川畑正博
薬物による疼痛緩和
2004年7月16日(金)
東京厚生年金病院 緩和ケア病棟
医長 川畑正博
総論−1. 痛みの評価法
・痛みの評価項目には、痛みの部位、原因、強さ、性質、期間、増悪・軽快因子、影響などがある。
・痛みの客観的な評価法としてVAS(Visual Analog Scale)がある。
・VASでは、10cmの線の両端を「無痛」と「最大の激痛」にし、印をつけさせる。
・患者に先入観を与えないため、スケールには番号や区切りをつけない。
・NRS(Numerical Rating Scale)では“0”を無痛、“10”を最大痛として、点数で患者に評価させる。
・VASより簡便で、患者の方が慣れてくると「今日の痛みは3」などと答えてくれる。
・但し、主観的な体験である痛みを、数字で表現するのは難しい面もある。
・VRS(Verbal Rating Scale)では、以下の選択肢の中から患者に選んでもらう。
0: 全く痛まない
1: わずかに痛みを感じる
2: 耐えられる程度の痛み
3: 耐えられない痛み
・質問項目が少なく使いやすいが、その分、患者の痛みを正確に表現しない場合もある。
・フェイススケールは小児には向いているが、成人では他の因子の影響が加わる可能性がある。
・多くの患者が、初期には、量的評価方法に対し適切な対応ができないと戸惑いを示す。
・痛みの強さをどの数値にしてよいか迷うことも多い。
・十分な説明のもと、練習により慣れることが必要である。
・痛みの性質を把握することは、発痛メカニズムの判別にもつながり、治療薬の選択に役立つ。
・数字上の強さだけ見ていると、患者を見失うこともある。
・痛みによって患者にどのような影響がでているかを評価することを忘れてはならない。
・3段階除痛ラダーが基本である。
・以下、注意点を示す:
(1)by mouth
経口摂取が可能であれば、内服薬による除痛を原則とする。
(2)by the ladder
痛みの強さに応じた効力の鎮痛薬を選ぶ。
(3)for the individual
患者ごとに適量を決める。
(4)by the clock
定期的投与により、24時間を通した安定した除痛に努める。
患者の痛みの訴えに応じた頓用的投薬は、レスキュー以外では行うべきでない。
(5)attention to detail
以上4原則を守った上で、細かな配慮を行う。
・少量で投与を開始し、効果と副作用を評価しながら漸増する。
・オキシコンチン5mg錠を第2段階として使用するケースも増えている。
・第2段階を経ることなく、第1段階から第3段階にステップアップすることもある。
・当初から強い痛みを訴える患者では、第3段階より開始する。
・疼痛コントロールの目標:
第一段階:夜間の良眠の確保
第二段階:昼間の安静時の除痛
第三段階:体動時の除痛
・睡眠の質は患者のQOLに大きく影響する。
・夜間、痛みが増強することがある。
・夜になると孤独感、恐怖感、不安感などが増すためである。
・抗不安薬、睡眠薬などの併用が効果を持つこともある。
・精神的ケアも大いに有効である。
・体動時の痛みはモルヒネに反応しにくい。
・体動時痛のコントロールには大量のモルヒネが必要となり、患者は安静時に眠くなってしまう。
・投与量の調節は、まず、体動時痛よりも安静時痛の除去を中心に行う。
◆非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)◆
・NSAIDsは、癌に伴う炎症とその痛みに対し、切れ味のよい鎮痛効果を示す。
・特に、骨転移痛には、有効性が高い。
・使用に当たっては胃腸障害、腎障害、出血傾向、血圧低下などの副作用に気をつける。
・座薬だからと言って、胃腸障害が軽減されるわけではない。
・長期投与にはCOX-2選択的阻害剤の使用が望ましい。
ex)ハイペン、モービック
・胃腸障害の予防・治療には、サイトテック、ロノック、カムリードなどがある。
・1日1回、あるいは2回投与による安定した鎮痛を図る。
ex)ボルタレンSR、ナイキサン、ハイペン、レリフェン、モービック
・ナイキサンは腫瘍熱に効果があるとも言われている。
・静注剤としてはロピオンがある。
・ロピオンは24時間以内の使用であれば、維持輸注に混合して用いても良いと言われている。
・NSAIDsはニューキノロン系抗生剤(クラビットなど)との併用には注意が必要である。
・剤型には錠剤(25mg)と注射薬(15mg, 30mg)がある。
・経口では、最高血中濃度に到達するまでが1時間、半減期は3時間である。
・ペンタゾシンには天井効果がある。錠剤に関しては1回量100〜150mgが上限とされる。
・経口投与量は50mg分2または75mg分3から開始し、最大投与量は通常200〜300mgである。
・追加投与する場合は3〜5時間の間隔をおく。
・錠剤25〜50mgが筋注15mgに相当するとされている。
・25mg錠は、おおよそ、モルヒネ筋注2mg、モルヒネ内服5mg、リンコデ内服30mgに相当する。
・ペンタゾシンは頭蓋内圧が上昇している患者には禁忌である。
・副作用として、眠気、発汗、めまい、頭痛、頻脈、動機、顔面紅潮、血圧上昇などがある。
・このような副作用は、通常、服用開始1週間以内で消失する。
・嘔吐はモルヒネと比較すると少ない。
