日本財団 図書館


総論−3. モルヒネの生化学・薬理学
・モルヒネはオピオイド受容体(レセプター)に結合して、その作用を発揮する。
・オピオイド受容体にはμ、κ、δの3種類がある。
・モルヒネは主としてμ受容体に結合する。
・受容体は脳・脊髄に存在する。
 
・経口摂取されたモルヒネは主に小腸から吸収される。
・吸収後のモルヒネは門脈を通り肝臓で代謝される(初回通過効果)。
・代謝されずに残るモルヒネは20〜30%である。
・代謝産物としては、morphine-6-glucuronide(M6G)とM3Gがある。
・M6G、M3Gともに腎臓から排泄される。
・腎機能低下時には、活性代謝物であるM6Gが蓄積し種々の副作用が出現する。
・静脈への直接投与の場合、門脈に回るモルヒネは一部であり、代謝産物の生成は減少する。
・したがって、経口から皮下注・静注に変更することにより、副作用を軽減することができる。
・直腸内投与の場合、吸収されたモルヒネは門脈と静脈系に分かれるので、副作用は中間になる。
 
・投与開始前に、患者・家族に対してモルヒネ(オピオイド)に関する十分な説明を行う。
・この点は在宅療養において、極めて重要である。
 
・モルヒネに即効性剤と徐放性剤がある。
・基本的には、投与量の決定(タイトレーション)は即効性塩酸モルヒネ製剤を用いて行う。
・投与は、少量(5〜10mg/回)から始め、“効果”と“副作用”を見ながら、漸増する。
・例えば、塩酸モルヒネ製剤(水、末、錠)5mgの4時間ごとの経口投与から始める。
・効果を見ながら、1日ごと50%を目安として増量する。
・具体的には、5mg→10mg→15→20→30→40→60mg/回という具合に増量して行く。
・増量により痛みが軽減すれば、モルヒネ反応牲の痛みであることが分かる。
・効果と安全が確認された時点で、即効製剤1日量→徐放製剤、分2に変更する。
・塩酸モルヒネとMSコンチンのmg当たりの力価は同等と考えて良い。
・現実には、徐放性塩酸モルヒネ製剤で開始することも多い。
・この場合も、投与開始量としては、30〜60mg/dayが多い。増量の幅は一般に50%とする。
・徐放性塩酸モルヒネ製剤を使う場合は、疼痛増強時のレスキューが必要である。
 
・高齢者、全身衰弱の強い患者、肝・腎機能低下がある患者では低用量から開始する。
・このようなケースでは、維持量決定後、減量や投与間隔の調整が必要なこともある。
 
・経口:座薬:静脈:硬膜外=1:2:3:15 20で換算する。
・モルヒネには“天井効果”がなく、副作用が無ければ、除痛が得られるまで上限無く増量できる。
・100mg/day程度の内服で疼痛緩和が得られることが多いが、1000mg以上が必要なこともある。
・体動時痛はモルヒネに反応しないことも多く、大量のモルヒネ投与により眠気が出ることがある。
・モルヒネ投与量の上限として強い眠気あるいは傾眠が1つの目安とされている。
・客観的指標としては、睡眠時呼吸数および瞳孔径が挙げられる。
・睡眠時呼吸数が10回/分以下あるいは瞳孔径が3mm以下では要注意である。
・睡眠時呼吸数が5 6回/分以下あるいは瞳孔径が2mm以下になると中止が望ましい。
 
・嘔気、嘔吐があると、経口モルヒネ製剤の吸収が下がり疼痛コントロールが難しくなる。
・放射線療法、神経ブロックなどが奏効すると、モルヒネの減量・中止が可能となる場合もある。
・その際、退薬症状の出現に気をつける。
・モルヒネとの配合禁忌薬剤としてフロセミド、炭酸水素ナトリウム、アミノフィリンなどがある。
・10%キシロカイン、ドロレプタンなどとは配合変化は見られない。
 
◆経口塩酸モルヒネ(散、水、速効錠、オプソ)◆
 
・即効性モルヒネの吸収は内服後速やかに始まり、約30分で最高血中濃度に達する。
・定期的に服用する場合、4時間毎の内服になる。
・即効性モルヒネ使用時は、眠前内服量を50〜100%増し、深夜の内服を避けることができる。
・就寝前の増量は、モルヒネによる眠気を利用することにもなる。
・但し、60mg/回以上のときは、深夜にも内服しないと痛みの再発が起こることが多い。
・高齢者などでは、眠前内服量を50%増までとし、モルヒネによる見当識障害などを避ける。
 
・モルヒネ水は内服量の調節性に優れる。
・モルヒネ水は、冷所保存であっても、2週間以内に使用する。
・モルヒネ水の1回分のレシピを示す:
 
塩酸モルヒネ末 xxmg
単シロップ 1ml
水 9ml
 10ml
 
・モルヒネ水を冷凍庫でシャーベット状にし、少量ずつ食べてもらうことも可能である。
 
・オプソはモルヒネ水の替わりに使用できる長期保存可能な即効性モルヒネである。
・苦味や酸っぱさを訴える患者もいる。
 
 
・内服後1時間で、血中にモルヒネが検出される。最高血中濃度に達するのは3時間後である。
・したがって、MSコンチンはレスキューには使えない。
・MSコンチンは原則的に12時間ごとに内服するが、以下の場合には8時間間隔も考慮する。
1. 投与量の多いとき
2. 鎮痛効果が短いとき(後半、血中濃度が低下する)
3. 塩酸モルヒネからの変更時、1回量で副作用が出現したとき
・痛みが出現した場合、即効性モルヒネ製剤によるレスキューを行う。
・MSコンチンを3回分割投与にすると、血中濃度のピークが下がる。
・但し、3回投与では、在宅において、特に昼の内服時間が不正確となりやすい。
 
・MSコンチンは、腸管内の水分により錠剤が徐々に溶解することで、徐放性が発揮される。
・MSコンチンを粉砕して使用するのは不可である。
・経口摂取が減少していたり、脱水が著明な患者では、腸管内水分量が減少する。
・その結果、MSコンチン錠剤からのモルヒネの放出が低下し、効果不十分となることがある。
・このような場合は投与経路の変更を考慮する。
・食事の時間的影響は受けない。
 
・MSコンチン内服後嘔吐し、吐物に薬剤が含まれていた場合、再度同量を服用する。
・吐物中に錠剤が確認されない場合、再投与を検討する。
・MSコンチンの吸収は内服後1時間から始まるので、その間の嘔吐では、再投与の必要は無い。
・MSコンチン服用後3時間以上経過し嘔吐しても、痛みが無ければそのまま経過観察とする。
 
 
・モルペスはMSコンチンと同様の硫酸モルヒネ徐放製剤であるが、細粒である点が特徴である。
・糖衣によりコーティングされており、モルヒネの苦みは無く、むしろ甘みがある。
・モルペスは、錠剤やカプセル剤の内服が困難な症例で有用性が高い。
・胃痩や鼻腔栄養チューブから投与することも可能である。
・但し、8 French以上のチューブを用いる。
・また、ルート内にモルペスが付着することがあるので注意が必要である。
・経腸栄養剤に混ぜ、時間をかけて滴下投与することは避ける。
・モルペスからモルヒネが溶出するため、本来の徐放性が失われる。
・経腸栄養剤を投与する場合、必ずモルペスを先に投与し、その後に経腸栄養剤を投与する。
・アイスクリームなどに振りかけて服用することも可能である。
・ジュースなどと混ぜた場合、沈殿に注意する。
・液体に混濁後も、10 20分以内であれば、徐放性に影響は無い。
・後発品として認可されたため、薬価は低く設定されている。
 
◆MSツワイスロン◆
 
・MSコンチンと同様の硫酸モルヒネ徐放製剤である。
・徐放性顆粒がカプセルに入っている。
・脱カプセルしての使用が可能である。
 
 
・カディアンは内服後40〜60分から吸収が始まり、6 8時間で最高血中濃度に達する。
・服用後24時間、安定した血中濃度が維時される。
・吸収開始までの時間はMSコンチンよりカディアンの方が若干短い。
・血中濃度の日内変動がMSコンチンに比べ小さい。
・MSコンチン内服後間もなく副作用が見られるとき、カディアンの1日1回投与が有効である。
 
・スティックとカプセルの2剤型がある。
・カプセル剤は脱カプセルしても効果は変わらない。
・ペレットを砕くと、一度に多量のモルヒネが放出されるので注意が必要である。
 
・カディアンの徐放機構は、腸管内の水分でなくpHに依存している。
・飲食、飲水の量が変動しても、その影響は少ない。
・pHの高い飲食品と混ぜると放出性が変化する。
・カディアンと飲食品とを混ぜた場合、30分以内に服用する。
・アイスクリームやヨーグルトなどの上にペレットを振りかけて服用することもできる。
 
・胃痩や鼻腔栄養チューブを通して投与できる。
・但し、16 French以上のチューブを用いる。
・使用するシリンジやチューブヘのペレットの吸着を最小限に抑えるように気をつける。
 
・何時に服用しても良い。
・在宅でも使用しやすい。
 
 
・直腸内投与用のモルヒネ製剤である。
・投与後20分で血中濃度の上昇が始まり、1 2時間で最高に達する。
・作用時間は6 10時間である。
・10mg、20mg、30mgの3種類があり、1日3回投与が基本である。
・レスキューとして使用することができる。
・鎮痛効果は経口と静注との中間である。
・モルヒネを経口薬からアンペックに変更する場合、内服量の2/3から1/2を用いる。
 
・アンペックは消化管平滑筋への直接作用が無い分、経口投与より便秘が軽い。
・吸収効率が良くモルヒネの血中濃度も高くなるので、初回投与時は呼吸抑制に注意する。
 
・アンペックを使用する場合に当たっては、以下の事項に注意する。
 なるべく排便後に投与する。
 下痢、下血がある場合、使用を避ける。
 便秘があると基剤が溶けにくくなり、モルヒネの吸収に影響が生じることがある。
・挿入後、排便があった場合、再挿入を考慮する。
・挿入後約20分から吸収が始まるため、それ以前に排便した場合には同量を再度挿入する。
・挿入30分以降に排便があった場合には、1回使用量の半量を基本として追加投与を考える。
・挿入2時間以降の排便では、一般に再挿入する必要はない。
・アンペックの人工肛門からの投与は吸収が一定せず、推奨できない。
・一般に、座薬の使用に当たっては、肛門周囲の蜂窩織炎を起こすリスクがある。
・頻回の使用では、肛門痛が出たり、便意を催したりするようになる。
・座薬である点を常に念頭に置き、投与量が増加した場合、皮下注や静注を考慮する。
 
 
・塩酸モルヒネのプレフィルド製剤である。
・50mg/5mlと100mg/10mlの2種類がある。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION