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【提言2】
日本は経済制裁を発動せよ
政府は対北朝鮮専門組織を作れ
 
拉致を理由にした第1段階の制裁発動を
 北朝鮮金正日政権は焦っている。その証拠に、拉致と核を巡り政府間交渉に応じ様々な提案を持ちかけてきている。いまこそ、日本は拉致を理由にした第1段階の制裁発動を真剣に検討すべきときである。具体的には、金正日政権に対して期限を切って、制裁発動の予告をすることだ。
 拉致問題についてはこの間2回、政府間協議がもたれた。平壌での日朝高官協議と、六者協議中の日朝協議である。日本の代表はどちらも藪中三十二局長だった。これは北朝鮮側の焦りの現れと考える。平沢勝栄議員らとともに本プロジェクト西岡委員も参加した、昨年12月の北京日朝非公式接触で、北朝鮮側は藪中局長を嘘つきだと口汚く罵倒した(本報告巻末資料参照)。ところが、その藪中局長との公式協議に二回応じた。
 北朝鮮外務省は「日本が六者協議に拉致を持ち出せば退場させる」などと脅してきたが、藪中局長とケリー米国代表が冒頭演説で拉致解決を迫るのを黙って聞いていただけであり、そればかりか、北朝鮮代表は一時間半近く拉致問題を中心とする二国間協議に応じた。経済制裁法案成立と米国政府との連帯という圧力が、北朝鮮をして政府間協議に応じざるを得ない状況を作ったのである。
 六者協議での北朝鮮側の発言は、従来と変わらず拉致を行った犯人が被害者である日本 を一方的に非難するという許せないものだった。ただし、拉致問題の解決が米朝関係改善と核問題解決と関係すると、これまでにない発言があったのは、日米両国の固い連帯に対する焦りと言えるもので見逃せない。
 現段階での彼らの狙いは時間稼ぎである。様々な提案を行いつつ協議を継続し、「話し合いが進んでいるのになぜ制裁発動か」という雰囲気をつくることなのである。いま一番必要なことは、日米両国が核問題と拉致問題についてこれまでの原則的立場を崩さず、両問題の完全解決なしには経済制裁発動が必至だと金正日に認識させることである。これ以上協議だけを続け、金正日の時間稼ぎを許してならない。
 日米首脳は昨年5月、事態が悪化した場合「追加的措置」を取ることで合意している。それから10か月たって、北朝鮮は核と拉致で、事態を悪化させたことは明白だ。濃縮ウラン秘密工場は現在も稼働中であり、保管中であった8千本の核燃料棒は再処理された。帰国した5人、死亡などと通告された10人、政府未認定の数十人以上の被害者と家族の「生き地獄」の苦しみが続いている。
 平成6年(1994年)6月、クリントン政権は国連安保理事会に経済制裁決議案を提出し、在韓米軍の増強を行った。当時の細川、羽田政権は総連などの対北朝鮮送金を厳しく取り締まり経済制裁に全面的に協力する構えを取った。カーター訪朝で金日成が核凍結を提案したのはこの圧力が効いたからである。しかし、事態がここまで悪化しているのに、日米両国は六者協議の続行を認め、経済制裁に踏み切らない。「悪の枢軸」が公然と核武装し拉致というテロを続行しているのに、話し合いだけを続けていて「テロとの戦争」に勝利できる筈がない。繰り返すが、いまこそ、日本は拉致を理由にした第1段階の制裁発動を真剣に検討すべきときである。具体的には、金正日政権に対して期限を切って、制裁断行の予告をすべきである。
 さて、平成14年(2002年)9月17日、日朝首脳会談の場で、金正日が日本人を拉致したことを認め、口頭で謝罪した。これにより、「拉致疑惑」は「拉致問題」となり、国民的関心を集めることとなった。他方、日本人の人権、日本国の主権が侵され続けてきたことも明白となった。さらに、日本の制度や主権者たる国民の意識には、同胞の人権や日本の主権を守ることについて重大な欠落があったことも明白となった。そして、国民意識は急速に変化し、拉致被害者救出のために、北朝鮮に経済制裁を求めるようになった。
 共同通信社の平成16年3月6、7日実施の全国電話調査では、外為法改正を受け、制裁に踏み切るよう求める人が64%、特定船舶入港禁止法案についても74%が今国会成立を支持した。産経新聞が、平成16年3月4日に行った世論調査では、「拉致問題で進展がなければ、北朝鮮に経済制裁を発動すべき」が81%となった。平成15年11月に実施した、「家族会」、「救う会」の衆議院選挙立候補者への調査でも、当選者の81%が外為法改正賛成、76%が特定船舶入港禁止法案制定に賛成している。しかし、国の制度改革が追いついていない。今こそ、国は、拉致被害者を救出するために制裁実施を担当する対北朝鮮専門組織を早急に作るべきだ。
 現在、船舶の入港に当っての検査が厳しくなり、平成15年の北朝鮮との貿易量は、前年の3割減となった。今までの検査が非常に甘かったということだ。他方、舞鶴等への北朝鮮船舶の荷下ろしが減り、境港への荷下ろしのみが急増した。現行法の適用に港によって検査に差があり、北朝鮮がそれに対応して入港先を変更したと思われる。従って、各地の検査状況の確認を踏まえ、現行法内でどのような規制が可能か、それをいつどのように実施するかについての研究が必要となる。前記のような効果も出てはいるが、現行法規の厳格な適用については、昨年以下の提案を行ったので改めて確認したい。(1)在日経済組織や万景峰号などを使った違法資金の不正送金阻止、(2)軍備増強物資・資財輸出の厳格な監視、(3)工作船・工作員の不法上陸阻止、(4)覚醒剤・偽札密輸阻止など。まずはこれらのことをさらに徹底させることが急務である。
 われわれの北朝鮮研究プロジェクトは、平成14年11月に開始され、15年3月、経済制裁や国内有事体制の整備についても緊急提言した。経済制裁については、平成16年2月9日に、我々の提案の一つであった改正外為法が成立したが、首相、官房長官、外相ともに、「今発動すべき時期ではない」趣旨の発言を直ちに表明し、公布後の今も発動に当っての総合的な検討がなされていない。国内有事体制については、政府は平成16年2月24日、国民保護法案要綱を決定し、有事関連6法案も公表したが、今国会で成立するか微妙な情勢となっている。それだけでなく、有事においてもっとも重要な集団的自衛権の憲法解釈問題については未だ対応がなされていない。
 
