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最初にキャラクターづくり
 
 学生――いま連載中で注目しているマンガ家はいますか。
 
 藤田――やはり『サンデー』系はライバルですから注目しますね。新連載が始まると、目を三角にして見ていますよ。注目というより、好きなのは『エマ』の森薫さん。俺もあんなのが描きたいなとか思ったりしますよね(笑)。『ヒカルの碁』の小畑健さんも上手ですね。とても謙虚な、いい人なんですよ。
 
 学生――ストーリーとキャラクターは、描き始める前からある程度イメージが固まっているのか、それとも描き始めてからだんだんとイメージが固まっていくのか、どちらですか。
 
 藤田――それはマンガをつくる基礎に関係することです。マンガは最初にキャラクターをつくれと言われます。ストーリーから入ったら、少年マンガは失敗するんです。登場人物をつくってから、それがこんなことをやったらどうかという形で話をつくっていく。例えば『ドラゴンボール』だったら、まず悟空というキャラクターをつくって、それが天下一武道会に登場したらどういう話になるんだろう、と考える。こういうストーリーが流れていって、ここでエンディングに移るというのは、少年マンガのつくり方ではないと習いました。自分も、最後に都合のいいシーンを思い浮かべることはありますが、どういう流れでこのシーンに至ったかというのは考えていないんですよね。
 
 学生――少年誌に連載していてよかったと思ったことは何ですか。また、以前インタビューで「少女マンガみたいなものもちょっと描いてみたかった」とおっしゃっていましたが、いまでもほかの系統の雑誌に描いてみたいと思うことはありますか。
 
 藤田――少年誌はいかに子どもたちの心を熱くするかが大前提なので、どうやったら驚かせられるか、どうやったら泣いてくれるか、笑ってくれるかを考えていればいいわけで、自分の性にあっているんです。ただし、もうちょっと踏み込んで人間の心理にせまりたいなと思っても、敵をやっつけるだけのマンガで登場人物の心理に踏み込むとスピード感がなくなってしまいますよね。それで、心理により深く入っていける少女マンガに対するあこがれがあったんですが、最近の少女マンガは、ベッドシーンがあったり大人が読むようなテーマが多くなってきているので、自分が読んで素敵だなと思っていたのとはちょっと違うと思います。
 
 学生――どういう少女マンガが好きでしたか。
 
 藤田――『純情クレイジーフルーツ』『前略みるくハウス』。古いところでは、弓月光先生の一連の作品が好きでした。マーガレット系ですね。
 
マンガ家の日常
 
 学生――日常生活でマンガを描く以外に何をやっていますか。
 
 藤田――昔そういう質問を、大好きな高橋留美子先生にしたら、「マンガを描く以外に楽しいことなんてあるのかしら」と言って、たばこをスパーッと吸ったのが格好いいなと思いました。マンガ以外に楽しいことなんてないといった生活を続けていたら、ほかにあまり楽しいことがなくなってしまって、資料を探すために本屋に行ったり本を読んだりするぐらいかな。
 自分は描くのが遅いので、週刊18ページを描くのに4日半かかるんです。あとは次の週のマンガの下書きの下書きを1日かけて描いて、残りは1日ですが、それは家族と一緒に布団を干したりしていたらなくなってしまいますから。がっかりだね。ウインドサーフィンとかやっていればよかったね。(笑)
 
 学生――高橋留美子先生と初めて会ったときのエピソードなどを聞かせてください。
 
 藤田――「スパーッ」のイメージ以外、頭がぶっとんじゃっていて。雑誌に載っているマンガ家さん、アニメにもなっているようなマンガ家さんと、初めてペーペーのマンガ家が話すときなんて、どこに自分がいるんだかわからず、手足はバラバラだし。アシスタントと行ったのだけれど、最後はアシスタントに連れられて帰ってきたぐらいで。自分も普通の人間なので、あこがれの人が目の前にいるとそういうふうになりますね。やはり、でかい人はオーラが違います。
 
 森川――マンガ家さんの集まりとか、ここのパブへ行くと会えるよという場所はあるんですか。
 
 藤田――マンガ家は仕事の時間がまちまちなので、一緒に会って飲むことはそんなにひんぱんに行われていないです。もちろん仲のいい人たちはいますが、そんなに会っていません。12月には謝恩会という出版社の忘年会が開かれるのですが、そこで「何やってた?」と情報交換する程度ですね。
 
