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 大体こういう配置になります。安全と協力関係。しかし核拡散ではみんなと一緒です。
 ロシアは直接の影響を与えないですけど、間接の影響は与えています。なぜかというと、北朝鮮が原爆実験をすると、一番目の論理から、ロシアの核拡散などの責任が出てきます。超大国として。パキスタンと同じように、国連安保理で北朝鮮に対する一番厳しい規制を、ロシアは必ず支持します。平壌もこういうロシアの態度をよく分かっているんです。今のロシアの外交は何をやっているか。平壌に「絶対に原爆実験をしないでください」ということを、今もいろんな外交ルートで言っています。
 今の北朝鮮の危機問題を、ロシアは自分では解決できません。また解決に強く影響を与えることもできないと思います。しかし、間接的にはロシアは中国とアメリカと一緒に、北朝鮮に原爆実験を許しません。
 短い質問に、長く答え過ぎました。
惠谷 ありがとうございました。先ほど「オデッサ人」と言ったのは、どういう意味でしょうか。
ミヘーエフ オデッサという町がありますけども、これはロシアの慣用句です。オデッサ人は二つの大きな差があると言うのですが、実際に二つの差はない、差は一つだけなのです。しかし、オデッサ人たちは二つの大きな差があると言うのです。
惠谷 次の質問は、先ほどロシアは日本人拉致問題を協議に持ち出さないと言いましたが、ミヘーエフさん個人の意見はどうですか。
ミヘーエフ 私個人の意見はもちろん違います。カーネギー基金が1か月前に、北朝鮮のロードマップとして、問題解決の提案をいろいろ論議していたんです。ロードマップの糸口は、6者協議のなかで中国、北朝鮮、米国の3か国の間で、まず北朝鮮は核プログラムをやめて朝鮮半島の安全問題を一緒に解決する。53年の休戦協定はこの3か国できましたので、北朝鮮と米国の外交関係を樹立し、その後に韓国もこの過程に入って、韓国と北朝鮮との関係を改善する。こうして朝鮮半島の平和を守る新しい体制を構築する。
 二段目の段階で、拉致問題を解決する。日本、中国、韓国、米国と北朝鮮の5か国が二段階に入ったら、拉致事件の問題を解決し、北朝鮮のいろんな問題を一緒に解決する。
 二段階の次、第三の段階は、日本と北朝鮮との外交関係をつくることです。その結果、本当に平和を守る法的な制度を東アジアでつくります。
 またその次は、5か国と北朝鮮が話し合い、安全保障、経済援助をおこなう。しかし、経済援助は核開発中止の代わりではなくて、経済改革や市場改革を目指す。また北朝鮮のオープンされた市場との交換で経済援助をします。なぜこれが重要かというと、市場経済の北朝鮮は東アジアの安全のもう一つの柱になります。外交関係と市場経済は、東アジアの平和の二本の柱になるのです。
 ロシアのこのようなロードマップの条件は、北朝鮮の核開発計画を中止することです。これが一つの条件。北朝鮮の核開発は実際には、今の朝鮮半島の危機の理由ではないのです。もっと深い理由は、北朝鮮の政権の性格です。また、朝鮮半島における古くなった法的な平和維持制度です。しかし、惠谷さんは多分こういう質問をなさると思いますけれども、例えば北朝鮮がこの条件を受け入れない場合はどうするでしょうか。何もしません。そのとき北朝鮮に5か国は何が欲しいかということをいって、そのときには北朝鮮に対する5か国の関係を強めること。また三番目には、北朝鮮の政策変更を見ることです。実際には、北朝鮮は5か国との話が必要ではないですか。5か国にも北朝鮮との直接対話は、それほど必要ないと思うんです。だから、今、北朝鮮と5か国の間のいろんな矛盾、対立をよくうまく利用して、本当に足から頭に状態を変えるんです。拉致事件はすべての過程のなかで解決するということです。
惠谷 この過程を第一段階、第二段階、第三段階と進めていく前に、北朝鮮が内部崩壊する可能性があると私は考えますけども、いかかでしょうか。
ミヘーエフ その可能性もあります。5か国の課題は、崩壊がうまくいけるように調整することです。なければならないです。
惠谷 それは崩壊を防ぐんですか、崩壊を促進するんですか。
ミヘーエフ 防ぐことはできません。当たり前のことです。また、促進するためのメカニズムもありません。というのも、まず北朝鮮にこういう条件を常に出さなければなりません。核開発のかわりではなくて、北朝鮮の市場改革、市場向けの経済改善という条件です。核開発から始めないほうがいいのです。市場改革というのは、この政権を変えるので。これは北朝鮮の国家経済の土台を変えることができるのではないでしょうか。また将来、新しい国になる可能性もあります。しかし、これもできない可能性もあります。だからもう一つの5か国の課題は、北朝鮮で人道的な悲劇が起こらないように、経済基金を5か国でつくらなければならないと思っています。
惠谷 それは理解できますが、この経済ラインを今の金正日自身が受け入れるとお考えになりますか。
ミヘーエフ これは彼の問題です。私たちはまず、5か国共同のゲームのルールを発表しなければならないです。ゲームのルールについていろいろなことを話できますけども、彼がこれを受け入れない場合、私たちは待って、しかし人道的な悲劇、破壊がある場合に備えて、私たちは基金を持つのです。日本、中国、韓国、ロシア、こういう国々は、東アジアではいろんな共通の問題があります。共同でこれを解決しなければならないです。だから、私たちの一番重要なことは北朝鮮ではありません。共通のことを利用して、共同でいろんな政策をとらなければならないのです。私たちの5か国の依存性が強くなるごとに、北朝鮮のリーダーシップは非常に制限されるでしょう。
惠谷 次に、イラク問題がうまく進み、ブッシュ大統領が再選され、金正日体制を崩壊させるために爆撃をするというような事態になることを、ロシアとしてはどう考えますか。
ミヘーエフ まずこれは想像的なことで、信じられません。
惠谷 可能性は少ないとお考えですか、ほとんどないと。
ミヘーエフ これは全く不可能だと思います。幾つかの理由があります。まず来年の大統領選です。今、大統領選挙における重要な地位はイラクです。朝鮮のテーマはほとんど問題ではありません。また戦術的には、台湾の問題が近いうちに非常に強くなると思います。だから中国と米国との関係には、北朝鮮の問題はどこか最後に来ると思います。まず、表面に台湾の問題が出ると思います。もう一つの意味で、ブッシュの大統領選挙の論理からいうと、ブッシュ大統領は自分の力をみんなに見せました。イラクで見せました。だから、朝鮮ではいろんなバランスをとって、外交的措置で問題を解決するほうがいいのではないかと、ブッシュは考えていると思います。
 もう一つは韓国の問題です。ソウルは国境から40キロですから、誰も戦争を考えません。大きな打撃はまず韓国に来ますので。もう一つの理由は、中国と北朝鮮の問題を協議しないと、米国は北朝鮮を爆撃できません。しかし、中国はこういうことを許しません。またロシアも、北朝鮮に対する爆撃はロシアの極東の利益に悪い影響を与える、とよく言っています。だから、爆撃しないほうがいいのです。ブッシュ大統領は国際的な支持を得ることができません。また韓国、中国、ロシアの反対は非常に強くなります。韓国はこの問題には中国とロシアと一緒になっています。だから、軍事的なシナリオは不可能だと思います。
 理論的にはもちろん軍事力を利用できますけれども、5か国は納得しないでしょう。まず5か国がよく打ち合わせして、共同で金正日後の北朝鮮の一般市民の援助を考えなければならないのですが、今の段階では、5か国でこういう打ち合わせもすることもできないのです。
 数カ月前、アメリカの外交官と話をしましたが、アメリカ人は北朝鮮に対する軍事攻撃をほとんど支持していません。爆撃を支持する一般市民は非常に少ないです。
惠谷 北朝鮮が核武装、核爆弾を持っている可能性についてはどのようにお考えですか。
ミヘーエフ すぐに結論を言いましょうか。この結論は、ソビエトの北朝鮮の専門家の結論に基づいています。特に核開発と核爆弾の専門家の結論です。将官と学者と外交官は、そのような結論を出しています。
 北朝鮮はもちろん、軍事用の核開発プログラムを持っています。アメリカとロシアの水準の核爆弾の技術的な面からいうと、北朝鮮はそんなに高い技術水準の核爆弾をつくることはできない、全然できません。北朝鮮は核爆弾を運搬できるミサイルなども、世界水準でつくることはできない。今使っているスカッドというミサイルは、出力を上げても技術水準は上げていません。だから射程は長くなって、弾頭が軽量になりました。また、そんなに正確に対象に当たりません。
 ほんとうの脅威は、北朝鮮は放射能があるいろんな物質を、どこかの国や誰かに輸出する。テロリストの手に放射性物質が入る可能性です。
 この分析にもう一つ怖い話も出ています。北朝鮮に軍事抑制はありません。まず普通の大砲、特に国境の近くにある大砲は、40キロですからソウルまで撃てます。もう一つの兵器は、ゲリラ戦争の経験がある専門家のグループ。彼らはカミカゼのように、韓国とか日本などの国にある核施設など爆破させるおそれがあります。そういう訓練を受けていますから。90年代に韓国の民主主義の過程において、韓国の警察などの特殊部隊の力が弱くなってきたことを、北朝鮮はよく分かっています。ですから、彼らは軍事作戦の兵器として、核兵器は必要ないのです。もっといろんな兵器があるのです。
 私が知っている限り、核爆弾はありません。またロシアの専門家によって、アメリカとロシアの水準の核爆弾を北朝鮮はつくることはできないという結論です。
 核開発をやっている北朝鮮の専門家は、金正日にもう成功していると報告しているでしょう。スターリンのときにも、そういう報告がたくさんありました。旧ソビエトでも全部成功したと言いましたが、実際にはそうではない。指導部から圧力があるためです。
惠谷 分かりました。ありがとうございました。
 
■インタビューその7(2003年11月22日午前11時)間接情報
東京新聞モスクワ支局での取材
アレクサンドル・クレチンスキイ元ロシア連邦保安局アジア担当部長の証言メモ
 
・ソ連と北朝鮮の合意により、80年代初めから原発をソ連が支援していたが、チェルノブイリ事故の後、支援を停止。その後、北朝鮮が独自に開発。
・北朝鮮は独自にウラン鉱石を採掘しているが、CISからも入手している。
・1983年と88年に核実験に近い実験を数十回実施したという話を聞いた。
・1987年に寧辺で抽出施設〔再処理施設〕が完成していた。
・1988年に寧辺で14キロのプルトニウムを抽出し、2つの核爆弾的なものを造った可能性がある。
・1989年、フランスの衛星が寧辺で、50MWと200MWの原子炉の建設を確認
・1989年と91年に同じ原子炉で30キロ程度のプルトニウムを抽出した可能性がある。
・1991年に国内でウラン燃料〔使用済み核燃料棒〕からプルトニウムを抽出した。
・1992年にCISの共和国(どこかは不明)から数十キロのブルトニウムを購入したという情報がある。
・1994年にIAEAの査察が入るため、寧辺にあった施設を清津の山の中に移転させた。
・以上の情報と他の情報を総合して想定すると、核弾頭(用語を通訳に確認)を12発から15発保有し、うち7発はノドンに装填できる状況にある。
 
〔コメント〕
 クレチンスキイ氏の話は第三者から聞いたものと思われる。彼はFSBで情報を整理するセクションに6年間勤務していた。しかし、情報を確認できるような資料は何も持っていない。清津に移転の話は何度もしていた。







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