下半身麻痺で車椅子利用の女性
外出の際には、出かける準備(髪を結う・洋服を着る・トランスファー・靴を履く)やトイレ介助があります。外出は主に病院ですが、買い物や楽しみのお出かけでも利用しています。
帰宅すると、電動車椅子から自宅用車椅子への移乗、洋服の着替え、買った品物の整理などなど。すべて介助してもらっています。自分のことを理解してくれているので、安心して依頼出来ます。トイレ介助まで安心してお願いしているので、女性のスタッフを指定しています。
麻痺のある女性のケアー者
頚椎損傷で麻痺のためいろいろな器具を付けリクライニングの状態でのサービスをしています。振動が、体に響く(特に首)ため優しい運転が必要です。利用者にとって一番よいルートを選んで、ゆれない、渋滞しないなど気をつけて走っています。
2 利用者の状況を理解しているケアー
脳梗塞左マヒの男性のケアー者
糖尿病の男性は杖をついて歩けます。内科・外科・眼科と歯医者に毎月受診しています。タクシーを利用し1人で受診している際に発作が起こった経験があるので、奥様はそれ以来、角砂糖など必ず携帯させていますが、1人で外出させるのは不安に思っています。奥様も病気を抱えているので付き添うことができません。福祉移動サービスを利用してからは、外出するご本人はもちろん、奥様も「心から安心して送り出すことができるようになった」とお話してくださいました。マヒはありますが車椅子を利用するのはまだまだ先だと、リハビリに励んでおられます。
「一度車椅子を利用すると気持ちの張りを失いそうで恐い。」そうです。
精神障害で入院中の女性のケアー者
買物依存症があり、腰が悪く長く歩くことはできません。病院としては本人の外出希望を叶えたいが、スタッフの手が回らない、タクシーでは対応不可、介護保険も使えないとして、ご本人の合意を得て福祉移動サービスの会員になられました。
現在、週1回の買物の付添をしています。毎回、出発前に買物内容や使ってよい金額を本人と看護師と確認して出かけます。最初は、目に付くものは何でも買いたいご本人に対して、打合せを守らなければならないケアー者は非常に大変でした。研修やマニュアルの共有化を行って対応しています。最近は、買物意欲が減退してきて、関心が入院中の姉の見舞や両親の墓参などに移行しつつあります。
心身障害者の送迎をしているケアー者
11才の女の子を養護学校のバス停から施設、自宅から施設への送迎をしています。養護学校のバスが着く座席から降ろすところからケアーが始まります。1人では立つこともできず、歩くこともできない。支えていないと倒れてしまうため両手で体を支え、歩行を促し、バスのステップは抱きかかえるような感じで細心の注意を払いながらおろします。彼女のもつれる足に注意しながら車まで連れて行き、抱きかかえるような形で乗車させます。意思表現ができず、こちらの言うことは多少わかりますが、それに対する反応は無い状態です。呼吸の止まる発作があるために、助手席に乗せ、絶えず息使いや様子を見ながら運転しています。
あらかじめ、お母さんから体の支え方、発作のときの対応など、注意することをうかがっているので、対応することができています。保護者が学校や通所施設への送迎ができないとき、タクシーに任せられず、福祉車両では注意が行き届かないことから、セダン車による福祉移動サービスが最適です。
自閉症児を持つ女性
12才の息子は自閉症の知的障害児です。自傷傾向があり、パニックを起こすこともあります。付き添いなしではタクシーに乗せられないので、下の子どもの用事や、冠婚葬祭、自分の用事などで付き添いできず、子どもだけで通所や通学させるときに福祉移動サービスを利用しています。障害の様子や注意してほしいことは伝えてあり、ケアー者の方はそれをよく理解して下さっているので安心してお任せできます。特に自閉症はパ二ックヘの対応を落ち着いてすれば大丈夫です。ケアー者の方は、学習会を開いて自閉症の学習をしてくださっているとか。子どもも安心して車に乗りこんでいるのはうれしいです。
最重度知的障害A1の36才の青年のケアー者
クレチン症なので体格は小学生なみ。下肢障害はありません。毎日母親が作業所へ送迎しています。3人暮しですが、母親が体調が悪いときや、同じくクレチン症の姉と一緒に通院する際は福祉移動サービスに依頼が来ます。彼は比較的おとなしいほうですが、通常と変わった状況があればパニックを起こすことがあります。運転機器に手を伸ばす恐れがあるので、普通車両の後部座席に座ってもらっています。乗車中に不安になると後から手をさし伸ばすので、その手を握りかえしてあげると落ち着きます。
