■キャラクターの表情のつけ方
では次に、マンガの簡単な描き方をやります。一番大事なのはキャラクター、人物です。人物には表情がついていますが、表情はマンガの命です。表情には4つパターンがあり、喜怒哀楽といいます。喜は、とてもうれしいという、大きく笑ったような表情です。怒は、怒りや憎しみです。哀は、簡単に言えば悲しいことで、泣き顔などです。楽は、楽しいとか、安らかという表情です。
【喜怒哀楽の顔を板書】
これが基本の表情ですが、目と眉毛が一番のポイントです。眉毛と目が下がると、楽しいとかうれしいとか、笑い顔に近くになります。眉毛が下がるのでも、八の字になると哀しい顔になります。目も眉毛もつり上がると、怖い顔、怒った顔になります。このように表情を一番つけやすいのは眉毛です。その次のポイントは口です。口がへの字になったり、大きな口になったりすることで、表情が違ってきます。眉がつり上がって怒っている顔に大きな口を描けば怒鳴っている顔になります。そういうふうにして表情をつけます。
ポイントをいくつか描いてみます。
【目と口をいくつか板書】
目と口のパターンをいくつか描きました。これらを合わせることによって、いろいろな表情ができます。「うーん」と考えているような、「うー」とうなっているような表情になったり、「うん?」という感じになったり。怒っている目に、ニッコリの口をつけたら、「ふっふっふっ」という感じです。このように目と口のパターンをいろいろ組み合わせると30通りの微妙な表情ができます。泣き笑いとか、泣いているけれど笑っているといった表情も描けます。
では皆さん、怒っている顔と泣いている顔、あるいは怒っている顔と笑っている顔のどちらかを選んで描いてみてください。その後、橘先生がペン入れするところをお見せします。まず描いてみてください。
【学生たちがそれぞれ表情を描き、講師たちは学生の間を回って指導】
【途中から橘花夜先生がペン入れを実演し、学生たちは三班に分かれて交代で見学】
【テンプレートが配布される】
英――宿題を出しますので、真崎先生から説明があります。
真崎――皆さんに2種類の紙(テンプレート)を配りましたが、その1枚の大きいコマに皆さんが描きたいものを描いて下さい。絵が描けなければ、写真や雑誌のグラビアを切り抜いて貼っても構いません。残りの4コマに喜怒哀楽の表情を描いたり、友だち同士で撮った写真などを貼って、そこに短いコメントを入れてください。「きのうみんなで喫茶店でお茶を飲んだのが楽しかった」というような日記風のもので結構です。難しく考えずに、コマを割って日記を書いたらどうなるかというような発想で描いてみてください。
例えば、京都の写真を貼って、「行ってみたい。行ってみたい。行ってみたい。行ってみたい」と書いたら、すごく行ってみたい気持ちが表れると思います。あるいは、学校の勉強がうまくいかなかったときには、「どうしてうまくいかなかったんだ。なぜなんだ」と書いて、最後に悲しみにくれて泣き崩れる自分の絵を描いたりしても、面白いでしょう。
皆さんはプロの勉強をしてきたわけではありませんから、本当に簡単な気持ちでトライしてみてください。こうしたものを使って短いマンガを描く流れについては、次回に詳しく話したいと思います。
【真崎先生が見本を描く】
英――真崎先生が例を描いている間に、人物の描き分けについてお話します。男と女の描き分け、お年寄りと子どもの顔の描き分けなどの、一番簡単な方法をお教えします。
子どもを描くときには、目、鼻、口を顔の真ん中より下寄りに持ってきます。そうすると幼い感じになります。目が真ん中より上だと、大人に見えます。また、丸顔は子どもっぽいので、長細く、目を真ん中より上に描くと大人の顔になります。大人を年寄りにするのに簡単な方法は、皺を描くことです。口の周り、目の下、目尻などに皺ができます。それだけでは、若い人に皺ができただけのようにも見えるので、頬にたるみをつけたり、髪の毛を薄くしたりします。太っている人は、顔が丸く、目、鼻、口は真ん中に寄っています。やせている人は、顔が長く、頬が少しこけています。これらを基本として、キャラクターをつくってみてください。
大人と子どもの描き分けは、大人は八頭身で、小学生くらいの子どもは五頭身くらいにします。赤ちゃんは三頭身ぐらいです。頭の大きさが違うので、そのバランスを見て描き分けをします。太った人は、首が見えなくて、お腹が出ています。
【真崎先生の絵いた見本を学生たちに交代で見せる】
英――来週までに宿題をやってきてください。来週はストーリーの作り方を中心に話をします。
(翌週につづく)
■映画が日本のマンガの原点
真崎――きょうは、まず、マンガというのが日本でどのようにつくられ、どういう形で発展していったかを、描く上でとても大事なことなのでお話します。
いま、皆さんが読んでいる日本のマンガの原型をつくったのは手塚治虫先生です。『鉄腕アトム』を描いた、あの先生の作品が一番最初のストーリーマンガでした。それがとても重要なのは、手塚先生がめざしたのがシネマ(映画)だったからです。手塚先生は、ウォルト・ディズニーのようなアニメーション映画をつくりたかったのですが、戦争が終わったばかりの日本ではとてもそんな資金がなかったので、紙の上で映画の世界を描こうとしたのです。
マンガには映画のような色や効果音や音楽はありません。でも、音楽があるように、効果音が聞こえてくるように、色がついているように、感じられるような描き方のテクニックを研究していったのです。手塚先生が一番最初に描いたマンガのコマ割りは、よく目にする四コママンガのように、単純に同じ大きさのコマが並んだものでした。けれども、これではどこがクライマックスかわからないので、コマの大きさを変えるようになりました。例えば、小さいコマ、小さいコマ、中ぐらいのコマ、大きいコマと並べたりして、だんだん工夫をするようになって、いまのマンガの形が成り立ってきたのです。
■お話のつくり方
真崎――さて、これから私は、映画につきもののお話(ストーリー)について話します。皆さんが描くどんな短い作品でも、そこには一つの流れとお話があります。きょう誰かと会って「こんにちは」と言っただけでも、それはお話になるのです。その描き方を流れに乗せて説明します。
お話の流れというのは、AからBまでの時間と場所と人の心の変わり方、移動の過程です。皆さんがよく知っている『スター・ウォーズIV〜新たなる希望〜』で、一番最初にルーク・スカイウォーカーは貧しい田舎の星にいて、冒険などにあこがれているのがAで、一番最後に群集のなかで勲章をもらうのがBです。彼が、いろいろな人たちやいろいろなエピソードに出会い、いろいろなことを身につけて、成長していくという物語です。そういうお話の流れで見れば、皆さんが誰かと会って軽い挨拶をすることも物語になるのです。
皆さん、隣りに座っている人の顔をちょっと見てください。隣りの人はどんな顔をしましたか。お互いの顔を見たときに、リアクションがありますね。そのリアクションが、マンガのなかではとても大事です。
例えば、「とてもあなたが好き」と言われて、「えっ」とびっくりしてしまうか、にこにこと笑ってしまうか。あまり好きだと思っていない人に言われて、意外だなという顔をするか。そういうふうにお互いの言ったこと、したこと、見たことへのリアクションを細かく描いていくことがお話づくりの基礎になります。それがよく描けていれば、読者にその内容をうまく伝えることができます。とても悲しい場面に出くわしたときにニヤッと笑うような登場人物だったら、読者は、その人物のことをすごく嫌な人だと思ったり、残酷な人だと思ったりします。でも、人の死に出くわしたときに涙を流したら、その人物は人の死を悲しむことができる人なんだと感じるのです。
マンガのお話づくりは、そういうリアクションを細かく積んでいく作業だということを覚えておいてください。では、このA地点からB地点への移動、お話の流れのつくり方を、英先生が『ウサギとカメ』というお話で説明してくださいます。
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