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■インタビューその5(2003年11月27日午後3時)
モスクワ国立国際関係大学
ユーリイ・フョードロフ教授(元応用国際調査研究所副所長、IAIR)
 
フョードロフ教授 私が1997年に書いた「朝鮮の核問題」という論文は、北朝鮮の核開発計画についての内容です。今年の初め、北朝鮮の核開発問題についてもっと詳しい論文を書きました。国内で発表しましたが、日本のマスコミや評論家が大きな関心を持っています。
惠谷 私が理解している限り、この論文に北朝鮮が核爆弾を持とうとしていることを、1990年にシュワルナゼに伝えたということが書かれていますね。
フョードロフ そうです。そう書いています。
惠谷 それを読めばいいんでしょうが、先生がお考えになる北朝鮮の核開発の技術レベル、その他どう評価されているか、お聞きしたいのです。
フョードロフ まず、こういうことからスタートしましょう。私たちは自由な研究者ですね。北朝鮮の核開発について何を知っているかというと、主に間接的な情報に基づいています。このような情報は、アメリカの情報局、また日本や韓国の情報局から流れてくるものです。この情報局はどこからの情報をもらうかというと、多分、亡命者から得ています。あるいは衛星などをコントロールして、衛星からも情報をとると思います。どちらも信頼できない情報です。とにかく、こうした情報、また、間接的な情報に基づけば、あまりはっきりと分からないのではないでしょうか。
惠谷 おっしゃる通りです。
フョードロフ だから本当に何が起こっているかということを、なかなか評価できないのです。評価は難しいです。とにかく私と私の同僚の意見でも、特に物理学の教育を受けた人、また物理学部門で今でも活躍している人びとの意見は、北朝鮮は核爆弾をつくったかもしれないという意見がありますし、また、完成に近いという意見もあります。非常に近いと。
 そういうことで、北朝鮮の指導部の今のやり方を説明できると思います、特に去年の夏からのやり方。北朝鮮の指導部は、ウランを開発するプログラムがあるということを自分で認めました。
惠谷 つまり、94年のアメリカと北朝鮮の枠組み合意で、プルトニウムは生産できなくなった。それで、秘密裏に濃縮ウランの開発を始めたということですね。
フョードロフ 二つの点を強調したいんですけれども、一つは、もちろん研究開発を続けており、もっとも難しい問題は、使用済み核燃料棒からプルトニウムを取り出したかどうかという点です。これは難しい質問です。多分、8千本の残った燃料棒の加工はおこなわれていなかったと思います。
惠谷 今もおこなわれていないと。
フョードロフ 最近、おこなわれたのだと思います。かつては枠組み合意があったので、取り出しはおこなわれていなかった。今年の初めに抽出が始まったんです。北朝鮮は核拡散防止条約から離れるという声明を出したので、それ以後から抽出が始まったと思います。
 しかし、もう一つの問題があります。ウラン濃縮プログラムです。簡単な原子爆弾をつくるためには、濃縮ウランでプリミティブな爆弾をつくることです。プルトニウムよりももっとつくりやすいのです。この問題について、アメリカのマスコミに載っているいろいろな記事を読みました。IAEAが発表した資料も読みましたが、多分、今までの10年間、北朝鮮ではウラン濃縮は作動していたのではないかと思います。もう一つのおもしろい点は、北朝鮮とパキスタンは核開発では非常に密接な交流がおこなわれていたということです。特に具体的な証拠はないですけれども、間接的な情報によると、北朝鮮は濃縮ウランをパキスタンからもらったということです。そのような工場がパキスタンにはありますが、パキスタン側はこれを否定しています。そういう事実はないと。しかし、パキスタンの話を聞くと納得できない話です。
惠谷 もう一度確認しますが、ウラン爆弾で言えば、過去10年間、北朝鮮は国内で濃縮作業をしていたということ、もう一つは、濃縮ウランをパキスタンから買ったという二つの方法で、北朝鮮は濃縮ウランを入手しているということでしょうか。
フョードロフ そうです。少し詳しく説明しましょう。ご存じのように、北朝鮮にはウラン資源がいっぱいあります。また、よく知られていることは、地下から掘ったウランをメタリック・ウランに変えるシステムが、北朝鮮にはできています。ジオキシードウラン[二酸化ウラン]といいますが、二酸化ウランは原子炉でも使えます。こういうシステムができています。しかし、問題は、北朝鮮はこうした二酸化ウランを濃縮して、非常に高い水準まで濃縮できる設備があるかどうか。そういう技術があるかどうか。これはまだ分かりません。
 間接情報によると、ウランが濃縮される遠心分離機のシステムが北朝鮮にあるという徴候はあるんですが。特に上空からの調査によれば、あのあたりはアイソトープのコンセントレーションが非常に高い。もう一つは、そういうところまで鉄道が延びています。また、電気エネルギーの大部分がここで使われています。
 特に90年代に、北朝鮮は遠心分離機に使われている金属材料を、たくさん外国から買いました。もちろんこういうことは事実かどうか分かりませんが、間接的な証拠です。とにかく疑問があります。
惠谷 原爆をつくるとき、プルトニウム爆弾よりも、ウラン爆弾のほうがつくるのが簡単ですね、材料があれば。ですから、濃縮ウランが既に北朝鮮にあるとすれば、プルトニウム爆弾よりも、ウラン爆弾がつくりやすいので、既に保有しつつある危険性が非常に高いと考えられますが。
