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マンガを描く
―講義と実演―
 
真崎春望(さなざき・はるも)
少女漫画家。1981年デビュー。現在、『ミステリー・ボニータ』、『ハーレクインコミック』などに執筆中。
 
 
橘 花夜(たちばな・かや)
少女漫画家。1994年デビュー。現在、『ネットコミック』などに執筆中。
 
 
英 洋子(はなぶさ・ようこ)
少女漫画家。1978年デビュー。代表作『レディ!!』が、『レディレディ!!』としてアニメ化。現在、『本当に怖い童話』、『ハーレクインコミック』などに執筆中。
 
■マンガを描く手順
 
 ――きょうはマンガの描き方について講義します。日本のマンガは、主にお話(ストーリー)と絵でできあがっています。マンガ家がどのようにマンガを描くかといいますと、まずアイデア、お話の構想を考えます。そして、こういう話を描きたいと考えたら、それをプロットにします。プロットというのは、お話のあらすじを文章にしたものです。プロのマンガ家は、この段階で出版社の編集さんと打ち合わせをします。
 その後にマンガ家が一番苦しむ作業があるのですが、これをネームまたは絵コンテといいます。30ページあるなら、お話を30ページに割り振っていきます。たとえば男の子と女の子が出会って恋愛して、ハッピーエンドになるお話だったら、何ページまでに出会うか、けんかをするのは何ページ目、仲直りをするのが何ページ目、そして最後にハッピーエンドと割り振りながら、コマ割りをします。主人公に表情をつけたりしながら絵を描いて、セリフを書き込みます。ネームは、頭のなかにできたアイデアがどの程度形づくられるかという大切な作業ですし、できないときは何日も眠れないくらい悩む作業です。
 そして、編集さんと打ち合わせをして、編集さんが「ここが良くない」とか「つまらない」とか「わかりづらい」とか意見を言うので、そこを直します。編集さんは一番最初の読者ですから、編集さんがわからなければ読者もわからないので、編集さんのOKが出るまでネームを描き直します。ここが一番つらい作業ですが、これがうまくいくと、もうあとは時間との勝負だけです。
 ネームにOKが出ると、下書きに入ります。下書きは、原稿用紙に鉛筆で、ネームに沿って描きます。下書きで自分が描きたいように表情をつけて丁寧に描かないと、ペン入れのときに大変困るので、ここは一番力を入れて絵を描くときです。
 下書きが終わるとペン入れです。ペン入れはインクで描くのですが、私は墨汁を使っています。つけペンといって、ペン軸にペン先をつけて描きます。ペン入れのときに、背景とか効果とか、仕上げという作業があります。ここで、スクリーントーンを貼ったりします。スクリーントーンには、網といわれるドットのもの、星空用に貼るトーン、雲のトーンなど、いろいろなトーンがあり、それらを使って仕上げをします。そのほかに効果線というものもあります。仕上げが終わると完成です。
 伝統的なマンガの描き方は、この流れでやっていきます。いまはデジタル化が進んで、パソコンで描く人も増えていますが、まだ多くはありません。もう何年かすると、パソコンで描く人はもっと増えると思います。
 
マンガを描くための道具
 
 マンガを描くときにどういう道具が必要か。まず紙です。商業誌に載せるマンガは全部B4の用紙に描きます。B4は日本だけの規格で、外国にはないと思います。自分で同人誌を作ってコミックマーケットで売るのなら、A4の用紙に描いて大丈夫です。最近はこういう用紙を売っていて、マンガを描く位置を決めやすいように薄い青い線が引かれています。薄い青い線は印刷に出ません。昔は真っ白な紙だったので、自分で線を引いたものです。
 鉛筆と消しゴムはもちろん必需品です。それから定規も使います。インクは、製図用インクなど、とりあえず黒いインクを使ってください。にじまないものがいいので、一番手ごろなのは私が使っている墨汁です。
 ペンは、ペン軸にペン先を差し込んで、墨汁に浸けます。ペン先はいくつか種類があります。一番スタンダードなのがカブラペンで、スプーンペンともいいます。これは線の強弱がない1本線が描きやすいです。Gペンは、力を入れたり抜いたりして、太い線から細い線まで描けます。すごく細い線を描くには丸ペンを使います。丸ペンは、丸ペン専用のペン軸でないと使えません。私は、持ちやすくするために、このようにペン軸にスポンジを巻いています。
 ですから、すごく細い線を描きたければ丸ペン、普通の線を描きたければカブラペン、太い線も描きたければGペンを使います。でも、マンガ家によっていろいろ違っていて、細い線しか描けない丸ペンで太い線まで描く人もいます。皆さんも実際に使ってみないと、どういうペンが自分の手に合うのかわからないと思います。画材屋さんで1本ずつ手に入れて、ちょっと試してみるといいと思います。
 黒く塗りつぶす所を専門用語でベタというのですが、ベタ専用の筆を1本用意して、墨汁で黒く塗ります。最近は筆ペンもありますので、急いでいるときなどはそれを使ってもよいでしょう。ただし、インクによってはホワイトを乗せると赤くなってしまうものもあるので、気をつけないといけません。
 枠線を引くときには、製図用のペンと定規で簡単に引けます。昔は烏口という製図用の道具で引いたのですが、むずかしいので、いまはほとんど使わなくなっています。
 
 
 失敗した所を修正するためには、ポスターカラーの白を使います。私たちはホワイトといっていますが、これを水に溶かして筆で塗って修正します。事務用の修正液も簡単に使えてよいのですが、細かい所はやはり筆でないと直せないと思います。
 それから先ほども言った、スクリーントーンです。裏に糊がついているので、カッターで切り抜いて貼り付けます。貼り付けるときには、へらみたいなものでごしごしとこすりつけます。
 マンガを描く道具というのはこういうところですが、画材屋さんのコミックコーナーに売っていますので、マンガを描きたいと思う人はいろいろ試してみてください。ペン先は1本ずつ買ってみたり、紙はお友達と買って半分に分けたりするとよいでしょう。スクリーントーンも、昔は1枚800円ぐらいして、高くて使えなかったこともありますが、最近は280円ぐらいと安くなっていますので、好きなものを選んで使ってみてください。
 







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