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マンガの発行部数
 
 ここで現在、日本における雑誌の発行部数について検討しておきましょう。
 日本には現在400余りの雑誌があります。書店に行くと分かると思いますが、週刊誌や月刊誌が、本当にたくさん並んでいます。早稲田大学のキャンパス周辺にも、いくつか書店がありますが、どの書店でもたくさんの雑誌がおいてあります。雑誌の数は400余りですが、ジャンルはさまざまで男性向け総合雑誌が約75誌、女性向け総合雑誌が約80誌、等々といった感じになっています。
 マンガ雑誌の数は、週刊、隔週刊、月刊合わせて54誌あります。そのうち36誌がティーン向け、18誌が大人向けです。36誌のうち、15が少年向け、13誌が少女向けで、その他に性別では分けられない雑誌もいくつかあります。ここで少年少女というのは、小学生や中学生のことです。大人というのは、高校生以上です。合わせて54誌ですが、マンガの単行本は含まれていません。
 マンガ雑誌の販売部数は、54誌合わせて年間約21億冊です。日本の人口は1億3千万人程度ですので、一年間に一人が少なくとも15冊買っている計算になります。マンガ雑誌は、出版物総売上の約30%を占めます。ですから、皆さんが家から早稲田大学へ来る時、電車に乗ると、新聞を読んでいるサラリーマンを目にすると思いますが、そのほかにはマンガを読んでいる人もたくさん見ているに違いありません。
 日本でもっとも販売部数の多い雑誌のトップ5は、『少年ジャンプ』の毎週324万冊、『週刊少年マガジン』319万冊、『少年サンデー』131万冊、『ヤングジャンプ』128万冊、そして第5位は『ヤングマガジン』の122万冊です。これらの数字は毎月、毎年変わりますので、細かい数字は覚える必要がありません。
 ぜひ知ってもらいたいのはその実数の多さです。これらは週刊誌です。トップ3についてだけ見てもその驚異的数字は日本文化の特異性を表していると思います。『ジャンプ』、『サンデー』、『マガジン』の3誌だけを見ても、販売部数合計で、毎週774万冊を売っていることになります。1年を52週とすると、年間4億200万冊です。総売上高は、4億200万に1冊の値段230円を掛けると、924億6,000万円になります。つまり、トップ3だけで、一年に約9億米ドルです。ですから、このような雑誌を年間9億ドルも売っているのです。
 
漫画家の所得
 
 それでは、誰がもうけているのでしょうか?
 もちろん出版社が利益を上げていますが、漫画家もたくさん稼いでいます。日本でもっとも人気があり、一番お金持ちの漫画家は誰か知っていますか。以前は『ドラゴンボール』の鳥山明さんでしたが、今は違います。
 『One Piece』の尾田栄一郎さんが追い上げていますが、第1位は高橋留美子さんです。高橋さんは『犬夜叉』を少年サンデーに連載していますが、一年に6億円程度を稼いでいると推定されています。米ドルになおすと約600万ドルです。毎週の連載、単行本、アニメ、それからキャラクター商品など、全部合わせて一年に6億円です。
 日本では、長者番付として毎年、誰が一番税金を払ったか新聞に載るのですが、いつも不動産関係の人々が上位を占めています。高橋留美子さんの場合は3百番目といったところです。日本で300番目のお金持ちですね。次に所得がある漫画家は『名探偵コナン』の青山剛昌さんと言われていますが、いずれにしても、漫画家は自分の力で勝負しますので、やりがいのある仕事だと思います。ぜひ、このクラスの中からも将来、有名マンガ家が輩出されてほしいと思います。最近はマンガとストーリーを分業している作品も出てきていますので、ストーリーを担当するというのも面白いでしょう。
 すべてのマンガ家が高給とりというわけではない点も指摘しておかなければなりません。
 一人前のマンガ家になる前は、アシスタントなどをして食いつないでゆくわけですが、アシスタントの給料はとても安いのです。これは3年前の統計になってしまうのですが、その資料によりますと、平均年齢28.6歳、平均経験年数7年、毎日11時間働いて、平均所得は約200万円です。一日の半分、ひたすら描き続けて年収が200万円はなかなかたいへんです。大卒初任給より低いかもしれません。アメリカで年収2万ドルならまずまずでしょうが、物価の高い日本、特に東京では生活するのに苦しいでしょう。それでもアシスタントの方たちは、将来、有名漫画家になるのを夢見て、余った時間で自分の作品を描いています。
 
