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「お役所の画一化」と「マクドナルドの画一化」の違い
 先ほどの話に戻って言うと、マクドナルドは全米全部同じ味、同じ店、同じ値段にすると言った。
 それと同じことをやっているのが日本の役所です。日本中を同じにする、画一化する、統一する、それが合理化である。
 いったいそれの何が合理化なのかと言いたいのですが、つまり自分が指導しているのは一番よいことだと思い上がっているのです。一番合理的で一番よいことを言っているんだから、自然に日本中がそれに従うはずだ、従わせるんだ。従わない人には補助金をあげて、それで自分の指示どおりにやらせる。すると日本がよくなる。日本中の小学校はみんなこうやれ、中学校はこうやれ。統一すると日本がよくなると思っている。
 統一は同じです。合理化は同じです。ただし、日本の役人は思い上がってやっているが、マクドナルドは全然思い上がっていません。藤田田さんもそうです。ハンバーガーは文化的に不毛である、ちっともいい料理じゃない。全米がこうなるはずは絶対ない。けれども、私としては店が一〇〇〇もできればそれでいいんですという、己を知ってやっている。
 ところが、文部省とか通産省とか運輸省は、己は一番偉いと思っていた。国民はみんな自分より馬鹿だと思い込んでいた。それで画一化と統一化をやったから、いま構造改革とか行政改革で、自由化しろ民営化しろ、権限を手放せとなってきた。
 お役所がそれに乗っかるのは、今まで統制したことの罪を問われるようになったからです。「役所のご指導どおりにやったら潰れた。我が銀行が潰れたのは、あのときの銀行局長のこの通達があるからだ」と言われたら大変ですから、「自由化します、昔のことは勘弁してください。後は各自好きにやってください」というわけですが、これは敵前逃亡ですね。そういう意味の自由化がこのところしばらく進んで、今止まった。
 今止まったのはなぜかというと、国民の追及が止まったからです。
 だから、もっと追及しなければいけないのです。追及がやめば、お役所はまた昔どおりにやります。
 四、五年前、いろいろなそういう改革ブームがあったとき、私は自民党の偉い人と話をしたり、提案をしたものですが、究極のところは公務員の採用数を減らせばいい。何も言わず上級公務員の採用数を減らすのが一番いい。彼らは自分のために無理やり仕事をつくる、理屈を発明する。これはすべて自分のため、自分が天下りするため。
 だから人数さえ減らせばいい。これは漢方薬的構造改革である――その提案が入れられたのか、橋本首相のとき、上級職公務員の採用は毎年何人以内にすると決まったのです。
 ところがどうです。今はそれ以上採っています。国民は知らないでしょう。そういうのを監視していない。新聞記者も監視していない。決まったことを破って、またちょこちょこ採用している。
 あるいは中央省庁の課長の数、これも人数を縛って一〇〇〇人以下とするとなった。それで九八〇人ぐらいにしたのですが、そのかわり企画官というのをたくさんつくった。企画官というのは、かつては窓際に一人座っていたのが、今は部下を持って仕事をしていますからね。それは課長待遇です、というようなことをいくらでもやっている。
 
 話を戻しますが、コンセプトとは何か。実例をいくつか申し上げます。
 例えばセブン−イレブン、これは今、日本中どこに行ってもある。セブン−イレブンが一つできると、商店街の店が四つ、五つ潰れると言うが、それはそうでしょう。セブン−イレブンは一年に一億円売ります。多少成績の悪い店もありますが、悪い店は閉鎖してしまいますから。商店街の普通の店は、一〇〇〇万円売るかどうかですよね。一〇〇〇万円以上売っている店は少ない。だから一億円のセブン−イレブンができて、商品がぶつかっているところは潰れてしまう。
 街を歩くと次のようなことに気がつきます。増えているのは、コーヒーショップ、呑み屋、サラ金、美容室とかエステサロンとか、カットハウスとか、それからDVDやビデオレンタルショップ。商店街の中は、そんな店だらけ。つまりセブン−イレブンとぶつかっていない業種だけ残っている、あるいは増えている。
 このセブン−イレブンをつくった鈴木敏文さんの、スタートのコンセプトは何か知っていますか。実はコンセプトが何度も変わっているのです。しかし、最初のコンセプトは「男のための雑貨屋」です。
 男のため、と決めてある。私は鈴木さんに、初期の頃こんなことを話しました。「小売り革命で先発しているのはスーパーである。スーパーの命は生鮮食品である。地下の食料品売り場に八百屋と魚屋と肉屋と、この三つのよいのがあるということが命である。生鮮食品がよければ主婦が毎日買いに来て、ついでに洋品も売れる、家具も売れる。その生鮮食品が、セブン−イレブンにはない。八百屋、魚屋、肉屋がなくて、そんなことでやれるんですか?」と聞いたら、「あなたは偉い」と褒めてくれたのでよく覚えているのですが、「よく気がついた。私はそれは置くなと言っている。生鮮食品はやらないと決めてある。なぜかと言ったら、セブン−イレブンを私は男の店だと決めている」と言いました。
 その一言が決まっていると、部下は仕事がやりやすいですよね。部下がおいしい生鮮食品を置きましょうと思っても、これは絶対上を通らないとわかっているから言い出しません。男はそんなものを買いに来ないというわけです。
 では、商売を男相手に決めると、女の買い物と男の買い物はどこが違うか。これ、皆さん思いつきますか? 私はこのごろ大学で教えていないのですが、本当はこういうのを試験に出したいのです。そのときに何やら思いつく学生は、社会に出てもやっていける学生です。
 何も思いつかないのは、要するに日ごろの生活感覚が全然ないということです。それで経済学部によく来たものだ(笑)、買い物ぐらい自分でやりなさいと言いたいわけですが、幸か不幸か私は子供のころから買い物をしょっちゅうしていた。闇市に行って買い物していましたが、大阪の闇市なんてすさまじいんです(笑)。
 だから、女性の買い物と男性の買い物の違い、それは鈴木さんを前にすぐ言えました。皆さんも聞いたらそうかと思うでしょう。女性の買い物は時間がかかる。あれだ、これだと言って選んでいる。女性はそれが楽しいらしい。
 それまで小売業は「品揃え」が重要だと考えられていたが、それはデパートのことで、デパートは女性用だったと鈴木さんは考えたのです。言われてみればそのとおりです。もっとも最近は、テキパキした女性が増えましたから、そういうテキパキ女性のための新型デパートをつくればいい。そういうのもまたコンセプトになるんです。
 
