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日本のコンテンツ・インダストリー
 
 日本のコンテンツ産業は14兆7,000億円の規模があると言われています。そのうちアニメーション関連ではキャラクターライセンスが約2兆円で、全体のビジネスのなかでのシェアが大きい。出版産業は、新聞が2兆3,900億円ぐらいあり、書籍と雑誌を合わせて2兆円ちょっとなので、新聞業界と出版業界は同じくらいで、しかもそれはセブンイレブンの売り上げとほぼ同じ規模です。なお、音楽産業のなかで、着うた・着メロが1,000億円ぐらいあって、これはほかの国に比べると数字は大きいです。
 コンテンツ産業を世界的に見ると、やはりNo.1はアメリカで5,600億ドルです。日本を含めたアジアは、アメリカの約3分の1から4分の1です。中国はまだ数字は小さいですが、伸びてきているので、たぶん10年後は間違いなく日本は中国に抜かれると思います。日本人は、抜かれる前にいったい何をすべきかということを、10年間で考えて実行に移さなければならないということを、頭の片隅に絶えず持っていてほしいと思います。全体的には右肩に上がっていくと予想されています。地域別にはアジアの伸び率が、他の地域よりも上ですが、その理由は間違いなく中国にあります。
 日本のアニメ作品は世界市場でどのように受け入れられているのでしょうか。まずヨーロッパですが、第1位がドイツで、以下ベルギー、イタリア、英国、ポルトガル、ポーランド、スペイン、フランスとなっています。基本的に国の大きさと力によって買ってくれる番組の数は違うのですが、大きなポイントはベルギーがかなり多いことと、フランスが大国であるにもかかわらずすごく少ないことです。
 今度は放送局別で見ると、第1位はRTL2というドイツの放送局で、日本の番組(ほとんどアニメです)を1週間43番組放送しています。テレビ東京は1週間に32番組放送していますが、それよりも多いということであり、つまり世界No.1のアニメ放送局であるといえます。
 ベルギーの放送局は2つ入っていますが、ベルギーには国語としてゲルマン語系とオランダ語系の2つの言語があるので、放送局も2種類あり、同じ番組でも言語が違う2パターンがあると思ってください。したがって、番組数は多いけれどダブったものもあります。ベルギーは決してアニメ大国ではないのです。
 一方、フランスはかなり少ないですが、クウォーター制度によってEU外から作品がフランスに入る数を制限しているため、1週間に10番組程度しか放送されません。こういう制限は、韓国、中国、カナダにもあります。
 次にアメリカですが、アメリカの子ども番祖のゴールデンタイムは土曜日の午前中です。金曜日の夜、大人たちはパーティで騒いで、翌朝はだいたい寝ていますので、子どもにとっては親から何も文句を言われることなく遊べる土曜日の午前中はまさしくパラダイスです。日曜日は礼拝があるので、子ども番組、エンタテインメント性の強い番組は基本的に日曜日の午前中は放送していません。
 FOX、ワーナーブラザーズ、ABCファミリー(ディズニー)と、カトゥーンネットワークというケーブルチャンネルの4つが、子ども番組の大きなネットワークです。カトゥーンネットワークは土曜の午前中は海外からの番組を基本的に入れない方針をとっています。そのほかの3つのネットワークで日本のアニメーションはそれなりのシェアはあると思います。視聴率で見ると第1位は『遊戯王』で第2位は『ポケモン』です。ボーイズ&ガールズの2才から11才のジャンルではこの2つがベスト5に入っています。それ以外はなかなか入ってきませんので、日本にとっての課題は『遊戯王』『ポケモン』に続く作品を作ることです。
 カトゥーンネットワークは土曜日の朝には日本の番組をかけていませんが、それ以外の時間帯ではさまざまな日本の番組を放送しています。たとえばこれはToonamiと呼ばれている時間帯ですが、土曜日の7時から11時で『デュエルマスターズ』、これはカードゲームです。それから『レイブマスター』『幽々白書』『ドラゴンGT』『ガンダムシード』と、かなり日本の番組がかかっているわけです。
 さらに時間帯が深くなってくると、今度はadult swimといって、平日の23時から朝5時までですが、『犬夜叉』『キッズ・クローズド』(これは『名探偵コナン』ですが、「コナン」というのはアメリカですでに映画になっているので商標がとれませんでした)『ルパン・ザ・サード』(『ルパン3世』)などが並びます。日本ではゴールデンタイムに放送されていた番組なのに、なぜこんな深夜帯に放送するのかというと、アメリカのセンサーシップの問題です。FCC(連邦通信委員会)がテレビ番組を厳しく監視しています。スーパーボールでジャネット・ジャクソンの胸がポロッと出たのにFCCが反応して、以後アメリカは生放送の番組はなくなって、すべての番組は5秒遅延しています。そういう意味で大変な力を持った委員会だと思いますが、そこのセンサーシップを通過することができないので『犬夜叉』『コナン』『ルパン3世』は深夜帯の番組になっているのです。『犬夜叉』は剣を抜くから、『コナン』は、殺人事件が起きないと番組にならないので仕方ないと思います。『ルパン3世』は、峰不二子ちゃんが色っぽいからではなく次元大介がピストルを撃つから、深夜でしか放送できないんです。
 いまFCCは映画『プライベート・ライアン』でもめています。スピルバーグは、戦争の悲惨さを示すためにそのまますべて放送してほしいと言っているわけですが、やはりFCCに引っかかって放送できない状況になっています。つまり、アメリカで放送するためには、絶えずFCCのセンサーシップという問題が深くかかわってくることを理解してください。
 日本映画がアメリカで公開されたときのランキングを見ると、『ポケモン1. 2. 3. 』『ファイナルファンタジー』『遊戯王』『Spirited Away』(『千と千尋の神隠し』)などが上位に並び、日本からアメリカに行った映画のなかではアニメがかなりヒットしています。『千と千尋』は、やはりアカデミー賞を受賞したぐらいの作品ですから大変知名度は高いわけですが、ボックスオフィスでは10億ちょっとですから映画興業としては赤字です。
 外国のプロデューサーに「あなたは、ヒットしていないけれどオスカーをもらえるプロデューサーになりたいですか、それともオスカーはもらえないけれどヒット映画のプロデューサーになりたいですか」と聞くと、ヨーロッパでは「どちらかというとヒットしなくてもオスカーをもらえるとうれしい」と言う人がいるのですが、アメリカではほぼ100%、「オスカーなんかいらない、ヒットしたほうがいい」と言います。一番いいのは1回はヒットして、その次にはオスカーを獲るということだと思うのですが、オスカーだけが賞ではありませんし、賞をもらえればいいという人生でもないと思います。僕としては、自分でつくったこの記録を超える作品をプロデュースしたいという希望を持っていて、そういう作業を一生懸命やっています。
 少しまとめておきましょう。まず、日本ではマンガとテレビは非常に深くリンクされていますから、お互いに相乗効果をもってプロモーションしたりマーケティングしたりしますが、海外ではそれがうまくいきません。海外では出版社とテレビ局がそんなに仲良くないからです。例えば、フランス語でアニメのキャラクターの名前を決めるとき、放送局とゲーム会社と出版社がそれぞれ別の名前がいいと言ってなかなか決まらないというように、非常に連携がむずかしい。これはある程度ライセンサーがコントロールしていかなければいけないと思いますので、僕たちの課題なのかもしれません。
 もう一つは、センサーシップの問題です。アニメに非常に日本的なものが出てくると韓国では放送が難しい。それは歴史的に韓国では受け入れられないからです。そういう意味で、外国に作品を持っていくときには、その国の言葉も調べていく必要があると思います。スペイン語では「クボ」はバケツを意味していますので、僕がスペインに行って「My name is Kubo.」と言うと皆、プッと笑うわけです。そういうことは多々あると思いますので、キャラクターをつくる場合にもそういうことを意識していかなければいけないのかなと思います。
 