漫画家になるには
 
 さて、漫画家になるには、どうすればいいでしょうか。
 毎年、大手出版社が主催するコンテストもたくさん行われていてそれがひとつの登竜門になっています。中学や高校の授業中、毎日マンガを描き、作品をコンテストに送り続ける人もいます。『少年ジャンプ』を出版する集英社は、とても大きな出版社です。『少年マガジン』を出しているのは講談社ですし、『少年サンデー』は小学館という出版社です。それらすべての出版社がコンテストを行い、入賞者は賞と賞金を勝ち取ります。入賞した作品の中には、読みきりマンガとして掲載される場合も多いです。
 各出版社は読者アンケートを毎週行い、どのマンガが面白いかなどと質問し、調査しています。毎週、どれが人気か不人気か確かめています。コンテスト入賞者の読み切りマンガが面白いとなると、次のチャンスが巡ってきます。
 出版社は、入賞者や将来性のある若者にマンガの描き方を教えます。「この場面ではもっとアピールするためにコマを大きく」とか細かい点について教授します。連載雑誌に関して重要な点は「ページをめくらせる」、「来週もその雑誌を買わせる」というのが基本なので、その技術を出版社が手取り足取り教えてくれるシステムがあるのです。各出版社は、50〜60人の若いセミプロを抱えて、マンガの描き方の面倒を見ていることを知っておいてください。また彼らは自活しなければならないため、たいてい有名漫画家のアシスタントになっていることも。
 ちなみにさきほど、出版社は読者アンケートをしているといいましたが、読者に面白くないと判断されると途中で打ち切りになります。人気度を知る一つの手がかりは、雑誌における掲載順位です。最初やその次に載っているのが、もっとも人気のあるマンガとすれば、最後の方にある作品はあまり人気が出ていないものです。このように、今度マンガ誌を読むときには出版社や原作者の立場に立って、マンガを見るのも面白いかもしれません。
 
アニメの歴史と『鉄腕アトム』
 
 さて、マンガについてお話してきましたが、もうひとつの柱であるアニメについても説明したいと思います。アニメは大きくわけて二種類あります。一つはテレビアニメ、もう一つは劇場アニメです。
 日本初のアニメは1963年の『鉄腕アトム』です。英語版では『Astro Boy』です。日本ではアトムなのに、どうして変えたのでしょうか。一説にはアトムとは「おなら」の意味があるからアストロ・ボーイに変えたということです。
 (学生から、それはおかしいという声。アトムにはそういう意味はないとのこと。)
 そうだったら、別にアトムでよかったですね。真偽のほどはわかりませんが、アストロ・ボーイという名前は米国人が命名したようです。
 作者は先ほどの手塚治虫氏で、この最初のテレビ・アニメシリーズは、1963年に始まりましたが、これは『アトム大使』(1951年4月〜52年3月)というストーリーに基づいていました。『鉄腕アトム』は日本最初のアニメ番組として大きな功績があります。リメークも作られたり、またアトムが作られたのは高田馬場ということで、JR高田馬場駅では、鉄腕アトムのテーマソングが電車の乗り降りのときに使われています。
 このような歴史的作品なのですが、若干の問題も残しました。彼のイデオロギーが左翼的で、彼の作品の中にはそのイデオロギーが色濃く出たものがあるという批判のほかに、もう一つ指摘しなければなりません。それは手塚さんがアニメ化にとても熱心だったため、テレビ局に安く売ってしまったことが挙げられるかもしれません。アニメ作成には、大きなコストがかかり手間もかかりますが、彼がもう少し高値でアニメを売っていたら、現在のプロデューサーやアニメーターや脚本家や声優の薄給はある程度和らいだものになっていたことでしょう。たとえば、現在、30分アニメ番組のコストは約1千万円ですが、収益もほぼ同じの1千万円です。ですから30分のアニメ番組を製作しても、余り利益が出ない仕組みになっているのです。声優も若手が一つの作品に出ると、せいぜい税引き後1万円程度しかもらえません。毎週アニメに出演してもたったの4万円しかならないということです。一部の人気声優を除いては、アルバイトをしながら声優をしているという人も数多くいます。
 ちなみに声優については人気声優の辻谷耕史さんと共著でいくつか論文を発表しているので、声優の歴史と現状について興味のある学生は、『メディア史研究』という雑誌を図書館で探して読んでみて下さい。
 