 女性の買い物の楽しみは、あれこれ選ぶこと。あれこれ悩むことが買い物の楽しみである。だから、男が横にいて早くしろと言うのが一番嫌で、それはヨーロッパでも同じです。
 それに対して男の買い物は、何でもいいから手っ取り早く済ませたい。それから、あらかじめ欲しいものが決まっている。「これないか」と言ったときに、「ない」と言われると男は不愉快に思う。あればよし。そのとき値段は気にしない。だから、男の雑貨屋というのは値段が高くてもいい。その辺のスーパーよりセブン−イレブンは一、二割高い。けれども売上げに響かない。男の人は来て、ぱっと買ってすぐ出て行ってしまう。
 それから、そのためには店がすいているほうがいい。すいていると、男はパッと入ってきてパッと出ていく。パッと出ていくから、また余計すいている。これは店屋としでは心寂しいが、しかしすいているほうが次のお客が来るんです。
 ところが、今までの商売人は店がにぎやかなのがよいと思っている。そうすれば次の客が入ってくるし、店内滞留時間が長いほうが、売上高が比例して増えると思っている。しかし、それは女性の場合です。デパート、スーパーとコンビニは話が違う。コンビニはすぐ出ていきたい人が多い。スーパーはゆっくりと眺めて回る。
 「だから、セブン−イレブンはいつもガラガラだとおっしゃるが、私は気にしていない。店内滞留時間をふやすようなことは一切やりません。部下が持ってきても断ります」と言っていました。
 最初にしっかりしたコンセプトがあると、こういうふうに具体的な方法ができ上がっていくわけです。
 コンセプトに基づいた具体的な手が打たれているから、男は自然に入ってくる。何とも深く考えずに入ってくるが、気に入っている。他の店へ行くと、店員が後ろへくっついて「これがお薦めです」とかうるさい。「今、これが一番売れています」とか、店員がくっついてくるのがうるさい。だからセブン−イレブンに入る。
 
 セブン−イレブンは、一番奥の突き当たりを「マグネットコーナー」と名をつけた。それは、スーパーの場合は地下の生鮮食品。セブン−イレブンの場合は一番奥の冷蔵庫です(ちなみにクラシックなデパートの場合は呉服売場でした)。そこで買って、あとはレジのほうに戻ってくる途中、乾物と缶詰が並んでいる。腐らないものがいっぱい並んでいる。一番奥の冷蔵庫がマグネットで、男を吸いつける。ビールとか飲み物が置いてある。その帰りにおつまみを買う。
 何でそんなものがマグネットなのかと言えば、そこで「独身の男」がターゲットだとなる。独身の男はやはりそういう買い物をせざるを得ないから、冷蔵庫のところに行くんです。
 そのときのコンセプトは、“家の冷蔵庫がすなわちセブン−イレブンである”。こういう説明になった。そこからまた発展して、独身の男がこういうものを買って帰るときはわびしいであろう。少しはおふくろの味がほしいであろう。それで、おでんを売る。缶詰とか乾物とかパックばかりですから、湯気が立っていたほうがいい。おでんは無理に売れなくてもいい。湯気さえ立っていればいい。何となくホッとすれば、それでいいんです。そういう哀れな独身男がこれから増えるという予測をしたわけで、実際ほんとうにすごく増えたんです(笑)。
 そういう男の買い物時間は何時でしょう。主婦の買い物時間は夕方です。そういう男の買い物は夜ですから、だったら電気を明々とつけておかなければいけない。何なら朝までつけておこう。そうすると、誘蛾灯に吸い寄せられて男が来る。若い女性も駅から我が家まで帰る道が怖いから、明るいコンビニの前を通って帰る。こうこうと電気をつけると、コミュニティのためにもなる。
 ところが昔からの店屋の主人は、くせで消してしまう。客が来ないのに電気をつけるのはもったいない。巨人・阪神戦が始まったというとすぐにテレビをつけて、店を暗くして、客が入っていったらウルサイという顔をする(笑)。そういう店はやはり潰れてしまいました。
 しかし、セブン−イレブンに転換した人ももともとはそういう小売店主だから、やはり消灯する。いくら指導しても消灯する。そこで鈴木さんは制度をつくった。「電気代は本部もちとする」。こういうのをシステム化と言います。これが経営者のなすべきことです。
 このようにセブン−イレブンは、最初は「男の店」というところから、第二弾ロケット、第三弾ロケットがずーっと続いていく。これを絶えずやっている。
 その次は何になったと思います? 弁当屋になった。そのおかげで弁当メーカーの大企業が出現した。まさに日進月歩です。







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