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東京財団研究報告書2004-16 「朝鮮半島情勢の中長期展望と日本」

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団 注目度注目度5


【研究論文6】
金正日政権下の大量餓死について−餓死者300万人の根拠
 
西岡 力(東京基督教大学教授・北朝鮮に拉致された日本人を
救出するための全国協議会常任副会長)
 
餓死者300万人の根拠
 本プロジェクトは今年度提言において「日本人と韓国人を大量に拉致していまだに帰さず、朝鮮戦争をしかけ大韓機爆破など多くのテロを行い、自国民を飢えさせながら、ミサイルと大量破壊兵器で武装している金父子政権は人類の普遍的価値観から見て「悪」である。この「悪」認識が、朝鮮半島問題の大前提となる」と主張した。
 金正日政権は95年以降、自国民を300万人以上餓死させている。本稿ではその根拠を詳述したい。
 
労働党組織部の公式統計
 北朝鮮の餓死者に関する統計は、1997年に亡命した黄長元労働党書記が伝えたものがある。96年11月下旬に黄書記が部下の金徳弘氏を、労働党中央委員会書記局組織部(組織指導部内にある)の担当者に送り確認した統計だ。私は1999年3月ソウルで金徳弘氏と面談し、その時の様子を詳しく聞いた。
 金氏に死亡者の統計を担当している人間が、「95年に50万人うち党員が5万人、96年の11月までの時点で既に100万人、97年もこのまま行けば100万人は死ぬだろう」と伝えたという。金正日はこのことを知っているのか、と尋ねた金氏に担当者は「毎日報告を上げているが、何の対策も下りてこない。このままではいつ暴動が起こるか恐ろしくてならない」と語った。黄氏と金氏が亡命を決意した大きな理由がまさに、国民がこんなに多数死んでいることを知りながら放置している金正日は許せないと考えたことだった。
 金氏は筆者に面談した際「飢えて死んだ」という言葉を使ったが、残念なことにその詳しい定義については質問できなかった。そこには飢えを原因とする病死や自殺、食料調達過程での事故死なども含まれているだろうし、通常の死亡も入っている可能性がある。この統計が総死亡者数だとしても、95、96の2年間で150万人になる。これだけですでに統計庁の102万人を48万人も越えている。97年、98年も状況は好転していないから少なくとも150万人以上が死亡したと見て間違いないだろう。となると、4年間では300万人以上の死亡者が出たことになる。
 亡命者の証言は確認する方法がないことは事実だ。また黄氏らが、「太陽政策」を掲げる韓国政府の圧力や北朝鮮に残した家族らへの配慮からまだ公開していない情報があることは間違いない。しかし、面談した際の印象とこれまで文章として発表されたものの内容から、死亡者の数に関する黄氏と金氏の証言は意図的な誇張や歪曲はないと私は判断している。
 
韓国NGOの難民面談調査
 その上、中国に脱出した難民らに対するかなり大規模な2つの面接調査の結果も、黄証言とほぼ同じ結果となっている。それは、(1)わが民族助け合い仏教運動本部(「チョウン ポッドゥル(良き隣人)」と改名)が「北朝鮮食糧難民1694名面談調査」と、(2)1998年7月から9月に米国のジョンス・ホプキンス大学「難民及び災害公衆保健研究所」が440人の北朝鮮食糧難民を対象に実施した面接調査だ。
 その衝撃的内容を紹介しよう。
 まず(1)だが、これは韓国の仏教系NGOである同本部が1997年9月30日から98年9月15日の約11か月間かけて行った調査だ。同調査は段階に分けて発表されており、1019人までの調査が完了した段階で発表されたものが日本では広く知られているが、その後675人分が追加された最終報告が1998年12月に公表された(注1)。
 
調査対象1694人
 調査対象は中朝国境の鴨緑江、豆満江沿いの中国吉林省長白、延辺地域に潜伏している北朝鮮難民1694人で、調査者が難民の隠れているところを訪れたり安全な場所に案内して、自分は難民を助ける活動をしているものだと知らせ友人になり、難民が自発的に話すことを記録する形でインタビューを実施した。なお、調査対象は1家族1人に限定したため、実際に面談した難民の数は1694人よりも多い。
 調査対象は男性884人、女性810人、年齢別に見ると10代34人(2%)、20代255人(15.1%)、30代573人(33.8%)、40代476人(28.1%)、50代268人(15.8%)、60代84人(5.0%)、70代以上4人(0.2%)だ。
 居住地別に見ると、豆満江対岸の咸鏡北道1009人(596%)と咸鏡南道338人(20.0%)で合わせて8割と圧倒的だが、それ以外に両江道56人(3.3%)、慈江道32人(1.9%)、平安北道34人(2.0%)、平安南道52人(3.1%)の北部地域合計1割と、平壌市10人(0.6%)、南浦市12人(0.7%)、黄海北道20人(1.2%)、黄海南道57人(3.4%)、江原道74人(4.4%)の南部地域が1割もいることが特に注目される。飢餓による中国への脱出者が国境地域だけでなく全国的に広がっていることが分かる。
 職業別では、生産職労働者908人(53.6%)、事務職労働者233人(13.8%)で合計約7割、それに無職260人(15.3%)、家事43人(2.5%)、学生16人(0.9%)を加えると86%となる。比較的食糧事情がよい農民89人(5.3%)、軍人3人(0.2%)、専門職労働者11人(0.6%)で約6%、残りはその他34人(2.0%)、無解答97人(5.7%)だ。
 
