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起承転結
 
 ――前回の授業で、キャラクターの表情をつけるのに喜怒哀楽4つのパターンがあると言いましたが、お話づくりも4つの構成から成っています。それは、起承転結です。起は、ものごとの始まりです。マンガでいうと、主人公やキャラクターの紹介など、いわゆるイントロ(イントロダクション)です。承は、ものごとの発展で、お話が展開する。つまり事件、エピソードです。転は、ものごとの変化、いわゆるクライマックスで、一番衝撃的なシーンになります。結は、結末、ラストシーンです。お話は、この起承転結が基本となっています。
 
【ウサギとカメの4コマ・マンガを黒板に描きながら説明】
 
 皆さんがよく知っている『ウサギとカメ』というお話で見れば、起は、ウサギとカメが競争しようというところです。承は、ウサギがビューンと先に行ってしまって、カメはのろのろしているところ。転は、油断して昼寝しているウサギをカメが追い越すところで、クライマックスです。普通はカメが追い越すことは考えられないし、このままなら勝つと思っているウサギが寝てしまうことも考えないでしょう。そして、最後にカメが勝ちましたというのが、結です。
 『シンデレラ』なら、最初にまま母やお姉さんたちにいじめられたりしているところが、起です。承では、魔法使いのおばあさんが現れて舞踏会に行かせてくれます。転では、舞踏会のときに12時になってしまい、ガラスの靴を階段に落として帰ってくる。これがクライマックスです。結は、王子様がガラスの靴を持ってやってきてハッピーエンドとなります。
 これは一番簡単な起承転結ですが、お話はどれもそういうふうにしてできています。4コマもそうですし、手塚先生やほかのマンガ家が描いているマンガも同じですから、これは覚えておいてほしいと思います。
 
 真崎――起承転結が基本だというお話でした。そこで、この始まりの部分をコマ割りしていきます。カメが「競争しよう」と言ったときに、ウサギが、心のなかで「絶対に俺が勝つから、うまいこと乗せたぜ」みたいな、ちょっと腹黒い顔をしたりする。こういうふうに、起のなかでコマを割っていって、セリフを書いて流れをつくっていくのが、ストーリーマンガの基本です。これをどんどんつないでいくと、長いお話もできます。
 前回の授業で皆さんに渡したマンガのテンプレートは、非常にベーシックな形に近いもので、5コマぐらいでちょっとしたエピソードや表情を描いていくようなものでした。描いてきたと思うので、あとで見せていただきますね。
 
テクニックの磨き方
 
 次に、皆さんが課題のマンガをつくるうえで、よりおもしろく描くための工夫、マンガのテクニックをお話したいと思います。
 たとえば、人間の感情がとてもわかりやすく出てくるラブシーンのつくり方。男が、とても愛している人に「好きだ」と言います。でも彼女は、いきなり「私も好き」とは返事をしません。「好きだ」と彼に言われたとき、「信じられない」と答える。もう1回「でも好きだ!」と言うと、「えっ・・・でも信じられない」「君のことが本当に好きなんだ!」・・・それで、やっと男の言葉を信じる。それをコマで効果的に表現していけば、この男はヒロインを本当に好きなんだな、と納得できるようなラブシーンになります。「好き」と言って、「うん、私も」と答えてしまうのもいいかもしれないですが、とりあえず熱心に告白するシーンを描いてみたいと思います。
 
【ラブシーンを黒板に描く】
 
 彼が「好きだ」と言います。彼女は「うそ・・・」「でも好きなんだ。マジ、ホントに」ちょっと情熱をこめて「好きなんだ!」とか言ってみます。彼女は、ちょっと涙ぐんでみたりして。ちょっとブリッ子で「信じられない。ウソ! ホント!?」・・・こんな感じで表現してみる。
 「いや、俺はあんなふうに女に告白しないよ」と思う男性の皆さんは、自分の好きな告白を描いてみてください。「俺は女にこんなふうに返事してもらいたいんだ」という夢を描いてみてください。女性のほうは「こんな男にこんな愛の言葉を囁かれたら、私うれしくて泣いちゃうわ」と思うような男の人を描いてみてください。思ったような絵が描けなかったら、自分の好きな俳優の写真でも貼って、隣りのコマに自分の顔の写真を貼って、そこに吹き出しをつけてみるのもなかなか楽しい遊びだと思います。
 とりあえず最初はチャレンジですから、たとえば自分の持っている雑誌にナイスバディなお姉さんがポーズをとっているグラビアの写真があったら、そこに吹き出しを描いてみます。この吹き出しに何かセリフを書いてみます。たとえば「退屈・・・」の一言でもいいですし、「こんな格好やってられないわ」と書いてもいいです。自分のそのときの思いつきとか感性で。
 写真が1枚あったら吹き出しをつけて、そこにセリフを書いてみる。そして、自分自身でつくった物語をのせてみる。それが最初のマンガの勉強になると思います。絵がうまく描けない、自分で思ったように表現できないと思ったときには、絵や写真などいろいろなもので自分の感性、ストーリーをつくるテクニックは磨けると思います。そんな感じで、遊びながら楽しくストーリーや吹き出しをつけることに慣れていってもらいたいと思います。
 さらに細かいテクニックなどについて、橘先生に実際にやってもらいますので、皆さん交代で見に来てください。その間に私と英先生が、皆さんが描いてきた作品を見せてもらいますので、机の上に出しておいてください。
 
