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日本は最後の手段の前に、もっと準備すべき
 さて6番目が、最後にはユートピア国民も戦う。最後の手段というときはしかたがないが、しかし事前にこれだけの準備が、1から5まであるということを、日本の防衛庁の人や外務省の人はもっと真剣に考えて、もっと準備しておけと言いたいわけです。
 最後にはユートピア国民も戦うというところへ、いま日本がだいぶ近づいている。
 これは日本国としてはそんな気はありません。イラクへ行ったのは復興支援のため、人道支援のためで、戦闘ではないと言っています。
 しかし外国の人はそう思っていません。日本の軍事力が外に出てきた。これは底力がある軍隊である。この調子で日本が今に発言をすると、我々は聞かざるを得ないと感じている。
 と同時にアメリカは感謝している。「日本は同盟国だ」と思うようになってきましたので、その効果が意外なところにたくさんあらわれている。
 これは農水省でも、経産省でも、文科省でも、全部感じています。「アメリカが日本の言うことを聞いてくれる、あるいは譲歩してくれる。何十年間しこっていた問題が、今はあっさり解決する」と言っています。
 
 もう時間ですね。思いついた話をあと少しだけしますが、あるインタビューで「苦戦している友軍は助けに行かないのが戦場の常識だ」と言ったら、たいへん驚かれたので、こちらが驚きました。テレビドラマに出るのは「苦戦しているぞ、それ助けに行け」という場面ですが、実際にはめったにない美談だからドラマになるのです。
 ほんとうは行きません。巻き添えを食らったら、自分も命が危ないのだから。「苦戦しているぞ、助けてくれ」と言われたら、「今行く、今行く」と言って行かない。これが常識です。そのとき来てもらうために、小隊長同士、大隊長同士がしょっちゅう酒を飲んでつき合いをよくしておくんです。
 助けに行くこともあることはある。だけど行かないこともある。見殺しにされて死んだ人は、もうその声は残らないのですから、よくやったと表彰すれば終わりです。これが軍隊のマネジメントなんです。
 こんな話を聞いて皆さんびっくりするなら、日本陸軍でも日本海軍でも、いくらでも実例を出してみせます。「日本陸海軍の将兵はよく助け合って、美しく死んだ」というのはウソです。
 もちろん助け合った例もあります。しかし見殺しにして行かなかった話は、世に出ないが、ほんとうは腐るほどあります。それを聞きたければ、何日でもしゃべります。ともかく、そういうものだと思ってください。日米は同盟国だから大事にしてくれるという裏にはそういう常識が潜んでいます。
 
 それから7番目に、相手国の非戦闘員は殺傷しない。これはのちにハーグ陸戦規定とか、そういういろいろな条約になります。「非戦闘員は、無防備都市宣言をしろ」なんていうのがある。「この都市は、無防備都市ですからもう戦争をしない。無抵抗です」と言って、無防備都市宣言をして軍隊は引き揚げてしまう。すると、無用な殺戮、略奪はないわけです。ところが南京では中国の宋哲元はそれをしなかった。無防備都市宣言をせずにどんどん逃げてしまった。残っている兵隊は、降参しろという命令も、引き揚げろという命令も、戦えという命令も来ない。各自勝手ばらばら。「そういう統制のなくなった軍隊をつくってはいけない」というのがハーグ陸戦条約の趣旨なのです。
 統制のとれない軍隊は略奪をする。各自勝手に何をするかわからない。これでは戦争ではない。やはり隊長がいなくてはいけないというので、ハーグ陸戦条約には交戦権というのがありまして、戦争する権利――これは人殺しの免許証なのですけれど、交戦権が成立するためには、まず兵隊は全部バッジをつけていなければいけない。遠くから見てもわかる制服を着ていなければいけない。指揮系統がなければいけない。「兵隊がやっていることの責任は、この小隊長がとります。その上は中隊長、大隊長、最後は天皇陛下、大統領」と指揮命令系統が真っすぐに通っていて、制服を着て、命令を受けて戦闘行為をすると、人殺しをしても罰せられない。どうしても巻き添えができそうなときは無防備都市宣言をして、兵を引いて、もっと野外の、人の迷惑にならないところで戦争をしようというのがハーグ条約の言いたいことです。
 そういう交戦権を持って交戦している兵隊は、手を上げることができる。捕虜になる権利がある。
 捕虜の権利とはつまり「捕虜は報復の対象としない」と決めてある。「報復行為を受けない」という権利なんです。それから食わしてもらうことになるが、自分の分だけは働けとある。将校は働かずに食わせてもらう権利がある。
 これはヨーロッパ的階級社会なんです。将校はちゃんと名誉を保ち、働かなくてよい。兵隊は働け。ただし、仕返しは受けない。そして戦争が終わった後は、自分のふるさとへ帰ることができる。奴隷にはしない。しかし賠償はとる。こういう秩序を持った戦いをしようという条約があって、みんな署名をした。
 それがだんだんまた破られていくのですね。
 それは戦争論になります。
 では、次回は戦争を知る四つの基本原則という話をします。
 







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