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声優の仕事
 
野沢雅子(声優)
『ドラゴンボールZ』、『銀河鉄道999』、『ゲゲゲの鬼太郎』、『魔法使いサリー』、『タイガーマスク』等多数。
 
声優になったきっかけ
 
 野沢――「(『ドラゴンボール』孫悟空の声で)オッス、おら悟空だ」
 
【拍手喝采】
 
 森川――また後でたっぷりやっていただきますけれど、まず、声優業界に入られたきっかけからお話ください。
 
 野沢――昔は声優というジャンルはなかったんです。私は舞台が大好きで、劇団で芝居をしていたのですけれど、お芝居で食べていくのはなかなかむずかしいんです。収入源はマスコミに頼っていて、私がまだうんと若いころはラジオと映画しかなかったんですが、そのうちテレビが入ってきました。最初は顔出しのドラマをやっていたんですけれど、あるとき洋画が入ってきたんです。それに少年が出ていたんですが、当時は生本番だから、本当の少年を使うことはとても危険なんですね。とちったらとちったまま全国に放送されてしまいますから。そうかといって、安心して使える年代といったら皆さんぐらいですが、男性は変声期を過ぎていますから声が野太いですよね。小さな少年が、「(低い声で)パパ」なんて言ったらかわいくない。「(高い声で)パパ」って言うから、小さい子だなという感じになるのでね。私はそのときのプロデューサーがすごいなと思うんですが、女性の声帯が少年に似ているからと、女性のオーディションをしたんです。私は別にそれをやりたいとも思わなかったんですが、劇団から言われて行ったら、幸か不幸か受かってしまいました。
 生本番の放送は無事に終わりましたが、そのころはいろいろあったんですよ。画面の人がしゃべるのに合わせてセリフを言わなければいけないのですが、お年寄りの役者が自分のペースでしゃべってのびてきちゃうと、それでも順番に言わなければならないので、少年役の私が大人の男の人のところでセリフを言わなければならなかったりして。
 何とか終わったんですが、その洋画がとても好評だったんですね。お年寄りの洋画ファンもいますが、洋画を見るには映画館まで行かなければならないし、お金もかかるし、しかもお年寄りになると運動神経が鈍って字幕スーパーを目で追うのができなくなってくるんです。字幕を読んでいる途中でシーンが変わってしまいます。それがお茶の間にいて、しかも日本語で見られるので、すごい人気になったんです。そして、視聴率がいいものだから、どんどん洋画を取り入れたんですね。あのころの洋画は、不思議なぐらい少年がよく出てきたんです。私が決してとちらないわけではないけれど、人間の心理で1回使ったことがあると安心感があるのか、少年が出ると私にお仕事が来たんです。顔出しはお稽古も何日かとられるんですが、その間に声の仕事が入ってくると、私は代わりがたくさんいる脇役ですから、「では、またこの次に」と変えられてしまう。劇団としては収入を得るためですが、私はどんどん声の仕事で埋まってしまって、だから私は自然体で声優になってしまったんですね。
 当時はまだ10代で生意気でしたから、「声優ですか」と言われると、「いえ違います。舞台女優です」と即答していたんです。いまはインタビュアーがすごく気を遣ってくれて、「野沢さんは、ジャンルは何て言ったらいいんですか」と聞いてくれるので、「私は声優です!」と答えています。天使が降りてきて「あなたは一番これがあっているわよ」と言ったんじゃないかなと思うぐらいに声優は楽しく、大好きなお仕事です。
 
印象に残っている作品
 
 森川――いままでにどのぐらい作品に出られたのでしょうか。
 
 野沢――何万本・・・もっとかなぁ。私はテレビの1本目からやっているわけですから、もう40年以上になるんですよ。テレビの歴史とともに歩んでいるようなものですからね。
 
