惠谷 私は法学部出身で、物理学は何も知らないんですが、大学生だとすぐわかる程度の知識で、簡単にプルトニウム爆弾の概念図を書いて、技術的にどこが問題なのか説明していただき、確認したいと思っています。
この爆弾をつくる最初の関門は、プルトニウムを集めてコアをつくる。もちろん、ここにはイニシエーターがあるんですが、これは別として、これがタンパーで、ここに火薬がある。この起爆装置で衝撃波を球体の中心に向かわせる火薬のセッティングが第二点の難関だろうと思うのですが。
ガガーリンスキイ これは一つの問題で、他にもいろいろな技術的な問題がまだあります。しかし、こういう問題は解決できます。特に専門家なら、こういう問題は解決できると思います。
惠谷 同時に起爆させる技術が第三の問題だと私は思うんですが、これも日本の今の技術を転用すれば問題ないと私は理解しています。
ガガーリンスキイ もちろん日本はできます。
惠谷 いや、日本じゃなく、日本の技術を盗んで北朝鮮がということですが。
ガガーリンスキイ これも独自で解決できると思います、北朝鮮でも。
もう一つ問題があります。日本にとってよくない問題です。今、惠谷さんがおっしゃっていることは原子爆弾ですね。しかし、いま可能なことは、普通のミサイルに通常の爆弾を積んで、どこでも撃つことができます。だから特に攻撃したい場合、ほんとうに悪い影響を与えたい場合、一番つくりやすい爆弾があります。放射能汚染物質はどこにも必ずあります。爆発ではなくてもですね。私の考えでは、今の段階で一番重要なことは技術的なことではありません。政治的な問題です。
惠谷 大変申しわけないんですが、もう一度、ここまでの段階は北朝鮮の技術でも、すべての金、技術、人を投入すればできるということですか。
ガガーリンスキイ もちろんです、そういう例がありますよ。ソ連邦も戦後、経済的な状態は北朝鮮よりももっと悪かった。戦後でしたから、ほとんどすべての国土を戦争で破壊されていました。ドイツとの戦争で2,500万人ぐらいが戦死しました。ソ連邦はほとんど力がなかったのです。しかし、すべてを集めて核兵器の開発をやったんです。だから北朝鮮でも可能です。
当時のソ連邦の状態は非常に難しかったのですが、すべての資源、人とか天然資源とか、すべての力を集めてやったんです。専門家も集めて。また非常に厳しいコントロールもやって、だからこういう結果になりました。可能なんです。
惠谷 そのときの責任者がクルチャトフさんですね。
ガガーリンスキイ スターリンの力がなければ、クルチャトフもできなかったと思います。
惠谷 それで、また学校の授業のような素朴な質問で申しわけないのですが、私が理解しているのは、このミサイルに積むためにはこれを小型化する必要がある。そのためには、これをぜひとも教えていただきたいんですが、この火薬の問題、それからタンパーを小さくする。つまり、核物理学の問題ではなくて、ケミカルな問題ではないかと私は考えているんですが、いかがでしょうか。
ガガーリンスキイ 物理学者として、臨界になるにはそのくらいの量のプルトニウムが必要です。原子爆弾を博物館で見ました。それはこのぐらいのサイズです。全部博物館で見ました。専門家ではないですけれども、最初のロシアの爆弾はそういうサイズでした。
惠谷 長崎に落としたのは、直径が1メートル50センチでした。
ガガーリンスキイ ソビエトの爆弾を覚えていますけれども、1メートルちょっとです。アルザマスの博物館には誰でも入れます。核爆弾が展示されていますが、このテーブルのここからここまでぐらいの大きさですね。
惠谷 個人的なお考えでは、北朝鮮が核爆弾をつくる能力はあるということですね。
ガガーリンスキイ 誰も疑問がありません。専門家も疑問がないと思います。できることはできると思います。ほかの問題があるという意見を聞いていません。時間の問題だけですね。いつ開発を始めたのか分かりませんが。
惠谷 今の金正日が、スターリンのように命令でとにかくつくれ、つくれとやっているものの、ガガーリンスキイさんの考えではまだできていないということですか。
ガガーリンスキイ 金正日はこういうことを熱心にやっています。これは国の安全のためですから、彼はよく分かっています。しかし、核爆弾があるということを否定できません。
惠谷 つまり「ある」と。
ガガーリンスキイ あるかもしれません。否定できないのです。しかし、確信もできないのです。情報がないですから。
惠谷 情報がないということですが、この研究所と北朝鮮は交流があるのではないですか。
ガガーリンスキイ クルチャトフ研究所は全然ありません。ずっと昔に終わりました。60年代の半ばに、クルチャトフ研究所の援助で北朝鮮に小さな実験炉がつくられました。この小さな実験炉は軽水炉で、出力は2メガワットでした。70年代の初めに、この関係は終わりました。だから長い間、全然コンタクトをとっていません。
原子力省の北朝鮮とのコンタクトは、90年代の初めに終わりました。90年代まで、ソ連邦と北朝鮮は原子力発電所をつくるため交渉していました。しかし、成功しなかったのです。90年代に北朝鮮はKEDOとコンタクトをしていたので、ロシアとのコンタクトは全部やめました。しかし、私が知っている限りKEDOからは何ももらっていないようです。ロシアとの関係が続いていたら、もうできていると思います。
惠谷 先ほど言った黒鉛炉と、軽水炉があるのですね。
ガガーリンスキイ 二つの原理は同じです。しかし、構造が違う、自転車と車ぐらいの差があります。もちろん発電所ではないですけれども、これは実験炉ですから。これは自転車ですね。アメリカが提出したプランは自動車です。
惠谷 軽水炉の燃料棒が、濃縮ウラン10%だったんですね。
ガガーリンスキイ 濃縮は20%まで。ウラン235。国際原子力委員会に基準がありますけれども、20%までの濃縮ウランは脅威ではないと。環境に脅威ではないということですね。こういう制度に基づいてつくりました。
惠谷 この原子炉に10%のウランを入れるのと、20%のウランを入れるのでは出力、パワーは増えるんですか。
ガガーリンスキイ そんなに簡単に計算はできません。どんなウランでも同じ出力をつくることができます。出力はウランではないです。どのような熱がどこから流されるか。ウランの10%と20%は、核反応の水準が違います。
惠谷 燃料棒の間に減速用の黒鉛を入れて、これで調整してパワーをコントロールする。10%も20%も、こういう運転の仕方で違うという意味ですね。
ガガーリンスキイ 少しあります。こういう核反応のため、状態は少し違うんですね。燃料の密度をもっと高くできます、これは技術なことですが。軽水炉の場合は3%の濃縮ウランでもできます。今でもロシアやアメリカでつくっている軽水炉は、4%とか5%ぐらいです。天然ウランではできません。天然ウランは黒鉛炉でできるんです。
惠谷 知っています。なぜこの話をしたかといいますと、北朝鮮はこの実験炉で、ちょっと数字はわからないんですが、濃縮のパーセントをもっと上げて、自分たちでもっとパワーを上げたと彼らは言っているんです。
ガガーリンスキイ それは不可能です。そのためには特別の工場が必要です。非常に複雑な技術です。この技術があれば、彼らにとってプルトニウムは必要なくなるんです。そのような濃縮ウランで核爆弾をつくることができます。しかし、工場はありません。技術もないです。ウランを濃縮する工場は、今はありません。
惠谷 わかりました。ソ連時代、10%から20%に濃縮したウラン235を、ソ連が北朝鮮に与えていたということですね。
ガガーリンスキイ 全部がウラン235ではありません。ウラン235とウラン238をミックスして核燃料棒として与えていたんです。純粋にウラン235を天然から取り出すためには、非常に複雑な技術と工場が必要です。だから、本当に自分でウランを濃縮する能力、またポテンシャルがあれば、何でもできます。軽水炉の出力を上げることもできます。
惠谷 彼らはロシアから供与された原子炉で、最初は2メガワットだったのを8メガワットまで上げたと言っていますが。
ガガーリンスキイ それは可能です。そのために特別にウランを濃縮する必要はありません。そのなかから高い熱をとるための特別の設備は必要です。熱が高くなります。だからその熱をカバーする必要があるだけです。またもう一つ、どんな原子炉でも出力を千倍ぐらいに上げることができます。しかし、それだと爆発することもあります。ですから、これだけはいつも注意しなければなりません。自然に爆発しないようにと。
惠谷 出力を上げたときに、これはソ連の技術者がいて監督したんですか。
ガガーリンスキイ いいえ、自分たちだけで。そんなに難しい課題ではないですから。また、何のためにそれが必要かも分かります。中性子の流れをもっと強くしたいという研究のために必要です。
惠谷 この目的は、核爆弾開発に関係ありますか。
ガガーリンスキイ 間接的にはそうです。そのような原子炉でもプルトニウムをつくることができます。ウランの濃縮が高くなると、プルトニウムは少なくなります。しかし、黒鉛の原子炉とは全然違います。このような原子炉でプルトニウムをつくっているのは非常に少ないのです。一番いい方法は、ウランを濃縮すること。あるいは黒鉛炉とか、あるいは重水炉だけでプルトニウムをたくさんつくることができます。軽水炉ではほとんどできない。だから二つの国はこういう道を歩んでいたんです。パキスタンは黒鉛炉、インドは重水炉。これは研究のためです。こういう研究プログラムをおこない、専門家に勉強させます。だから直接の関係はありません。
惠谷 北朝鮮には天然ウランがあり、黒鉛があります。そうすると、北朝鮮が核開発をするときに、ウラン濃縮を選ぶのか。原子炉を運転してプルトニウムを抽出するのか。二つの方法だと、経済的、技術的にどっちが楽ですか。
ガガーリンスキイ 多分、黒鉛炉でしょう。ウラン濃縮は全然北朝鮮にはない、少なくとも今までは情報がなかった。しかし、国際原子力委員会の専門家には、そのような考え方はあります。私は専門家ではなく、私の研究の目的からはすごく離れているので、個人として話しているのです。
惠谷 ウラン濃縮のときにカスケードを使うのが、ガス拡散方式ですね。
ガガーリンスキイ そうです。ウランをガス状にして、そのガスのなかのウランを集める方法です。世界にはいろいろな技術がありますが、フランスは今でもこれをやっています。フランスはガス拡散方式で世界一の工場を持っています。簡単ですよ。ガスがあるところでできます。238のウランは重く、235は軽いため、もう一つの有名な技術として遠心分離方式があります。
惠谷 そのシリンダーを北朝鮮はパキスタンから買っているんですね。
ガガーリンスキイ 可能かもしれませんが、知りません。
惠谷 時間が来てしまいました。こういう専門的な話はなかなかできないんですが、オーソリティーと話ができて、満足でした。ありがとうございました。
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