○修理・交換等の判定基準
(説明)
「修理・交換等に係る判定基準」については、修理・交換等が事業者の自由裁量でなく技術的根拠に基づいて実施されることを確保するために要求されている。
判定基準としては、メーカー標準等を活用し、できる限り定量的な指標を示すことが望ましいものの、安全性が確保できる場合には、メーカー標準を超えても継続使用することは認め得るため、定量的な指標をそのような位置付けとする場合は、計画保全上も、修理・交換等の要否を判断する際の「標準」等として位置付けることが適切。
判定基準として定量的な指標を示すことが困難な部位であっても、修理・交換等の要否を判断する際の定性的な考え方を示すことは必要。
なお、定期的検査時における記録の確認等の際に、検査官は、事業者の修理・交換等の要否に関する判断が適切であったかを審査することとなる。
<運航中>
(説明)
旅客船及び旅客フェリーの特徴として、年間の航海数が多く、従って出入港、離着岸回数が多くなり、岸壁等の港湾施設との接触により、水線下の船体に損傷を発生させる確率が高くなる。更に常時沿岸を航行するため、流木等の水中浮遊物との接触、漁網やボンデン等の漁具を捲きこむことにより、プロペラ、スラスター、フィンスタビライザー等にトラブルを発生し易いことが挙げられる。このため、船体計画保全検査方式を導入して、数年間入渠せずに運航を維持するためには、運航管理規程及び船舶安全管理規程を遵守して安全運航に徹しなければならない。
また、運航中、水線下の船体及び諸装置が健全であることを確保するための追加的な手段として、例えば、下表のような措置が考えられる。
各船で計画されるこうした措置について、点検整備箇所、点検時期(頻度)等に関する基準として、整理し、船体保全計画書に盛り込む必要がある。併せて、修理・交換等に関する判定基準を、入渠時と同様に定めておく。
点検方法等 |
対象箇所 |
備考 |
乗組員による定期的な内部からの点検、衰耗箇所の板厚計測 |
・各タンク、コファダム、ボイドスペース ・スラスター室、機関室等単底部 |
・点検間隔は原則6ヶ月以内とし少なくとも1年を超えないこと。 ・単底部はビルジ等がない状態にしておくこと。 |
運転状態、電流値、圧力などの計測結果により状態を監視 |
・操舵装置、フィンスタビライザー、その他の装置 |
・定期的に操縦性能、応答性、電流、圧力を計測し通常運転状態と比較。 |
必要に応じてダイバーによる水中写真で確認 |
・船底外板、過去の状況から推定したポイント ・スラスター、フィンスタビライザー、プロペラ、舵 |
・船体計画保全検査を初めて適用する時期から1年目となる1中時に入渠/上架を省略する場合、必要に応じて行う。 ・荒天航海遭遇時、海上浮遊物へ衝突した可能性のある場合、必要に応じて行う。 ・初めて長期仕様の塗装を使用する場合、その有効性を確認するためにも有用。 |
|
3. 船体計画保全検査のための措置
(3)記録の管理(船体計画保全検査に関する保守の記録)
(説明)
船体保全計画書に基づき管理される記録を明確にするため、管理記録名を列記し、その様式を添付する。
(4)船体保全計画の技術的妥当性を説明する書類
本書類は、上記保全計画の技術的妥当性を説明する内容として、管理文書となる船体保全計画書自体に盛り込む必要のない補足的資料を指します。内容として想定されるのは、例えば、次のようなものです。
(1)船体
過去に水線下の船体に発生した損傷例と復旧工事内容及び事故再発防止対策を時系列的に列記する。また、防錆・防汚対策について、必要に応じ塗料や防食装置メーカーの技術資料や確認文書を添付するとともに、船体保全計画書に従って入渠/上架の省略を行った場合でも健全性が維持できることを技術的に説明する。
(2)諸装置
過去の入渠時における舵、錨及び錨鎖、船底・船外弁、シーチェスト、サイドスラスター、フィンスタビライザー、シャフトブラケット、プロペラ、プロペラ軸等の各計測記録データを時系列的にグラフ化して衰耗推移曲線を作成するとともに、今後の衰耗状態を予測し、船体保全計画書に従って入渠/上架の省略を行った場合でも健全性が維持できることを技術的に説明する。
なお、この衰耗状態等の予測は、できる限り、本船の過去の入渠時に取得された計測記録データ等に基づくことが望ましい。ただし、技術的な妥当性が認められる場合には、同様の運航形態にある同型船等のデータを活用することができる。また、過去に継続的な計測記録がされていない一部の保全計画対象部位(例:船底・船外弁等)については、保全計画開始後から新たに計測記録等を開始し、以後継続的に衰耗状態等を管理することを前提条件に、過去の検査・整備実績等に基づいて技術的な妥当性を説明することができる。
