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第1回全国里親研究協議会報告
 2004年10月9日(土)、渋谷フォーラム8で「第1回全国里親研究協議会」が開催されました。この大会は、「集おう、語ろう、全国の里親たち、子どもたち」をテーマに、全国の里親が集まり、里親とその家庭で育つ子どもたちの話し合う場所として、NPO法人東京養育家庭の会、関東甲信越静里親研究協議会・NPO法人里親子支援アン基金プロジェクトを中心に開催されました。
 
 関東甲信越ブロックでは、毎年、持ち回りで関東甲信越静里親研究協議会を1泊2日で開催しています。そこでは、5つの分科会を設置し、里親制度に関わる様々な問題や悩みや喜び、里親家庭で育つ子どもたちのことなどを話し合っています。地域で孤立しやすい里親にとって、多くの里親と交流し、喜びを分かち合い、辛さを癒しあい、学びあい、里親養育の新たな力をもらう貴重な場となっています。また、各都県市の里親と里親会の抱える課題や問題を共有し、行政への要望や全国里親会への要望に反映させています。
 この里親どうしの交流と意見交換の場を、全国の里親どうしで共有できないかと考えました。
 さいわい、全国里親大会が第50回と記念すべき年に、東京で開催されることになりました。そこで、全国里親大会をより盛り上げるためにも、その前日に研究協議会を催すことに致しました。分科会の企画、会場の手配、パネラー等の依頼、スタッフの募集、その他あらゆる準備を、わたしたち里親と関係者で作り上げた初めての全国研究協議会でした。
 さて、当日は、台風が東京を直撃する中、342名もの参加者においでいただき、大変盛り上がることが出来ました。講師やスタッフ98名、保育児童17名と、合わせて457名の規模となりました。研究協議会の終了後、レセプションを行いましたが、こちらも、182名が参加し、盛り上がることが出来ました。
 
 コーディネーターに塚原功三氏(東京都養育家庭・乳児院職員)、パネラーに東京都のファミリーホームで6人の子どもを養育し、「ぶどうの木(冬幻舎)」「丘の上の家(同)」を出版した坂本洋子氏、「養子家族ストーリー」を出版した養親の野口佳矢子氏のお二方をお願いし、本やテレビに出てこない素顔の話をしていただきました。
 坂本洋子氏は、「6人の子どもがいるファミリーホームでは、日常的に何も起きない方が不思議。何が起きても驚かないほど腹をくくっている。過去の悩みで一番大きかったのが、里子、里親に対する社会の偏見がとても強かったこと。それに付随する学校でのイジメなどへの対処が一番辛かった」と話されました。
 
 
 野口佳矢子氏は、養子縁組家庭でありながら、小さい頃から真実告知をし、養子縁組家庭であることを子どもにも、地域にも隠さずに育ててきたことを話されました。
 お二人とも、「真実告知、通称使用・実名使用などの名前の対応、社会の無理解など、苦しみや悩みは、みな共通している。子どもと真剣に向き合い、里親仲間の力を借りて乗り越えてきた。」と共通の悩みも話されました。
 その後、会場との話し合いを行い、「一人一人頑張っている里親を支えるネットワークを、システムとして作っていかなければならない。待っていても出来ないから、当事者である里親が、もっと社会に働きかけて行く必要がある」とまとめられました。
 
 「里親と地域社会との関わり」をテーマに話し合いました。
 コーディネーターに西郷泰之氏(大正大学人間福祉学科教授)、パネラーに北海道の酪農家で養育里親をされている飯高素子氏、東京都江東区で青少年委員など地域活動に参加されている秋山三郎氏のお二方にお願いし、里親としての地域関係についての具体的な話をしていただきました。
 「地域関係にはフォーマルな関係と、インフォーマルな関係がある。フォーマルな関係としては、児相からの支援はあるが、地域学校からの支援、たとえば戸籍を申請に役所へ行っても、戸籍課の人の理解が得られない。地域の親の理解がない。民生委員・児童委員でも、里親を知らない方がいる。全然支えられていないという実態が一方であった。
 また、支えられている話もある。たとえば、酪農家であるが故に、実習生や近所の人、友人の出入りが頻繁で、開かれた家庭になっている。友人が食事を作ってくれるとか、具体的な支援の話が出てきている。
 インフォーマルな関係では、当事者同士、里親同士の支えがあった。国も里親援助事業、里親相互援助事業を国も始めるようだが、里親同士が支え合う。里親自身でなければ判らない、悩み、痛み、喜びを交流し支え合うことが効果的であった。」
 その後、会場との話し合いの中で、「里親支援は都道府県政令市の役割であったが、改正児童福祉法では、区市町村もかかわることになってくる。子どもを育てているケアラーに対して、さまざまなサービスの中から、そのサービスをどう活用して、子どもを育てるのかということを視点に、区市町村を育てていくことが大事ではないか。」とまとめられました。
 
 コーディネーターを前田信一氏(児童自立支援職員)、パネラーを秋山恵美子氏・荒牧恵氏、小林庸子氏・岩渕慎次氏の二組の里親子にお願いし、里親家庭の子どもの自立と、里親の自立支援について話し合っていただきました。
 「子どもは、様々な問題を起こしながらも、それを乗り越えてきた。里親は、小学校、中学校、高校において、さまざまな問題が出てきたときに、正面から向かい合いながら、子どもと語り合ってきた。
 子ども自身の中にも闇があったが、ひとつひとつ里親とともに超えてきました。」と具体的な状況を交えて話されました。
 後半は、参加者の半数を超える質問票を元に、会場との話し合いをしました。
 「子どもたちは、いい面も悪い面も確実に持っている。それをどう、いい形で引き出していくか。それが里親として大切な事です。具体的には、子どもが問題に向かっている時には、見捨てない。そして、必ず出来ると応援する。何も出来ないときは、ただ抱きしめて見守る。里親子が会話をし、子どもが孤立しないように見守っていくこと」とまとめられました。
 
 第4分科会は、コーディネーターに花崎みさを氏(児童養護施設「野の花の家」施設長)、パネラーに新田目建氏(児童養護施設「恩寵園」施設長)、内田和子氏(東京都ファミリーホーム)のお二方にお願いし、里親が施設に求める支援と施設と里親の連携について話し合っていただきました。
 内田氏は、「里親には、幼児から委託して欲しい。里親が支えきれなくなったとき、いろんな問題を抱えた子どもを育てていく中で、相談する場所は、児童相談所児相なのか、児童養護施設なのか。自由に相談できる場所があったら、里親の大きな支援になる。」と、施設職員をしてから里親をしている経験をふまえて、施設・里親の両面からの話をされました。
 新田目氏は、「全ての子どもは、より良く生きようという可能性を秘めています。その子どもたちをケアしていくには、子どもの目覚める時を待ってあげることも大切である。」と話されました。
 その後、グループに分かれて討議しました。各グループから、「レスパイトケアとして施設を開放していただけたらと思っている。」「養護施設の子どもをホームステイとして受け入れ、相互理解を深めていく必要がある。」「児童相談所が関わって、里親と施設の調整をしてもらいたい。」「里親会と施設とのよりよい交流、研修が必要ではないか。」「施設と里親の研修を重ね、交流するなかで、信頼関係を持ち、子どもを育てていく里親のケアをしてくれる場所として発展していって欲しい」「施設は精一杯養育しているが、本音で語り合った中では、ある意味で地獄ではないか」など、さまざまな意見が会場から出されました。
 最後に、「里親側も施設を理解し、施設側も里親を理解し、そして、連携を保ち、いろいろな問題を抱えている、里親家庭の子ども・施設の子どもたちの心を育てていく方向性でいけたらいいのではないか。」とまとめられました。
 
 
 
 第5分科会は、コーディネーターに坂本和子氏(NPO法人「里親子支援のアン基金プロジェクト」事務局長)、パネラーに里親家庭で育った田崎あや氏、桜田幸一氏、野口剛氏のお三方にお願いし、里親家庭で育った子どもたちの立場からの話をしていただきました。
 野口氏は、養子縁組家庭で育ちましたが、養子縁組家族であることを地域にオープンにして育った経過について話されました。
 田崎氏も、ご自分の育ってきた家庭について、具体的に話して下さいました。
 桜田氏は、「アメリカは、日本と違い里親制度を推進している。理想と思えるが、そうではないところもある。ドラフトとよばれる里親家庭をたらい回しにされている子がいる。18才で30回、里親家庭を変わった子もいた。10回変わるのは普通。研修をしているが、里親がギブアップする。次々と家庭が変わることは、子どもたちが傷つく。友達が変わることが辛いと訴えていた。日本の里親は、数は少ないが、家庭が変わらないところがいい。頑張って育ててくれている。この日本のいいところを伸ばして、里親をふやしていくのか考えたい。」と、アメリカ研修の報告を話されました。
 その後、会場との質疑に移り、パネラーはひとつひとつ丁寧に答えて下さいました。桜田氏は、逆に参加者に質問しました。「この会場に里親さんはいますか」との質問に、半数の方が手をあげました。さらに、「真実告知をしている里親さんはいますか」と質問すると、手が半分に減りました。桜田氏は、「真実告知は7才から10才までにはして欲しい。子どもには、自分のことを知る権利がある。そこから、自分たちの一歩が始まる。」と締めくくりました。
 
 特別分科会は、コーディネーターに加藤尚子氏(目白大学人間社会学部人間福祉学科講師)、パネラーにヘネシー・澄子氏(社会福祉学博士ほか)、コーラ・ホワイト(Cora.E.White)氏(里親・パートナーイン・フォスターケア法人理事長)、リンダ・ハドルストン(Linda.Huddleston)氏(里親・国際里親養育機構副会長)のお三方に、アメリカの里親制度とその実情についてお話しを伺いながら、日本の里親制度の発展する方向について話し合いました。
 コーラ・ホワイト氏は、「3人の実子を育て成人している。23年里親をし、200人以上の子どもを育てた。パートナース・フォスターケアという里親を支援するNPOの会長、国際里親協議会の前年度の副会長をしていました。」と自己紹介したあと、専門里親・治療里親について話をされ、「里親は、専門家であるという意識を持って、研修を受けていく。自分がトレーニングを受けるだけでなく、地域や近親に対して、トレーニングをしていくが大切です。里親同士、地域、自分の親族を含めたネットワークを作る必要です。」と話されました。
 
 
 リンダ氏は、アメリカのkinship里親(近親里親)について話されました。ヘネシー澄子氏は、「里親家庭の子どもは愛着の問題だけでなく、虐待を受けた過去のPTSDの問題を抱えている。どのように里親がかかわっていくか。」など、その治療の方法を含めて話されました。
 後半は、会場からたくさんの質問がありましたが、多すぎて全部に答えることが出来ませんでした。
 最後に、「質疑を通して感じたことは、今迄の日本では、必要な知識の普及、獲得、情報の共有がしにくい、出来ない状況があった。これからは、治療やケアの中身、システムの課題、外国のシステムについて知ることなどが、とても大切なのではないか。今回の研究協議会が必要な時期になってきている。この研究協議会を、新しい知識の獲得、情報の共有の場として発展させていくことが、とても大切です。」と、締めくくりました。
 
 
 6つの分科会の話は、簡潔にまとめることができないほど深く、考えさせられる話ばかりでした。







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