将来への課題
 
 10月に僕は、カンヌとフランクフルトへ行って講演をしてきました。そのときにヨーロッパのプロデューサーに何が一番知りたいかと質問をしたら、ハイビジョンテレビのことを知りたいと言っていました。テレビ局の人たちは、インターネットで送信が始まると、いつかはテレビがやられてしまうと思っていて、インターネットで視聴しづらい高品位の映像についてすごく興味を持っているようです。ところが高品位で制作するにはコストもかかりますので、いろいろな形でお金を集める方法を考えなければいけないし、それをリクープする方法も考えなければいけないということで、これが大きな課題になってきています。
 もう一つは、これは日本独特の問題ですが、ハードディスクレコーダとか録画可能のDVDレコーダというのが350万台ぐらい日本で売られています。これは、例えば「ドラマ」とキーワードを入力すれば延々とドラマばかり録画してくれるので、「ドラマがあるからきょうは急いで帰らなきゃいけない」という人が減ります。そういう人たちが350万人近くいるということです。家族がいるので実際にはもっと人数は多いわけです。視聴率に直すとだいたい5%から7%ぐらいです。巨人戦の視聴率が悪いと言われていますが、その背景にはこういうハードウェアの存在もあるということを覚えておいてください。
 しかも、そういう人は再生するときにCMを見ないのです。CMスキップというボタンがついていて、それを押すといきなりCMを飛ばしてしまいます。75%がCMを飛ばしているといいますが、おそらく残りの25%はリモコンのボタン操作がわからないだけなのではないかと思います。
 3番目は、インターネットの問題です。英語版のアニメをインターネットに流すと、アメリカだけではなく、イングランド、シンガポール、オーストラリアといった英語圏の国々でも見られてしまうわけです。いままではそれぞれの国に個別に対応したビジネスをしてきたのですが、これからはもしかすると言葉別にビジネスをしなければならないかもしれません。そうするとキャラクターが、アメリカでは商標が取れるけれど、オーストラリアでは商標が取れないということも起こるわけです。僕らのビジネスも、そういう意味ではかなり厳しくなってきて、いろいろなことに気をつけていかなければ訴訟される時代になるのではないかと思います。
 
質疑応答
 
 学生――『ポケモン』のキャラクターをいくつ言えますか。
 
 久保――いま386キャラクターいます。残念ながら僕は全部言えません。その意味では子どものほうがすばらしいかもしれません。
 
 森川――『ポケモン』はゲームから始まったそうですが、そのへんの経緯をぜひ教えていただきたいと思います。
 
 久保――最初にゲームボーイのゲームを見せてもらったとき僕は、おもしろいとは思いましたが、世界的にヒットするとは感じませんでした。ただ、それが子どもたちに受けているというマーケティングのデータが上がってきて、マンガもやってみたら大変良かったので、何とかそれをさらに大きく広げていきたいと思いました。当時のゲームボーイのゲームは小学生の男子志向でしたから、女の子にはなかなか遊んでもらえなかったんですね。そこで女の子により受けるように、TVアニメーションをつくったのです。
 TVアニメーションにすることで、さまざまな会社がスポンサーとして入ってくることができます。それまでライセンスを出すのは任天堂で、すべてが任天堂のなかで決まっていったわけですが、ゲームのことばかり考えている会社がキャラクターを大きく育てようと思ってもなかなかむずかしいのです。キャラクターを育てる仕事が僕らの仕事ですし、ドラえもんというキャラクターが30年以上のロングヒットですから、何とかドラえもんのようにしたいと提案して、任天堂と契約を結んでキャラクタービジネスができるような形に変えていったのです。
 現在、株式会社ポケモンという会社があります。ザ・ポケモン・カンパニーから、僕らはTPCと呼んでいます。ニューヨークとロンドンに支社があって、ワールドワイドでブランドマネジメントをやっています。八重洲口の会社には24時間ポケモンのことだけを考えている人たちが140人いますが、キャラクターを育てたり、高原状態で人気をキープするためにはいろいろな力が必要で、そういう力がないとなかなかビジネスできなくなってきているのではないかと思います。
 
 学生――お話の最後の、これまで国ごとに個別に対応してきたけれど、これから言葉別にビジネスする必要があるかもしれないというところを、もう少し説明してください。
 
 久保――いまのインターネットは国ごとに地理的にテリトリーが分かれていますので、たとえばオリンピックをインターネットで見ようとすると、日本からはアクセスできないけれどシンガポールからはアクセスできるというふうに、住んでいる場所によって制限が決まっているわけです。しかし、海賊版や著作権の違いもあるので、英語版の作品をアメリカ向けにインターネットで出した場合、コピーしてオーストラリアでもシンガポールでも見ることができるようになってしまうかも知れず、それを見たアメリカ以外の国の人たちから訴訟される可能性も出てきているのです。将来的にハイスピードインターネットが世界的に普及すると可能性はありますし、僕らが訴訟される危険性は将来的にすごく上がるだろうと思っています。少なくとも海賊版の問題はインターネットでは必ず出てきますので、そこを解決する方法が今のところ見えません。
 また、アメリカの著作権の法律は、日本の法律とはまったく違います。たとえば、きょうの授業を日本とアメリカとケーブルでつないで同時にやったとしますと、日本ではこの授業は著作権法で守られますが、アメリカは守られません。人格権がないからです。日本ではインターネットに対すろアップロードライツが設定されていますが、アメリカにはありません。日本の外は、インターネットは本当に自由な場所ですが、法律すらも満足にない状態が続いていますので、そこに出ると必ず訴訟の問題につながると思っています。
 もう一つ、実は日本のテレビドラマをインターネットで送信する実験をずっとやっているのですが、最近ウィルスの問題が大きくなってパソコンのファイヤーウォールがすごく上がってきています。そのため、大きなデータをストリーミングでPCに入れようとするとウィルスバスターのようなアンチウィルスソフトが起動してしまい、ストリーミングができなくなってきているという状況もあります。
 インターネット通信事業は間違いなくこれから盛んになると思うのですが、そこでは権利的な問題、パイレーシーの問題、ファイヤーウォールなどのテクニカルな問題などがあって、そういうものを解決していかなければならない。これは日本が一番前を走っているので、日本が解決するしかないと思います。
 
 森川――授業の終了時刻がきてしまいました。名残り惜しい気分ですが、きょうは本当にありがとうございました。







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