■声優に向いている人
学生――劇団員以外に積極的に育てようと思っている若手の声優さんはいますか。
野沢――個人的にはいないです。私も決して完璧な役者じゃないですから、育てるなんていうのはおこがましいし。アドバイスはしますけれど。声優学校で教えていますから、いま売れている若い人はほとんど教えていますね。
学生――声優はどんな人が向いていると思いますか。
野沢――いろいろなものに興味を持つ人が向いていますね。ということは、役者の引き出しをたくさんつくること。何でも見聞きして、触れて、自分のなかにしまっておいて、役が来たときにその引き出しから取り出して役づくりをする。役づくりをふくらませられるほど、使われますからね。
■後輩たちへのアドバイス
学生――野沢さんのお話はすごく生き生きとしていて大変チャーミングで、惹き込まれて聞いていたのですが、何か話をするときに心がけていることはありますか。どうやったらそんなふうに素敵な話し方ができるのかなと思いまして。
野沢――私は、こういう話し方をしようとか考えたことがなくて、自分の気持ちを伝えていこうと。きょうは大勢だからこうやって話をするのですが、1対1のときは絶対に目線をはずしませんよ。
学生――ふだんマンガを読まれますか。
野沢――読まないのよ。私たちはあまりマンガは見ない世代なんですよ。小説なんです。いまの人はマンガを読むのが上手だけれど、私は下手なんですよ。一つ一つを読みすぎちゃうっていうか。私は小説のほうがななめに読めるっていう感じなんですよ。マンガは読み始めると、1コマ1コマ見て、吹き出しの文字を読んで、これがこうだからこういうセリフになっているんだなと。それで次に移るからえらい時間がかかっちゃうんです。
学生――まだアニメ化していないもので、この役をやってみたいというのがありますか。
野沢――私は、この役をやってみたいというのはないんですよ。いただけるものは何でも生かしていこうというので。
学生――後輩の人たちにするアドバイスで、必ずこれだけは言うというのがあれば教えていただきたいのですが。
野択――自分を見失わないことが大切なんですね。いまの若い人たちはライブみたいなものをやるじゃないですか。ライトを浴びて歌を唄う。そうすると気持ちいいから、そういう仕事だけをやっていると流されていってしまう。古い人には「歌なんか」と言う人もいるけれど、私はそうは思わないんですよ。世の中がそれを欲しているのだったら、役者の一つの生き方としてそれもいいと思うんです。でも、下から後輩がどんどん上がってくるから、自分がドラマに帰ろうとしたときに居場所がなくなったりすることもあるわけです。だから何をやっていても自分を見失わないでねっていうのが、私が言ってあげられる言葉かな。
私は歌は唄いませんが、皆さんといろいろな話をしてから、昔のフィルムをかけて一人でアテレコするというのはやったことがあります。昔の弁士みたいに、全部の役を私かやるわけですよ。最後に星野鉄郎がいろいろな星に行って、たとえば、いなかっぺ大将星なら大ちゃんがいて、鉄郎と大ちゃんが会話をして、というようなライブはやったことがあるんですよ。
学生――野沢さんが役者の先輩から言われて、自分の糧になった言葉があったら教えてください。
野沢――特定の先輩から言われたことじゃなくて、役者の世界のことなんですけれど、「どんなに熱があっても息をしているかぎり現場まで這ってでも行け。できるかできないかは向こうの人間が決める」って。だから私は、病気はできないと思っていますし、40度の熱でも仕事に行ったことがありますよ。いまの若い人は、38度の熱でも休みますね。でも、これもいまの世の中であって、休めるのだったら休んだほうがいい。
■ 舞台と声優の違い
学生――『ドラゴンボール』DVDボックスの特典についてくる声優のインタビューで、ほかの声優の方々が口々に、野沢さんは本当にすごい方だと言っています。それだけほかの声優さんに尊敬されているわけですが、一緒に仕事をするうえで何か心がけていることはありますか。
野沢――幸せです。そんなことを言われるような人間じゃないんですよ、私。ただ、私が一生懸命やってきたところを後輩が見ていてくれて、そう言ってくれるのだと思うんです。言葉は悪いですけれど「先輩づらして」というのは大嫌いなんですよ。先輩というのは、先に生まれて先にその世界に入っていただけですから。若い人と喫茶店に行くと一緒になってお話をする。私は話をするのが大好きだから、ついつい芝居の話になってしまって、先輩から私がいただいたものとか、「この世界はこうなのよ」「昔はこうだったのよ」という話をするんですが、若い人はそういう話がなかなか聞けないからとてもうれしいらしいですよ。
学生――悟空はよく「おめえだけは絶対ゆるせねえ」って言いますが、いままで悟空が闘った敵のなかで、野沢さんが一番許せないと思ったキャラクターは誰でしょうか。
野沢――セル。理由はこれ、というのはないんですけれど、にくったらしいんですよ。でも、やはり愛すべきキャラクター。鳥山先生の作品ってそうじゃない? 悪い人間が出てきても、とことん憎めないでしょう。どこか愛すべきものを持っていますよね。セルだって死なれたりなんかしたら、「ちょっと死なないで」って言いたくなるぐらい。
学生――お子さんを声優にしたいと思われたこととか、悟空のように育てたいと思われたことはありますか。
野沢――私は、こういうふうに育てたいというのはなかったんですよ。素直に育ってくれればいいなあと思って。声優にさせたいなんて一度も思いません。小学校6年生のときに演劇部に入って、自分で脚本なんか書いているのを見て、まずいと思って違うほうに向けようとしたんです。親子2代というのは、親を越してくれればいいけれど、越せない場合には本人もつらいし私もつらいと思うから、違う道のほうがいいと思って。
学生――お子さんは、自分の親が悟空をやっていると自慢だったんじゃないでしょうか。
野沢――うちの娘は自慢はしていなかったみたいですよ。聞かれなければ、自分からは絶対に親が何をやっているか言わない子でしたね。
学生――舞台演劇の演技の仕方と声優としての演技では違いがあるのでしょうか。
野沢――違います。舞台というのは大きいですが、一番後ろの人と一番前の人とで接し方が同じにならなきゃいけないし、横を見るにも大きく振り向かないと舞台では見ているという感じにならないんです。これをテレビや映画でやったらすごいオーバーになっちゃう。セリフもそうですよ。テレビなのに舞台のように言っていたのではオーバーになっちゃうから、ちょっとおさえ気味にする。映画、テレビ、ラジオ、舞台、全部出し方が違うんですよ。ただし、気持ちのもっていき方は全部同じです。生きたセリフ、ハートのあるセリフでなければいけないんです。舞台は違和感があるかもしれないですけれど、それを自然体で見せるようにするのが役者の力なんですけれどね。
森川――それでは最後に何かの役で締めていただければと思いますが。
野沢――「(『いなかっぺ大将』の風大左ェ門の声で)ワシ、きょうはニャンコ先生と来たかっただすが来られなかっただす。楽しかっただす!!」
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