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2004年度 早稲田大学国際教養学部 寄付講座 報告書 「マンガとアニメ:日本文化・社会の表現」

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団政策研究所 注目度注目度5


マンガ編集者を目指すには
 
 学生――有井さんにお尋ねしますが、編集者はマンガを見る目をどのようにして磨かれるのか、自信があるのか、自分が考えるヒットの条件は何か、マンガをどう見ているのか、といったことを聞きたいです。
 
 有井――編集者は、まず見る目を養うということでしょうか。メジャーなマンガのつくり方とか王道の少年マンガのつくり方というのはしっかり研究して身につけていかなければいけないのですが、僕はマンガ以外の映画や小説も幅広く観たり読んだりしています。皆が知っているようなものはもちろん読まなければいけないのですが、それだけだと二番煎じになると思うので、他人があまり読まないようなものも読んで、その上でそのおもしろさをどうやったら普通の小学校高学年ぐらいの子どもに伝えられるだろうか、というようなことを考えなければいけないと思います。
 
 藤田――編集さんの基本のマニュアルってあるのですか。
 
 有井――ないです。やはり自分の信頼している先輩から教えてもらったことを体得していく。考え方の違う人も編集部に何人もいますが、それは多様性だからいいのかなと思います。
 
 藤田――自分が一番最初に編集さんから教えてもらったのは、マンガは人の心が動くところが感動につながるから、人の心が変わるようなマンガを描けと言われたんです。だから、編集さんには、そういうようなものを描かせるマニュアルがあるのかなと思ったのですが。
 
 有井――もしかしたら僕が知らないだけかもしれませんが。
 
 藤田――おそらく質問した人は、編集者はどういうふうに見る目を養うのか聞きたかったんですよ。ひょっとしたらマンガ家よりも編集者に興味があるのかもしれない。
 
 有井――学生さんは手当たり次第に映画を観たり、本を読んでおくのがいいと思います。僕が一番尊敬している先輩から言われたのは、まずお前と作家さんが一番おもしろいと思っていることをぶつけてこい、ということでした。そのためには、おもしろさを幅広くわかっていないとマンガ家さんと面白さを共有できなくて苦しいと思います。もちろん編集者になってからも勉強しなければいけないのですが、学生のころは時間もありますから。
 
 藤田――マンガ家のほうから言うと、なによりコミュニケーションが大切なので、ちゃんと話し合いができる人が編集者になってくれるとありがたいですね。マンガの好き嫌いだけでしゃべる人と話をするのは疲れるわけです。どうしたら読者に伝えられるか、話し合えることが大事です。
 
マンガの社会的影響力と責任
 
 学生――『からくりサーカス』のなかで、勝がいじめられっ子にナイフか何かで襲われて、それをしろがねがたしなめるという話があったと思いますが、あのとき確か男の子がナイフで女の先生を剌してしまった事件がありました。タイミングがぴったりだったので、事件にあわせて描かれたのかなと思ったのですが、どうしてあの話が描かれたのでしょうか。また、少年誌に描いているマンガ家として、少年犯罪のことをどう思いますか。
 
 藤田――あの話は、ナイフを持つときにはちゃんと覚悟しないとだめだよという短いエピソードでしたが、担当の編集さんが、これを描く意義を編集長と本部長に話して、根回しをしてから載せました。載せることができてよかったんですが、発行部数が多いからこそ、被害者と加害者があるような事件は扱いをちゃんとしなければいけないのです。大地震があったら大地震のたぐいのマンガは描かないようにしようという判断は、マンガ家に委ねられているのです。自分は描いてしまいましたけれど、ほかの雑誌で描けなかったマンガ家がいるかもしれません。
 それから、少年マンガを読んでいるからといって少年犯罪に走ることはないと思いますが、やはり責任は伴うので、自分の描いたマンガで何かを喚起するようなことはあってはいけないし、まちがったことは描いてはいけないと思うので、そのへんのところは注意しています。もっとも、自分のマンガからバイオレンス表現を抜いたら、おもしろくなくなってしまうんですよ。だから1人の人間として暴力は否定しますが、エンタテインメントのなかでの暴力は許されてほしいという気持ちがあります。
 