フョードロフ 残念なことにその通りです。核爆発が可能な爆弾、これが核爆弾ですね。サイズはいろいろあります。今、私たちが座っている部屋のようなサイズもありますが、何トンもの重さになります。そのような爆弾は必ず爆発します。爆弾から弾頭化までの道程は非常に難しい。だから、爆弾と弾頭に入れるものは全然違うものです。弾頭に入れるものはもっと小さくて、もっと軽い。技術的に最高のものです。実際に北朝鮮は何を持っているのか。弾頭に使われる爆弾か、あるいは普通の大きなサイズの爆弾か。
惠谷 そこまではよく分かるんですが、逆に北朝鮮の経済力、技術力、これまでの経験でいうと、核弾頭はまだできていないと私は確信しているんですが、先生はどうお考えでしょうか。
フョードロフ こういう核開発とか、核の軍事プログラムは60年代の終わりに北朝鮮で始まりました。実験室などを見ると、このプログラムで活発に研究しているようです。また、国際原子力委員会の情報によれば、私も私の同僚たちも、北朝鮮では核爆弾ができているという可能性は非常に高いと思っています。
 実際に私たちの今の立場、状態は非常に不安定です。こういう可能性がある、あるいは不可能と、誰もはっきり言わないからです。世界の政治家たちは、北朝鮮に核爆弾がないというスタンスから政策を立案すると、非常に危険なのではないでしょうか。
惠谷 もう一度確認しますと、核爆弾はあるけれども、ミサイルに積む核弾頭はまだできていないということですね。
フョードロフ 核弾頭はまだないけれども、核爆弾はあります。ミサイルにつけるものはまだありませんが、それをつくるためにどのくらい時間がかかるのかは、知られていません。
惠谷 私もほとんど同じ意見なので、理解できます。問題は、この12月に6者協議が北京でおこなわれる予定です[結果的には延期され、今年2月に開催]。ロシアも日本もアメリカも韓国も参加しますが、どのような圧力を北朝鮮に加えるべきだとお考えでしょうか。
フョードロフ モスクワの専門家や学者たちと、ジョン・ボルトン氏に会ったことがあります。ボルトン氏はどのような政策をおこなうことができるかということを、具体的な数字について言いませんでした。
 軍事力を使う、戦争を起こすと、韓国は非常に危険な状況になります。ソウルは国境から40キロですね。国境線には北朝鮮の大砲も多いし、またミサイルも多いです。ソビエトの軍事エキスパートは、戦争が始まってから10時間から12時間で、ソウルなどの韓国の重要な都市は、そして軍事施設は全部破壊されると思っています。北朝鮮は戦争で負けますけれども、韓国も相当の被害を受けます。これが今の北朝鮮の軍事戦略的な状態の一番重要なポイントです。だから、アメリカ当局が言っているような軍事攻撃の恐怖を私は感じていません。実際にこれは政治です。例えば、北朝鮮は核兵器を持っていなくても、戦争はすごく損になりますよ。私の考えでは、米国は政治的な手段で問題を解決すると思います。
 北朝鮮はまず核開発、核プログラムをストップします。米国か国際原子力委員会が北朝鮮の核開発をコントロールする場合、北朝鮮は必ず自分の領土において、米国や国際原子力委員会の管理、調査、査察などを許さなければなりません。しかし、この条件を北朝鮮がのむ保障はないのです。
 もう一つの点は非常に重要だと思います。今の北朝鮮の一般市民の状態です。生活水準など非常に複雑な状況です。だからこそ、外国から大型の経済援助があれば、平壌は今の核開発プログラムをストップする可能性があります。しかし、これは全て北朝鮮軍隊の将校たちの態度によります。軍隊と警察などの武力集団は北朝鮮の政権の安全を守る限り、この条件を認めようとはしないと思います。だから取引しないと思います。
惠谷 つまり、交渉でアメリカが要求する条件を、北朝鮮は拒否する可能性が高いということですね。
フョードロフ アメリカは北朝鮮の安全を保障できますか。保障の条件を与えるか。まず、この条件を出しても、どっちが早くするのか。アメリカの北朝鮮に対する安全保障か、あるいは北朝鮮の核開発の中止か、どっちが先に来るか分かりません。原則的な問題でも、まだ合意ができていません。アメリカ人は、私たちは原則的に安全保障問題をいつでも交渉しますと言う。もちろんアメリカの立場で考えてみると、これは大事な一歩になったと思います。
 しかし、そういう条件であれば、北朝鮮は核開発を全部中止し、自分の領土を国際組織とか米国の調査のために開けなければなりません。開ければ安全保障はできません。
 北朝鮮は逆のことを言いますよ。普通の安全保障だけではないと言っています。まず、不可侵条約を結びましょうと。その後を私たちは考えてみなければなりません。アメリカが不可侵条約を北朝鮮と結ぶと、そのとき韓国と日本に対するアメリカの安全保障が問題になるでしょう。特に韓国には、アメリカの安全保障が一番大事ではないでしょうか。
 こういう微妙な問題があり、そんなに簡単なことではありません。誰がどのように平壌に圧力をかけるか。それは中国だけでしょう。中国から一番重要な経済援助などの協力が来ますね。ロシアは対処できません。日本もできないのです。韓国の北朝鮮に対する態度は非常に難しいです。だから基本的な国は中国だけです、今の6者の交渉のなかでは。







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