日本財団 図書館


<第1章 在宅がん患者に対する訪問看護の特色と展開> 季羽倭文子
 
(訪問看護のアセスメント 下:がん・ターミナルケアの基礎知識と訪問看護過程
中央法規 から抜粋)
 
在宅に移行する際に家族が心配していること
 
(1)「治療方法がなくなったので退院するように」と言われたが不安である
・これからどうなるのだろうか、どんな症状がでるのか、やっていけるのか
・家で対応できるのだろうか
・死に直面するのが怖い
(2)病状が悪くなったら再入院できるのだろうか
・どんなときに、いつ頃再入院させてもらえるのか
(3)病名は知らせてあるが予後のことは話していない
・どのように話したらよいのだろうか
・知らせたときや気づいてしまったときに、落ち込んで立ち直れないのではないだろうか
(4)急変したり死んでしまうのではないかと、何時不安でびくびくしている
・食欲がなくなり、どんどん痩せていくので心配だ
・会話がうまくかみ合わなくなった。変なことを言うことがあるが大丈夫か
(5)病院入院時と同じ医療を在宅で行わないと死を早めてしまうのではないか
(6)退院後に関わることになる近所の医師や看護師に、適切に対応してもらえるか
・家族が望むような援助をしてもらえるのだろうか
・困ったときにいつでも来てもらえるか心配だ
 
がん終末期には他疾患の終末期と異なる問題がある
 
(1)病状の進行速度が速い
 
(2)苦痛な症状が出現しやすい
 
(3)病名や病状の告知が行われておらず、コミュニケーションが困難なことがある
 
(4)在宅で看とることに対する家族の不安が非常に強い
 
がん終末期の訪問看護に求められる役割・援助の視点
 
1. ‘がん’に関する最新の知識に基づいて訪問看護を展開する
 
2. 身体的苦痛症状の緩和・除去を最優先する
 
3. WHOの緩和ケアの定義「死を早めることにも、死を遅らせることにも手を貸さない」ことを認識して関わる
 
4. コミュニケーション・スキルに基づく精神・心理的援助を行う
 
5. 家族も訪問看護の対象者であり、援助を必要としている人である
1)訪問看護師は家族の代わりになれないことを認識して家族をサポートする
2)家族には独自の歴史があることを受け入れて関わる
3)死別後の家族の悲嘆プロセスも援助する
 
6. 「死を迎える」ことについて家族をサポートし、死に直面する準備を進める
 
7. がん終末期でも訪問看護の援助の視点は「自立」に向けての援助である
 
 死に直面するのは患者であり、身近な家族は死別の強い悲しみに対応しなければならない。訪問看護師は患者や家族に寄り添い、困難なプロセスを共に歩くのではあるが、患者や家族に代わることはできない。(中略)
 大切なことは、患者や家族がもっている問題への対応能力(Coping)を信じ、その力が高まるように援助することである。がん終末期であるからと過剰にケアを行い、訪問看護師に依存させるような関わりをすることは、患者や家族が死に直面したときの苦痛を和らげることには役立たない。当事者の自立を強める援助のあり方が、がん終末期の訪問看護に求められる。
 
表1 訪問看護対象者チェックリスト
 
<臨死期における家族のケア> 最期の数日・数時間の理解とマネジメント
丸口ミサエ 志真泰夫
 臨死期(terminal phase)という言葉は、臨床的な概念であり、人が死を迎える間際の時期を指している。しかし、臨死期がどの時期をさすのか厳密な定義はない。一方、terminal phaseという英語表現は次のような特徴をもつ時期を示している。
 
 「患者は、(非常に衰弱している)(ほとんど寝たきりの状態である)(終日ウトウトしていることが多い)(時間の感覚がわからなくなり、周囲へ向ける注意も限られている)(食事や水分摂取への関心は低下している)(薬を服用することが困難になる)。Terminal phaseとは、ゴールが明瞭となり、ほとんどの治療を中止することが適切な時期である」。(中略)
 
患者と家族への対応のポイント
 
1. 患者と家族への説明
 
(1)これまでの病状の経過を振り返り、がんが進行し、病状が悪化していることを伝える。
(2)悪疫質の進行による全身衰弱が進むことを伝える。
(3)今後生じてくる症状や苦痛の緩和に最前を尽くすことを保証する。
(4)鎮静の必要性、方法について説明する。
(5)患者・家族が希望することを具体的に話し合う。
(6)患者にとってのキーパーソンや、患者にとって重要な人たちに、病室とは別の部屋で次のことを具体的に説明する。
 
1)今後起こりえる症状・病状
2)患者にとって必要なケアは何か、家族ができる看病の方法は何か
3)今後、家族がしなければならないことは何か(家族の看取りの態勢、旅立ちの着物、葬儀のことなど)
4)医師や看護師など医療者が対応できることは何か
5)家族の介護体制へ助言する
6)臨終時の看取り方の確認(do not resuscitate; DNRも含めて)
7)死亡時の手順、その後の手続きについて説明する
 
2. 家族のケア
 
(1)これから起こりうる病状の変化や症状について、家族が理解でき、納得しているかどうかを確認する。
1)やむをえないこととして納得しているのかどうか
2)心残りがなく看とりをしようという気持ちになっているかどうか
3)後悔が強く残っているかどうか
4)今の病状をなんとかして治療して元に戻して欲しいという気持ちが強いかどうか
5)病状の変化に気持ちが追いついているかどうか
6)何か疑問をもっているかどうか
 
(2)家族が直接患者のケアに携われるように具体的な方法を助言する。
1)顔や身体を拭く
2)口腔ケアの方法
3)手を握ることの意味を伝える
4)マッサージの方法
5)話しかけて良いことを伝える
6)水や氷を飲ませる方法を示す
 
(3)家族の悲嘆が十分できるように、気持ちを聞く時間をとる
1)どうしてこうなったのだろうかという気持ち
2)発病してから現在までの辛い闘病生活の体験
3)もう二度と話しをすることもできないという辛い気持ち
4)これから先どうして生きていけばよいのだろうかというつらさ
5)とにかくつらい、悲しいという気持ち
 
(4)患者のそばで家族が人生の振り返りができるような話題を提供し、思い出を話し合う場を作る
1)患者の生き方は人柄
2)これまでの家族との生活
3)がんになってからの生活
4)家族に対する患者の思い
5)夫婦の良い思い出
 
(5)家族の看病へのねぎらいの言葉をかけ、家族が行っていることを肯定する
 
(6)家族の身体的疲労への配慮
1)キーパーソンだけに負担がかからないこと
2)キーパーソンを家族全体がサポートすること
3)具体的な計画を立てることの助言
4)休息がとれるような場所、時間をとること
 
(7)看取りについて前もって助言する
1)患者に付添う時期
2)家族全体で看とること
3)面会者の調整
4)最期の着物
5)葬儀の準備
6)病院から帰宅する方法
 
(わかる できる がんの症状マネジメントII ターミナルケア Vol. 11 Suppl. Oct. 2001 三輪書店)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION