5. 汚染分類変更の影響調査
5.1 目的
IMOのBLG小委員会では、GESAMPのハザードプロファイルの見直しに基づき汚染分類の変更および汚染分類のクライテリアの変更の検討を行ってきた。その結果、4分類案がMEPC49で採択された。その後、MEPC52およびMSC79において、4分類方式を取り込んだ改訂版MARPOL AnnexII及びが改訂版IBCコード採択された。
本年度は、改訂版IBCコード(MSC79/23/Add. 1 Annex10)の17章、18章の登録物質について、GESAMPのハザードプロファイルの最新の見直し結果をベースに、汚染分類のクライテリアの変更による汚染分類の影響について調査した。
また、内航タンカーの輸送量の多い品目について、汚染分類と船型要件がどのように変わるかを調査した。
5.2.1 4分類方式の汚染分類と船型要件のクライテリア
表.1 汚染分類のクライテリア
ルール |
A1
生物蓄積性 |
A2
生物分解性 |
B1
急性毒性 |
B2
慢性毒性 |
D3
長期健康影響 |
E2
海洋野生生物および
底生生物に対する影響 |
分類 |
1 |
|
|
≧5 |
|
|
|
X |
2 |
≧4 |
|
4 |
|
|
|
3 |
|
NR |
4 |
|
|
|
4 |
≧4 |
NR |
|
|
CMRTNI |
|
5 |
|
|
4 |
|
|
|
Y |
6 |
|
|
3 |
|
|
|
7 |
|
|
2 |
|
|
|
8 |
≧4 |
NR |
|
0でない |
|
|
9 |
|
|
|
≧1 |
|
|
10 |
|
|
|
|
|
F/Fp/S
Not Inorg |
11 |
|
|
|
|
CMRTNI |
|
12 |
規則1から11および13のクライテリアに適合しない物質 |
Z |
13 |
A1欄で≦2であると判定される全ての物質、A2欄でR、D3欄で空欄、E2欄でFでもS(有機物でない場合)ない、およびGESAMPハザードプロファイルのその他全ての欄で0(ゼロ) |
OS |
|
(出典)MEPC 52/24/Add.1 ANNEX 6 Page27
表.2 船型要件のクライテリア
ルール |
A1
生物蓄積性 |
A2
生物分解性 |
B1
急性毒性 |
B2
慢性毒性 |
D3
長期健康影響 |
E2
海洋野生生物および
底生生物に対する影響 |
船型 |
1 |
|
|
≧5 |
|
|
|
1 |
2 |
≧4 |
NR |
4 |
|
CMRTNI |
|
3 |
≧4 |
NR |
|
|
CMRTNI |
|
2 |
4 |
|
|
4 |
|
|
|
5 |
≧4 |
|
3 |
|
|
|
6 |
|
NR |
3 |
|
|
|
7 |
|
|
|
≧1 |
|
|
8 |
|
|
|
|
|
Fp |
9 |
|
|
|
|
CMRTNI |
F |
10 |
|
|
|
≧2 |
|
S |
11 |
≧4 |
|
|
|
|
|
3 |
12 |
|
NR |
|
|
|
|
13 |
|
|
≧1 |
|
|
|
14 |
その他の全てのY物質 |
15 |
その他の全てのZ物質 |
NA |
|
(出典)MSC 79/23/Add.1 Annex 10
5.2.2 改訂版IBCコード登録物質の汚染分類の変更の検討
改訂版IBCコード登録物質について以下のような汚染分類及び船型要件の変更の検討を行った。
1)汚染分類の変化
現行の汚染分類が新汚染分類方式になることにより汚染分類がどのように変化するか調査した。 結果を表3にまとめた。(添付ファイル 参照)
2)船型要件の変化
現行の汚染分類が新汚染分類方式になることにより船型要件がどのように変化するか調査した。 結果を表4にまとめた。(添付ファイル 参照)
3)汚染分類及び船型要件の変化の比較
上記の表1及び表2を基に、汚染分類毎の船型要件の変化の数を比較した。
結果を表5及び表6にまとめた。(添付ファイル 参照)
4)改訂版IBCコードの問題点
a. GESAMPハザードプロファイルE2項と汚染分類の不整合
汚染分類のクライテリア 表. 1のルール10では、E2項がFであるならば、汚染分類はYになる。しかし、下記の10物質(すべて17章物質)はE2項がFであるにもかかわらず、汚染分類がZとなっている。
n-Alkanes (C10+)
Alkyl (C9+) benzenes
2,2-Dimethylpropane-1,3-diol (molten or solution)
Dodecylbenzene
Dodecyl methacrylate
Ethoxylated long chain (C16+) alkyloxyalkylamine
Octanoic acid (all isomers)
Petrolatum
Tridecyl acetate
2,2,4-Trimethyl-1,3-pentanediol diisobutylate