 学生――いろいろな切り口でマンガを描いていくうえで、努力したい、配慮したいという部分がほかにもあったら教えてください。
 
 藤田――島本和彦先生は、自分の子どもにも読ませたいと思うから、性表現に関して子どもが読めないようなマンガは描きたくないと言われたことがありますし、高橋留美子先生は、地震などの災害が起きたときにはかなり敏感になって、爆発表現すらも使わないようにするとおっしゃっていました。責任があるということで、自分も気をつけようと思っています。「これはマンガだから」というのは、きっと子どもたちには通用しないと思います。例えば、病気の子どもを嫌悪するような描写や、災害を残虐に描写したりすると、実際に災害に見舞われたり、病気にかかった子どもたちは全部直で受け止めてしまう可能性があると思います。そういうところでは自制が必要だと個人的に思っています。
 
次の連載の構想は
 
 学生――いま、新しく取り組もうとしているアイディアなどはあるのでしょうか。
 
 藤田――マンガを描いていくうちに、次から次にやりたいことが出てきますね。次の作品を描きたいと思うからこそ、いまの作品を終わらせるモチベーションになるという部分もあるのです。
 
 森川――ということは、『からくりサーカス』の結末は、もう見えている。
 
 藤田――見えています。これから1年半ぐらいで終わりに向かいたいと思っているので。その結末はだいたい見えているのですが、最後の数ページだけなんです。「空が見えました」とかそんな感じですが、そこに行くまでが一番頭を使うところで、それは自分の心のなかでこれから積み重ねていこうと思っています。
 
 森川――『うしおととら』が終わって、次に『からくりサーカス』を始めたきっかけは、何かあったのでしょうか。構想はいつごろ練られていたのか。『少年サンデー』の編集部と話し合いながらお決めになったのですか。
 
 藤田――次に新しい作品を描くときに、編集部や編集さんがかなり口出しするマンガ家さんと口出しされないマンガ家さんがいるみたいです。「君にはぜひともサッカーマンガを描いて欲しい」と言われてしまうか、「何を描きたいのか企画を起こして、編集部に選ばせてよ」と言われるかですが、自分は後者だったので、何本か描きたいものの案を出して、「ではこれをお願いします」と言われて描き始めたのです。レポート用紙にストーリーを書いたものを出したのですが、そのなかで『からくりサーカス』の説明が一番少なくて、「これをやりたいです」とメモ書きしたら、「あなたがやりたいんだったら、それをやればいいじゃない」と言われました。1本連載を始めると、それだけに集中してしまいますので、ほかのアイディアはもう忘れてしまいました。
 
 森川――次の連載の構想はあるのでしょうか。
 
 藤田――ありません。きっと時期がきたら出てくるのではないかと思います。連載デビューのマンガ家は、2作目が鬼門だと言われているんです。1作目で好きなことを思い切りやってしまったら、2作目に描きたいものがあまり出てこなくなってしまって、1作目の得意技も使えないという自分の首を絞める状態になるからです。実際に『からくりサーカス』も苦労しましたから、3作目はまた元に帰るかもしれません。
 
読者の反応に一喜一憂
 
 学生――『うしおととら』は鎌鼬(かまいたち)がものすごく好きだったのですが、藤田先生が自分で、これは俺の代表作だと言えるようなエピソードがあったら紹介してください。
 
 藤田――いい子ちゃんぽい答えなのだけれど、全部代表作のつもりで描いている。だから「これはうまくいっただろう」と思ったのに、アンケートで20位だったら落ち込むし、すごい反応がきたら「思ったとおり、いいのを描いちゃったな」みたいに、日々一喜一憂して描いている。鎌鼬の回もおもしろかったとよく言われますが、あまり反応のなかった、さとりという妖怪の話も自分としてはすごく好きです。『からくりサーカス』の人形が溶ける話も、反応はあまりなかったけれど、自分としてはいいものを描いたなと思っています。
 
 学生――うわさを耳にしたのですが、編集者とケンカしてマンガが打ち切りになることはあるのですか。
 
 藤田――人間と人間がやっているんだから、編集部とマンガ家の仲が悪くなることはあるかもしれないけれど、それですぐ打ち切りという話は聞いたことがないですね。本当に打ち切りになったのだとしたら、きっと何か深い理由があったんだと思います。俺だったら自分の描いているマンガが一番大事だから、ケンカしたことによって打ち切りになるのなら、「ごめんなさい、俺が悪かったです」って謝っちゃいますよ。
 
 森川――時間がきたようです。藤田先生、本当にありがとうございました。







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