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マンガとビジネス
松橋祥司(株式会社TOKYOPOP日本ジェネラルマネージャー)
2003年、TOKYOPOP着任。それまで、ディズニー、ユニバーサル、ヴァージンなどの日本法人でエンタテイメント・ビジネス全般をマネージ。
 
 松橋――今日は、アメリカのマンガ市場について話したいと思います。また、世界的な傾向についても、少しお話しします。TOKYOPOP社と私達の商品についても、話したいと思います。
 
日本文化のトレンド
 
 まず、世界における日本文化の一般的なトレンドについて話します。80年代の日本のイメージと言えば、ビジネスを意味しました。当時、日本企業や日本のビジネスモデルは大成功を収め、世界の多くの人にとって、日本が意味するものはビジネスやお金でした。その時点では、ビジネスやビジネスモデルの国と見られていました。しかし、それ以来、状況は変化し、今日、海外で日本と言えば、何より日本のポップカルチャーです。いかしてかっこよく、流行の先端だと見られています。
 さて、日本のポップカルチャーの様子を、一緒に見ていきましょう。皆さんの多くは、おそらく様々なキャラクターやイラストを、日本の街角で見かけたことがあると思いますが、世界的に見れば、これは本当にユニークだと思います。日本人以外は、こういったものを、本当に日本独特だと思うでしょう。例えば、各都道府県警察にはマスコットがいて、警視庁のマスコット「ピーポくん」もよく見かけますが、アメリカではこんなことは決してありません。もし、そうなれば、アメリカも変わるでしょう。街のいたるところで、さまざまなキャラクターが使われています。建設会社が「50メートル先工事中」と知らせる看板にもイラスト(キャラクター)が使われています。なぜキャラクターを使うのか理解できない、という人も皆さんの中にいるでしょうが、私は個人的には疑問を感じません。
 電車に乗れば、キャラクターが「ドアに注意」と呼びかけます。アメリカにはないと思います。保健所が「ごみはお持ち帰りください」と呼びかけるポスターにも、なぜか分かりませんが、トラックが描かれています。
 最近、私達はヨーロッパにもいくつかオフィスを構えましたが、ドイツ支社の一人が、EUの組織を説明したマンガ小冊子があると教えてくれました。それを聞いて本当に驚きましたが、同時に、マンガは世界的に影響を与えているのだと思いました。ですから、いつかアメリカでも、マンガ小冊子が納税方法などを説明するようになるかもしれません。
 
娯楽コンテンツの基礎としてのマンガ
 
 マンガやアニメ、あるいは、そのような娯楽コンテンツに関する日本のビジネスモデルを、少し説明したいと思います。実は、マンガはすべての娯楽コンテンツの基礎です。なぜなら、投資という点で、マンガは比較的リスクが小さいからです。ですから、簡単に言えば、マンガを創作して立ち上げるのは、アニメやキャラクター商品、映画の製作に比べれば、非常に安上がりです。ですから日本では、基本的に、すべての娯楽コンテンツは、マンガから始まります。マンガが市場で大成功すれば、テレビ局やアニメ製作会社がそのマンガを採用し、アニメ化します。そのために、二、三百万ドルから数百万ドル、あるいはそれ以上の費用をかけます。そして、アニメが成功すれば、ビデオゲーム、おもちゃ、カードゲーム、文房具、アパレルなどなど、キャラクター商品を展開します。
 なかには、アニメ映画になるものもあります。これが基本的に、ビジネス面から見た日本の状況です。もちろん、『ポケモン』のような例外もあります。大ヒット作品ですが、もともとゲームソフトから始まりました。ポケモンの場合は、マンガから始まったのではありませんが、現在多くの作品は、このような順序をたどります。
 
