められた部屋」は、学校内の「居場所」となることから、早急な設置が求められる。
 緊急避難的な場・心理的な支援を行う場・学習支援を行う場として、また、それぞれの場の特質に応じたきめ細かい柔軟な個別指導を行うという視点から、「心の居場所」としての校内サポート(適応指導)教室、相談室、保健室等の運営の充実が必要である。
 
5 不登校児童生徒への支援
(1)「マンツーマン方式」を活用した「チーム」としての対応
 不登校の要因の複雑化・多様化に伴い、不登校の解消に向けた取組も、児童生徒を多面的・多角的に理解した上での対応が求められている。しかし、校内指導体制の現状は、不登校児童生徒の対応を学級担任一人に負うことが多く、そのことが早期対応を遅れさせている一因にもなっている。そこで、校内指導体制を充実させ、組織的・計画的な対応を行うために、学校内外の人的資源に着目し、不登校児童生徒自身と最もかかわりの深い人を中心としたマンツーマン方式による対応の推進があげられる。
 
(2)対応の事例〜担任と生徒指導主事との連携を中心とした怠学傾向の生徒への支援〜
 
ア 本人の心の安定
 家庭訪問を繰り返し、本人との会話の機会を増やした。本人の登校意欲が高まらない間は登校刺激はせず、話の内容が自己中心的であっても、できるだけ受容し共感的に理解するよう努めた。
イ 保護者との信頼関係づくり
 保護者の苦悩を受けとめ、協調しながら取組んでいくことを確認した。担任だけでなく生徒指導主事も家庭訪問をして、学校の取組みへの理解と協力を得た。
ウ 再登校に向けての目標設定の支援
 本人が得意な体育や技術・家庭の授業の内容などを意図的に話し、学校生活への関心を高めた。学校の受け入れ態勢や友だちの伝言などを伝え、安心感を与えた。昼夜逆転の生活改善のために、生徒指導主事や担任が朝の家庭訪問を計画的に行った。
エ 相談室での面接・学習支援
 自己決定の意識を高めるために、登校する、しないに関わらず必ず本人が担任に連絡をすることを目標とした。登校した時は必ず担任が対応できる時間を設定した。相談室では生徒指導主事が中心となって、本人の興味・関心に合わせた活動や話を続けた。学習時間は成就感や達成感が味わえるように、可能な限り教科担任がかかわり、できる事から始めた。担任以外の教師ともできるだけ多く接する機会をつくった。
オ 教室復帰と仲間づくりの支援
 服装等の改善が見られるようになってから、帰りの会や学級活動、担任の教科の授業と本人の意思を尊重しながら段階的に教室復帰を支援した。養護教諭と連携しながらソーシャルスキルトレーニングを取り入れ、人間関係能力の向上を支援した。
カ 主体的な進路選択への支援
 相談室での雑談の中で本人の希望を肯定的に受け止め、将来の目標や現状などについて担任と話す機会を増やした。かかわりのある教師は、本人の変容を認め、励ます言葉を直接伝えるようにした。
 
(3)「チーム」支援の今後の在り方
 不登校児童生徒に対してよりきめ細かで組織的な対応を行うためには、これまでのマンツーマン方式を活用し、コーディネーター的な役割を果たす教員(不登校問題に関する学校全体の調整役をしたり、不登校解消に向けた取組の方向づけをしたりする)を明確に位置付けるとともに、必要に応じて外部の機関と協働し支援にあたることが必要である。







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