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はしがき
 本報告書は、日本財団の平成16年度助成事業「船舶関係諸基準に関する調査研究」の一環としてRR-R4不具合情報の評価に関する調査検討会において実施した「旅客船の船体検査基準試案作成に関する調査研究」の結果をとりまとめたものである。
 
RR-R4不具合情報の評価に関する調査検討会 委員名簿(敬称略、順不同)
 
委員長 宮本武(海上技術安全研究所)
委員 横田肇史(中国運輸局)  和高裕三(中国運輸局)
圍達也(九州運輸局)  田中光彦(四国運輸局)
丹羽敏男(海上技術安全研究所)  藤里宜丸(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)
吉田良治(日本旅客船協会)  高松勝三郎(オーシャン東九フェリー)
岡本和夫(オーシャン東九フェリー)  村上明(尾道造船)
 
オブザーバー 神山公雄(日本旅客船協会)  森 徳男(尾道造船)
 
関係官庁 神谷和也(検査測度課)  竹原隆(検査測度課)
安藤昇(安全評価室)  児玉敦文(安全基準課)
 
事務局 前中浩(日本造船研究協会)
 
 本調査検討会では、船舶安全法による検査の過程で収集される膨大な不具合情報の分析・評価を行い、その結果を検査基準の見直し等に反映させるための検討を行なっている。平成15年度(RR-S701)は、旅客船の船底検査間隔の延長についてその技術的な可能性について検討を行い、その方向性に関する試案を示した。
 平成16年度は、この試案で示された船体計画保全検査方式の承認基準案を具体化するとともに、船体保全計画試案の作成及び当該検査方式を導入した場合の経済効果の評価等を行った。
 平成16年度の具体的な調査研究項目は、以下のとおりである。
 
(1)衰耗状態等の予測法の検討
(2)優良・適切な保守管理手法の検討
(3)船体計画保全検査方式の承認基準案の作成
(4)船舶安全管理規程案の作成
(5)船体保全計画書案の作成
(6)船体計画保全検査方式の経済効果の評価
 
 なお、船体計画保全検査方式の承認基準案の作成に当たっては、既に実施されている機関計画保全検査の承認基準との整合性も図り、船体・機関双方の計画保全検査に関する承認基準案を作成した。
 
 本年度の調査研究の概要について、本報告書中の各章に沿って以下に要約を示す。
2.1 調査研究の目的と背景
(1)平成15年度の調査のレビュー
 本年度の調査研究は、昨年度の調査結果を発展・継続させたものであることから、本年度調査に先立ち、昨年度調査のレビューを実施した。主なポイントは次のとおり。
●船体外部等の健全性は、船舶所有者の保守管理計画とそれを実行する能力に多くを依存。船舶検査不具合データベースの分析結果からは、全ての旅客船に対して非旅客船並に一律に船底検査間隔を延長できる状況にはない。旅客船は、非旅客船に比べ、船型・船速・運航形態等が多様であることもこの一因(軽構造、2機2軸、高速等)。
●他方、就航海域や速力に応じた長期仕様の船底塗装を施工することを含め適切な保守管理等を実施すれば、入渠間隔を1年超とすることが可能な技術的基盤が社会的に存在。
●水中検査についてはすでに相当の緩和を実施済み。水中検査の利用が進まない背景は、稼働率が高く停泊中に水中検査を受検する時間がとれないとの長中距離フェリー等の運航実態に起因するところが大きい。
●長中距離フェリー等の優良・適切な保守管理能力を有する事業者が入渠間隔を延長できる制度として、新たに、機関計画保全検査と同様の考え方による「船体計画保全検査」制度を検討することが適当。
 
(2)現行機関計画保全検査の導入経緯
 船体計画保全検査は、機関計画保全検査の考え方を援用したものであることから、機関計画保全検査の導入時における経緯等をレビューした。
 
2.2 旅客船事業者へのアンケート結果分析
 船体計画保全検査制度の実施の可能性が高いと見込まれる大中型旅客船(フェリー等)について、アンケート調査を実施した。回答結果(73隻)に基づき、機関整備の間隔、入渠間隔との関連、入渠時修繕費用等について分析を行い、次の点が明らかとなった。
●船体計画保全検査制度が導入された場合、全体の約7割の船舶が入渠間隔の延長を希望しており、その殆どは2年以内の入渠間隔を想定している。
●入渠間隔の決定要因としては、運航スケジュールに加え機関の要整備時期との関連が深い。
●主機の構成要素のうち、入渠での解放整備が必要であり、かつ、最も整備間隔の短いものは過給機(通常6,000〜8,000時間)であり、現状では、この間隔を2年程度としている船舶は、比較的年間運転時間の短い船舶(4,000時間程度以下)であって、全体の1/3程度である。すなわち、計画保全検査制度の要件である優良・適切な保守管理体制の確保を前提とすれば、当面、これらの船舶において当該制度の導入の可能性が高いと考えられる。他方、年間運転時間の長い船舶であっても、主機の負荷率が適正でタービンのカーボンによる汚れが少ない場合は、長期整備仕様の過給機を採用する等の適切な措置を工夫すれば、入渠間隔の延長の可能性もある。
●その他、主機の構成要素別に保守整備間隔の実態が明らかとなった。
 
2.3 関連機器の保守整備の現状と不具合情報分析
 船体計画保全検査を実施に当たり、長期保全の際の重要事項となる船底弁等及びプロペラ軸を取り上げ、保守整備の現状を整理するとともに船舶検査データベースにおける不具合情報の分析を実施した。
●船底弁等の不具合情報分析を実施した結果、以下の事柄が明らかになった。
(1)船底弁等の不具合種類の大半は、『衰耗、劣化』による不具合である。
(2)船底弁等の不具合原因は、『腐食衰耗』による不具合である。
(3)船底弁等の腐食衰耗を原因とする不具合は、船齢が5年以上10年未満で不具合が発見され始め、10年以上15年未満で最も不具合が発見されている。
(4)船底弁等の不具合に関して、船種ならびに検査別による不具合種類、不具合原因ならびに不具合が生じた船齢の相違におよぼす影響はほとんど認められない。
●プロペラ軸の不具合情報分析を実施した結果、以下の事柄が明らかになった。
(1)第1種プロペラ軸の不具合種類は、『衰耗、劣化』が最も多く、次いで『クラック』の順である。また、第2種プロペラ軸の不具合種類は、防食が施されていない軸であるため、『衰耗、劣化』が多い。
(2)第1種プロペラ軸の不具合原因は、『腐食衰耗』による不具合である。また、第2種プロペラ軸の不具合原因は、防食が施されていない軸であるため、『腐食衰耗』が多い。
(3)第1種プロペラ軸の不具合は、船齢が『5年以上10年未満』で不具合が発見され始め、その船齢以降に、多くの不具合が発見されている。また、第2種プロペラ軸の不具合は、船齢が『10年以上15年未満』以降に不具合が発見されている。
(4)プロペラ軸の不具合に関して、船種ならびに検査別による不具合種類、不具合原因ならびに不具合が生じた船齢の相違におよぼす影響はほとんど認められない。
 
2.4 船体・機関計画保全検査の方法(案)
 船体計画保全検査の承認基準として、「船舶検査の方法」(案)を作成した。また、現行機関計画保全検査の方法における要改善事項(「ISM相当」の解釈等)の解消のため、機関計画保全検査の方法の改正案も作成した。船体計画保全検査の方法(案)の概要は以下のとおり。
(1)適用対象船舶
 建造後15年未満の普通構造の内航旅客船
(2)対象とする検査
 入渠を省略できる検査は、特1中検査以外の第1種中間検査(ただし、新造後初めての第1種中間検査を除く。)。すなわち、定期検査及び特1中検査においては、現状の検査官の立会による入渠検査方式を適用。
(3)対象とする検査項目
 入渠時でないと視認できない船底、船側外板、舵、錨、錨鎖、喫水線下の弁等をすべて含む。
(4)承認基準
 機関計画保全検査方式に準じ、次の要件を規定。
●優良・適切な船体の保守管理等体制(任意ISMの取得を「標準」)
●技術的妥当性を有する船体保全計画
●適切な船体の保守管理等に関する記録
(5)検査の実施方法
 定期的検査時において検査官により事業者の自主点検記録の確認等を行うことにより検査を実施。
 