家族の死亡率28.7%
 調査では、難民に本人を含む総家族数を確認したあと、そのうち1995年8月の大洪水以後1998年7月末までの3年間に死亡した人数を尋ねている。総家族数は9249人で死亡者は2653人、死亡率は28.7%に上っている。
 家族内の死亡者について年齢別に見ると9歳以下が死亡率38.5%、10代15.7%、20代8.3%、30代6.7%、40代11.0%、50代34.3%、60代76.2%、70代以上90.0%となり、子どもと老人の死亡率が顕著に高いことが分かる。6歳以下子どもの死亡率は48.9%という高率になっている。
 家族内の死亡者について地域別に見ても、全体の平均である28.7%を下まわる地域は平壌市16.7%、平安北道25.9%、咸鏡北道27.5%、両江道28.1%の4地域だけであり、その中でも平壌市以外は25%を越えている。最高は慈江道32.9%、つづいて咸鏡南道32.1%、黄海南道30.7%、平安南道29.9%、南浦市29.4%、江原道28.9%の順だ。家族内の死亡率25%、即ち平均してどの家族でも1人以上死んでいる現象が、全国的に起きている。
 同本部は「北朝鮮の支配層(おおよそ15%、約300万)と農民層(おおよそ30%、600万)を除外し2200万人口中1300万にインタビュー家族平均死亡率28.7%をかけると1300万×28.7%350万だ」結論づけている(注2)。1995年8月から98年7月までの3年間に350万人が死亡した、という推計だ。
 この推計はどの程度、信頼性があるかを考える鍵は、調査の対象になった難民の状況が北朝鮮国内を平均的に反映しているのかどうかという点だ。たしかに、家族内で餓死者が出るという悲惨な状況になったからこそ、命がけで中国に脱出してきた、逆に考えるとそこまでひどくない人たちは国内にとどまっているという分析も成り立つ。
 
95年に配給が完全に中断
 しかし、同調査によると定期的配給がいつ中断したかという問いに対して、1992年以前が11.8%、1993年が12.7%(累計24.8%)、1994年が39.5%(累計64.1%)、1995年が31.5%(累計95.5%)、1996年以降が4.5%(累計100.0%)と答えており、1995年にはほぼ全国的に定期的配給が中断していることが分かる。これは、他の難民や亡命者情報とも一致している。つまり1995年以後は「ヤミができる者が生き、できない者は死ぬ」という状況になっているのだ。
 私がソウルで会ったある亡命者は「隠し撮りのビデオなどでチャンマダン(ヤミ市)の商人らが餓死直前の幼い浮浪児に食べ物をめぐんでやらない場面が出てくるが、あれは北朝鮮人民が冷酷な心を持っているからなのではない。商人らも家で腹を空かせて待っている家族がいて、売り物を少しでもただでやってしまったら今度は自分の家族が飢え死にしてしまうという極限的な生存戦争の現場なのだ」と語った。
 ある面では中国に脱出できた難民はそれでも恵まれているとも言える。それすらできないまま、家族みんなが飢えで死んでいったケースも多い。
 また、同調査では難民に自分が所属していた人民班構成員の死亡者についても尋ねている。難民らの人民班は平均すると26世帯127人が所属しているが、死亡率は27.5%で、家族死亡率とほぼ一致している。これは単純に計算すると127人×1694で総構成員約21万5千人を母集団とする死亡率ということになるから統計的にも信頼性が高くなる。(ただし、調査に応じた1694人の難民の中には同一の人民班所属の者が存在する可能性はある)。また人民班構成員の死亡率を地域別に見ても、平壌市だけが11.7%と相対的に低いが、それ以外の地域は最低の黄海南道でも22.4%、最高は咸鏡南道の31.2%で、全国的に大量の死亡者が出ていることが分かる。







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