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中山康子
 
家族への支援
2005年1月21日(金)
在宅緩和ケア支援センター「虹」
代表 中山康子
 
平成16年度 在宅終末期看護セミナー
2005.1.21
「家族への支援」
NPO法人 在宅緩和ケア支援センター“虹” 中山康子
1. 緩和ケアの定義(WHOの定義)
 “緩和ケア(Palliative care)とは、治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者に対して行われる積極的で全体的なケアであり、痛みのコントロール、痛み以外の諸症状のコントロール、心理・社会的・スピリチュアルな問題の解決を重要課題とする。Palliative careの目標は患者とその家族にとって可能な限り良好なQOLの実現におく
 
 ターミナル期の療養者と家族への支援においては、その方の人生の総決算の時に関わらせて頂くという意識を持つことが必要ではないでしょうか。
 
2. 療養者・家族の在宅ケアに対する意思の確認
 療養者・家族はそれぞれ病状、予後をどのように認識しているか。
 在宅ケアに移行する理由(思い)は何か。
 療養者・家族が訪問看護師に求めていることは何か。
※訪問看護を利用していただくに当たって、対象者が求めている事のひとつに信頼がある。
 
Q. 信頼関係はどのように結ばれるのか、各々で考えましょう。
 
<信頼関係を築くための初回訪問のポイント>
・さわやかに挨拶をし、誠実な態度で接することを基本に、個々の持ち味を出す。
・病歴は、単に治療の経過を聞くだけでなく、本人・家族の感情も知る。特に大変であった時期のことなどは「手術後はご家族も気が休まらず大変でしたでしょう」と話し掛けると、「それよりも・・・」と、本人たちにとって一番大変であったことが語られる。私たちが知らない時期のその人の物語を当事者の口から聞くことは、現在のその人の行動や考え方、価値観、医療者に対する姿勢を理解するために有益である。
・身体面の観察は、痛みなどの症状があるときはボディチャートに図で記しておき、本人の症状体験とこれまで本人が工夫してきた対処方法を聞く。このことを通して、不快な症状をもつ本人も担当看護師に自分の辛さが伝わったと多少なりとも感じ、また訪問看護師も本人のこれまでの症状対処の工夫を聴くことで、本人のセルフマネジメント力のアセスメントや家族介護の方法を共に考えることが出来る。
 
3. ターミナル期における家族ケアの実際
○ターミナル期における家族ケアの目標
 辛いことではあるが、療養者が亡くなることを家族員ひとりひとりが受け取れるように支援する。
 変化する療養者の状態に対して、どのように対応したら良いのかわからず療養者から家族が離れてしまわないように支援する。
 療養者の死が家族に与える影響は、患者の年齢、家族内でしめる患者の位置、関係性によって様々。
 家族が療養者と望むかかわりを持ち、療養の経過を理解しながらそのプロセスを歩むこと、また家族の悲しみなどの感情を表現できるように支援する。
 可能であれば、家族がケアを通して、生きることや自分の人生、家族の存在を再認識す機会になるように支えていく。
 
○家族ケアにおける看護師の基本姿勢
家族アセスメントを通して家族を(看護者として)理解し、健康問題によって変化した(発生した)家族の抱える課題に対してケアを提供していく。
・課題を乗り越えていくのは家族。そこを支援する。
・ケアにあたる看護師は中立であること。
・ありのままの家族の姿をまず「そうなんですね」と受け止めることから、家族ケアが始まる。家族を力付けながらケアを深める。
・対象者の全体像と家族の全体を掴み、時間軸も考慮しながら関わっていく。このようなケアを作り上げていくためには対象者との信頼関係が重要であり、関係形成初期の初回訪問から大切に。
 
○家族アセスメント
 ケースの必要に応じてアセスメント項目を選ぶ。全てをアセスメントしていたらケアが出来ない
1. 家族構成
2. 拡大家族構成
3. 家族としての発達段階
4. 家族の日常生活状況
5. 家族の病状理解や介護意欲、在宅ケアに対する理解や看取りに対する考えなどケアの視点にたったうえで必要に応じてアセスメント
6. 家族の絆
7. コミュニケーション
8. 家族の問題解決力
9. 家族内の役割
10. 関係の方向性・強さ
11. 宗教  など
≪カルガリー看護モデルを参照≫
<ケアの実際>
(1)家族のために面接時間をとる。
 気がかりなことの相談を受けると共に家族の感情表出を促す。(予期悲嘆など)
 家族の病状の理解はどうか?
 心理状態は?
 今、介護しておられて一番気がかりなことは何ですか?(在宅療養中の課題の解決)
 医療者への要望 など
(2)家族の疲労への配慮 休息の工夫
(3)充分に療養者の病状の疑問に答える
(4)ケアヘの参加を促し、心残りのないようにする。ケア方法の助言。
(5)看取りに対する心の準備
(6)看取りのとき
 
<ターミナル期に家族の抱える課題>
 延命を望む気持ちと、苦しみを早く楽にしてあげたいと思う葛藤
 介護疲れ
 患者の死を受け入れたくない
 自宅で看取れるかどうかの不安
などケースによって様々。ケアをしながらアセスメントすることが必要。
 
カシオペア在宅緩和ケア支援委員会 編 ガイドブックよりコピー
(岩手県二戸)
お別れを迎えるにあたって
 患者さんに死が近づいてくると、普段と違ったいろいろな症状が出てきます。ご家族の方はそれらの症状に遭遇した時、不安と悲しみでどう対処したらよいか混乱すると思います。しかし落ち着いて患者さんの手を握り、症状に対処しながら亡くなるまでの経選を受け止めてください。
1. こんなことがおこります
(1)手足が冷たくなったり、冷汗でじっとりしたり、手足の指先が紫色になったりします。湯たんぽなどで暖かくしてあげたり、さすったりしてあげて下さい。
(2)眠ってる時間が多くなります。ご家族の方は会話ができずさびしい思いをするかもしれません。ときどき目覚めが悪くなったりします。無理に起こしたりせず眠らせておいてよいと思います。
(3)時間や場所、名前、時としてご家族の人のことも分からないようなことを話したりします。頭がおかしくなったと悲しまず、見守ってください。
(4)死が近づくにつれて、尿の量が減り、濃い色になり、徐々に尿が出なくなります。
(5)口からの分泌物が多くなったり、痰があがってきて喉の奥でゼロゼロという音がしてきます。この症状は体力が低下してきて自分で痰を出せないことによるものです。口の中にある痰は、綿棒でぬぐってあげたり、ガーゼなどで拭いてあげてください。吸引器が必要な場合は、看護師が手配し使い方をご説明いたします。
(6)お話ができなくなっても、最後まで聞こえていらっしゃいます。眠っているからといって患者さんの前で病気の事や聞かせない方がよい話は控えた方がよいでしょう。
(7)身体がだるくて身のおきどころがなくなり、じっとしていられず、終始手足を動かしたり落ち着きがなくなります。そういう時には背中や手足をさすったり、足がだるい時は足元に座布団、クッション等を使い、本人が希望するようあててあげてください。また抱きかかえ、支えたりしてあげるのも良いと思います。
(8)食欲は低下し、ほとんど物を口にしなくなります。好きな物を、好きな時に好きな分飲ませてあげて下さい。例えば氷や、冷水、さっぱりしたものが好まれるようです。飲み込む力が低下してきていて、むせることがありますので、注意して少しずつ含ませてあげて下さい。
(9)寝ているときに息づかいが荒くなったり、一時的に息をしなくなり驚くことがあります。これは死が近づいたときに起こる呼吸です。うなり声を発したり、苦しそうな呼吸をしてつらそうな時は手足をさすってあげたり、声をかけてあげて下さい。
 
2. 考えておくこと
(1)緊急時、医療者(医師・訪問看護師)にすぐ連絡がつくようになっていますか。特に夜間や、祝祭日はどうでしょうか。もう一度確かめてみて下さい。
(2)親戚や友人、知人で連絡する人、会わせる人はいませんか。
(3)亡くなった時の処置に使うものは、準備できていますか。
身体を清めるお湯とタオル
身じたく用の着物
(4)葬儀の段取り
 
3. 家族で看取る
 亡くなるまでの患者さんの経過は様々です。ご家族の方がお休みになっている間に気付いたら亡くなっていると言う事も十分考えられます。そのような時は、決してご自分を責めたりしないで、患者さんは苦しまず安らかに亡くなられたと思って下さい。
 
(1)声をかけ身体に触れてみても反応せず動かなくなります。
(2)息が止まり、心臓が止まります。胸に手を当て動いていないかみてください。鼻に手をあてても結構です。そして心臓の動き、息が触れなければお亡くなりになったと判断して下さい。
 
 上記のことが確認された時刻を見ておいて下さい。医師か看護師が傍らにいない時は電話をして下さい。目が開いている時は手で瞼を押さえ閉じて下さい。口が開いている時は枕をやや高めにし、顎の下にタオルを一枚まるめて入れておくと口が閉じます。そしてそのまま医師か看護師が来るまでお待ち下さい。
 
4. 死後のケア
 患者さんは亡くなられても生前と同じように、ご家族の方にとっては大切な存在です。心をこめて身体を清めて、化粧をして、皆さんとお別れできるようにします。
 
(1)手足をまっすぐにして下さい(ただし伸びない場合はそのままでよいでしょう)
(2)下腹を軽く押して、たまっている尿や便をまず出します。タオルを二枚準備して下さい。お湯で身体を拭いてきれいにします。よくしぼって顔から拭きます。
(3)肛門が開いて便が出てしまう場合は、肛門に綿をつめます。2cm幅を20cm位でよいと思います。
(4)着るものは生前患者さんが好んだものでも、家族の方が着てほしいものでもよろしいと思います。ただし袖口のせまいものやかぶり物は、着せづらいので避けられたほうがよいと思います。
(5)女性の方は、生前と同じようにお化粧をしてあげて下さい。男性の方は、ヒゲを剃りファンデーションとほほ紅、それに口紅をぬってあげると顔色もよくなり美しくなります。
 
カシオペア在宅緩和ケア支援委員会 編(岩手県二戸)
 
痛みをとるための日記帳『たんぽぽ』よりコピー
カシオペア在宅緩和ケア支援委員会作







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