障害年金 障害者のための経済保障
(内容)
公的年金の加入者が病気やけがによって日常生活や就労の面で困難が多くなった場合に受け取る年金です。
(利用できる人)
各年金によって受け取るための条件が異なります(表1)。
表1 障害年金を受け取るための条件
|
障害基礎年金 |
障害厚生年金 |
障害共済年金 |
受け取るための条件 |
(1)初診時に65歳未満であること (2)障害認定日に障害年金の障害等級表1級または2級の障害状態にあること (3)国民年金の保険料納付要件を満たしていること |
(1)初診時に厚生年金の加入者であること (2)障害認定日に障害年金の障害等級表1〜3級の障害の状態にあること (3)保険料納付要件を満たしていること |
(1)初診時に共済年金の加入者であること (2)障害認定日に障害年金の障害等級表1〜3級の障害の状態にあること |
軽い症状に対する一時金 |
なし |
障害手当金
加入期間中に初診日のある疾病が初診日から5年以内に治り、障害年金の障害等級表の3級より軽い一定の障害が残った場合 |
障害一時金
加入期間中に初診日がある公務以外の傷病により退職し、障害等級表3級より軽い一定の障害が残った場合
加入期間中に初診日のある疾病が退職後、初診日から5年以内に障害一時金に該当する状態になった場合 |
|
初診日:障害の原因となったけがや病気で初めて受診した日を言います。年金加入期間後でも、60〜64歳の間で初診日があり、障害の状態になっていれば障害基礎年金支給の対象となります。
障害認定日:初診日から1年6か月経った日を言います。傷病が続くと判断されたり、症状が固定した場合は、その日が障害認定日となります。
国民年金の加入資格のない20歳未満に障害認定日がある場合は、20歳から障害基礎年金が支給されます。ただし、本人の所得による制限があります。
保険料納付条件:初診日の属する月の前々月までに、国民年金の加入期間の3分の2以上保険料を納めていることをいいます(保険料免除期間を含む。ただし、初診日が2006(平成18)年3月31日以前である場合は、初診日の属する月の前々月までの直前の1年間に保険料の滞納がなければよい)。
●初診日から1年6か月を経過しなくても障害認定日となる例
・ペースメーカー、人工弁は、装着した日
・人工肛門、人工膀胱は、変更術を施した日
・人工透析は透析開始後3か月後の日
・失明は視力の低下に応じて
・肢体の切断は切断した日
|
|
障害認定日に障害等級に該当しなかった人が、65歳になるまでに障害等級に該当する障害になった場合、「事後重症」として障害年金の対象となります。
障害年金の障害等級表:障害年金に該当する障害の程度はおおむね表2のとおりです(詳しくは、241頁の巻末資料を参照)。
表2
1級:身のまわりのことができず、常時援助を必要とし、ほとんど寝たきりの状態
2級:身のまわりのことはかろうじてできるが、適当な援助が必要
3級:家庭内での日常生活はほぼできるが、時に応じて援助が必要 |
1〜3級に該当しなかった厚生年金・共済年金等加入者には一時金支給(表1参照) |
|
●対象となる障害
●目の障害 |
●神経系統の障害 |
●聴力の障害 |
●呼吸器疾患 |
●鼻腔の障害 |
●心疾患 |
●そしゃく機能の障害* |
●肝疾患 |
●言語機能の障害 |
●腎疾患 |
●体幹・脊柱の障害 |
●血液・造血器障害 |
●上肢・下肢の障害 |
●悪性新生物 |
●精神の障害 |
●その他の障害 |
|
* |
「そしゃく機能障害」とは、あご、舌、唇、口蓋、頬などに障害があり、口の中で食べ物をかみ砕いたり、飲み込むことなどが困難で、おかゆなど柔らかいものしか食べられないといった障害のある場合です。 |
|
(利用の方法)
(1)主治医の診断書:障害の種類により様式が異なります。医療ソーシャルワーカーや各窓口で相談して下さい。
(2)初診日に関する証明書:請求時の医療機関と、初めて治療を受けた医療機関が違う場合に必要です。初めて治療を受けた医療機関で初診の証明をしてもらいます。
(3)病歴申立書(障害厚生年金では病歴・就労状況等申立書):本人または家族が書く書類で、日常生活の状況などを記入します。
(4)その他の書類:裁定請求書、年金手帳、戸籍謄本、住民票の写し、預金通帳、所得証明書などの書類や印鑑が必要です。
●障害年金の窓口
障害基礎年金:市区町村役場の国民年金課
障害厚生年金:社会保険事務所
障害共済年金:共済組合
(5)手続きの窓口:初診日に加入していた年金の窓口で手続きを取ります。
(その他)
・毎年現状届の提出が必要です。提出しないと年金が停止されますので、届いた通知には気をつけましょう。
・診断書の提出が障害の程度や種類により、1〜5年に1度義務付けられることがあります。
・障害が軽くなって障害年金の程度に該当しなくなると、年金の支給は停止になります。
(コメント)
・障害年金を受けるための手続きは煩雑なので、詳しいことは医療ソーシャルワーカーか障害年金の窓口に相談して下さい。
・就労していることによる制限はありません。ただし精神障害者の場合、就労=「障害が軽い」と評価されるため、就労の状況(時間や内容)などを、診断書作成時の診察の時によく説明しましょう。共同作業所や授産施設で働いていたり、援助者の指導のもとでの就労などは、一般の就労とは区別されるべきです。
・知的障害者の場合、以前はIQや療育手帳の等級によって障害年金の支給が一律に判断されていた時期がありました。しかし最近では、さまざまな運動によりこうした問題は是正されつつあります。療育手帳Bランクの人でも障害年金をもらえることもあります。
コラム 知的障害者の障害年金判定基準の改善運動(無年金障害者をなくす会)
従来、知的障害者の障害基礎年金受給については、IQの数値による一律な判定で却下される例が多くありました。広島市の広報でも、療育手帳がBであれば傷害年金の対象外であるとされていました。
しかし、知的障害者が何とか一般就労していても最低賃金ぎりぎりの給料しかもらえず、「障害基礎年金がプラスされなければ(毎月の給料だけでは)生活することができない」というある母親の訴えから、知的障害者の年金受給の取り組みが始まりました。弁護士やソーシャルワーカー、研究者などが当事者とその母親たちの支えとなって展開してきたこの運動の成果として、IQの数値のみで障害基礎年金の判定をするのではなく、日常生活の困難度による判定がなされるように改善されました。広島市でも一般就労しているか否かとか、IQの数値がいくらであるからということで障害基礎年金の支給を判断するのではなく、日常生活状況を踏まえたうえでケース・バイ・ケースで判断されるようになってきました。この運動は、現在では「無年金障害者をなくす会」として活動が継続しています。この会が随時行っている個別相談会では、障害者の年金問題に関する相談が寄せられています。これらの例は「障害基礎年金という制度を知らなかった」、「年金申請をしたいけれど、どこに行けばいいのかわからない」、「何をどうすればよいのかわからない」、(支給の決定は窓口で行われないにもかかわらず)「区役所の窓口にいったら、もらえないといわれた」、(不服申立制度が難しいと思われているのか)「一度出したけれど、不支給になった。もうもらえないのか」などです。
知的障害者の年金受給では、日常生活状況をどれだけ正確に、診断書や病歴書に反映させることができるかが重要なポイントです。東京都では「入院、在宅いずれの場合もアパートなどでの単身生活を想定して記入してください」との一文が診断書に書かれている。この記入方法ですと単に「できる・できない」ではなく、同世代の人が単身生活している状況と比べた場合の判断になります。このような改善により、年金申請がしやすくなり、受給できる人も増えていくと想定されます。そのようにして、すべての障害者が障害基礎年金を受給できるように、これからも活動を進めていくことが大切です。
無年金障害者をなくす会:
〒734-0014 広島市南区宇品西四丁目4-51-1004
(松末方)Tel. 082-252-7729
(要注意)
この制度はさかのぼって手続きはできますが、受給は5年間しかさかのぼらないため、それ以前に受け取れる権利が発生していても、その権利は失われてしまいます(過去5年間より以前の権利は時効により消滅します)。
また、さかのぼって手続きを行う場合、当時の診断書や証明書を書いてもらうことが困難となることがあったり、その他にも、障害年金の手続きにおいて、保険料を納めているかなど、さまざまな条件があり、手続きも複雑です。
自分の権利を失ったりすることのないよう、早めに医療ソーシャルワーカーなど専門的な知識を持つ相談窓口へ相談して下さい。
[コラム] 癌でも障害年金に
年をとって働きにくくなると老齢年金を受け取ります。それと同じで障害が残って働きにくくなったら障害年金を受け取ることができます。
この障害という言葉でどんな状態をイメージされるでしょうか。手、足、耳、眼など外観でわかる障害状態、つまり身体障害であることだと、まず考えられることでしょう。障害年金制度は身体障害手帳を持っている人だけが受け取れる年金だと思い込みがちです。しかし社会保険の制度である障害年金と社会福祉の制度である身体障害者手帳とはまったく異なった制度です。対象も障害の基準も異なります。障害年金の方の障害には精神の障害や呼吸器、心臓、腎臓、肝臓など臓器のはたらきが悪くなった障害も含まれます。そして癌などの病気によって日常生活が難しくなった方々も含まれるのです。
乳癌で再入院した英子さんの例をご紹介しましょう。
発症して2年半を数え、乳癌は骨に転移し、歩けなくなって車いすを使っていました。英子さんは病状が安定すると、残された命をいとおしんで過ごしたいと願いました。それで夫や娘たちと共に家で暮らしたいと望んだのです。
でも娘はまだ中学生で、介護者としては力不足です。夫はサラリーマンですので、妻の介護のため長期休暇はとりにくい。そこで介護者を雇う方策を検討しました。その費用の捻出が問題です。解決策はありました。障害年金を利用することです。
障害年金を利用する方法ですが、障害年金は発病して1年半目に、障害認定基準(巻末資料2)に該当する障害状態であれば年金を受け取る権利が生まれます。英子さんの場合はこの1年半目にはすでに歩きにくい状態になっていましたが、障害年金の制度を知らないで2年半目を迎えていました。年金受給権が発生して1年を経過していたのです。ですから障害年金を申請したところ、過去1年分の年金をさかのぼって受け取ることができました。その金額は100万円近くでした。
英子さんはこの自分のために支払われる障害年金を使って付添いの人を雇い、人生最後の半年間を家族とともにわが家で過ごすことができました。そして多くのことを娘さんに伝え残して逝かれました。
|