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「悪」認識支持で日米韓朝が連帯を
 同盟関係は、まず共通の敵を前にして結成される。そこに、現在と未来における価値観とビジョンの共有があれば関係はより強固になる。過去をどう評価するかという点は異なっていてもかまわない。ただ、お互いに相手の歴史観を自分のそれに一致させようとしないという共通理解だけは必要だ。
 東アジアにおいて日米、米韓の二つの同盟があり、日韓は在日、在韓米軍を媒介として事実上の準同盟関係にある。朝鮮半島に限定して語るなら、この同盟関係は金父子政権が赤化統一を目指して再び南侵戦争をしかけてくることを抑止するという共通の利害関係にもとづき維持されてきた。力の均衡で国益を守るという現実主義的立場が機能してきたといえよう。冷戦時代、自由民主主義体制の優位を示すという価値観の表明がこの同盟の基礎にあったことも事実だ。ソ連の崩壊で冷戦に米国が勝利した後、金父子政権が「反外勢民族主義」を宣伝媒介としてこの同盟の弱体化を計ってきた。韓国内でその政治工作がかなり成功を収めている現時点で、ブッシュ「悪の枢軸」演説があった。ブッシュ演説は、現実主義を超え普遍的価値観に立って、金正日政権を「悪」と断定することで、この同盟に金正日打倒のための連帯という新しい意味を加えたのだ。
 日米韓3カ国と北朝鮮内人民はブッシュ演説の「悪」認識を共通理解とし、金正日政権を当面の敵とする点で一致できる。この点で一致できる日本、米国、韓国そして北朝鮮内の全ての勢力が、歴史観の一致を求めず、自由民主主義体制のもとに平和で繁栄した東アジアを築くという価値観とビジョンを共有すべく努力することが求められている。本プロジェクトでも、知識人レベルでの国際交流を試みた。平成14年11月、本プロジェクト開始以降、われわれは、日、米、韓、中、露、北朝鮮亡命者の多数の要人、専門家、言論人、運動家らと金正日政権の「悪」について議論をかわしたが、その努力を今後も続けていく。以下は、本プロジェクトが海外で面会、議論した方々のリストである。
(西岡 力)
 
【本プロジェクト面会海外要人、専門家】
1. アメリカ
政府関係者
リチャード・アーミテージ国務副長官
ジョン・ボルトン国務次官
ジェームズ・ケリー国務次官補
モリアーティ国家安全保障会議上級部長
マイケル・グリーン・ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)アジア問題部長(現在同上級部長)
リチャード・ローレス国防次官補代理
議会関係者
ハスタード下院議長
フリスト上院共和党院内総務
ダッシェル民主党上院院内総務
ルーガー上院外交委員長
バートン、チャボット、フレーク、ピッツ下院議員
ホンダ下院議員、
サム・ブラウンバック上院外交委員会東アジア太平洋問題小委員長
ジム・リーチ下院外交委員会東アジア太平洋問題小委員長
ラリー・ニクシュ米議会調査局専門家
デニス・ハルピン下院外交委員会専門スタッフ
ルネ・オーステル下院外交委員会専門スタッフ
サラ・ティルマン下院外交委員会専門スタッフ
ジェームズ・マコーミック下院外交委員会専門スタッフ
ムハメド・フタスフット外交政策スタッフ(クリス・コックス下院議員事務所)
フランク・ジャヌージ上院外交委員会専門スタッフ
ニュート・ギングリッチ前下院議長
グロバー・ノーキスト「水曜会」会長、参加者
その他
加藤良三・駐米大使はじめ在米日本大使館スタッフ
(拉致救出運動の一環として本プロジェクト委員が面談した要人を含む)
 
2. 韓国
言論人
趙甲済『月刊朝鮮』編集長
李度ヒョン(王扁に行)『韓国論壇』社長
徐栄振『光州日報』主筆、
専門家
李基鐸延世大学名誉教授
金正剛評論家(元左翼地下活動家)、
亡命者
黄長・元朝鮮労働党書記
安明進元北朝鮮工作員
元北朝鮮化学博士(匿名)、
政治家
金泳三元大統領
許文道元統一院長官
朴槿恵議員(現ハンナラ党代表)
李仁済議員、朴振議員、元喜龍議員、黄祐呂議員、曹雄奎議員
拉致被害者家族
韓国戦争拉致被害者家族協議会(金聖浩理事長)
拉北者家族協議会(崔祐英会長)会員多数
(拉致救出運動の一環として本プロジェクト委員が面談した要人を含む)
 
