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各論(Part III)
◆オキシコンチン◆
 
・オキシコドンの経口徐放剤である。
・オキシコンチンは内服後12分から血中に現れ、2〜3時間でピークになる。
・鎮痛効果は経口モルヒネの1.5倍程度である。
・初回通過効果を受けにくく、体循環に入る割合が高い。
・生体内利用率は70%前後である(モルヒネは30%弱)。
・肝で代謝され、おもにノルオキシコドンとオキシモルフォンに代謝される。
・ノルオキシコドンには活性が無い。
・オキシモルフォンはオキシコドンの14倍の鎮痛活性を持つ。
・オキシモルフォンの濃度はきわめて低く、オキシコドンの50〜100分の1程度である。
・オキシモルフォンはさらに肝で代謝され不活化される。
 
・オキシコンチンは腎機能障害時に使用できる。
・オキシコンチンは、副作用の点ではモルヒネよりやや少ない程度とされている。
・特に、嘔気が少ないといわれている。
・オキシコンチンは名前がモルヒネではない点で、導入しやすい。
・5mg錠は第2段階の薬剤としても使用され始めている。
・血中濃度の立ち上がりは良いが、レスキューとしては使用できない。
・オキシコンチンのレスキューは現在のところ即効性モルヒネ経口薬で行う。
・吸収後の抜け殻(ghost pill)が便中に出てくることがあるが、効果に問題は無い。
 
 
・塩酸オキシコドンと塩酸ヒドロコタルニンの複合注射剤である。
・腎機能低下時のレスキューとして有用である。
 
 
・フェンタニルはフェニルピペリジン系の合成麻薬である。
・モルヒネと同様、μアゴニストである。
・フェンタニルはμ2受容体への親和性が低いため、モルヒネに比べ、特に便秘の程度が軽い。
・循環器系に対する抑制も無く、使用時の血行動態はきわめて安定している。
・フェンタニルは肝臓で代謝され、CYP3A4が代謝に関与している。
・フェンタニルのおもな代謝物はノルフェンタニルである。
・ノルフェンタニルはほとんど薬理学的な活性を持たず、尿中に排泄される。
・フェンタニルは分子量が小さく脂溶性が大きいことから、貼付剤が可能となった。
・一方、経口摂取では、大部分が初回通過効果を受けるため、効果は期待できない。
・フェンタニルの代謝は肝血流量に依存するため、血圧低下時などは血中濃度が上昇しやすい。
 
・フェンタネストはフェンタニルの注射剤である。
・1アンプルが0.1mg(=100μg)/2mlである。即ち、濃度は50μg/mlとなる。
・モルヒネと同様、鎮痛作用に有効限界はない。
・フェンタニルの副作用は、全般的に、モルヒネに比べて軽度である。
・モルヒネ不耐症や副作用コントロール困難な場合にオピオイドローテーションが必要となる。
・フェンタニルはその第1候補である。
・モルヒネによる便秘に対しては、フェンタニルヘの変更を考慮する。
・モルヒネからフェンタニルヘの変更時には、緩下剤の調節を行わないと下痢を生じることが多い。
・モルヒネからの変更時に、動悸、発汗異常などの退薬現象を生じたとする報告もある。
・モルヒネによるせん妄でも、フェンタニルヘの変更で改善を認めることが多い。
・モルヒネと異なる副作用として、迷走神経刺激による徐脈が現れることがある。
・また、鉛管現象(全身の筋肉の緊張状態)がみられることがある。
・モルヒネに見られるヒスタミン遊離作用はほとんどない。
・とくに、腎機能が低下した症例では、モルヒネの代替薬として有用なオピオイドである。
・持続静注のモルヒネからフェンタネストヘの変換率は約50倍である。
・経口モルヒネからフェンタネストヘの変換率は約80〜100倍である。
・塩酸モルヒネ1アンプル(10mg/1ml)がフェンタネスト2アンプルにほぼ相当する。
・オピオイドの投与が無い場合、フェンタネスト開始量として1A(0.1mg)〜2A/日が目安である。
・皮下注では1ml/hr即ち0.05mg/hrが上限であり、1日当たりに換算すると1.2mgとなる。
・これはモルヒネ微注の60mg/日に相当する。また、デュロテップパッチ5mgに相当する。
・この場合、レスキューがフェンタネストで行える。
 
・急激な疼痛増悪に対し、フェンタニルの舌下が有用であるとの報告がある。
・舌下より吸収されたフェンタニルは、初回通過効果を受けないため、有効性を期待できる。
 
・添付文書で投与量が0.02〜0.04ml/kg/hrとなっているが、この量で開始すると危険である!
 
 
・平均生体利用率は92%である。
 
・デュロテップは、通常、3日に1回の張り替えで使用する。
・パッチを剥がした後のフェンタニルの血中濃度の半減期は13〜25時間と緩やかである。
・デュロテップの利点として、以下の点が挙げられる。
・経口摂取が困難でも使用できる
・静注用のルートを確保する必要がない
・肝臓による初回通過効果の影響を受けない
・血中濃度が安定しており、濃度上昇に伴う副作用の発現が抑えられる
・長時間作用性であり、服薬コンプライアンスが高い
・一方、下記の点に気をつける必要がある。
・作用の発現は緩徐で、最大効果発現までにほぼ1日を要する
・維持量の決定など、調節性に劣る
・呼吸抑制などの副作用が発生したときに、パッチをはがしたとしても作用が遷延する
・鎮痛効果が出るまで、レスキューで対応する必要がある
・レスキューにモルヒネ製剤を使用せざるを得ない
・貼付部に皮膚のかぶれ、かゆみなどが出ることがある
・デュロテップは使用方法も簡便でかつ副作用も少なく、特に在宅患者にとって有用である。
・在宅でのデュロテップの使用に当たっては、レスキューの指導を十分行う必要がある。
・このことは、在宅ターミナルケアの成否に関わってくる。
 
・貼付部位は、毎回、変更する。
・パッチを貼るのは胸、腹、上腕、大腿など平らな面が適している。
・貼付部位に体毛がある場合、体毛の処理が必要である。
・その際には、決して剃刀などで剃ってはいけない。
・ハサミなどで体毛を皮膚ぎりぎりに切るようにする。
・傷のある場所、炎症のある部位などを選択しないことも重要である。
・フェンタニルは脂溶性が高く、脂肪の多い患者の場合、腹部などは避ける。
・痩せた患者の場合、肋骨部などを避け、通常は前胸部に貼ると良い。
・デュロテップは、一度剥がれると粘着力が低下するため、新しいパッチを貼付しなおす。
・周囲だけがめくれた場合、テーフ等で補強しておいても良い。
・デュロテップでは、皮膚温が上昇すると吸収が増加する。
・発熱患者でのデュロテップの作用過剰の報告はないが、40℃で1/3量増加するとされている。
・発熱時は、呼吸抑制などの副作用出現の可能牲を考えておく。
・入浴の際には、貼付部を温めないように工夫する必要がある。
・入浴以外にも、デュロテップの過熱には気をつける。
・垢や発汗でも吸収が影響を受ける。
・パッチに傷がついてパッチ内のゲルに触れた場合、大量の水で洗い流す。
・石鹸などは薬剤の吸収を高めてしまうため、使用すべきではない。
 
・デュロテップの規格には2.5mg、5mg、7.5mg、10mgがある。
・デュロテップからのフェンタニルの放出量は25μg/hr/10cm2である。
・2.5mgパッチからの放出量は0.6mg/24hrである。
・他のパッチからの放出量はこれを元に比例換算する。
・換算表において、デュロテップに対応するモルヒネ製剤の1日使用量の幅が大きい。
・モルヒネ:フェンタニルの力価換算比は、1:100が実際的である。
・2.5mg(DP)⇔0.6mg/day(F)⇔60mg/day(M)となる。
・増量の幅は一般的に2.5mgである。
・但し、1回の貼付量の合計が15mg以上で疼痛が強い場合、5mg増量も考慮する。
・初回でデュロテップを使用する場合、半面貼付(モルヒネ30mg/dayに相当)を基本とする。
・傷みが貼布3日目で出現することがあり、この場合、2日毎の交換とする。
・可能であれば、1日ごとにずらしながらの連続使用も考える。
 
・モルヒネ製剤からデュロテップヘの変更の実際:
呼吸抑制などの副作用のモニターのため、朝に切替えるのが安全である。
(1)貼付後6時間まではそれまでと同様の方法でモルヒネ製剤を投与する。
モルヒネ水:朝のモルヒネ水内服と同時に貼付開始。4時間後、再度、モルヒネ水を服用
MSコンチン:朝のMSコンチンの内服と同時に貼付開始
アンペック坐剤:朝のアンペックの挿肛と同時に貼付開始
モルヒネ皮下注射or持続静脈注射:貼付開始後6時間まで持続投与を継続
カディアンだけは例外的で、通常のカディアン内服の12時間後に貼付開始する。
(2)(1)に加えてレスキューの指示を必ず出しておく。
レスキューは現在のところ即効性モルヒネで対応する。
先行モルヒネが経口剤、坐剤の場合は1日量の1/6量を投与する。
注射剤の場合は1〜2時間分を投与する。
(3)貼付時に開始日時と交換日時をパッチに油性ペンで記載する。
・大量のモルヒネ徐放剤をデュロテップパッチに変更する場合には、段階的な移行を図る。
 
・デュロテップからモルヒネ製剤へ戻す場合、慎重な対応が必要である。
・“換算表”にしたがってモルヒネからデュロテップに変更すると、痛みの出現頻度が高い。
・痛みは出ずに、過剰般与になることもある。
・目安はモルヒネからデュロテップヘ変更後、デュロテップを増量しているかどうかである。
・デュロテップが増量されている場合、1ランク下のモルヒネ量から開始するのが安全である。
・その場合、必ず、レスキューを準備しておく。
・デュロテップの増量が無い場合、変換前のモルヒネ製剤の量に戻して良い。
・この場合でも、1週間以上デュロテップで維持されてきた場合、注意が必要である。
・モルヒネに再変更した場合、同じ鎮痛レベルでも、眠気や傾眠が強くなる可能性がある。
・再変更時のモルヒネの用量については、即効性剤等を用いて再設定することも有り得る。
・モルヒネ製剤はフェンタニルの血中濃度が保たれている間に再開するのが良い。
 
・デュロテップが過量投与の場合、まず傾眠などの鎮静症状が増強し、やがて呼吸抑制に至る。
・対応としては、直ちにデュロテップを剥がし、経過を慎重に観察する。
・皮下にフェンタニルが残存し、血中に移行し続けるため(半減期:17時間)、副作用は遷延する。
・呼吸抑制に対し、ナロキソンの持続投与が必要となる場合もある。
・但し、疼痛の増悪や退薬症状に注意する必要がある。
・パッチ除去後12時間は厳重に監視を行い、傾眠などが見られなくなった時点で貼布を再開する。
・神経ブロックなどによる症状改善時は、デュロテップを漸減することにより退薬現象を予防する。







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