 森川――とくに印象に残っている作品はありますか。
 
 野沢――甲乙つけがたいのですが、アニメーションでは・・・洋画もたくさんあったんですけれど、やはり向こうの人がお芝居をしているから、そこに忠実に声を入れていかなければならない。でも、アニメーションは無から有を生み出す、まったくゼロから私がつくるわけですから、生かすも殺すも役者次第という楽しさがあって、どうしても印象に残るのはアニメーションになってしまうんです。
 一番最初の主役で、大ヒットしたのが『ゲゲゲの鬼太郎』。『銀河鉄道999』も大ヒットしたんですね。それが終わってしばらくして、『ドラゴンボール』で3役もやらせていただきました。実は3役どころではないんですよ、ターレスとかバーダックとかも。その3つの作品が甲乙つけがたく、私のなかに残っています。
 
 森川――それでは先生にお願いします。まず『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎から。
 
 野沢――「(鬼太郎の声)父さん、ねずみ男まだ来ませんね。父さん、どこへ行くんですか、茶わん風呂沸いてますよ」
 
 森川――『銀河鉄道999』の鉄郎です。
 
 野沢――「(鉄郎の声)メーテル、何か早稲田ってね、ラーメンおいしいらしいよ。僕ラーメン食べたいよ。メーテル行かない? ちょっとメーテル、どこ行くの、メーテルー!!」
 
 森川――『ドラゴンボール』孫悟空です。
 
 野沢――「(悟空の声)オッス、おら悟空だ。ここはどこだ」「(悟飯の声)父さん、ここは早稲田大学でしょう」「(悟空)早稲田大学っていうのは食えるんか」「(悟飯)父さん、食べるもんじゃなくて学校なんです」「(悟天)いやだあ、お父さぁん、知らないの。お友達いっぱいいるよ、一緒に遊ぼうよ」「(悟空)いいなあ、一緒に遊ぼうな。よろしく!」
 
 森川――最後に「かめはめ波」できめていただきたいのですが。
 
 野沢――では、悪い人間を吹き飛ばすように、いきましょうか。「かぁ〜めぇ〜はぁ〜めぇ〜波〜ッ!!」
 
【拍手喝采】
 
声優はアニメに命を吹き込む
 
 森川――いま『ドラゴンボール』で3役をやられましたけれど、一つの作品で最高何役やられたことがありますか。
 
 野沢――30分番組で13役。30秒のコマーシャルで8役です。信じられませんね。コマーシャルのほうはなんだったか忘れましたが、ドラマのほうは『もーれつア太郎』です。
 
 森川――悟空、悟飯、悟天は、どのように変えているのでしょうか。
 
 野沢――私は、こういうふうに変えようと考えたことは一度もないんですよ。ただ、育ちが違うでしょう。悟空は親を知らない。おじいちゃんに山のなかで育てられて、女か男かもパンパンしなければわからない。これが食べられるのか食べられないのかもわからない。悟飯くんは、チチという教育ママに育てられて、えらい学者さんになりたいというのが夢だったところが違うわけですね。悟天くんは、悟飯くんと違って、やや野生的というのかな。でも悟空とは違うんですよ、両親がそろっているから。やんちゃに育てられていて、子どもらしい。そういうところが違っていて、画が出てくると私はスッと入り込んでぱっと変われるんです。
 
 森川――声を吹き込むときどのような点に気をつけていらっしゃいますか。
 
 野沢――洋画の場合は、画に忠実に。役者さんがお芝居をしていますから、それに逆らったお芝居をしてはいけないと思うんですね。こんな失礼なことはないので、あくまでも近寄せる。それでも誰がやっているかがわからなくちゃつまらないから、野沢雅子がこの声をやっているのよというので、最後のところは自分のほうにひきつけて出すのが一番いいんです。
 アニメーションの場合は、画に命を吹き込むことですから、言葉を言えばいいというのではなくて、生きた言葉、ハートのあるセリフを言うことが一番大切です。
 
 森川――ありがとうございました。では、皆さんから質問してください。







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