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グリーフケア
〜死別の悲しみ〜
広島県緩和ケア支援センター
緩和ケア支援室
阿部まゆみ
 
グリーフケアに携わる看護師の役割
■存命中の関わり:
・最愛の人を看取る家族の心理面への援助(ライフレビューと予期悲嘆)
・療養者と家族が残された時間の中で、家族全体としての人生を‘完結’するという視点で支援する。
・家族が「限られた日々の中で目的を設定して暮らせるよう、配慮し、最後までできる限りのことはした」という感覚が持てるように関わる(ケアヘの参加とアドバイス)
・死別に伴い生じてくる問題に対応する準備を整えるために他職種との連携と役割の調和を図る
・スタッフヘのケア(オープンなカンファレンス)
 
死別の悲しみ
〜喪失予期悲嘆〜
■予期悲嘆とは、家族が最愛の人の死を逃れることができない状況を医療者から告げられたことにより嘆き悲しみ苦悩することである。
・家族がやがてくる最愛の人の死別を想定し、残された日々を家族と共に過ごす中で喪失の危機を乗り越え、心の準備を整えてゆく時期を指す。
・告知の有無・事実に伴う共通認識が家族間でできているかどうかが、その後の生活に影響を及ぼすことに繋がる。
・医療スタッフ:療養者の死を予期して悲しむ
療養者の死亡と同時に終わる:グリーフケア
 
予期悲嘆への援助
1. 死の予告前の準備:療養者と家族の信頼関係を築くこと(療養者と家族からのサイン)
2. 衝撃および防衛的退行段階の援助:死の予告を受けて混乱している家族の状態をあるがままに受け入れ、悲しみを共有しサポートする。(安易な励ましは行わず、家族のエネルギーの回復を静かに待つ)
3. 承認の段階の援助:死を避けられない現実に直面している家族が悔いをのこすことがないようニーズを満すよう働きかける。(身の回りのケアに参加するチャンスを)
4. 適応段階の援助:家族が死別の状況を受け入れ、その状況に積極的・建設的に対処することをサポートする。(仕事の整理、子供の将来、家族・夫婦間の対話、逢いたい人に会う、懐かしき故郷へetc)
 
予期悲嘆のケアポイント
1. 症状コントロールの保証を与え、最善を尽くす家族が抱える不安を確認する
2. 将来予測されることの説明
3. 家族が現実をどの様に把握しているか現実とのズレを訂正する
4. 最愛の人との時間と場の共有に心がける
5. 避けられない最愛の人との別れと悲しみの渦中にある家族:
・精一杯ケアに参画できるチャンスを提供
・最愛の人の役に立っている実感が持てるよう関る
6. 悲しみを表現する時間と場所を提供する
・家族の悲しみを十分に表現する。
・医療スタッフも悲しみを表現する
 
喪失(Loss)
■喪失とは、その人が持っている何かが奪われる、何かを失う状態、または失った状態を指す。危機や激しい悲しみを伴う、愛の喪失・役割の喪失・自己観の喪失がある。
1. 愛の喪失:死別・別離・失恋など愛の対象を失う
2. 役割の喪失:女性・男性、妻・夫として、母親・父親など位置付けと役割を失うこと
3. 自己観の喪失:
・人格的自己の喪失(自尊心、社会的名誉や誇り、自身を失うこと)
・ボディイメージの喪失(外傷・手術、疾病による身体の形態の変化、下肢切断や乳房切断、四肢の麻痺、失明・失声などの身体機能の変化や喪失)
 
悲嘆(Grief)
■悲嘆とは、死による喪失から生じる深い心の悲しみであり、死別から生じる一連の心理過程であり、強い感情ないし、情緒的な悲しみの体験を指す。悲嘆は、喪失に対する正常な心理反応である。
■死の受容に影響する因子:
1. 死別対象との関係性:その人との絆や親密度
2. 死のタイプ:予測できた死・突然死
3. 死の状況:苦痛や苦悩の多い死、穏やかな死
4. 死の場所:PCU・ホスピス・自宅
5. 残された人の特性:年齢・役割・これまでの死別体験や喪失体験、ストレスに対するコーピングスタイル
6. 残された人に役立つ資源:家族や親戚・友人、医療従事者によるサポート
 
グリーフワーク(Grief work)
■グリーフワーク:死別後の悲しみは、計り知れないほどの身体的、かつ情緒的なエネルギーが必要となる。グリーフワークは、死別後すべての人が辿るであろう悲しみに対する努めのことである。グリーフケアとはグリーフワークを支えることを指す。
■グリーフワークを成し逐げるための4つの課題
1. 喪失の現実を受け入れる
2. 悲嘆の痛みを経験する
3. 故人がいない世界に適応する
4. 故人に注いでいた多くのエネルギーを新たな関係に向け変える。(新たな自分の人生を歩んでいく)
 
喪に服する(Mourning)
■喪の仕事、喪に服するというのは、死による喪失に引き続いて個人が行うべき社会的儀礼であり、社会的・慣習的に規定された行動である。
1. これらの社会的通年は、国籍、宗教によっても異なる。
2. 例えば、死後の儀式:お通夜、告別式、初七日、四十九日、一周忌、三年忌。
3. 喪服を着る。華やかなところへ出席することを辞退する
4. 喪の手紙を届ける
 
 
悲嘆プロセスに影響する心理的要因
1. 故人との関係性の特質
2. 個人の対処行動:(1)故人について話すことを避ける(2)仕事や学業に専念する(3)現実からの逃避として飲酒や薬物、飲食におぼれる(4)死にまつわる細部にこだわる(5)亡くなった場面、あるいはその経過にこだわる(6)重責感や救済のためのはけ口として宗教にのめり込む(7)家を売るとか、引っ越すとか重大な決断を下す(8)孤独や絶望からの救いのため他者との接触を求める
3. 死に対する基本的な信念と態度
4. 知性と人間的成熟度のレベル
5. 喪失についての過去の経験/6. 人種的・文化的・宗教的背景
7. 故人が託した未完了の責務や言葉
8. 社会的支援システム
 
悲嘆のプロセス
■死別後の悲嘆プロセス:死別後の悲嘆のプロセスは、人により様々であるが、通常愛する人の死と同時にショック、突然の悲しみ、無感動、放心、死を否定する否認、現実逃避などが起こる。このような死別による悲しみは病気ではない。
1. 死別に伴う危機は、通常1〜2ヶ月である。
2. 正常な悲嘆の時間は人により異なるが、6ヶ月〜1年とされる
・死別後から立ち直るまでの期間
 6ヶ月:50〜55%、12ヶ月:70%、18ヶ月:20%
3. 大半の人は家族や友人などのサポートにより罪悪感などがなくなり、感謝の気持ちなどがでて立ち直る。
4. 子供もまた子供自身の死別の悲しみのプロセスを経験する必要がある。
5. 女性の方が男性より立ち直りがやや早い。







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