難病の50才代女性のケアー
全身性の難病のため、東京の病院や、針灸の先生のところへ通院介助しています。体が冷えるので、夏でも暖房をかけ、毛布やクッションを用意して、暖かくしています。具合が悪くなったら後部座席に横になっています。振動には気をつけ、体に触られると痛いので、介助のときもなるべく体に触らないように気をつけることも大切です。
3 発着地・施設などの様子がわかっているケアー
視覚障害の58才の女性
視覚障害者はタクシーを利用することが多いのですが、行き先が運転手さんに伝わらなかったり、間違ったところで下ろされたり、いやみを言われるなど、トラブルが少なくないし、いやな思いをたくさんしてきていました。また、降ろされたところがどこだかわからないので、戸惑ったり、車道に行ってしまうなど危険な目に会うこともありました。
福祉移動サービスを利用して2年になりますが、あらかじめ行き先を伝えてあるので安心です。また、降りるときにサポートしてくれるし、施設の中まで連れて行ってくれるので助かっています。友人と乗り合いで利用することもあります。
最近、規制緩和で採算性の悪いバス路線が廃止され、路線バスを使っていた視覚障害者がバスで外出できなくなってきました。今後ますます、福祉移動サービスが必要です。
下半身麻痺車椅子使用の女性
外出先で障害者トイレや、手すりの付いたトイレが整備されてない場合、中まで入って介助してもらわなくてはならないので、女性のケアー者に付き添ってもらいたいと思っています。福祉移動サービスの場合、事前にどこに出かけたいか伝えておくと、行き先の段差の状況やトイレ休憩場所を調べて、企画を立ててもらえるので助かります。ガイドヘルパーを頼むこともできますが、移動手段は自分で手配せねばなりません。急なお出かけの場合でも、ガイドヘルパーは、対応してもらえないこともありました。福祉移動サービスの場合、ドライバーと介助者が一人でガイドヘルプもやってくれるし、電話1本ですむので楽。費用も安くて済むので、回数多く出かけられると喜んでいます。
4 外出に伴うサポート
高齢で、足元のややおぼつかない女性のケアー
一人でも車に乗れそうですが、初期の痴呆症状があり、自分の病状は説明できても、医師の言うことが簡単に理解できません。日中は一人暮らしです。自宅からの送迎と病院内の介助、会計のお手伝いや、薬をとりにいくこともしています。時にはお食事の付き添いもします。帰ってからも、「先生はどう言っていらっしゃったかしら」と電話がかかったりします。
50代男性
3年前の入院時から人工腎臓透析を続けなければならなくなりました。住まいは一軒家で玄関に階段が7段ほどあります。できればベッドは2階の日当たりの良い部屋にしたいと思っていました。退院して通院するには、通院の手段を確保しなくてはなりませんでした。
週3日、2階からおんぶしてもらわなければなりませんでした。というのも、外のエレベーターはすぐに設置できましたが、室内の簡易エレベーター設置にはかなり時間がかかりました。その間、おんぶしてくれる市民団体に助けられました。
自宅に戻り、毎日、かわいい孫たちに囲まれています。
脳出血の後遺症で左半身マヒのある女性のケアー
油絵教室に通うのが彼女の生きがい。しかしマヒがあるゆえに、冬の寒さ・夏の冷房に体が痺れ、外出に対し弱気になってしまいます。
「今日は行くのどうしようかしら。」と、事前に担当者に相談の電話が来ることがたびたびあります。担当者の励ましによって、ようやく行こうという前向きな気持ちになられます。またケアー者は、絵画教室に彼女をお送りし、荷物を運ぶだけでなく、三脚を組み立て、キャンバスをセットする必要があります。彼女は杖をついて歩けるので、普通車を利用されます。「わざわざ車椅子に乗って福祉車に乗り込むのでは、かえって時間がかかって面倒だ」(福祉車のリフトやスロープの操作、車椅子の固定には時間がかかる)と言っておられます。
83才一人暮らしの女性のケアー
歩行が不安定で杖を使ってゆっくり歩く状態。横浜市の自宅から鎌倉霊園までご主人の墓参の付き添いの依頼。お墓まで付き添い、一緒にお墓掃除をし、お参りをして帰宅。大きめの乗用車だったので、ゆっくり座れ疲れなかったと喜ばれました。「車椅子は使いたくない、頑張ってリハビリがてら歩く」とのこと。
麻痺のある男性のケアー