船舶安全管理規程及び船体保全計画書に従い適切に保全管理が行われていることを示す客観的証拠として有効であり、保全計画の妥当性の確認、保全計画の見直しのためにも記録は必要です。使用目的を考慮し適切なフォームで、年月日、整備点検の実施者、記録者、整備点検責任者の確認の有無、不具合があった場合はその内容が後日、確認できるようにしておくことも重要です。また、必要に応じて写真、図なども有効です。また、入渠/上架時の記録は主として造船所及び各メーカーが作成する記録をベースに作成することになりますが、乗組員の負担を軽減するために運航中の点検、特に船体に関しては、記述方式を避けてチェック方式とすることが適切です。
この記録は、船体計画保全検査の申請書類として提出することとされておりますが、任意ISMの初期審査時とは異なり、必ずしも3ヶ月以上のシステムの運用実績は要求されておりませんので、運用実績がない場合は、船舶安全管理規程及び船体保全計画書に含まれる様式のみを提出することとなります。
船体各部の点検記録(記入例)の一例を次に示します(点検日、実施者、責任者の欄は省略)。
<記録記入例>
○船底・船側外板の記録(入渠時)
タンク等名称 |
船底外板内側 |
船底外板外側 |
底部 |
側壁 |
吸排水管口下 |
ビルジウエル |
測深管下 |
外板 |
船底プラグ |
FPT |
○ |
○ |
○ |
- |
○ |
○ |
○ |
NO.1TRIM T(C) |
△注1 |
○ |
△注1 |
- |
○ |
○ |
○ |
NO.15TRIM T |
△ |
○ |
△ |
- |
○ |
○ |
○ |
NO.2WBT(C) |
○ |
○ |
○ |
- |
○ |
○ |
○ |
|
○ |
良好な状態:僅かな点錆がある。 |
□ |
平均な状態:確認対象の20%以下の軽度な発錆がある。 |
△ |
不良な状態:確認対象の20%以上の発錆による塗装破損がある。 |
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<注> |
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1. |
クラック等損傷を発見した場合には、ついて応急修理が必要と思われる場合は、直ちに保守管理責任者に連絡する。 |
2. |
腐食、電食等進行状況の確認が必要なものについては、次回の点検において比較できるように、必要に応じて写真撮影、スケッチ、記述等の措置を講ずること。 |
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○板厚計測の記録(入渠時)
計測箇所
(板名・部材名) |
Fr.No. |
計測日
(西暦) |
計測値
(mm) |
所見 |
新造時厚さ
(衰耗限度)(mm) |
船底外板A板(P) |
Fr.103〜FP |
04.1.30 |
16.0 |
全体的な腐食 |
16.5(12.0) |
04.7.29 |
16.0 |
進行なし |
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|
|
|
|
|
センターガーダー |
Fr.110〜FP |
04.1.30 |
16.0 |
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18.0(13.5) |
04.7.29 |
15.5 |
写真添付 |
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○塗装の記録(入居時)
箇所 |
下地処理 |
下塗塗料 |
膜厚 |
回数 |
上塗り塗料 |
膜厚 |
回数 |
船底平坦部 (1,487m2) |
W.DS |
ニュー△△ |
250 |
TU(1) |
▲▲20 |
80 |
TU(1) |
○○1号HB |
50 |
TU(1) |
65 |
AO(2) |
船底垂直部 (2,288m2) |
W.DS.SS |
ニュー△△ |
250 |
TU(1) |
▲▲20 |
80 |
TU(1) |
○○1号HB |
50 |
TU(1) |
80 |
AO(2) |
外舷部 (4,820m2) |
W.DS.SS |
ニュー△△ |
250 |
TU(1) |
●●NO200 パールホワイト ××-92B |
35 |
TU( ) |
|
|
AO( ) |
|
AO(1) |
上部構造部 ( ) |
W.DS.SS |
ニュー△△ |
250 |
TU(1) |
●●NO200 パールホワイト ××-92B |
35 |
TU( ) |
|
|
AO( ) |
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AO(1 ) |
記号 |