影響しあう文化
 
 世界で、文化が双方向に影響を及ぼしている現状について、少し話したいと思います。おそらく皆さん誰もが、『ポケモン』がアメリカで大ヒットしていることをご存じだと思います。現在、『遊戯王』や『ドラゴンボールZ』も、アメリカで大ヒットしています。これらは皆、現在アメリカでテレビ放送され、キャラクター商品もたくさん売られています。
 最近、日本のポップカルチャーは、アメリカや世界の多くのクリエーターに、影響を与えています。もっとも最近のものは、映画『The Grudge』で、これは日本映画の『呪怨』のハリウッド版リメイク映画です。アメリカで大ヒットしましたが、この映画について誰もが驚きました。というのも、日本人が監督し、ここ東京で撮影されたからです。もちろん、出演者はアメリカの有名俳優ですが、本当に大ヒットしました。
 最近、アメリカのマンガ市場は、急速に大きくなっています。ここ二、三年、その傾向がとても目立ちます。私は、この市場拡大が続くと思います。2004年末には、市場は2003年よりもかなり大きくなっているはずです。これから10年くらいは、市場が拡大し続けると予想しています。
 日本アニメの映画の『マトリックス』への影響については、おそらく、皆さんの多くはすでに知っていると思いますが、アニメ『Ghost in the Shell』(日本語の題は『攻殼機動隊』)のシーンと、映画『マトリックス』のシーンを比べると、すべて本当に似ていると分かるはずです。つまり、意外にも、ウォシャウスキー兄弟は、日本アニメの影響を大きく受けていたのです。現在、このような傾向が、いたるところで見られます。
 これも、最近よく見られる異文化間の影響の例です。ヒップホップの市場、あるいはヒップホップ文化についての例です。これらは今、アメリカで非常に有名ですが、日本でも有名になってきています。
 それとは逆に、「エビス(EVISU)」というブランドは、山手線の恵比寿が発祥の地ですが、現在、「エビス(EVISU)」はアメリカのヒップホップ・アーティストの間で、非常によく知られています。日本ではまだあまり知られていませんが、アメリカでは今とても有名です。最近では、いろいろなことが日米同時に起こり、相互に影響を与えています。それが新しい傾向です。
 さらに、『キル・ビル』や『マトリックス』は、アジアの影響を受けた例です。日本だけでなくアジアの世界への影響、ハリウッドや世界の映画産業への影響です。ここにいくつかお見せするのは、TOKYOPOPが世界で展開しているマンガビジネスの例です。ハリウッドの企業やアメリカのアーティストと共同で、オリジナルのマンガ作品を作り出しています。この点については、後で詳しく説明します。
 
アメリカ市場を席捲する日本のマンガ・アニメ
 
 それでは、アメリカの市場や現状についての話に進みましょう。先ほども言いましたが、『ポケモン』や『遊戯王』はアメリカでとても人気があります。アメリカでは、『遊戯王』のキャラクター商品は、本当に多くの種類が出ています。また、『ドラゴンボールZ』もとても有名です。『ハローキティー』の人気も、ますます高まっています。マライア・キャリーのお気に入りのようで、キティー人形をステージに持って上がったため、このキャラクターが有名になったようです。私達の支社のある女性は、キティーが大好きで、彼女のデスクはキティー商品で埋もれています。本当にびっくりしました。
 ビデオゲームも、アメリカで、特に子ども達の間で、突然大ヒット商品になり、大きな影響力を持っています。しばらく前からあったのですが、ソニーのプレーステーションや、当時はセガ・サターンでしたが、アメリカで大当たりした時、多くの子ども達が、日本で開発されたゲームや、日本人のクリエーターが作ったゲームで遊びました。実はそれが、キャラクター商品や娯楽コンテンツのビジネスで、日本がアメリカに進出する大きな節目でした。今でも、ビデオゲームはアメリカで人気があると思います。
 ゲームセンターのゲーム機も、東京で使われているのと同じゲーム機をアメリカでも見つけることができます。
 アニメには、対象となる視聴者別に、いくつかのタイプがあります。『ポケモン』、『セーラームーン』『ドラエモン』は子ども向けです。皆さんの多くは、「オタク」について知った時、笑ったと思いますが、この「オタク」という言葉は、実はアメリカでも使われていて、誰でも理解します。『AKIRA』のような作品は、結構、オタク向けです。『ガンダム』や『ドラゴンボールZ』は、どちらかと言えばクロスオーバー、つまり、より広い観客層に受けます。
 
 ここで、いくつか数字を見てみましょう。アメリカのアニメ市場に関する統計です。1994年、つまり10年前ですが、アニメ・ファンの90%は18歳以上でした。彼らは皆オタクで、現在、お金のある購買層です。まだ2001年の数字しかありませんが、17歳以下のファン層がずっと増えています。アニメ市場が子どもに拡大している、つまり、市場が新しいファンを引きつけていると言えます。ですから、もはやオタク専門ではなく、オククに加えて、多くの子ども向けの市場になっています。ファン層はまだ拡大すると、私達は予想しています。おそらく、こういった数字は変わり続けるでしょう。
 アメリカのアニメファンの性別で見ると、1994年には94%が男性でした。つまり、当時はオククの男ばかりでした。しかし、最近では、女性購買層がどんどん増えています。ですから、市場は多様化し、幅広くなっていると思います。
 アメリカのマンガ市場はどうかと言いますと、ティーンエイジャー中心の市場という性格が強いと言えます。ですから、13〜25歳の対象顧客層が、市場の90%を占めます。しかし、性別を見ると、ほとんど男女半々です。
 TOKYOPOP社が出している作品に関しては、女性に関するものの方が多いため、ファンや顧客は女性の方が少し多くなっています。現在、60%が女性、40%が男性になっています。しかし、マンガ市場全体を見れば、基本的に男女半々です。
 熱心なマンガファンは、1ヶ月に50ドル以上マンガに使いますが、これは大金だと思います。私達は、アメリカで$9.99でマンガを販売していますが、日本では\300か\400です。ですから、実は、アメリカではとても高いのです。その理由は、まだ中核ファン層しかないからです。中核となるファン、絶対的なファンしかいないため、高い価格設定が適切だと思います。しかし、市場の変化に合わせて、私達も別の戦略を考えていきます。







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