顔は目から描く
 
学生――『からくりサーカス』は、かなり最初のころから緻密な伏線がちりばめられていて、それをもとに歯車がはまるようにピタリピタリといっているなというところに感銘を受けていたのですが、あれはどのぐらいまで先の流れが見えてつくっていらしたのですか。
 
 藤田――あれはブロックで、まずはここまで、というような形で作っています。謎があったら、その謎を次の区切りまでで解決する。次の区切りまできたら、こちらのほうで解けなかった謎を解決するというように。全編を通しての謎を解くとか、伏線といったものは、週刊連載ではなかなか計画できません。とりあえず最初のほうで謎を振っておいて、そういえばここのポイントにきたらこの謎を解決できるなというような形で、泥縄的につくっているのですよ。最初から緻密に考えていたというのは、ちょっと買いかぶりすぎだと思います。
 
 学生――キャラクターを重視して描いているということですが、キャラクターへの思い入れによって生き死にが変わってしまうことはありますか。
 
 藤田――ありますね。ほかのマンガ家さんも、「このマンガ家はこのキャラクターが本当に好きなんだな」というようなのが見えるときがあるでしょう。自分は愛しているキャラクターを殺したくなりますが、高橋留美子先生などは「好きだから殺したくないよね。最終回を描くとさびしくなっちゃうから最終回ってきらいだね」とおっしゃっていますから、人それぞれですね。自分は、キャラクターによって読者の心が熱くなってくれるのが理想だし、そのキャラクターが一番火花を散らして、いい花道を通るのが死に様だと思っているので、そこに重点を置いて描きがちです。
 
 森川――せっかくチョークを持たれたので、ちょっと描いていただきたいですね。しろがねを。
 
 藤田――わかりました。(黒板に絵を描く)
 
 森川――やはり目から始まるんですね。
 
 藤田――そうですね。『ガンダム』の安彦良和さんの絵がすごく好きなので、舞台挨拶か何かにいらっしゃったときに「先生はどこから顔を描かれるんですか」と聞いたんですよ。そうしたら、「目線が決まると体の向きが決まるので、目から描くようにしています」とおっしゃっていました。自分はデッサンみたいに描くのは苦手なので、目から描くようにしています。
 
「キャラが立つ」とは
 
 学生――藤田先生が新人のころ持ち込んだ原稿に編集者からダメ出しされたとき、「そうだな」と思ったことや「それは違うんじゃないか」と思ったことがあればお聞かせください。
 
 藤田――マンガ家になりたい人は、自分の一番おもしろいと思ったものをマンガにして持っていくわけですが、それに対して「君の考えているのは1から10までおもしろくない」と言われたりして、一番根底のところをひっくり返されるわけです。自分としては最高だと思っているから、当然カチンときますよね。きっと編集さんの新人に対する扱いというのは、まず価値観を崩すことではないかと思うくらいです。
 ハンサムが格好良く戦って敵をやっつける話を描いていったら、「ハンサムが格好良く戦って敵を格好良くやっつけて何がおもしろいんだね」と。やはり登場人物に魅力があって、「勝ってくれ」と読者に思わせてから勝たせないといけないのに、肩入れしてもらわない状態で格好良く勝っても独りよがりにすぎない、というようなことですね。1年ぐらいはずっとだめ出しです。
 例えば「キャラが立つ」という言い方があって、キャラクターの魅力があるというような意味ですけれど、「お前のにはキャラが立っていない」などと言われて、キャラが立つか立たないかというのがものすごくむずかしかったです。そのころは、キャラクターにどういう魅力があったらいいのかということから疑問でしたから。そして、キャラを立たせるのはギャップで見せるんだと教わったんです。ギャップというのは、「こいつはこんなに強いのに、こんなにだめなところがある」とか、「こいつはこんなにだめなんだけれど、こんなすごいところがある」というようなことです。Aとして見ていたら実はBだった、というような二面性ですが、そう言われても、自分のマンガでそれを応用できるようになるまで何回も出版社との間を往復して、体で理解しなければなりませんでした。
 新人がネームを持ち込んで編集者からだめ出しされるのは、ストーリーとかアイディアではなくてキャラクターなんです。キャラクターが立っていれば、だいたいマンガの打ち合わせはスムーズにいきます。







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