W: 清水洗い DS: ディスクサンダー SB: サンドブラスト S: スクレープ PB: パワーブラシ SS: サンドスイープ |
TU: タッチアップ AO: オールオーバー |
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※他銘柄を部分的にテスト塗装する場合は、そのことを記述し、塗装範囲を図示する。
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5. 承認手続き
(1)申請を受理した場合、関係者のヒアリング、船体の状態確認、船舶安全管理規程及び船体保全計画書の妥当性の検討等により、上記基準への適合性を評価のうえ、意見を添えて検査測度課長に伺い出ること。この場合の添付書類は3.申請書類のうち(3)、(4)及び(6)として差し支えない。
なお、優良・適切な保守管理の実施に関する確認については、任意ISM証書を受有していることを前提に、当該船舶安全管理システムの下で、計画保全検査が実施されることを確認することを標準とする。ただし、任意ISM証書を受有していない場合にあっては、次項(2)のとおりとする。
(2)任意ISM証書を受有していない場合にあっては、船舶安全管理規程及び船体保全計画書に基づき船体の保守管理等を行うことが船舶安全管理規程に準じた社内規則に規定され、かつ、実施されている等、船体計画保全検査の対象となる船体の保守管理等が国際安全管理規則に適合する安全管理システムにより実施されていることを確認する(陸上の船舶管理部門の確認を含む。)。また、国際安全管理規則に定められた定期検査、中間検査、年次検査及び臨時検査に相当する時期に相当する内容の検査を実施し、国際安全管理規則への適合性の確認を行うこと。なお、この場合の検査の記録は、任意ISMコードの審査記録簿と同様の書類に記録して管理すること。
(3)承認して差し支えないと認められた場合には、船体保全計画書に先任船舶検査官又は船舶検査長名にて承認する旨を記載のうえ、船舶所有者に返却し、船舶検査手帳と共に保管させること。
(4)船体保全計画書を変更しようとするときは、船体保全計画書及びその技術的妥当性を説明する書類並びに必要に応じて3. に掲げるその他の書類を提出させ、改めて伺い出のうえ承認すること。ただし、点検等の時期の繰り上げ等の軽微な変更については、管海官庁限りで処理して差し支えない。なお、この場合にあっても検査測度課長に報告を行うこと。
(解説)
本項目では、「3. 申請書類」と「4. 承認基準」に基づきながら、具体的にどのような手続きで承認が行われるかを示しています。上記の趣旨を補足説明すると、次のとおりです。
(1)船体計画保全検査については、まず申請先の管海官庁(地方運輸局の本・支局等)で審査が行われますが、新しい制度であるため、地域間で運用上の差異が生じないよう、当分の間は、管海官庁から国土交通省本省宛に伺い出がされ、全国統一的な運用が図られます。このため、本制度の申請に当たっては、十分な時間的余裕を持って臨むようお願いします。
(2)任意ISM証書を受有している場合は、関係者のヒアリングや船体の状態確認も実施されますが、主に船体保全計画の技術的な妥当性を確認するための書類審査が中心となります。
他方、同証書を受有していない場合は、まず、船体の保守管理等に関する社内の安全管理システムについて、ISM審査と同等の審査(書類審査、陸上の船舶管理部門と船舶での現場インタビュー等を含む。)を行うことから始まり、ISMコードに適合する安全管理システムが維持されていることが確認された上で、船体保全計画に関する審査が行われることになります。また、この安全管理システムの維持の確認についても、任意ISM証書を受有している場合と同様に、定期的に審査されることになります。
(3)審査の結果、承認される場合は、船体保全計画書に承認の旨が記載され、申請者に返却されます。なお、船舶安全管理規程は、ISMコード上、会社が随時見直しをすることになっているため、承認の旨の記載・返却は行われません。
(4)船体保全計画書を変更しようとするときは、変更の内容にもよりますが、基本的には承認時と同様の手続きが必要となります。ただし、点検時期の繰り上げ等の軽微な変更については、本省伺いの必要はなく管海官庁限りで処理できるため、短期間での承認が可能です。
6. 計画保全検査の実施方法
(1)定期検査においては船舶安全法施行規則第24条に掲げる準備で入渠/上架検査を実施するものとする。
(2)特1中検査においては船舶安全法施行規則第25条第1項に掲げる準備で入渠/上架検査を実施するものとする。
(3)船体保全計画書において、入渠/上架することとされている第1種中間検査においては(2)と同様の準備で検査を実施するものとする。