【橘先生はテクニックの実演。真崎先生と英先生は教室を回って宿題をチェック】
 
課題の提出について
 
 真崎――テクニックの実演はどうでしたか。先ほど、原稿用紙のどこまで描いたらいいのかという質問があったようですが、私たちは一番外の枠が印刷で出るといわれている線なんですが、皆さんの場合は原稿のサイズそのままで印刷されますので、飛び出すコマを描くのでしたら、なるべくギリギリまで描いたほうがいいと思います。もちろん、内側のコマをきちんと切る場合には、そのなかできっちり描いて、はみ出した部分は修正ペンやホワイトで修正してください。
 自分がこれから作品を描く上で、これはどうしたらいいのかわからないと思うことがあったら質問してください。ここで質問をしないで、描けませんとは言わせませんよ。
 でも本当に「描けない」と思わないで。「下手だから」と言わないでください。一番最初にトライして、鳥山明の『ドラゴンボール』第1作みたいな大傑作を描く人はいないのですから、とにかく気軽に描いてみてください。何コマも描けないのでしたら、1コマ描いてそのイラストに吹き出しの一言、俺が言いたい一言、私が言いたい一言でもいいですから、書いてみてください。そこのなかにはもうストーリーがありますから。
 とにかく描くことが大事です。そして、紙とコミュニケーションをする。自分が思っていることを紙の上に描く。誰か読んでくれた人がその紙を通して、あなたが言いたいことを受け取る。マンガというのは必ず読んでもらうために描くんですね。この皆さんの課題は先生が本にしてくださいますから、本になってそれを見た人にあなたのメッセージが伝わるように、ちょっとがんばって描いてもらいたいと思います。
 とても質のいい絵本で、欠けた丸がころがって旅をする話もありました。図形が吹き出しでしゃべってもかまいません。キャラクターが人間でなければいけないということはないのです。リンゴがしゃべっていてもかまいませんし、何がしゃべっていてもかまいませんから、自分が描きやすいもので描いてみてください。日本で売っていろようなマンガを描こうと思わなくていいので、本当に自由に描いてみてください。
 マンガというのは、描いていると自分のことがとてもよくわかります。自分の心を自分で再確認するというか、自分が考えていることをマンガを描いていて気がつくこともあるんです。マンガを通して自分自身を発見したり、新しい友達とのコミュニケーションもできます。私たちは世界のいろいろな国――アメリカ、フランス、ベルギー、中国、韓国などに行きましたが、マンガを通していろいろとコミュニケーションできたと思います。
 先ほど宿題を見せていただいて、皆さんが日常のなかで考えている何気ないこと、気がついていることなど、とてもよく出ていたと思います。それを今度は本になって、皆さんがお互いに見ることができるわけですから、がんばって1本描き上げてみてください。とても楽しみにしています。
 
 ――今回、皆さんの課題を本にするとき、ページのめくり方が日本のマンガとは反対になるようです。外国のマンガと同じめくり方になるので、日本のマンガのコマ割りで描いてしまうと、1枚だけの人はいいけれど、ストーリーマンガで5枚も6枚も描いたときに読めなくなってしまうので、変則的ですが課題では読み方を日本のマンガと反対にしてください。そして、1ページ目のわかりやすい所に自分の名前を書いて、これは自分の作品だと主張してください。
 それから必ず黒のインクで描いてください。鉛筆は印刷に出にくいです。そして、ちょっとお金がある人は、スクリーントーンを使ってみてください。黒か白かだけではなくて、グレーの服にしたいと思ったらスクリーントーンを貼ってください。セリフも黒のペンで書いてください。パソコンで字を打ち出して貼ってもかまいません。
 
 真崎――木のトーンとか森のトーンなど、いろいろなトーンがあります。買わなくても、画材屋さんでさまざまなトーンを見てみるだけでも結構おもしろいかもしれません。
 
 ――1ページ目をタイトルページといいますが、1枚のイラストを描いて、2ページ目からコマのマンガを描いてもかまいません。そのときはタイトルページにタイトルを書いてください。お話のタイトルは大事です。自分の描きたいマンガのタイトルを書いておくと、読んでくれる人に内容がわかりやすいと思います。
 プロのマンガ家は、編集さんがプロのイラストレーターに頼んでタイトルを入れます。マンガ家が自分で書く場合もありますが、ほとんど自分では書きません。そして、編集さんはタイトルページに、あおり文字をたくさん入れます。あおり文字というのは「とてもおもしろい!」とか「大人気!」というような言葉です。
 
 真崎――私たちも賞品をつけよう。
 
 ――いま真崎先生から提案がありまして、成績のいい人上位5人に何かプレゼントをします。私たちのサイン入りマンガとか、絵のついた色紙などですが、がんばって描いてください。絵の上手、下手は関係ありません。こちらに皆さんの情熱が伝わるものが一番です。マンガは気持ちですから。
 
 学生――夜の景色を描くにはどうしたらよいですか。
 
 真崎――一番単純な方法は黒い所をつくり、スクリーントーンを使います。夜空の下のほうがライトで明るくなっていたり、月明かりで少し明るくなっていたりするのは、グラデーションのかかったトーンを使います。星を散りばめたようなグラデーションのトーンもありますから、そういうものを使うと星空がうまく描けると思います。
 
 ――家の窓を白く抜いたら、夜景の感じが出ます。
 
 真崎――では、皆さんの情熱と講座に対する熱意、熱い思いを待っていますので、がんばって描いてください。とても楽しみにしています。







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