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(解説)
 
 機関計画保全検査の申請書類と承認基準とは密接な関連があるため、承認基準に照らしながら、準備すべき書類や審査のポイント等を説明します。
 
(1)ISM証書又は任意ISM証書の写し
 承認基準4.(1)にあるとおり、本制度では、ISMが強制的に適用される国際航海に従事する船舶はもちろんのこと、ISMが強制ではない内航船であっても当該船舶及びその船舶管理会社が任意ISM証書の交付を受けていることが標準とされています。
 内航船の取扱いをこのようにしているのは、ISMコード自体では、運航・船員・保守の全般について安全管理システムを構築することが要求されており、また、保守管理についても機関以外の船体・設備等も対象とされていますが、本制度では機関の保守管理等(運航・船員管理のうち機関の健全性維持に影響するものは含む。)がISMコードに適合する安全管理システムにより実施されていればよいため、任意ISM証書の交付を受けていることは必ずしも義務とされていません。しかし、予め任意ISM証書の交付を受けていない場合でも、本制度の承認を得るためには、該当部分について任意ISM証書の交付を受ける場合と同等の審査が行われます。すなわち、安全管理システムを構築すべき範囲はやや限定されますが、審査の深度自体が浅くなるものではありません。したがって、新たに本制度の承認を受けようとする場合でも、当該限定された範囲についてのみ安全管理システムを構築することと、社内の安全管理体制全般について安全管理システムを構築して任意ISM証書を取得することとの間で、労力に大きな差が生じる訳ではありません。他方、任意ISM証書を取得すれば、全社的な安全意識の向上や対外的な信用度の向上等の波及的なメリットも期待できることから、ここでは、特段の事情がない限り、事前に又は本制度の申請と並行して任意ISM証書を取得し、本制度の審査時には任意ISM以外の計画保全固有の対応準備に注力することを標準的な方法として奨めています。
 
(2)船舶安全管理規程
 ここでは、ISMコードに適合した船舶管理を実施するために必要となる保守管理、運航管理及び船員管理に関する各種規程類のうち、機関の基準適合性の維持に影響するものを集合的に指しています。具体的な文書体系は、各社の事情に応じて構築されるため、必要となる文書類を一概に言うことはできませんが、盛り込まれるべき内容は、以下のようなものです。ISM証書又は任意ISM証書を取得済みの場合は、基本的には、自社の船舶安全管理規程のうち、以下の内容が含まれている規程類を提出することで可能です(具体的な文書の名称等は問いません。)。ただし、新たに機関保全計画書を作成する場合は、これらの規程類との整合性を図る必要があります。
 
(1)安全管理の基本方針
(2)組織、体制
 機関の保守管理等に必要な組織、体制を明確にするとともにそれぞれの職務分担、責任及び権限を明確に規定する。
(例)
*会社(陸上及び船内)組織図
*船舶安全管理体制のフロー図
*職務分担、権限と責任を明確に記述し、指揮系統をフローで示す。
*管理責任者(陸上の海務部長等)を選任する。
(3)業務内容
 機関の保守管理等に必要な業務内容(点検・整備に係る項目、間隔、方法、記録の作成・管理、修理交換等に係る判定基準、船用品の管理等)と分担(実施者・責任者)を明確にするとともに、機関計画保全の対象機器については機関保全計画書に基づき業務を実施することを規定する。この際、計画保全対象機器とそれ以外の機器に関する取扱い等を明確に整理する。なお、4.(1)中の「保全計画作成手順」としては、安全管理システムの中で機関保全計画が継続的かつ適切に作成、見直しが行われるように、保全計画の作成に係る基本的考え方(継続的なデータ管理・分析等)や承認・変更手順等を規定する。
(4)教育・訓練
 船員法で定められている繰練及び教育訓練以外に、機関の保守管理等に関する教育訓練(研修会、講習等)を実施する。
(5)緊急事態対応
 緊急事態発生に備え、社内(陸上及び船内)に事態に対応するための組織図を定め、指揮命令系統、社内及び公共機関を含めた社外への連絡体制ネットワークをフローで示す(運航管理規程を準用)。
(6)不具合事項管理
 主機及び減速機、プロペラ及びプロペラ軸(中間軸を含む。)、発電機原動機、補助ボイラー及び排ガスエコノマイザー、機関室内補機及び熱交換器、甲板機械(操舵機を含む。)、空調機器、発電装置及び配電盤(電動機及び電路を含む。)等に発生した事故及び不具合に対する措置と再発防止対策を計画するとともに、事故報告書及び不具合報告書の提出を規定する。
 事故報告書及び不具合報告書には、次の項目を記述する。
*発生箇所と内容
*発生日時・場所
*発生に至る顛末
*発生原因
*実施した措置と結果
*再発防止のために必要な改善点
(7)文書管理
 機関の保守管理等に必要な文書、図面、記録の作成・改廃・配布について、職務分担、権限と責任を明確に規定する(陸上及び船内)。
 ファイリングを適切に行い、関係者が必要な時に必要な書類等を直ちに取り出せるよう整理して保管する。
(8)内部監査
 機関の保守管理等のための安全管理システムを定期的に社内で監査し、結果を検討し、評価するための規程を定める。
 監査方法としては、次の二つの方法を定めなければならない。
○内部監査:内部監査員を選出し、定期的に陸上及び船内の安全管理システムについて次の点をチェックし、その運用状況を検証する。
*各規程が守られ、安全が確保されているか。
*書類及び記録のチェック。
○経営者による見直し:経営者が直接安全管理システム全体を評価・検証する。
*安全管理システム及び結果に不備があれば、安全管理委員会を設立し、必要な見直しを行う。
 