この原因は、IMO事務局で新汚染分類を割り当てた後に、GESAMPでE2項の再評価が終了し、E2項のデータを入れ替えた際に、汚染分類の見直しが行われなかったものと推測する。
b. 18章物質リストの不整合
18章物質のリストの中にあるGlycerol monooleateのE2項はFであるので、汚染分類はYで、船型要件3になり、17章物質が正しいと思われる。
c. 二硫化炭素
二硫化炭素は、GESAMPハザードプロファイルのC2項がNIである。本来、Products with mssing dataのリストに上げられるべき物質であるが、改訂版IBCコードの17章のリストに掲載されている。
d. E2項のNIである物質の取り扱い
下記の14物質は、GESAMPハザードプロファイルのE2項がNIあるいは空白の物質である。本来、Products with mssing dataのリストに上げられるべき物質であるが、改訂版IBCコードの17章のリストに掲載されている。
この理由は、下記の14物質はGESAMPでのE2項の再評価が近い将来終了することを考慮して、あらかじめ17章のリストに掲載したものとおもわれる。しかし、(*)印の物質は汚染分類Zであり、これらの物質のE2項が再評価の結果、F、Fp、Sになった場合に汚染分類はYになるべきものである。
Iso- and cyclo-alkanes (C10-C11) (*)
Iso- and cyclo-alkanes (C12+) (*)
Alkyldithiothiadiazole (C6-C24)(*)
Octyl aldehydes
Pine oil
Urea/Ammonium phosphate solution
Calcium long-chain alkyl(C11-C40)phenate (*)
Dimethyl disulphide
Dodecyl/Octadecyl methacrylate (mixture) (*)
Epichlorohydrin
Isobutyl methacrylate (*)
Sulphonated polyacrylate solution (*)
Titanium dioxide slurry (*)
Vegetable protein solution (hydrolysed) (*)
5)改定IBCコードの船舶の運送要件の決定方法
IBCコードの船の運送要件は、汚染性と危険性の両面のデータを基に決定される。
今回のIBCコードの改定では、これらデータを用いて運送要件を割当てる基準が改定された。したがって、運送要件の改定においては、改定GESAMPハザードプロファイルの汚染性(A1,A2,B1,B2,D3,E2)と危険性(C1,C2,C3)の両面のデータを採用し、かつ、新基準に従って運送要件を割当てることになる。しかし、今回の改定では、現行のIBCコードの登録物質については、船型要件は汚染性からの見直しを行い、危険性については現行通りとする、また、他の運送要件(f項〜o項)については現行通りとされた。
今回、これを確認するため、改定GESAMPハザードプロファイルの汚染性と危険性の両面のデータを採用し、新割り当て基準に基づき、船型要件及び他の運送要件の割り当てをシュミレーションした。その結果と改定IBCコードの17章を比較した結果、今回のIBCコード改定は、汚染性のみからの改定であることが確認できた。
5.3.1 汚染分類変更により影響を受ける品目
全国内航タンカー海運組合2003年度の輸送実績資料を基に、新汚染分類により汚染分類が変わる物質の中で輸送量の多い物質について調査を行った。結果を表. 7に示す。
表.7 内航における第17章物質の汚染分類の変化
NO |
品目 |
輸送数量
(千ton) |
汚染分類 |
現状 |
4分類 |
1 |
キシレン |
2,511 |
C |
Y |
2 |
ベンゼン |
1,779 |
C |
--- |
3 |
スチレン |
1,321 |
B |
--- |
4 |
メタノール |
720 |
D |
Y |
5 |
コールタール |
663 |
A |
--- |
6 |
トルエン |
616 |
C |
Y |
7 |
シクロヘキサン |
504 |
C |
Z |
8 |
クレオソート |
403 |
A |
--- |
9 |
アクリロニトリル |
363 |
B |
Y |
10 |
ブタノール |
284 |
III |
Z |
11 |
メタクリル酸メチル |
283 |
D |
Y |
12 |
酢酸 |
226 |
D |
Z |
13 |
ジクロロエタン |
222 |
D |
---(*1) |
B |
Y(*2) |
14 |
アセトン |
208 |
III |
Z |
15 |
エチレングリコール |
207 |
D |
Y |
16 |
酢酸ビニル |
191 |
D |
Y |
17 |
水酸化カリウム溶液 |
179 |
C |
Y |
18 |
フェノール |
164 |
C |
Y |
19 |
エタノール |
158 |
III |
Z |
20 |
クメン(プロピルベンゼン) |
151 |
A |
Y |
21 |
オクタノール |
140 |
C |
Y |
22 |
シクロヘキサノール |
116 |
C |
Y |
23 |
無水酢酸 |
101 |
D |
Z |
24 |
酢酸エチル |
94 |
D |
Z |
25 |
ブナの実、オイチカ、米ぬか |
89 |
D |
? |
26 |
アニリン |
88 |
C |
Y |
27 |
アクリル酸 |
75 |
D |
Y |
28 |
メチルエチルケトン |
68 |
III |
Z |
29 |
ラテックス |
61 |
III |
--- |
30 |
アクリル酸イソブチル |
53 |
B |
Y |
|
注 4分類の欄に---のある物質は、データ不足でIBCコードから削除される。
(*1):1,1-Dichloroethane の場合、削除対象物質
(*2):Ethylene dichlorideの場合、新汚染分類Y
5.3.2 船型要件変更により影響を受ける品目
汚染分類と同様に、全国内航タンカー海運組合2003年度の輸送実績資料を基に、船型要件の見直しにより船型が変わる物質の中で輸送量の多い物質について調査を行った。
結果を表. 8に示す。
表.8 内航における第17章物質の船型要件の見直し結果
NO |
品目 |
輸送数量
(千ton) |
船型要件 |
現状 |
4分類 |
1 |
キシレン |
2,511 |
3 |
2 |
2 |
ベンゼン |
1,779 |
3 |
--- |
3 |
スチレン |
1,321 |
3 |
--- |
4 |
メタノール |
720 |
NA |
3 |
5 |
コールタール |
663 |
2 |
--- |
6 |
トルエン |
616 |
3 |
3 |
7 |
シクロヘキサン |
504 |
3 |
3 |
8 |
クレオソート |
403 |
2 |
--- |
9 |
アクリロニトリル |
363 |
2 |
2 |
10 |
ブタノール(tert-) |
284 |
NA |
3 |
(n-) |
NA |
NA |
(sec-) |
NA |
NA |
11 |
メタクリル酸メチル |
283 |
2 |
2 |
12 |
酢酸 |
226 |
3 |
3 |
13 |
ジクロロエタン |
222 |
3 |
---(*3) |
2 |
2(*4) |
14 |
アセトン |
208 |
NA |
NA |
15 |
エチレングリコール |
207 |
NA |
3 |
16 |
酢酸ビニル |
191 |
3 |
3 |
17 |
水酸化カリウム溶液 |
179 |
3 |
3 |
18 |
フェノール |
164 |
3 |
2 |
19 |
エタノール |
158 |
NA |
NA |
20 |
クメン(プロピルベンゼン) |
151 |
3 |
3 |
21 |
オクタノール |
140 |
3 |
2 |
22 |
シクロヘキサノール |
116 |
NA |
2 |
23 |
無水酢酸 |
101 |
2 |
2 |
24 |
酢酸エチル |
94 |
NA |
3 |
25 |
ブナの実、オイチカ、米ぬか |
89 |
NA |
? |
26 |
アニリン |
88 |
2 |
2 |
27 |
アクリル酸 |
75 |
3 |
2 |
28 |
メチルエチルケトン |
68 |
NA |
3 |
29 |
ラテックス |
61 |
NA |
--- |
30 |
アクリル酸イソブチル |
53 |
2 |
2 |
|
注4 分類の欄に---のある物質は、データ不足でIBCコードから削除される。
(*3):1,1-Dichloroethane の場合、削除対象物質。
(*4):Ethylene dichloride の場合、新船型要件2。
これまでの汚染分類の変更影響の調査は、現行のIBCコード物質についてGESAMPハザードプロファイルの再評価結果を取り入れて行ってきたが、今回は、改訂版IBCコードに登録される物質565物質について調査した。IMOでは、GESAMPハザードプロファイルでデータ不足のため改訂版IBCコードから削除されることが決定された物質一覧を提示し、関係業界に2005年12月末までにデータを提すれば、MEPC.2/Circularに掲載し、2007年1月1日以降も引き続き輸送できることを表明している。
従って今後は、業界からデータ提供がなされた物質についてGESAMPの評価が行われると予想されるが、GESAMPハザードプロファイルの査定結果に基づいて汚染分類の変更影響の調査の検討作業を行う必要性がある。
また、混合物の汚染分類および船型要件の決定方法にGHSを取り込む検討が始まっており、これへの対応も新たな課題である。 |