参考資料3.4
(社)日本造船研究協会RR-S701「不具合情報の評価に関する調査研究」
(平成15年度報告書)抜粋
6. 旅客船の船底検査方法の見直しについて
6.1 旅客船の船底検査に対する基本的な考え方
旅客船は、非旅客船に比べて多数の人員を搭載するため、事故時の被害影響度が大きい。このため、国際条約や各国法令において、一般に、旅客船の安全基準は、非旅客船に比べて、高く設定されている。しかしながら、船底を含む船体構造基準は、基本的に航行区域や大きさに応じて規定されており、少なくとも我が国では、旅客船と非旅客船において特段の差は設けられていない。(旅客船に対する構造基準の強化は、他の設備基準等と比べ、費用対効果の観点から合理性に欠けるであろうことが、歴史的にも感得されていたものか。)
他方、構造基準の強化に代えて、基準からの経年的・人為的な逸脱を防止するための措置である国の認証制度(検査)に関して、国際条約でも、旅客船は非旅客船よりも頻繁に(より入念に)検査を実施することとされている。この背景には、構造基準は伝統的に各国又は船級の要件とされていたため、条約で国際的に統一して規定可能な方策として、旅客船の船底検査を非旅客船よりも強化したものと考えられる。
これらの点から、条約非適用の内航旅客船に対して船底検査方法を見直す場合にあっても、旅客船の船体構造の健全性は、非旅客船よりも入念に確認し、基準からの逸脱(不具合)の発生をより少なくするとの基本的な考え方は堅持すべきと考えられる。換言すれば、旅客船と非旅客船の事故発生リスク(=事故発生確率×被害影響度)を同程度とするため、旅客船の船底検査は非旅客船よりも入念に行う必要がある。
なお、船底検査では、船体外部だけでなく、錨、錨鎖、船底弁等の喫水線下の弁類、舵、スラスタ、プロペラ、プロペラ軸、シャフトブラケット等、入渠時でなければ視認できない箇所(以下「とも回り等」という。)の検査も実施されるため、これらについても上記と同様に考える必要がある。
6.2 旅客船の船底検査方法の見直しの前提
これまでのRR-S701での検討において、概ね次の点が確認されたと考えられる。
(1)船底を含む船体外部及びとも回り等の健全性は、就航海域や速力に応じた船底塗装仕様の選択等、船舶所有者の保守管理計画とそれを実行する能力に多くを依存しており、船舶検査時の不具合データ分析結果からは、現状においては、全ての旅客船に対して非旅客船並に一律に船底検査間隔を延長できる状況にはないこと。
(2)他方、長期仕様の船底塗装を施工する等、適切な保守管理を実施すれば、入渠間隔を1年超とすることが可能な技術的基盤が社会的に存在するようになったこと(見直しをする場合の契機)。
今後、旅客船の船底検査方法を見直す場合には、次の点を確認することが前提条件となると考えられる。
(1)内航旅客船の一定範囲の船舶に対して船底検査方法の見直しをする場合であっても、これにより不具合の発生が増加し、旅客船の安全性の低下を招くおそれがないこと。
なお、委員会において、最近入渠されたものを中心に十隻程度の旅客船の検査履歴を調査したところ、旅客船の船体の損傷は離着岸時に発生することが多いことが分かったが、この場合には、乗組員が当該不具合の発生を認識しており、随時、臨時的な補修と検査を実施していた。すなわち、調査事例を見る限り、常時適切な保守管理体制下にあることを条件とすれば、船底検査間隔の若干の延長を行っても大きな問題は生じないであろうことが確認された。
(2)当該見直しに対する受検者のニーズが存在すること。すなわち、船底検査に係るコストの低減等の見直しにともなう効果が期待されること。
6.3 見直しの試案
上記の前提条件が確認できる場合、例えば、現状の毎年の入渠検査方式又は水中検査方式に加え、機関計画保全検査方式(添付資料「検査の方法 S編 検査の特例」2.18参照)と同様の考え方による「船底計画保全検査」方式を導入することが考えられる。この場合、従来方式又は新方式の何れの方式で船底検査を受検するかは、船舶所有者の任意となる。
なお、本方式と水中検査方式との併用については、現状の水中検査方式ですでに船底検査に係る一定のコストの低減が図られていることから、本方式導入後の影響を見ながら将来的に検討すべき課題と考えられるため、本案では想定外。
船底計画保全検査の具体的なイメージは、以下のとおり。【 】の箇所は、特に今後の検討を要する点。
(1)適用対象船舶
建造後【15】年未満の内航旅客船【であって、普通構造のもの。すなわち、軽構造船、双胴船等、特殊な構造の船舶は対象外】とする。【(受検者のニーズを考慮して、航行区域、総トン数、船長、速力に基づく対象船舶の限定は見送る。)】
(2)対象とする検査
【特1中検査以外の】第1種中間検査。【ただし、新造後初めての第1種中間検査を除く。】すなわち、定期検査【及び特1中検査】においては、現状の(検査官の立会による)入渠検査方式を適用する。
(3)対象とする検査項目
入渠時でないと視認できない船底、船側外板、舵、錨、錨鎖、喫水線下の弁等
(4)船底計画保全検査方式の承認基準
機関計画保全検査方式に準じ、次の適切性を判断して承認する。
(1)衰耗状態等の予測
前回ドック時の状態等から船底等の衰耗の発生、進行を予測すること。
(2)優良・適切な保守管理
ISM相当の保守管理体制を有すること。
(3)船底保全計画書
船体の健全性確保のための塗装等、メンテナンスに係る保守計画、5年間のドック計画等の策定
(4)船底保守管理規定
ISMでの船舶の保守に係る規定のイメージ。点検区域、点検項目、点検頻度、点検手段等の記載されたマニュアルの策定。
(5)保全及び保守管理に関する記録
上記マニュアルに記載された入渠検査時の結果の記録、海難等発生時の保守管理記録等の作成。
【なお、新方式導入後当分の間は、定期検査及び特1中検査における入渠を含め、5年間に4回以上の入渠が行われること(入渠間隔は【18ヶ月】を超えないこと)を標準とする。】
注解:非旅客船においても太宗の船舶は、合いドックを含め5年間に4回程度の入渠を実施している(約1年3ヶ月毎)ことを考慮し、旅客船の場合も、現状よりも5年間で入渠回数を1回削減できる上記運用でスタートし、実施状況を見ながら、入渠回数の削減を認めることが適切との考え方。なお、運用状況に応じて中長期的に入渠回数の削減を認める場合であっても、非旅客船と同様の5年間に2回の入渠(定期検査時を含む。)が緩和の限度となる。
なお、参考までに、これらの諸条件を変化させた場合に考え得る入渠時期のパターンを図6.3.1に示す。
(5)検査の実施方法等
定期的検査時等において検査官による記録の確認等を行う。また、定期的検査時以外の時期に入渠する場合は、【前回の定期的検査時において臨時検査を指定する】【必要に応じ、船舶安全法第12条根拠の立入検査を実施する】こととする。
6.4 今後の検討課題
上記の試案は、海運・造船業界に一定の経済的影響を及ぼすものであるため、今後、十分な関係業界との調整を必要とする。同案は技術的観点から考え得る一つの方向性を提示したものであるが、本委員会では、出席した業界関係委員を含め、業界調整の場としての検討は一切行っていないことを念のため申し添える。また、今後、6.2の見直しの前提条件及び6.3のブラケット箇所を十分に吟味することに加え、以下のような点を更に検討し、上記試案の実行可能性を検討する必要があると考えられる。
(1)保全計画試案の作成
(2)コスト評価
以上
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