(4)上記(1)から(3)の時期を含め定期的検査時は、本船において船体の保守管理等が船舶安全管理規程及び船体保全計画書に基づき行われ、かつ、記録が正しく記載・保存され、船体の現状が良好であることを記録の確認、整備点検現場の確認、船長、保守管理責任者及び実施者に対するインタビュー等により確認する。なお、当該確認を任意ISM証書の更新審査(初期審査を含む。)又は中間審査の時期に行った場合は、その旨を「審査記録簿(船舶安全管理認定書)」に記載し、その直後の定期的検査における当該確認は省略して差し支えない。
また、上記の整備点検現場の確認については、定期的検査時において計画保全対象でない設備に関する臨検を行う際などに、計画保全対象部位の整備点検の工程に支障を与えない範囲で実施する。上記の各種確認の結果、船体の保守管理等又は船体の現状に問題があると判断した場合は、必要に応じ入渠/上架検査を実施すること。
(5)計画保全検査対象部位であっても、臨時検査事由に該当する主要部品の交換等が行われる場合は、臨時検査として取り扱うこと。
(解説)
本項では、船体計画保全検査制度の承認取得後に、具体的にどのように検査が行われるかを示しています。上記の趣旨を補足説明すると、次のとおりです。
(1)「1. 制度の概念」の項にもあったように、計画保全検査を実施中の船舶であっても、定期検査と特1中検査については、船舶検査官が立ち会い、従来どおりの入渠/上架検査が実施されます。また、特1中以外の第1種中間検査の場合でも、保全計画上、予め入渠/上架が計画されている場合は、船舶検査官が立ち会い、従来どおりの入渠/上架検査が実施されます。
(2)定期検査や特1中検査を含み、毎年の定期的検査の時期には、記録の確認、整備点検現場の確認、船長、船内における保守管理の責任者及び実施者に対するインタビュー等により、船体が適切に保守管理されていることが確認されます。入渠/上架が行われず設備等の検査のみが実施される第1種中間検査の場合は、この確認が船体の検査として執行されることとなります。
定期的検査時における具体的な確認の方法や範囲については、受検予定地の管海官庁と事前に打ち合わせを行って下さい。整備点検現場の確認は、当該検査時に保全計画に基づき点検整備が行われている場合に、その工程に支障が生じない範囲で実施することになっています。
なお、これらの確認(整備点検現場の確認を除く。)については、任意ISMの船舶安全管理認定書にかかる定期的な審査時に行うことも可能であり、この場合は、直後の安全法上の定期的検査での確認は省略されます。
(3)第1種中間検査を浮上中に受検している場合等であっても、上記の各種確認の結果、船体の保守管理等や船体の現状に大きな問題があると判断されたときは、入渠/上架検査を指示される場合や、次項7. に基づき計画保全検査の承認が取り消されることもあるため、十分な注意が必要です。
(4)入渠/上架による検査が省略できる計画保全検査対象部位であっても、定期的検査以外の時期に臨時検査事由に該当する主要部品の交換等(例:舵、プロペラ軸)が行われる場合は、臨時検査を申請し、受検する必要があります。
なお、定期的検査受検中に当該交換等が行われる場合には、船舶検査官による臨検(立会)があります。
7. 承認の取り消し
次に掲げる場合は、計画保全検査を中止し、検査測度課長に報告すること。
(1)承認した船体保全計画書に従わなかった場合、その他優良・適切な船体の保守管理等体制が維持されていない場合
(2)保全計画対象部位の衰耗状態等が予測と大きく異なった場合等、保全計画の策定時における基準適合性の推定根拠を見直す必要が生じた場合
(3)船体に重大な損傷が発生した場合(不可抗力による場合を除く。)
(4)船舶所有者又は船舶管理会社が変更になった場合
(解説)
本項では、船体計画保全検査の承認が取り消される場合の条件を示しています。
特に、保全計画対象部位の衰耗状態を計測・記録する過程で、当初の予測と大きく異なることが発見された場合などは、承認取り消しに至らないよう早めに管海官庁と相談して下さい。
8. その他の保全方法
船体計画保全検査とは異なる保全・保守管理方法を行う船体について、船体計画保全検査に準じた検査を受けることについて希望のある場合は、必要な資料の提出を求め、内容を検討し、意見を添えて、検査測度課長に伺い出ること。
(解説)
上述の船体計画保全検査の各種条件には合致しないものの、別途の代替措置等を講じることにより入渠/上架を一部省略しても適切な保守管理等が維持できると認められる場合には、本項に基づく承認を受けることが可能です。
申請に当たっては、十分な技術的根拠が必要となるので、時間的余裕を持って管海官庁にご相談下さい。
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