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阿部まゆみ
 
● 臨死期のケアと看取り
● グリーフケア
2005年1月21日(金)
県立広島病院
緩和ケア支援センター緩和ケア支援室
室長 阿部まゆみ
 
臨死期のケアと看取り
広島県緩和ケア支援センター
緩和ケア支援室
阿部まゆみ
 
 
 
日本人の死生観
■死と死にゆくことへのイメージ:未知なるもので未経験のものである。
■死に対することへの消極的なイメージマネジメント
・死は誰にでも訪れることを認識する
・死は生の一部であり、人類のサイクルである
・有終の美(終わり良ければすべて良し)
・来世の世界(天国へ逝った人との一体化を期待する)
■死の床にある患者とのコミュニケーションの見直し
・医療者が恐怖・敗北と見なしている死のあり方について考える(身内の死に遭遇した場面、安らかな看取りであった事例)
・療養者・家族と共に人生を回顧し、ライフレビューを通して共にある時間を生かす。
 
臨死期のケア
■臨死期:死の臨んでいること
未知で避けることのできないこと
 
人生で一度限りの経験として味わっている時
人生の終局である死は永遠の真実である
■臨終:死に臨むこと、死に際、末期
 
■看取り:1. 見て知る、認める
2. 見て写し取る
3. 病人の世話をする、看病する
■看護の看は:1. 見ること 2. 見守ること 3. 看取ること
 
臨終の場
■臨終の場:病院での死の増加:91%
 緩和ケア病棟・ホスピス:2.5%
 在宅での死:6.5%(約45%の人が在宅ケアを望んでいる)
■在宅での最期の迎え方:本人と家族の大切な別れの時間
・本人の意思を最大に尊重し、その時を迎える様に援助する。
・在宅での臨終は、最もその人の自然な姿として、安らかな時間の流れ、家族の輪と見守りがある。
・特に家族の援助があるからこそ、療養者は自分らしく生き、自分らしい生を完成し、安らかな最期を迎えることに繋がる。
 
死へのプロセス
臨死者が辿る心理過程 キューブラロス
第1段階:「いいえ、私ではない」という否認の段階
第2段階:「なぜ私が?」という怒りの段階
第3段階:「そうなの、だけど・・・」という取引の段階
第4段階:「やはり、そうなの」という抑うつの段階
第5段階:「いよいよね。でも大丈夫」という受容の段階
 
*これらの段階は絶対的ではなく、心の揺れに行ったりきたり個々の置かれた状況で異なる。また各段階ともに希望が存在している。
*この心理過程は、目の前の療養者がなぜそのように行動しているのかを理解するための価値ある道具と言える。
 
死の数ヶ月〜1ヵ月前
■人はからだの調子から「自分は死ぬのだ」ということを現実のものとして意識し、身を引くようになる。これは「今日は誰とも会いたくない」という言葉が発せられたとき、あらゆる取り巻く自身の世界から、身を引いて生き、内なる世界へ向かっている。やがて死を迎えることが現実となってきている時点において、人は励ましの言葉かけより、スキンシップや沈黙・間が重要となる。
■食事量が減ることは自然なことであるが、家族にとって受け入れがたいことを理解し、微調整しながら本人の食べやすいものに替えていく。
 
*闘病が病気と共に繋がっているのは、本人の強い意志と自律を助ける家族の力と分ち合いなど思いやりの中にある。
 
臨死期にある療養者の理解I
■臨死期にある療養者が抱えるトータルペイン
1. 自分の病は治らないのではないかと不安・怖れ・孤独感などの精神的苦痛をもつ
2. 本人がもっていた社会的関係が破綻することにより生じる仕事上のこと、残される家族のことなどの社会的苦痛
3. 過去を顧みての罪責感、死の恐れ、死後の世界への不安などのスピリチュアルペインなどを併せ持つ
*療養者の行動にはすべて個々の意味があることを理解する。
*療養者の心身は激しく揺さぶられるなかで、避けられない死と対峙している。
*安易な励ましではなく、分ち合おうとする態度でその場を共有する時間を大切にする。
 
臨死期にある療養者の理解II
■瀕死の状態の中で・・・
・亡くなった人からのメッセージ
・神からのメッセージ
・人生を振り返り、意味を見出し、準備を整えていく
・悟りの境地を得て恐怖心が消え穏やかになる
・周囲の人々との許しと配慮
■臨死期におけるケアの考え方
・急性期の危篤とは異なり、救命、延命が目的ではない。
・療養者が人間としての最後まで「尊厳」を保ちつつ、安らかな死を迎えることができるよう、家族と共に援助する。
・看護の柱は、療養者の苦痛の緩和と家族支援である。
・言葉かけやスキンシップを通しての分ち合いが重要となる。
 
療養者と死について語る意味
■死にゆく人と死について話をする
1. 場に入り信頼関係をつくる:直接的な看護ケアで距離を縮める。自分自身をオープンにする。
2. 時期を見極める:療養者のおかれている状況(病期・病状・ニーズ・身体的な条件・前後の文脈)から判断する。
3. きっかけをつくる:体験している身体について話してもらう中で、変化などを捉えて率直に関心を示す。
4. 具体的な表現方法を提供する:日記や手記、子供達へのメッセージ(録音・カード)家族や友人へのメッセージ
5. 話を聴く時間を保証する:時間・場所を約束する
6. 話してくれたことに感謝する:‘あなたの思いが分りました’
7. 療養者の表現スタイルを尊重し、療養者の持つ力を信じる
8. 周囲のサポートを用意する:スーパーバイズを受ける
 
療養者と家族と共に歩む
1. 看護師は家族ではない:問題解決の‘当事者’は「本人と家族」である。
2. 療養者と家族の体験する様々な喪失は多種多様であり、悲嘆の苦しみが伴う。そして、喪失を契機として人間の存在そのものに関する問いが様々な形で日常的に起こり、療養者は切実に援助を必要としている。
3. 価値観が多様化してきている今日では、個別的な援助の工夫が鍵となる。
4. 療養者と家族のニード、望みに注意を傾け、本人自身がより良い方向を選択できるように支える。
5. 療養者の想いに耳を傾け希望を育む場を作ること
6. 療養者と家族を一単位として捉え援助する。ただし、家族関係は単一ではなく、家族として生きてきた‘歴史’の影響とその結果が現れる。
 
臨終1週間前の特徴
■第1段階:診断に伴う予後告知、予期悲嘆
■第2段階:状態悪化、危篤
■第3段階:臨終の時
■第4段階:永眠(死の訪れ)
■第5段階:死後のケア(エンゼルケア)
■第6段階:家族ケア(遺族ケア)
 
■ターミナル前期(月単位)、中期(数週間)後期(数日)
 
第1段階:診断に伴う予後告知
■病気を根治することは不可能で、危篤までの時期
・その人が、その人らしい死を全うするための準備期間
・本人と家族が残された時間の中で、人生の回顧を通して自らの人生における意味を見出し、準備を整えていく。
・本人のゴールを達成する様、共にある時間を生かすよう関わる。
・療養者の死に備えて具体的な情報を提供し、準備(心、物品、手配、他)することを援助する。
■看護ケア:身体症状の苦痛緩和をはじめとするトータルペインの視点でのアセスメントとケア提供。日常生活援助と安全安楽への援助、本人を中心とした家族との生活空間を醸し出す。
1. 環境づくり:本人らしさを保つ配慮(音楽・愛用品・写真)
2. 面会:家族や親しい友人などと早めに合えるよう配慮
・周囲の人々との許しや感謝の時間:互いに感謝を告げ、癒し、祈りへ・・・やがて悟りの境地を得て恐怖心が消え穏やかとなる。
3. 愛する人を見送ることへの準備
 家族の受け止めについて把握する:近い将来、愛する家族の一員を見送ることについて家族はどの様に受け止めているのか。
・死を目前として、症状の変化に家族も不安になるため死までの自然な過程について、予測も含めた対処方法を説明しておく。
4. 悔いのない関わりができる様にする:家族のエネルギーレベルはどうか? ・家族が本人とどのような時間を過したいのか
・何をしてあげたいのか、何をしてもらいたいのか
・どのように最後を看取りたいと考えているのか
5. 療養場所と治療の選択の援助:
・突発的な状況が発生したときどのようにするか、本人の意思の確認(最大限本人の意思が尊重される)
・延命処置について、現段階で選択できる医学的処置、それを実施しないことも含めて、十分な情報を分りやすく説明しておく。







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