2.5 船体・機関計画保全検査の解説(案)
 船体・機関計画保全検査の方法(案)について、関係事業者への制度の普及・説明のため、その背景となる考え方や留意事項を説明した解説案を作成した。
 
2.6 船体保全計画等のケーススタディ
 船体・機関計画保全検査の方法(案)及び同解説(案)の作成の前段階として、内航大型旅客フェリーを運航中の旅客船事業者が船体・機関計画保全検査を実施する場合を想定したケーススタディを実施した。企業ノウハウに属する資料を除き、下記の資料を参考資料として添付している。
参考資料9.1: 船体保全計画の技術的妥当性を示す資料(衰耗状態予測等)の一例
●参考資料9.2: 船体保守管理記録様式の一例
参考資料9.3: 機関保守管理記録様式の一例
 
2.7 船体・機関計画保全検査の導入効果の評価
 一定の仮定の下での試算であるが、船体・機関計画保全検査を実施した場合、概ね運航コストの4〜5%程度の削減効果が期待でき、また、長距離フェリー業界の1/3程度の船舶が本制度を実施すると、全体で年間10億円強の経済効果が得られることが明らかとなった。
 
2.8 調査研究結果
 以上の調査研究結果を総括し、今後、本調査研究結果が関係行政機関や関係者間で活用され、船舶の安全確保のための制度改正や事業運営に反映されることを期待して結言としている。
 
3.1 経緯
 内航旅客船の船底検査に関して、旅客船事業者と国土交通省との間で行われた検討の経緯は、次のとおり。
平成7年12月:
旅客船に対して、毎年の入渠検査の代替として、水中検査方式(奇数回目の1中に限る。)を導入。
平成10年10月:
水中検査の準備に係る条件等を緩和。
平成12年頃〜毎年:
旅客船協会等より、水中検査要件の一層の緩和及び船体検査間隔の延長を要望。この際の両者の意見は次のとおり。
◇旅客船事業者:
船底等の外部構造の劣化、損傷等は、旅客船と貨物船とで大きな差があるとは考えられない。
◇当局の説明:
旅客船は多数の人員を搭載するため、非旅客船に比べて高い安全水準が必要。SOLAS条約、国内法ともこの考え方で船体検査間隔を規定。
 
 上記の経緯を踏まえ、平成15年度、RR-S701において船舶検査時の不具合データの活用事例として内航旅客船の船体検査方法について技術的観点から次の調査を実施した。
(1)船体関係の船舶検査時不具合情報の分析
(2)旅客船の船体保守整備の現状調査(塗装性能、工期、水中検査利用実態等)
(3)旅客船の船体検査に関する内外の規則等の調査
(4)旅客船の船体検査の見直し試案の作成
 
3.3 昨年度(15年度)の調査結果
 昨年度の調査から次の点が判明した。
◇現状の旅客船と非旅客船の船底検査に係る不具合発見率が同程度であるため、両者の検査間隔の違いを考慮すると、全ての旅客船に対して非旅客船並に一律に船体検査間隔を延長できる状況にはないこと。
船体外部等の健全性は、就航海域や速力に応じた船底塗装仕様の選択等、船舶所有者の保守管理計画とそれを実行する能力に多くを依存していること。
長期仕様の船底塗装を施工する等、適切な保守管理を実施すれば、入渠間隔を1年超とすることが可能な技術的基盤が社会的に存在すること。
◇水中検査についてはすでに相当の緩和が行われており、水中検査の利用が進まない背景は、稼働率が高く停泊中に水中検査を受検する時間がとれないとの長距離フェリー等の運航実態に起因するところが大きく、更なる規制緩和の余地は少ないこと。
 
◇上記調査結果に基づき、現状の毎年の入渠検査方式又は水中検査方式に加え、機関計画保全検査方式と同様の考え方による「船体計画保全検査」方式の試案を作成(参考資料3.4参照)。この場合、従来方式又は新方式の何れの方式で船底検査を受検するかは、船舶所有者の任意。
◇同試案では、当面、現行5年間に5回の入渠を1〜2回削減することが可能。
◇同試案はISM相当の保守管理体制を要求しているため、当面、上位クラスの長距離旅客フェリー事業者が対象と想定。







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