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病的な悲嘆
■病的な悲嘆とは、死別に伴う悲嘆の過程がうまくいかなく意識的・無意識的に抑圧され、悲嘆が長引き、前向きに歩めないなどその人の生活に影響を及ぼした状態。(悲嘆過程が停止している状態で死別者の10〜15%が陥る)
1. 遅延した悲嘆:強い死の否認や現実逃避により悲しみが遅れて押し寄せる。
2. 悲嘆の欠如:悲嘆の反応が全く現れず、その感情も知覚できない。故人に対する矛盾する感情や敵意が現れることを無意識に恐れる
3. 抑圧された悲嘆:悲嘆の反応を隠し、意識的に自分をコントロールする。
4. 慢性的悲嘆:現実を否定するような行動をとり、苦しみから身を守る。
 
グリーフケアのポイント
1. 死別後の時間の経過と共に、やがて故人はもはやこの世にはいないのだという現実を受け入れていくなかで受容でき、そして新しい自己イメージや価値観を築いていくプロセスにあることを理解する。
2. 悲嘆がうまくいかず、病的な悲嘆を招いたとしても、適切な援助者がいれば、決して遅すぎることはないことを自覚する。
3. 亡くなった人のことを話す機会と場所が必要(感情を表現できる場とありのままを受け止める、環境整備)
4. これらの過程で新しい人間関係が作られ、故人に対する罪悪感などがなくなり、むしろ感謝の気持ちが出てきて、より成熟した人間になるチャンスである。
5. 悲嘆の苦しみは、より深い、生きる喜びを発見させてくれるチャンスとも言える。
 
遺族ケア
■遺族ケア
・うつ状態を経験する家族
・現代社会の変容と共に核家族や家族間の支え合いの希薄、難しさなどから第3者からのサポートが求められている。
・専門的ケアとしての確立が急務:聖クリストファーホスピス(表1)
・遺族会の開催:
 
■デスエジュケーション(死の教育)
・死の場面に直面することが少なくなってきたことにより死を語らなくなってきている。
・誰もが避けられない死をタブー視してきたことによる「死」の捉え方に変化の兆しがある。(子供たちへの関わりが急務)
 
死別後のサポート
■来院時(死後2〜3週後):お悔やみカード
・悲嘆のピークの時期、健康状態と家族の様子について伺う。何時でも相談に応じることを伝える。四十九日後の訪問
■3〜6ヶ月後、1年後のコンタクト:
・悲嘆の状況・身近なサポートの存在を確認する。電話、はがき、遺族会など
■セルフヘルプグループヘの紹介:
・共通の体験を持つ人同士が情緒的に支え合う。他者の考えを聞く、自己を語ることで客観的に自己を見つめる機会にする。
■子供へのサポート:まず、子供に声かけをし接点をもつ
(名前で・・・)思い出で語る場、絵本、他
 
セルフヘルプグループ
■セルフヘルプグループの意義:
・愛する人を失った体験を持つ人々が同じ立場で情緒的に支え合う。
・孤独感を軽減する。
・同じような体験者が共有した時間を持つことで互いの理解が深まり、現実に起こっている様々な問題にどのように対処しているのか、他の参加者から学ぶ場と時間を提供する。
・他の人の考えを聞く、あるいは自己を語ることにより、自分を客観的に見つめる。
・死別の体験を人生のストーリーに位置づける作業を進める。
・故人に関わってくれたスタッフとの会話の中で重責感が和らぐことや心の傷が癒されたりストレスの緩和につながる。
 
今後の課題
■地域への働きかけ
・デスエジュケーション:家庭で、教育の現場で、地域で。
・地域社会で支え会う活動:小さなコミュニティのあり方
・ネットワークづくり:組織、ボランティア
 
■演習:
・死別した最愛の人への‘心のLetter’
・死別時の‘わたし’と周囲の‘人々’:子供の絵とアイディア
聖クリストファーホスピス(表2)
子供・成人をサポートする絵本の紹介
 
 
'05 在宅終末期ケアナースの養成
Bereavement: 死による分離、あるいは喪失
 Bereaveの意味は、(病気や事故などが)人から奪い去る、希望などを人から奪う。
受容:肉親(愛する人)の死を受け入れることは、難しいものです。
 「死」を懸命に否定しようとしたり、関係のない人が死んだことを見たり聞いたりしたのだと考えようとするのが普通であります。
 
身体的特徴:
肉親を亡くした人々が、緊張、肉体疲労、食欲不振、睡眠障害などを経験しています。愛する人を失った悲しみは長く続き、心身ともに疲労します。
絶望と意気消沈、生きることへの興味もなくしたように感じ、このまま生活を続けることが無駄のように思い、他の誰も自分のような辛い経験はしないだろうと思い込むことがあります。これらは、肉親と死別した人におこるごく当たり前の反応であり、精神異常の徴候でもなく、家族や友人を失望させようとしているのでもありません。
感情:もし、あなたが肉親を亡くし深い悲しみや嘆き、自己批判、罪悪感、混乱、自己憐憫、怒り、時には周りの人々や亡くなった人に対しても怒りを感じる時、このような感情を抱いた時隠さなければと思うかもしれませんが、これも肉親の死の一部なのです。同情して聞いてくれる人に気持ちを打ち明けることをためらってはいけません。あなたは、過去に亡くなった別の人々のことまでも思い出してしまうかもしれません。家族や友人が自分を避けていると思い込み傷つくかもしれませんが、これはよくあることで、おそらくなんと言って慰めたらよいかわからないという彼らの気持ちから起ることでしょう。このような場合は、あなた自身が、最初の段階を踏むことも必要でしょう。それによって、亡くなった人について話したい、支えて欲しいというあなたの気持ちを家族や友人に知らせることができるのです。
 
変化:時に私たちは、引っ越したり、亡くなった人の持ち物を整理したり、人に会うことを拒絶したりすることで、悲しみに耐えやすくなると考えます。つらいことを避けようとするのは自然の衝動です。しかしながら、このような急激な変化は、かえって事態を悪化させるのです。何か変化を起こそうとする時は、注意深く考えなければなりません。生活を新しくしようとする前に、様々な強い誘惑に立ち向かい、乗り越えていく努力が必要なのです。
 
再出発:時が経つに連れて悲しみが薄れてきたら、それほど苦しみを感じることなく、亡くなった人のことを考えられるようになるかもしれません。
 これは、あなたの生活を出発させる時であり、以前の興味を呼び起こし、新たな追求を始める時です。これは、亡くなった人に対して、不忠実なことのように思われるかもしれませんが、過去に起ったことはあなたの一部であり、現在を楽しむことに影響するものではないのです。
 
〜深い悲しみは、非常に個人的な過程であり、人それぞれ違った反応を示します。そのため、ここに書かれている事柄にあわないからといって、自分が普通ではないと考えないで下さい。
 大切なことは、悲しむことを自分に許すことであり、愛する人の思い出が忘れられなくても、時には悲しみを忘れるようにすることです。
 それが結果的には、悲しみから逸脱することになるのです。〜
 
Bereavement Service
St Christopher's Hospice
 
表3 ヤロムの治療的要因
(1)他愛性 他のグループメンバーを援助することで、自分自身に肯定的感情をもったり自己評価を高める。自分の思いやりが生きた体験によって健康な自己愛が刺激される
(2)カタルシス グループの仲間から受容される体験を通してグループのなかで起こった出来事に対してそれが肯定的であれ、否定的であれ、それまで抑えていた情動の解放があり安堵感を得る
(3)受容 所属感をもつことができ、自分が支えられ、配慮され、グループのなかで無条件に受け入れられ、自分がグループのなかで価値ある存在として認められる
(4)ガイダンス 仲間から、自分自身の事柄に対して役立つ助言や新しい助言、新しい情報を得る
(5)自己理解 自分自身の行動や内面の動機、無意識な思いに関する重要な新しい理解を得る
(6)同一視 仲間の肯定的な側面を自分のモデルにすることによって自分自身のあり方に対して新たな学びを得る
(7)希望 自分自身の成長や変化について、グループでのほかの人との触れあいや他の人の成長を目の前にすることによって将来に向けて希望や目標となる
(8)普遍性 ほかの人も自分と同じような感情や問題をもっていることを理解し、人間の行動や苦悩あるいは努力には普遍性があり自分だけのものでないことを知る
(9)実存的要因 生きること死ぬことの痛みや空虚さを現実として、自分1人で直面し素直に受け入れることによって、世の中のどうしようもないことをあるがままに受容する
(10)自己表現 自分の自己表現がどのように他者に伝わるのかを学び、他者に対するより正確な自己表現の糸口や対人関係のなかの自己理解が進む
(11)関係技術 他者と人間関係を展開することを学び、自分の他者に対する対人間関係技術が高まる







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