麻痺が進行し、もはや自力では立てないが、毎週、プールに通い、水中歩行や浮き身等を楽しんでいます。往復1時間以上かかる車中、助手席に、あぐらをかくような形に足を組んで座っていただいています。足を垂らしたままだととてもだるくてつらいとのこと。車での送迎、車椅子から車への移乗、着替えやトイレ介助、プールでの介助など、全てを一人のケアー者で行うことが出来るのもNPOの強みです。
70才一人暮らしの女性のケアー
骨粗しょう症のため背中が曲がり腰痛がひどい。不安感が強く精神科にも通院しています。ストレスのため食欲なく体重は30キロそこそこに。聴力にも問題あり、院内での付き添いは不可欠です。ほかにも病気があり入退院をくりかえしています。特に入退院の際の手続きは、家族に代わってすべて代行します。入院中の不足品の買い物の依頼もあります。また市役所などでの書類記入はご本人が手が震えて字が書けないため、事務手続きを代行します。「面倒な事までやって頂き家族、いや家族以上に感じる。本当にありがたい。」と感謝されています。
70代男性の配偶者の声
夫は6年前から寝たきりで、会話もできません。エレベーターのない団地の4階にいますが、最初は、どうしても通院するときは、区役所に頼んで、何人も来てもらって運んでもらっていました。移動サービス市民団体を紹介してもらってからは、一人の方が移動介助も運転もしています。
通院や老人保健施設のショートステイ入退所には、ベルト付きの車椅子に乗り換えて、階段を引き下ろし、引き上げし、リフト車に乗るときは、リクライニング車椅子に乗り換えて行きます。
5 同時に何件もケアーがある・急なケアー依頼がある
コーディネーターの苦労
1週間のうちでもケアーが集中する日があります。それも朝が多いので、ケアー者と車の手配に苦労しています。8時前後から、養護学校高等部に通学の知的障害児、出産で学校に連れて行けない母親に代わって障害児学級へ登校する小学生の通学介助、リハビリで利用する男性の通院、人工透析の通院2件。視力障害の方がスポーツをするための外出介助、地域作業所への送りが1件、リハビリで通院の男性の帰り・・・
金曜日は8時から10時までに、ほぼ定期的に8件のケアーがあります。その上、急なケアー依頼が入ることもあります。メンバーそれぞれが、自家用車を使って受け持ちのケアーをこなしています。利用者にとっては、どれも生活になくてはならない大切なケアーだと実感しています。
発作のある難病の女性
子供は2才。私(母親)が発作のある難病のため保育園に通わせています。普段の体調が良い時は自分で送迎していますが、発作が起きた時や通院の時は移動サービスに送迎をお願いします。ケアー内容は保育園の中に入り、荷物をまとめ、保育士さんから子供のその日の様子の聞き取りをし、帰宅後保育園での様子を報告して頂いています。いつ発作が起きるか分からないので送迎の依頼も突然のことがたびたびあります。このような依頼にも対応するために担当者4名を決めて都合のつく人がケアーに入る体制をつくって下さいました。これまで緊急な依頼にも全て対応していただき、担当の方が顔見知りなので子供も安心しています。また発作が起きると気持ちが落ち込み不安になりますが、いつでもサポートしてもらえると思うと安心で、移動サービスの方々にはとても感謝しています。
小海町福祉輸送事業の概要
長野県小海町
高齢者支援係長 井出 裕治郎
1. 町の状況
・長野県の東部に位置し、総面積114km2に33の集落を形成する過疎の町。
・町の人口5,918人(3月末現在)、高齢化率31.1%。
・その内、要介護認定者239人、身障者300人、知的、精神障害者101人。
・公共交通機関は、JR小海線、民間タクシー1社、町営路線バス5路線。
・町内に医科医院1、診療所1、歯科3、訪看ST2、特養1、老健1
・最寄りの総合病院まで町外18km
2. 事業実施状況
・事業主体は小海町社会福祉協議会。
・15年7月1日事業開始(福祉輸送)。
・16年4月1日セダン特区認定。
・使用車両は、改造福祉車両3台(中型1、小型2)、セダン3台。
・運転手は社協職員5名+ボランティア3名。
・登録者64名(高齢者51名、障害者13名)
・平均利用者20名、運行回数67回/月
・利用料金は1回(片道)につき100円。町外走行1kmにつき30円加算。
・医療機関の協力
3. 展望と課題
・地域移行、在宅誘導
・費用負担
・ボランティアの育成
・福祉関係者個人の力に依存している現実
・地域協働の在り方
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