・注射薬により爽快感や多幸感などが出現することがある。
・注射薬は、連用により精神的依存が生じやすく、癌性疼痛に対しては不適当である。
・錠剤は、注射薬と異なり、連用による精神症状を生ずることはないと言われている。
・大量連用後、急に中断すると振戦、興奮、動悸、悪心、冷汗などの退薬症状が現れることがある。
・拮抗作用があるため、モルヒネ・フェンタニルとは併用しない。
・ペンタゾシンによる呼吸抑制はナロキソンで拮抗できる。
・注射剤(0.2mg/1ml; 0.3mg/1.5ml)と座剤(0.2mg; 0.4mg)がある。
・レペタンの注射剤はペンタゾシン注より依存性を生じにくい。
・レペタンの心臓血管系への作用としては、心拍数減少、血圧低下などがある。
・腎機能障害時も使用できる。
・ペンタゾシンと同様、拮抗作用があるため、モルヒネ・フェンタニルとは同時併用しない。
・レペタンのオピオイド受容体に対する結合性は非常に強い。
・過量投与による呼吸抑制は、ナロキソンは無効で、ドキサブラム(ドプラム)を使用する。
・モルヒネは気管支喘息発作中の患者には禁忌となっているが、レペタンは投与可能である。
・レペタンからモルヒネヘの切り替えは可能である。
・モルヒネを継続して、あるいは大量に使用した患者でのレペタンヘの変更は禁忌である。
・同一経路では、レペタンの30倍量がモルヒネ投与の目安である。
・有効限界として2.0mg/日を目安とする。
・はじめて持続皮下注する場合、1日0.2〜0.4mgで開始する。
・開始時には0.04mg〜0.1mgを早送りする。
・皮下注開始に先立って、レペタン0.1mgを皮下あるいは筋肉内に注射することもある。
・前もってレペタンが経口や坐薬で投与されている場合、半量から始める。
・鎮痛効果をみながら1〜3日毎に3〜5割増減する。
・筋注の場合、投与後30分で作用が発現し、最大効果は3時間後、鎮痛効果は6〜9時間持続する。
・したがって、筋注の場合は8時間ごとに投与する。
・坐剤の場合は、投与後約30分で作用が発現し、鎮痛効果は約8〜12時間持続する。
・したがって、坐剤は8〜12時間ごとに投与する。
・内服用のレペタンカクテルのレシピを示す:
レペタン注 |
2ml(2A=0.4mg) |
レモンシロップ |
4ml |
パラベン |
適量 |
精製水 |
適量 |
1日分 |
40ml (10ml/1回 x 4回) |
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・好みによりバニラ味、レモン味等を選べる
・必要に応じて、レペタン量を調整する。
・鎮痛効果をみながら1〜3日毎に3〜5割増減する。
・経口での最大投与量は4.0mg/日である。
・レペタンの嘔気には、ノバミンを予防的に投与する。
・1回量が1.0mg以上になると、嘔気のために使用できないことが多い。
・レペタンによる嘔気が強い場合、レペタンからモルヒネヘの変更が行われる。
・レペタンに特徴的な副作用として、眩暈がある。
・レペタン内服の鎮痛効果はモルヒネ内服のほぼ10〜20倍である。
・経口投与が不能な場合は、舌下投与により対応することができる。
・ただし、経口投与では初回通過効果があるため、舌下投与時には減量する。
・リン酸コデインには、原末、10倍散、100倍散、および、20mg錠がある。
・100倍散は麻薬としての扱いは受けない。
・経口投与されたコデインは10%が脱メチル化されてモルヒネとなり鎮痛効果を発揮する。
・内服後30分で効果が現れ、1時間で最高血中濃度に達する。
・半減期は3.5時間であり、原則として4時間毎に服用する。
・一般に、鎮痛を目的として使用する場合、1回量30mg以上の投与が必要である。
・リン酸コデインには天井効果があり、130mg/回ほどが上限である。
・WHO3段階ラダーの第2段階で、弱オピオイドとして使用される。
・最近、オキシコンチン5mg錠が第2段階として使用される場合がある。
・WHOのガイドラインでは、1回30〜130mgを1日4〜6回服用となっている。
・忘れてならないのは、必ず非オピオイド系鎮痛薬を加えることである。
・投与開始後12〜24時間以内に効果を評価する。
・患者の痛みが除かれるまで増量し、維持量を決定する。
・具体的には、1回30(20)→40→50→60→80→100mgという具合に増量する。
・併用する非オピオイド系鎮痛薬は一定量とし、効果を判定する。
・1日量80〜300mgでのコントロールが目安である。
・鎮痛効果として、おおよそ、リン酸コデイン30mgはアスピリン650mgに相当する。
・リン酸コデイン内服ではモルヒネと同様の副作用が起こり得るが、その程度は軽い。
・副作用対策はモルヒネの場合と同様である。
・有効限界は500〜600mg/日であるが、200mgを超える頃からモルヒネ製剤への変更を考慮する。
・リン酸コデインの鎮痛効果はモルヒネの1/6〜/12程度である(実際には1/10で対応)。
・具体的には、リン酸コデイン200mgはMSコンチン20mgに切り換える。
・モルヒネを拒否する患者に対して、リン酸コデインが有効な場合がある。
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