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特殊法人の人件費や行政経費は全部ムダ
 今まで言った政府支出三〇〇〇兆円の中のムダは、政府固定資本形成という項目の中で申しました。道路が多過ぎるとか、子供もいないのに小学校の建物がピカピカだとかは、政府固定資本形成というところで数えると、目に見えますからわかります。それが今は「箱もの」といって嫌われています。
 しかし役所の人は悪知恵を働かすので、箱ものづくりが難しくなると、今度は人件費、あるいは行政経費で取る。自分の月給や待遇で取る。そのために特殊法人をつくる。
 特殊法人へ行って給料をもらうが、本来の仕事なんかない。あるいはあまりにも高尚で雄大なことが目的に掲げられているので、自分にはできない。そこでできそうな仕事を何やら無理につくる。これはもちろんムダです。だから、特殊法人はみんなムダ。その特殊法人をつくるために事業を無理やりつくる。そのとき弱者を利用する。「こんな気の毒な人がいます。この人たちのためにやりましょう」と言う。
 それはもちろん民間がやったっていい。それがいま言われる民営化なのです。
 なんで役人が自分でやるのか。しかも、もっとうまくやってみせるとは絶対言いません。「これは公共のためであって、もともと儲からない仕事である。だから国家がやるのであって、赤字で当然である」と言いますから、民間のほうは「黒字にしてみせるから、こっちによこせ」と言わなければいけないのです。
 民間がそれを言わないから、お役所の人がやたら事業をするが、この三〇年間見ていると、それは銀行とホテルが多い。旅館業と金貸し業なら役人でもできると思っているらしい。やたら宿泊施設と融資機関をつくったが、みんな手抜きですから赤字になりました。
 たとえば、政府金融機関は自分では何もせず、民間銀行が全部おぜん立てして回すと、一枚かむだけの仕事をしていた。
 長銀を受けに来た学生に、「他はどこを受けている」と聞くと、「日本輸出入銀行と御社を受けている」。「輸銀へなぜ行きたいと思うか?」「日本国家のために海外投資、海外融資の事業に取り組みたい。おおいに頑張って、日本のために働こうと思っている」。「それはこちらがやっている。あそこはつくり上げたのを回すと、それに参加して国会説明や監督する大蔵省への資料をつくったりしているだけで、金融事業は何もしていない」。
 そう言うと学生はびっくり仰天です。「じゃあ、うちへ来るか」と言ったら、「いや、働くのは嫌だ。これはいいことを聞いた、あっちへ行く」(笑)。
 お役所が仕事をすると、そのようなことになるのですね。
 社会保険も皆さんの月給天引きで集めて、たくさんたまっている。将来渡す金ですが、いまは余っている。これを一生懸命増やさなければいけないと、自主運用をしたり、保養施設をつくるわけですが、これのインチキぶりはもう皆さんご存知ですね。
 そういうのだらけですが、しかしお金の話だけで言えば、保養施設や研修施設のムダは知れているのです。一カ所一〇億円とか一〇〇億円をかけて、これを捨て値で売ったら五〇〇〇万円だったとか、新聞ダネにはなりますが、金額は知れている。
 もっと大きな一〇〇兆円というようなムダがある。そっちのほうは教えない。新聞記者には突き止める力がない。あっても突き止めない。突き止めても上が載せない。一〇〇兆円では読者が驚いてくれません。すると新聞記者はこぼれ話を週刊誌のほうへ書く。原稿料が稼げますから。
 
 これでは新聞社は、月給を払ってわざわざ損しているようなものですね。新聞をとっているお客はバ力を見ます。それで、このごろは新聞をとる人が減ってきた。
 国民は正しいと思います。もう誰が金を出して読むものか、会社へ行って読めば十分だ(笑)。だから家でとらない。家で二つとっていた人は、もう一つでいい。そうなってきたわけで、日本国民は争わないがスルッと逃げてしまうのです。
 今の日本はどういう時代かと言われたら、「逃げる時代」です。若い人は戦わない。黙って逃げてしまう。会社員は会社をやめてパートタイマーになってしまう。奥さんから逃げてホームレスになってしまう。「私はホームレスではありません。ホームはあるが、奥さんにとられただけです」と言う人がいました(笑)。ほんとうですよ、怖いから逃げている。
 ともかく何でもかんでも逃げてしまう。
 ということは、非常に風流だと思います。これは昔からあるのですから。風流の道に生きて、さすらって、旅に出てどこかで野たれ死にするのが最高だという伝統が日本にはある。仙人になろうというのが中国にもあります。インテリというのは、要するにうつろな世界ですからね。理性の世界というのは虚で空ですから。そこで競争して誰が勝つかというと、それは実力ではないのです。口のうまい人が勝つとか、運がいい人が勝つとか、権力者に気に入られたらその学問がいい学問になってしまう世界です。多くの場合は、自分の学問を権力者に売りつける能力なのです。そういう人は今でもいっぱい思い当たります。
 すると、負けたほうは悔しい。都にはいられないと言って、山へこもると仙人になって、そこで文句たらたらの漢詩を詠む。子供のころ『唐詩選』を親に教えられましたが、親はそういうのが教養だと思っていた。しかし教わる子供にしてみれば、なんだこれ、負け惜しみばっかりじゃないか(笑)。インテリというのは負け惜しみばかり言う人間か。自分はそんなものにならないぞ、と子供心に思いました。
 負けそうなことはやらなければいいのであって、負けそうなことは絶対やらないのが勝つ方法です。負けそうになったらさっさとやめればいいわけで、戦わなければいい・・・と思ったら、近ごろの若い人たちがその要領を知っているから、私は評価しています。
 つまり、これからは古いガンバリズムの日本は消えて、風流国の日本になる。一〇〇〇兆円も使って遊んだことの効果ですね。
 
 話を戻しますが、経費で取ると国民の追及が来ないというので、仕事をしているふりをして、特殊法人をつくって、そこへ行って月給を取る。ところがやはり実は何も仕事をしていない。
 これはやはり社会主義ですね、給料で取ればよいということですから。思い出すのは、ソ連はレーニン、スターリンと続いたあのときに徹底的に資本家を征伐した。そして国民全部を役人にした。役人は月給を取る。手続に従って月給をもらっているのだから、なんら悪くない。ただし、働くかどうかはまた別。だから、共産主義が滅びたというのは正しくは官僚主義が滅びたのだと思っています。それが日本に入ってきて、まだ根強く頑張っています。
 どういうところがそうかというと、労働組合運動の強いところがそうで、労働者天国をつくっても倒産しないところに社会主義が残っています。特殊法人は潰れない。そういうところでは上の人は働いていない。組合が「自分たちにも分け前をよこせ」となるが、すると上は非常に甘い。社内を無事にしたいわけです。
 たとえば、日本航空はずっと運輸次官が天下っていました。そして社長になって、ひたすら労働組合と仲良くしましたから、お客のために働いていません。社内がみんなニコニコしているのはいいが、結局コストが高くなって、日本航空に乗ると料金が高い。割引がない。でもまあ日本語でやってくれるからいいや、という人ばかりが乗った。
 日本航空が合理化をしようとすると、一番人件費の高いのがパイロットとスチュワーデス。これはたいへん高かった。パイロットになるともう一年二〇〇〇万円とか取るのに、乗るのは一週間に一度とかです。だんだん要求が増えてきて、自分の家から羽田空港、成田空港まで必ずハイヤーを出せ。イライラしていると飛行機が落ちるというわけです。
 すると、スチュワーデスも「私たちは勤務を終えて帰る時間が不規則です。何時になるかわからないから、一〇時からとか言わずに、スチュワーデスがお帰りになるときは必ずハイヤーを出しなさい。タクシーでは身の危険を感ずる場合がある」。タクシーも運輸省が監督しているのですが(笑)。
 すると、やはり応じた。あまりにもスチュワーデスの給料が高くなりますと、政治家がやってきて「娘を採れ」です。ご機嫌をとるために盛んに採りまくったことがありました。それやこれやがだんだん積もり積もって、世界で一番コストの高い航空会社になった。
 そこで、スチュワーデスを外注にしました。下請会社の社員ということにして、今まで組合に対して約束した賃金より格安でスチュワーデスを入れた。すると、亀井静香さんが「そんな臨時雇いのスチュワーデスでは身の危険を感じる。乗客の安全を保てるのか。やはり正規のスチュワーデスを雇え」と主張したことを皆さんは覚えていると思います。けっきょく外注のスチュワーデスでもよいことになりましたが。そのためには一件落着の手続きとして亀井さんの弟の会社に仕事を回したそうです。
 ツケがみんなお客のほうへ来る。しかしお客のほうも「英語くらいできます。外国の会社の安いほうに乗ります」という人が増えたので、日本航空は赤字になって社員をクビ切る。とうとう上のほうの人もやめることになる。そういう形で、ムダがだんだん減っています。
 余談を言えば、だいぶ前の話ですが、飛行機に乗ってスチュワーデスを拝見すると、一番美人で元気のいい女性が揃っていたのは東亜国内航空、いまのJASです。その次に魅力的なのが全日空で、一番魅力がないのが日本航空・・・というと差しさわりがありますが、私はそう思いました。この評価は個人責任をとります(笑)。なぜそうなるかわかりますか? 国会議員に聞くと、JALに一人世話をすると二〇票、ANAなら一〇票・・・とバカに正確そうな数字を答えてくれました。
 ちょうどそのころ、航空会社の人事担当役員と一緒に旅行したんです。するとその人が、機内を見回して「きょうの飛行機は先生方のご紹介ばかりだな」と言う。「どのスチュワーデスを先生の圧力で採用したか、そんなこといちいち覚えているんですか」と尋ねると、「いちいち覚えていなくたってわかる。見ればわかるじゃないか。採りたくて採ったような女性じゃない」と言った(笑)。つまり損するのは乗客で、得したのは選挙区の人ですが、長くは続きませんでした。そんな思い出話があります。
 バブルの頃は日本中がバブルでした。そういうことが今だんだんなくなっていくのは、非常に良いことだと思います。







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