3. 中国
専門家
姚文礼・中国社会科学院日本研究所日本対外関係研究室主任
李春光・中国社会科学院日本研究所日本対外関係研究室副主任
Anna Wang Heed・国連難民高等弁務官北京事務所Senior Regional Legal Officer
周莉・北京第二外国語大学助教授
傳卓洋・中国旅遊商貿服務総公司総経理(中朝旅行・貿易)
その他
野本佳夫・日本大使館公使、岡野正敬・同参事官、下地富雄・同書記官
伊藤正・産経新聞中国総局長、福島香織・同記者
 
4. ロシア
専門家
パヴェル・ボゴリュボフ・ドゥブナ核国際研究所国際局副局長
ワディム・トカチェンコ・ロシア科学アカデミー極東研究所朝鮮研究センター長
金永雄・全露高麗人協会会長
ヴィクトル・ミハイロフロシア原子力省戦略安定研究所所長(エリツィン政権当時の原子力エネルギー相)、同ヴラジミル・ボクダノフ副所長、同ヴラジミル・メドヴェジェフ副所長、同ヴォリデマル・ヴァラヴァ科学局副局長
アンドレイ・ガガーリンスキイ・クルチャトフ原子力研究所国際関係担当副所長
ユーリイ・フョードロフ国際関係大学教授
ワシリイ・ミヘーエフ・ロシア科学アカデミー極東研究所副所長
その他
東京新聞・中島健二記者
産經新聞・内藤泰朗支局長、同佐藤貴生記者
読売新聞・古本朗支局長
 
金正日の核武装の恐るべき実態を直視せよ
 昨年7月1日付の米ニューヨーク・タイムズ紙は、「龍徳洞に高度な核兵器実験場があることを米偵察衛星が確認した」というCIA情報を掲載した。1週間後の7月9日、韓国国家情報院の高泳グ(X)院長は、非公開の国会情報委員会で、「北朝鮮の平安北道亀城市の龍徳洞で起爆実験をおこなっていることは、すでに把握している。ここでは70回以上の起爆実験がおこなわれた」と証言し、「実験は97年から02年9月にかけて実施され、韓国政府は98年4月以来、事態を把握していた」と証言した。この証言によって、当時の金大中政権は、北朝鮮が南北非核化宣言や米朝枠組み合意に違反して、核兵器開発を進めていることを知りながら、太陽政策を掲げ、現代グループによる巨額の現金授与を認め、金正日独裁政権を支援していた事実が明らかになった。
 
 使用済み核燃料棒から長崎型原爆の材料であるプルトニウム239を抽出し、原爆製造に必要な量を確保したとしても、長崎型原爆の製造においてはインプロージョン(爆縮)方式という精密な起爆装置の開発が最大の難関である。爆縮式原爆は、球体の金属プルトニウムの表面を覆う高性能爆薬が、100万分の1秒という単位で同時発火して、爆発の衝撃波が均等に球体の中心部に向かわなければ連鎖反応は起こらず、核爆発には至らない。爆縮式の起爆薬には燃焼速度の違う炸薬を組み合わせて、衝撃波を外方向ではなく内向きに収縮させる必要があり、この組合せ方法は「爆縮レンズ」と呼ばれている。同時着火システムと爆縮レンズという特殊な構造の起爆装置が長崎型原爆製造の鍵であり、それを完成させるためには何十回もの爆破実験を繰り返す必要がある。
 
 こうした核起爆装置の実験は、過去にも確認されている。1986年3月、米偵察衛星は、平安北道寧辺の分江地区を流れる九龍江の川岸の砂地に、高性能爆破実験跡が数多く残され、クレーターとなって水が溜まり、起爆用の電気コードなどが散乱している状況を撮影した。衛星写真を精査すると爆発痕は、1983年以降から存在していたことが判明した。韓国の権寧海国防相(当時)は、1993年3月、国会の国防委員会において、「北朝鮮は1980年代に70回以上の起爆実験を通じて核起爆装置の開発を終え、IAEAの査察に先立って実験場の痕跡を片付け、証拠湮滅をおこなっていることが確認された」と言明した。北朝鮮側はIAEAによる寧辺の核開発センターの現地査察のさい、その場所は原子炉の胴体整形のための衝撃波実験場であると説明した。92年のIAEA査察直前に寧辺の実験場は閉鎖されたが、実験場は平安北道亀城市の龍徳洞に移され、94年の米朝枠組み合意によって核開発が凍結された後も、金正日は密かに起爆実験を続けていたのである。
 
 龍徳洞付近の鮮明な衛星写真を入手して分析してみると、核起爆装置実験場は東倉江の二股から北東800m地点にある空き地にあり、少なくとも7つの爆発痕があることが判明した。また、北方に延びる舗装道路の終点(二股から2.7km)の森のなかにも、核起爆装置実験場があることが確認できた。
 
起爆装置実験場(南)
 







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