各省庁を統合した総合戦略なしに制裁はできない
 現在、拉致問題について関係省庁にわたる専門幹事会が内閣官房副長官のもとで作られているが、専門スタッフは皆無である。副長官から指示があれば(実際には首相の判断の下で)関係省庁が動くというが、経済制裁を発動するには、どのような制裁を、どのタイミングで発動すれば最も効果的かを検討し、副長官を補佐する専門組織が必要である。「圧力」なくして北朝鮮との「対話」はできないとの認識が国民世論となったが、日本は戦後、一国で他国に「圧力」をかけた経験がない。これだけのことを行うには、副長官に対し助言や提言を行う専門組織が必要なことは、民主国家として当然のことではないか。また、これらの実施に当っては、各省庁の協力が必要となる。関係省庁を統合した総合的な戦略なしには効果的な制裁は難しい。これにより被害を受ける日本の関係業者等への保証措置などの検討も必要となる。
 改正外為法の成立でようやく制裁カードが一枚できたが、これは決して単純な一枚のカードではなく、この一枚のカードで数次にわたる制裁ができる。例えば、禁輸指定品目をどう選ぶかで段階的な制裁が可能になる。最初の規制品目として、高級食材を初めとする金王朝の御用達品や贅沢品はすぐにでも禁止すべき品目である。特に、日本が制裁を発動したことを短時日で金正日に知らせるには、これらの品目が一番効果的だ。いずれは中国品等に代替されるとしても大きな心理的効果がある。さらには、金正日政権を支える北朝鮮軍の輸送は大半が日本製トラックでその部品は今も毎年日本から輸出されている。ミサイルや核兵器の部品も大半が日本製と言われる。これらを禁輸品目に指定すれば北朝鮮軍は著しく弱体化する。特定品目の禁輸指定は、現行法の運用によっては不可能だ。外国為替及び外国貿易法による制裁品目として指定されて初めて実施が可能となる。
 制裁に対しては北朝鮮による過激な脅迫が予想される。この脅迫に関して国民の不安を解消するための心理的対策の研究も必要である。特に、制裁実施は、両国間の緊張状態を高めることになる。この緊張状態に耐えて制裁を行わない限り、被害者の救出は不可能である。それだけでなく主権や人権が冒される場合、日本は毅然と対応する国だという印象を与えることこそが、新たな犯罪を未然に防止することになる。最初の拉致事件でこの毅然とした態度を示せなかったから、その後100人にも昇る被害者を出してしまったのである。そこで、制裁には脅迫される可能性があること、しかし制裁しなければ核武装の完成等もっと大きなリスクがあることを国民に説明し、その上で制裁に支持を取り付けることが必要となる。これらの研究を専門組織が早急に行い、制裁を実施できる体制を作る必要がある。
 さらに、制裁の目的は拉致被害者救出にあるが、その被害者たちが北朝鮮で今どのような状況にあるかの情報収集はまったく進んでいない。これこそ最も緊急の課題である。相手が閉鎖国家とはいえ、可能な限りの努力を行うべきだ。また、制裁の実施に当っては、緊急時に対応するために、専門組織が訓練を重ねておくことも重要である。自然災害であれ、原発事故や大規模感染症への対応、生物・化学兵器への対応でも、日頃の訓練がなければ緊急時に対応が難しい。そのために、平時こそ、対応マニュアルを作り、意思決定のあり方、指揮命令のあり方、マスコミへの対応等を決めておく必要がある。また、危機管理はマニュアル通りに対応できないことが多く、それだけに平時の訓練が必要となる。さらに、どの官庁がどの役割を担当するかも事前に定め、訓練を重ねておくべきであろう。
 制裁を実施するには以上のことを検討する必要がある。また、制裁は各省庁が別々に行えばすむ事柄ではない。各省庁を統合した総合戦略なしに制裁は実施できないのである。日本人の人権、日本の主権が侵された場合には、随時、短期集中型の専門組織が組織される仕組みを作っておき、危機管理を行わねばならない。これは日本が近代的国民国家たりえているのかが問われることであり、日本が主権と人権を守りつつ生存しようとするならば避けて通れない課題でもある。政府は、安易な期待を前提に時間を過ごすことなく、勇気をもってこれらの問題に正面から立ち向かい、拉致被害者を救出しなければならない。
 集団的自衛権の憲法解釈問題についても一言触れておきたい。
 我々は前回の提言で、日米同盟強化こそが北朝鮮の暴発カードへの対抗策となると主張した。これは北朝鮮の脅迫外交にも極めて有効な対抗措置となる。テロに対しては、数百倍の報復を覚悟せよとの日米の強い意志を示すことが最も有効かつ平和的なテロ対抗策である。そのためにも集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の正常化を早急に実現すべきである。







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