 なお、何らかの事情により、任意ISM証書の取得ができない場合は、ISMコードに準拠して上記の内容を含むものとして、通常、次のような規程類を作成する必要があります。この場合の考え方は、第1編の「参考1: 船体計画保全検査を実施するために必要なISMコードの要件」において、「船体」とあるのを「機関」と読み替えて参照して下さい。
イ. 組織に関する規程
ロ. 教育、訓練規程
ハ. 船内業務規程
ニ. 緊急事態対応規程
ホ. 不具合事項管理規程
ヘ. 文書管理規程
ト. 内部監査規程
 
(3)機関保全計画書
 機関保全計画書は、船舶安全管理規程中の附属文書等として位置付けられ、会社の安全管理システムに組み込まれて運用されるものですが、機器の解放が省略されることを前提として、通常の船舶の機器よりもグレードの高い保守管理計画を具体化する必要があります。
 船舶安全管理規程の中には、通常、機関の保守管理等に関する業務内容を規定する機関保守管理規程等が作成されますが、当該規程とここでいう機関保全計画書とに各々記述する内容としては、前者が計画保全を実施しない場合においても最小限規定すべきような保守管理全般に関する事項を含むものに対して、後者は計画保全(長期的な保守管理)を実施するために付加的に必要となる事項に特化して規定するものとなります。また、船舶安全管理規程は、ISM承認取得後でも、会社の安全管理システムの中で自由に変更できるものとされていますが、機関保全計画書については、「機関計画保全検査制度」の下でその技術的妥当性に関する管海官庁の審査・承認を受けるため、その変更の際にも管海官庁の審査・承認が必要となります。こうした機関保全計画書の船舶安全法上の位置付けから、本計画書には、定期的検査時に解放すべき機器の解放を省略した場合に機関の基準適合性を維持するための措置に関し、技術的に重要な部分が網羅されている必要があります。
 4. 承認基準(2)を満足する、機関保全計画書に盛り込まれるべき事項の一例を示すと、下表のとおりです。ただし、会社が採用する基準適合性維持のための保守管理計画によっては、これ以外の内容も認められます。また、文書スタイル等は、各社の体系に沿って作成することができます。
 なお、上記(2)(3)で述べたように、機関保全計画書を作成する際には、他の船舶安全管理規程上での同計画書の位置付けを明確にし、互いに齟齬・矛盾がないように整理することが重要です。
 
機関保全計画書に盛り込まれるべき事項(承認のために必要な事項)の例示
1. 機関解放のスケジュール
 
2. 機関計画保全検査の対象とする機器
 
3. 機関計画保全検査のための措置
(1)機器の長期保全のための施工
(1)特定の機器について長期仕様の材質の採用(実施する場合)
 
(2)点検・整備による保守管理
(1)点検・整備箇所、点検・整備間隔(時期)に関する基準
(2)点検・整備方法の概要*1
(3)修理・交換等に係る判定基準
(4)運転中の各機器の温度、油圧等の計測値の監視による管理の概要(必要な場合)*1
(5)記録の管理(機関計画保全検査に関する保守の記録)
(イ)管理する記録のリスト
(ロ)記録すべき事項(定めている場合は様式を添付)*2
 

(備考)
*1: 点検時の注意箇所、注意事項、点検の詳細及びその他の管理をする場合の詳細な方法は、「機関保全計画書」以外の船舶安全管理規程に規定することができる。
*2: 記録に関しての管理手順(記録者、記録責任者、保管管理者、報告手順)の詳細は、「機関保全計画書」以外の船舶安全管理規程に規定することができる。
*3: 全般に、「機関保全計画書」に規定される事項は、船員の業務運用上の利便性を考慮して必要な場合は、「機関保全計画書」以外の船舶安全管理規程中の文書に、計画保全対象外の機器に関する記述と一括して記述することができる(上記の点検時期や判定基準を他の規程に重複して記述してもよい。)。
 
 以下、上記の例示中の主な項目に沿って、その内容を補足します。
 
1. 機関解放のスケジュール
 機関計画保全検査を実施する場合の各機器の解放のスケジュールを計画する。
 保全計画書の承認対象期間は、スタート時より5年程度が標準とされているが、5年毎の再承認時に見直すことを前提に、予め5年以上の期間を含めた長期的なスケジュールを記載することは可能。
 各機器の保守・整備スケジュールの例示を「参考1: 機関保全計画表(解放スケジュール)」に示す。
 なお、分割検査又は継続検査を実施している船舶以外の船舶の機関であって、新造の主機、補助機関等を備え付けた後、初めての第1種中間検査等(平水及び限定沿海を航行区域とする旅客船にあっては特1中とする。)を受ける場合は効力試験(海上運転)のみとすることができる特例があるが、機関計画保全検査を適用する場合には、当初の解放状態を把握するため当該特例は認められない。
 
2. 機関計画保全検査の対象とする機器
 主機、補助機関、動力伝達装置及び軸系、ボイラ及び圧力容器並びに補機及び管装置の一部又は全部を、船舶所有者のニーズに応じて設定することができる。
 
3. 機関計画保全検査のための措置
(2)点検・整備による保守管理
(1)点検・整備箇所、点検・整備間隔(時期)に関する基準
(2)点検・整備方法の概要 *1
(3)修理・交換等に係る判定基準
 
 機関計画保全検査方式を導入した場合は、船舶所有者が定めた運転時間等に基づく各機器の解放時期とすることが可能となるので、各機器の健全性を担保できるよう、計画スタートの直前又は直後の各機器の各部点検と整備を行い、点検結果と整備内容を記録する。また、その後の解放時においても、同様の点検、整備、記録を継続する。
 各機器解放時の各部点検項目と要領及び整備内容を、内燃機関の場合で例示したものを「参考2: 機関保守整備の作業手順・実施間隔、判定基準等の例示」に示す。
 
 承認基準4.(2)(b)中の「修理・交換等に係る判定基準」については、修理・交換等が事業者の自由裁量でなく技術的根拠に基づいて実施されることを確保するために要求されている。
 判定基準としては、メーカー標準等を活用し、できる限り定量的な指標を示すことが望ましいものの、安全性が確保できる場合には、メーカー標準を超えても継続使用することは認め得るため、定量的な指標をそのような位置付けとする場合は、計画保全上も、修理・交換等の要否を判断する際の「標準」等として位置付けることが適切。
 判定基準として定量的な指標を示すことが困難な機器であっても、修理・交換等の要否を判断する際の定性的な考え方を示すことは必要。
 なお、定期的検査時における記録の確認等の際に、検査官は、事業者の修理・交換等の要否に関する判断が適切であったかを審査することとなる。
 
3. 機関計画保全検査のための措置
(2)点検・整備による保守管理
(4)運転中の各機器の温度、油圧等の計測値の監視による管理の概要(必要な場合)
 
 運航中、機関が健全であることを確保するための追加的な手段として、例えば、次のような措置を講じる。
イ. 機関室無人化船であっても機関室及び操舵機室等を定時的に乗組員が点検する。点検間隔は原則として毎日とする。
 点検結果は乗組員用のマークシート方式で簡単に記入できるものとする。
ロ. 各装置については定期的に操縦性能と応答性を確認し、電流値等を記録して計画値と照合する。
ハ. その他、各機器の取扱説明書に従った頻度で定期的に点検整備を実施する。特に排気タービン過給機のタービン側及びブロア側の洗浄、補助ボイラー及び排ガスエコノマイザーのスートブロー等の作業は、運航状況及び適切な海域において実施すること。
ニ. 航行中に、流木等の水中浮遊物との接触等により機器に異常を生じた恐れがある場合には、その状態を確認する。







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