総論−7. モルヒネの依存、耐性、退薬症状
・依存には、精神的依存と身体的依存がある。
・鎮痛以外の酩酊感、多幸感などを求めるとき、精神的依存が起こり得る。
・除痛目的のモルヒネの使用では、精神的依存は形成されない。
・身体的依存では、薬物の使用が身体的に自然な状態となる。
・身体的依存状態になると、薬物を急に中止した場合、身体的変調をきたす(退薬症状)。
・耐性とは、服用を続けるにしたがい薬の効果が弱まり、増量が必要となる現象を言う。
・現実には、耐性が見られることは殆ど無い。
・投与量および投与回数が多く、投与期間が長くなると、発生し得る。
・耐性は鎮痛などの抑制作用に対してはみられるが、便秘などの興奮性作用に対しては形成されない。
・耐性は他の麻薬性鎮痛薬やアルコールなどとの間で交差が見られる。
・長期間の投与により生体は薬の存在に適応した状態に変化する。
・その結果、突然の投与中止や拮抗薬の投与などにより、異常な身体的反応が出現する。
・モルヒネの増量によって症状が改善すれば退薬症状と診断される。
・モルヒネの退薬症候として、以下の症状が挙げられる。
軽度:あくび、流涙、鼻漏、発汗
中等度:振戦、鳥肌、食欲不振、散瞳
強度:落ち着きのなさ、不眠、過高体温、呼吸数増加、血圧上昇
重篤:嘔吐、下痢、体重減少
・その他、めまい、掻痒、流涎、胸部苦悶、不整脈、血圧低下などがみられる。
・また、精神症状として、不安、倦怠感、抑鬱、違和感、興奮、せん妄、意識混濁などがみられる。
・頻脈、発汗、嘔吐などの自律神経系症状が出現した後、精神症状が発現する。
・退薬症状の種類や強さには個人差が大きい。
・退薬症状は、モルヒネを投与中止後早ければ5〜6時間後から出現する。
・症状は最初の3日間が最も強い。
・身体症状は約1週間で軽快するが、精神症状は数ヶ月にわたって残存することがある。
・注射剤を減量する過程で退薬症状が疑われたら、1時間あるいは2時間の投与量を早送りする。
・経口薬の場合、減量前の1日内服量の1/4〜1/5量を注射薬に換算し、1時間ほどで投与する。
・減量する場合には、退薬症状の出現と痛みの評価を行いながら、漸減する。
・一般には、投与間隔は変えずに、1日投与量を1/2〜2/3量に減量し、2〜3日間経過観察する。
・この段階で疼痛が再発した場合には、減量前の投与量に戻す。
・疼痛の再発が無ければ、さらに1/2〜2/3量に減量し、2〜3日間経過観察する。
・減量に要する期間は、目安として、モルヒネの投与量が100mg/日未満の場合に1週間以上である。
・100〜300mg/日の場合は2週間以上、300mg/日以上の場合は3週間以上と言われる。
・化学療法実施中は、退薬症状を化学療法の副作用と誤解することもあるので注意が必要である。
・オピオイドローテーションの目的には以下の場合がある。
(1)副作用の軽減
(2)鎮痛効果の改善
(3)投与経路の変更
(4)耐性形成の回避
・モルヒネからフェンタニルヘの変更が最も多い。
・モルヒネ・フェンタニルから、ペンタゾシン・ブプレノルフィンヘの変更はしてはならない。
・皮下・静脈内注入では、1日内服量の1/3を24時間持続的に投与する。
・PCA(Patient-Controlled-Analgesia)とは、患者自身が追加投与できる機能である。
・持続静注法によりモルヒネを導入する場合は、下記の方法で用量設定を行う。
・モルヒネ2〜5mgを約5分間隔で患者が疼痛を訴えなくなるまで静注する。
・その総量を初回量とし、1日の維持量は初回量の4倍とする。
・実際には、2.5〜5mgを急速静注した後に(オプション)、10〜20mg/dayで開始することも多い。
・初回量が20mgを越える場合は呼吸抑制に注意する。
・モルヒネの経口投与がなされていた場合、経口量の1/3 1/2を静注量の目安とする。
・静注開始は次回内服予定時間の1時間前ほど前からとする。
・持続静注から経口投与への変更では、静注時の1日のモルヒネ量の2倍を内服の1日量とする。
・持続注入が終了する2時間前より経口投与を開始する。
・持続静注中の疼痛増強に対しては、1時間量を約5分間隔で疼痛が消失するまで早送りする。
・1日に数回の早送りが必要なときは、維持量を5割増量する。
・持続静注中では、薬剤の血中濃度が安定し副作用が出現しにくいという長所がある。
・モルヒネの血中濃度は持続点滴静注法と持続皮下注入法の間で有意差はない。
・持続皮下注入法は持続点滴に比べ下記の長所があり、在宅療養に適した方法と言える:
投与方法が簡単で装置が小型である。
患者の行動が制限されない。
針の刺入抜去が簡単で苦痛が少ない。
一時的に抜去し入浴・清拭も可能である。
不慮の適量投与や全身感染を起こしにくい。
・持続皮下注の開始は下記の要領で行う。
・ラダーの第1段階が行われていた場合、10mg/日の持続皮下注を開始する。
・第2段階が行われていた場合、コデインの1日量の1/15を持続皮下注の開始量とする。
・レペタン坐剤が用いられていた場合、1日量の25倍を持続皮下注の開始量とする。
・レペタンの内服が用いられていた場合、1日量の10倍を持続皮下注の開始量とする。
・第3段階が行われていた場合、内服モルヒネの1日量の1/2〜1/3を持続皮下注の開始量とする。
・いずれの場合も前もって、モルヒネ5mgを皮下あるいは筋肉内に注射する。
・レスキューには持続静注と同様、1時間分を早送りして効果を判定する。
・針の刺入は体動時に影響を受けない方向にする。
・持続皮下注では注入量に個人差がある。
・1ml/hrが限界である。
・0.5ml/hr程度では問題ないが、0.8ml/hrぐらいになると皮膚が発赤することがある。
・その場合、頻回の刺し替えが必要となる。
・2ルートにする方法もある。
・モルヒネのヒスタミン遊離作用により蕁麻疹や発赤、硬結が局所に出現することがある。
・この場合、1日量として0.5〜1mgのデカドロンかリンデロンを添加するとたいてい消失する。
・高濃度の塩酸モルヒネ注射液(200mg/5ml)を用いると、高用量投与にも対応できる。
・ただし、高濃度製剤は冷蔵庫で結晶が析出することがあるので保管には注意を要する。
・結晶が析出した際には、手でアンプルを加温し速やかに結晶を溶解した後、使用する。
・モルヒネ等のオピオイド投与によって、痛みが改善せず眠気が出る場合、不応性を考える。
・神経因性疼痛は腫瘍が神経を障害することによって起こる。
・神経の支配領域に一致した分布があれば、神経因性疼痛を考える。
・「焼かれるような」、「電気が走るような」、「刺すような」など表現される。
・不快な持続痛と、差し込むような痛み発作が特徴である。
・オピオイドは効きにくいことが多いが、全く無効というわけではない。
・最近、オキシコンチンが有効との報告がある。
・鎮痛補助薬の投与の適応であるが、無効なことも多い。
・神経圧迫による痛みにはステロイドを使用する。
・骨転移痛の治療には、可能であれば、放射線照射を選択する。
・NSAIDsが有効である。
・アレディアが奏効することもある。
・筋肉の痙攣や強直による筋攣縮痛にもモルヒネは無効である。
・セルシン・ホリゾンが著効を示す。
・局所の加温、マッサージ、低周波電気刺激、局所麻酔なども有効である。
・モルヒネの投与量が増加したときには、モルヒネ反応性の痛みかどうか確認をする。
・モルヒネ不応性の場合、新たな治療法に関し再検討する必要が出てくる(turning point)。
・痛みがモルヒネ反応性でない場合、モルヒネの増量を中止し、鎮痛補助薬を適宜併用する。
・経口投与量に換算して、モルヒネ120mg/日がturning pointの相対的基準とされている。
・turning pointの絶対的基準として、呼吸数が5 6回/分、瞳孔径2mm以下がある。
・この場合、モルヒネ120mg/日以下でも限界投与量と考え、モルヒネの増量を中止すべきである。
・鎮痛補助薬には抗うつ剤、抗痙攣薬、抗不整脈薬、NMDA受容体阻害薬などがある。
・鎮痛補助薬が無効のまま増量されると、鎮痛でなく鎮静になることがある。
・鎮痛補助薬には効果を得るために必要な基準量がある。
・ステロイドは腫瘍による神経圧迫性の痛みに対し効果的である。
・高血糖、ステロイド潰瘍、易感染性、うつ、不眠などの出現に気をつける。
・食欲低下、全身倦怠感、腹水・胸水などに対する緩和効果がある。
・症状・予後との関連で適応を決める。
・モルヒネ不応牲の痛みに対して、神経ブロック、硬膜外・くも膜下投与法も適応である。
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