アニメの現状
 
 現在、テレビでは数多くのアニメ番組が放映されています。2004年現在、75ものアニメ番組が放映中です。毎日、朝から深夜までやっています。毎日、10本以上のアニメ番組がある勘定です。月曜日は『ブラックジャック』、『コナン』、『ガンダム』などをやっています。火曜日は『ポケモン』など。水曜日は『NARUTO』、『テニスの王子様』、『デュエルモンスターズ』等々。木曜日は再び『ポケモン』。金曜日には『ハム太郎』、『ドラえもん』、『あたしンち』です。土曜日には『クレヨンしんちゃん』等、日曜日は『レジェンズ』や『ちびまる子ちゃん』、『サザエさん』、『One Piece』等があります。
 テレビのアニメ長寿番組のトップ5は、『サザエさん』が第1位です。35年近く続いています。『ドラえもん』が2位で、1979年開始から現在まで25年間続いています。3位の『アンパンマン』は15年も続いています。4位が、私の好きな『クレヨンしんちゃん』で、1992年から12年間。5位は『とらじろう』で、1993年以来11年間。ですから、一部のアニメは大変な長寿番組です。
 視聴率もだいたい予想がつくかと思いますが、一位が『サザエさん』で毎週約20%の視聴率を稼ぎます。『コナン』も約15%で毎週2位になっています。そのほかには、『あたしンち』、『One Piece』、『ちびまる子』、『しんちゃん』などが高視聴率を稼いでいます。
 劇場アニメはテレビアニメとは制作費で大きく違います。もちろん、『しんちゃん』や『ドラエもん』のように、テレビ番組の延長線上で劇場アニメになっているものもありますが、制作費はどの場合でもテレビアニメより余裕があります。
 特筆すべきは、宮崎駿作品でしょう。総売り上げのトップ5では、『千と千尋の神隠し』が日本ではダントツ1位で、『もののけ姫』が続き、その次は最新作『猫の恩返し』です。第4位は、ジブリ作品ではなく、ポケモンの『結晶塔の帝王』です。第5位もポケモンで『セレビィ時を超えた遭遇』です。(このときはまだ『ハウルの動く城』は上映されていません。)
 
アニメの作り方
 
 アニメの製作過程を知っておくことも重要です。先日、東映アニメーションから大変面白いビデオを借りてきましたので、それを見ることが一番わかりやすいかと思います。
(ビデオ上映)『HOW TO MAKE ANIMATION』(アニメの作り方)
 今見たビデオをまとめてみましょう。
 企画段階は、プロデューサーや監督、スポンサー、キャラクターやアートデザイナーが、テレビ局と一緒に、何を製作するか計画を立てます。次に、脚本家がシナリオを書き、その後、絵コンテにします。「絵コンテ」というのはとても重要な言葉ですので覚えておいてください。絵コンテは英語では「ストーリー・ボード」です。監督は片手にストップウォッチを持って時間を計っています。普通、30分のアニメ番組では、200回シーンが切り換わります。30分アニメ番組の場合、監督がさまざまなことをします。
 絵コンテの次は、キー・ドローイング(原画)です。200のシーンを500〜1,000枚の絵にします。チーフアニメーターがスケッチを描き、アシスタントに1,000枚ほど描くよう指示します。つまり、絵コンテ、次にキー・ドローイング、その後に原画から次の原画へ、スムーズに動いて見えるように、中間の絵を描くための中割り(in-between)が来ます。最終的に3千枚程度の絵になりますが、描くのはアニメーターです。ですから、まず企画段階があり、次にシナリオを書き、その後、絵コンテ、キー・ドローイング、インビトウィーンへと続きます。
 番組にもよりますが、アニメ原画の20%程度は海外で描かれていると言われます。アジア諸国で、韓国、中国、フィリピンがその中心となっています。2年前に東映アニメーションにお邪魔したことがあるのですが、そこでも多くの外国籍の方たちがアニメ製作を学んでいました。
 また、現在のアニメ製作で、コンピューター・グラフィックスがどれくらい使われているかは、番組によりますが、背景の半分以上はコンピューター・グラフィックスです。実際、マンガを描くソフトウェアが売られてもいます。
 「音入れ」は重要な作業です。声優の演技や音響効果を入れて編集してゆきます。声優の演技を、日本語では「アフレコ」と言いますが、アフター・レコーディングの略です。音響効果はSEと言います。声優のアフレコやSEが、最後の仕上げです。そして、ついに最終編集になります。このようにして、テレビアニメは作られています。
 
 以上が、マンガの歴史、及び現在のマンガやアニメを取り巻く状況でした。今後、プロデューサー、マンガ家、声優、出版社等々、マンガ、アニメ製作に携わっている方たちに講演していただくことになっていますが、今日の講義が参考になればと願っています。







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