日本財団 図書館


惠谷 この装置を1990年に北朝鮮が開発したと、当時のKGBが共産党中央委員会に報告したという内容が報道されていますが、それは事実でしょうか。
ミハイロフ それは初めて聞きました。クリュチコフ前KGB議長と個人的にも知り合いです。しかし、今、惠谷さんから初めて聞いた話です。クリュチコフは当時、こういうことは全然分からなかったのです。だから、こういうことは知らないと思います。
惠谷 その報道は、ロシアでも「論拠と事実」誌、あるいはイズベスチアでも・・・。
ミハイロフ 言論は自由ですから、何でも発表できます。特にこういうことを発表している人は、本当のことは何も分からないのです。ですから、日本人は安心して眠ってください。問題ないですよ。日本は北朝鮮よりも爆弾をつくることができます。予算もありますし、技術もあります。また、対外的にも非常にいい友人、米国がいます。太平洋を超えて、友達の国があります。太平洋は静かな海ですね。しかし、友人は静かではありません。今、私は真剣に言いましたよ。
惠谷 というか、大事なことは、私の理解では、KGBの発表どおり核起爆装置が完成していたとすれば、五十年前に長崎に落としたのと同じ爆弾が完成していることになります。それが事実だとすればですね。つまり、このポイントが一番のネックであって・・・。
ミハイロフ 核爆弾を作るためには、核のコンポーネントだけでなくて、通常のコンポーネントも必要です。通常の装置をつくるためにも、すばらしい技術が必要です。非常に複雑な技術ですよ。北朝鮮は何もないですよ。ソ連邦が解体してから、北朝鮮は非常に複雑な経済状態にありましたから。
惠谷 分かりました。今回、ロシアに来て、いろんな方に聞くと、北朝鮮にはそういう技術がないということでした。しかしながら、先ほどのKGB報告が引っかかっていたのです。通常爆弾のコンポーネントを含め、工業力がないと原爆をつくるのは非常に困難だという話は理解できます。
ミハイロフ 特に、安全な核爆弾をつくることはできません。何か不安全なものはできるかもしれません。自分の国のなかで爆発するような・・・。
惠谷 先ほど、日本人は安心して眠れと言われましたが、私がなぜ今、できてるか、できてないかに固執しているのは、「ない」ということが日本人にとっては非常に大事だからです。というのも・・・。
ミハイロフ いいえ、それは違います。一部の日本人は、こういう問題を逆に契機として、自分でも核兵器をつくろうと考えています。
惠谷 そうなんです。今言おうと思ったのは、そのことです。
ミハイロフ もう一つの考えがあります。KEDOという組織をつくったときに、本当に3か国で原子力発電所、このエネルギー部門の分野をつくることができたと思います。なぜつくらなかったんですか。これは3か国の責任ですよ。つくったら、3か国は北朝鮮の核開発をコントロールできたんです。しかし、しなかった。どんな理由で予定どおりにつくらなかったのか。もう一つは、ロシアも招待されなかった。何か理由があるのではないでしょうか。だから、KEDOに入っている日本、韓国、米国の3か国は、今のような状態を自分でつくり出したということです。
惠谷 3か国がロシアを排除したいという気があったかどうか、私には分かりませんが、いずれにしろ日本人もKEDOを批判しています。とにかく金を取られる、金を出さなくちゃいけない。そういう意味では逆に、ロシアがKEDOに入らなかったのは賢明だったと思います。
ミハイロフ 今、惠谷さんがおっしゃる通りとも思いますけれども、しかし、現状を考えてみると、ガルーチ・アメリカ大使と話したときに、彼が全部この組織をつくり、そのための規約までも書いたということです。
惠谷 ポイントは、北に核爆弾はないという、はっきりとした事実です。日本人は安心して眠れるのかどうかということなんです。もう一度、私の考えを聞いてください。この爆弾、つまり50年前に長崎に落ちた大きな爆弾は、仮に完成していても、それを日本に運ぶ運搬手段がない。問題はミサイルに搭載する核弾頭をつる小型化技術、これこそ北朝鮮のどこを探しても工業力はないし、つくれない。ですから、日本はとりあえず安全だと私は考えていますが、いかがでしょう。
ミハイロフ 最初の広島や長崎のような爆弾とか、今のおっしゃった核弾頭のどっちもありません。確信をもっています。
惠谷 二つ目の小さいほうは当然ですが・・・。
ミハイロフ 小さいほうも大きいほうも、何もありません。
惠谷 私はフリージャーナリストですが、今回は東京財団という組織の「北朝鮮研究プロジェクト」の一員として来ました。今回の発言、つまり「北朝鮮は原爆を保有しておらず、日本人は安心して眠ることができる」ということをロシアの専門家が断言した、と日本人に伝えたいと思います。今のミハイロフさんの発言は非常に重要だと思います。
ミハイロフ 私も日本に4回行きました。いろんな原子力発電所、大阪、広島、京都にも行きました。大阪、東京には何回か。京都のいいホテルに泊まりました。
 日本は、その道を行かないと思いますよ。自分の原爆をつくる道ですね、行かないと思います。さもなければ、日本は馬鹿なことをすることになります。日本人は馬鹿ではないと思います。
惠谷 私もそう願っています。持ちたいというのは、日本人の一部です。
ミハイロフ そうですね。どんな国にも右翼は必ずいます。しかし、日本は原爆の悲劇があった国なので、そういうことはしないと思います。
 しかし、一つのことには本当にびっくりしました。1994年に日本側と話したときに、ロシア側から核エネルギー資源を日本に売ることを提案しました。しかし、日本側は断りました。なぜ断ったのでしょう。私たちは、そのときにアメリカと協定を結びました。アメリカの原子力発電所のためにロシア製のウランをアメリカに売って、アメリカを通じてロシアの原料が日本に入るようになりましたが、値段が高いということです。
 日本人は本当にはすばらしい国民であり、また文化もすばらしい。しかし、政治的に日本は独立していないと思います。
惠谷 おそらく、ロシア製のウランを買うのを断った担当者は、ロシア製を買うとアメリカに文句を言われると考えたのでしょう。
ミハイロフ そのときに5百トンありましたが、日本は断りました。正式に断わるのではなく、黙っているんです。何も答えない。だから今、惠谷さんはロシアに来て、日本を非常に心配しているとおっしゃいました。しかし、私はこういうプロジェクトを日本に提案したので、日本の心配の理由はロシアではなくアメリカであると思っています。アメリカに行って、アメリカ政府の人に、こういうことを言うほうがいいと思います。
惠谷 それは大事なことです。
ミハイロフ 日本もアメリカも、ミサイル防衛プログラムに参加しています。ロシアの安全については、私たちも核兵器を開発していますので安全を必ず守ります。安全保障の水準は、アメリカと同じぐらいです。アメリカに負けません。どんなに難しい問題、経済的な問題が多過ぎますけれども、安全を守るために努力します。私たちは生き残っていますし、働いていますし、いつも世界でどういう開発がおこなわれているかということを注視しています。
 今日は、惠谷さんに何でもはっきりと言いましたが、日本とロシアとの関係、平和的に核を利用するための交流、協力関係は、これからもっとよくなると期待しております。だから、惠谷さんは日本に帰って記事を書いて、ロシアと日本との関係に役立つようにしてください。これは原子力発電所だけの問題ではないのです。原子炉を持っている船舶、原子炉を使う宇宙開発、ほかの惑星に向かう宇宙船とか、また医学とか農業とか科学など、お互いに研究できる分野が多いと思います。
惠谷 私は正直言って、ロシアが北朝鮮に一番詳しく、具体的な話が聞けるのではないかと期待して来たんですが、一切核兵器はないと断言され、個人としては安心しました。しかし、ジャーナリストとしては、どういう根拠で「ない」と断言するかという点については、ちょっと説得できるかどうか自信が・・・。
ミハイロフ ですから、本当に正しい根拠があるかどうかということは、答えようがありません。こういう問題は、永久に続くと思います。すいません、時間が来てしまいました。
惠谷 分かりました。今日は本当にお忙しいところをありがとうございました。
 
■インタビューその4(2003年11月27日午前10時)
クルチャトフ原子力研究所(RRC)
アンドレイ・ガガーリンスキイ国際関係担当副所長(ロシア原子力協会副会長)
 
惠谷 私の現在の一番の関心事は北朝鮮の核問題です。北朝鮮が本当に核爆弾を持っているかどうか。個人的な意見でいいんですが、技術なことをお聞かせください。
ガガーリンスキイ副所長 私は核兵器の専門家ではありません。クルチャトフ研究所はロシアが核兵器をつくるときに、一番先に開発していたんですけれども、そのとき私は中学校で勉強していたんです。クルチャトフ研究所は1950年代に、核兵器開発から離れました。特別の研究所がつくられたので、当研究所は50年代から核兵器の開発とは関係がなくなりました。
惠谷 50年代からは、例えばアルザマス16とかという研究所で、ということですか。
ガガーリンスキイ そうです。しかし、防衛のために何もしていないとは言えません。当研究所はロシアの国防のために常に何かをしています。しかし、国防のための活動の範囲は非常に狭いです。
 個人的にはみんな、北朝鮮という国が何かということは分かっているはずです。特に専門家は自分でよく研究しているので、分かっていると思います。5キロワットの黒鉛炉があれば、原子炉が稼働している時間を考慮し、二つの爆弾をつくるプルトニウムを抽出することはできたのではないかと考えています。
 しかし、これは原料だけです。原子爆弾のための材料だけです。しかし、本当の意味での爆弾をつくるためには、いろいろな問題がたくさんあります。技術的な問題です。そのような技術的な問題を、北朝鮮は解決したかどうかは知りません。北朝鮮には研究所もありますし、専門家もいます。核開発の知識を持っている人もいます。実際には頭脳はどこでも一緒です。北朝鮮もロシアも日本もアメリカもみんな同じです。
 とにかく、北朝鮮はポテンシャルを持っています。このポテンシャルに基づいて、北朝鮮が核兵器をつくることは可能だと思います。だから、本当に核兵器をつくらせないように、政治的な手段を使わなければなりません。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION