3.2.2 評価の実施・環境影響評価手法
3.2.2.1 既存評価で用いられている手法
既存評価の海洋拡散計算で用いられている手法は、表3.2.2-1に示すとおりである。本研究では、以下の2つの理由により理論解モデルを用いることとした。
(1)他のモデルは海域を特定した評価であるのに対し、理論解モデルは海域を特定しなくて良い。現段階の評価においては、海域を特定することは適当でないため、理論解モデルが適当であると考える。
(2)理論解モデルを用いた評価において、「新燃料の海上輸送における安全性評価に関する調査研究(平成13年度報告書)」などの結果と比較し、同様の結果を算定することができることを確認している。
表.3.2.2-1 既存評価で用いられている手法
手法 |
概要 |
理論解モデル |
拡散方程式において、海流を考慮せず、拡散の項のみの理論解により、水深毎の核種濃度を算出させる方法。 本手法は、原子力船むつの安全性評価等に用いられている。 |
観測データに基づく差分解モデル 対象海域:浅海域 (水深200m程度) |
日本海洋データセンターの30年間の統計値を用い、連続の式を満足するように海流を設定した上、拡散方程式を差分解法により計算し、核種濃度分布を算出させる方法。 本手法は、PuO2、第1回HLW輸送などの安全性説明資料等で浅海域(水深200m程度)への海没時環境影響評価に用いられている。 |
コンパートメントモデル 対象海域:深海域 (水深2000m程度) |
従来の知見による水塊分布データより各海域間での海水交換を求め、海洋の物質循環を求めるコンパートメントモデルを用い、核種濃度分布を算出される方法。 本手法は、PuO2、第1回HLW輸送などの安全性説明資料等で深海域(水深2500m程度)への海没時環境影響評価に用いられている。 |
海洋大循環モデル |
全海洋を対象(緯度×経度を約2°×2°の分割)として、海洋流動を再現させた海流モデルを用い、核種濃度分布を算出される方法。 本手法は、MOX輸送に対する国の安全性説明資料等の深海域(水深2500m程度)への海没時環境影響評価に用いられている。 |
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3.2.2.2 本研究で用いる手法
(1)海洋拡散
科学技術庁の「核燃料物質輸送における輸送物海没時の緊急時対策に関する調査(昭和59年度)」に基づき、式3.2.2-1の海洋拡散の方程式を対象とした理論解を求める。なお本方程式は、拡散および核種の崩壊のみを考慮している。
ここに、
C: 放射性核種の濃度
t: 輸送容器が海没した時点からの経過時刻
x、y、z: 直交座標系における海岸線に直角な沖合方向、平行な方向、および鉛直方向である。
Dx、Dy: 水平渦動拡散係数(1000 m2/sec)
Dz: 鉛直渦動拡散係数(0.02 m2/sec)
λ: 核種の壊変定数
また、海洋拡散の方程式を対象とした理論解は、式3.2.2-2のとおり表される。
ここに、
C(t,z): 輸送容器海没の経過時刻tでの水深zにおける核種の濃度(Bq/m3)
Q(t): 放射性物質の単位時間当たりの放出量(Bq/day)
C1(τ,z): 式3-3のとおりである。ただし、z0は、海中における輸送容器の海没水深である。
τ:積分中の時間(day)
(2)被ばく線量評価
海洋中の放射性核種濃度をもとに、評価領域で漁獲された海産物の摂取による内部被ばく線量を以下の手法(ICRPによる実効線量当量計算モデルなどを引用)により算出する。
内部被ばく線量評価は、施設の基本的設計段階における平常運転時の施設周辺の線量を評価するための標準的な計算モデルを定めた指針(原子力安全委員会、発電用軽水炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針、1976、一部改定、1989)の被ばく経路に従い、海産物の経口摂取を考慮して、日本の標準人(Reference man)に対し行った。計算モデルおよび食物連鎖により放射性核種が濃縮された海産物の摂取量は、上記の指針で示された値を使用した(表3.2.2-2参照のこと)。
表3.2.2-2 個人線量の計算条件
項目 |
条件 |
モデル |
ICRP Pub.72 |
計算する線量 |
個人に対する実効線量 |
海産物の摂取 |
消費量(g/d) |
魚類 |
200 |
無脊椎動物 |
20 |
海草 |
40 |
|
(3)妥当性の検証
日本造船研究協会・基準検討部会(RR)の「新燃料の海上輸送における安全性評価に関する調査研究(平成13年度報告書)」で実施された天然UF6、UO2粉末および新燃料に関する環境影響評価について、本研究で用いた解析手法により同じ条件における環境影響評価を実施し、本研究で用いた解析手法の妥当性を確認した。平成13年度報告書と本研究の結果の比較は、表3.2.2-3のとおりである。
水深0〜100m平均の年間平均濃度の最大値について、本研究の結果は平成13年度報告書の結果と同値または若干高い値であることから、本研究の評価結果が妥当であることが検証できた。
表3.2.2-3 フロントエンド輸送物ごとの年間平均濃度の最大値(水深0〜100m平均)
輸送物 |
核種 |
放射能強度
(Bq) |
海洋中放出量
(Bq) |
年間平均濃度(Bq/m3) |
放出シナリオ |
平成13年度報告書 |
本研究 |
天然UF6 |
U-234 |
1.1E+11 |
1.1E+11 |
3.3E-03 |
3.5E-03 |
瞬時に全量が放出し海洋中に溶解、拡散する |
U-235 |
4.7E+09 |
4.7E+09 |
1.4E-04 |
1.5E-04 |
U-238 |
1.0E+11 |
1.0E+11 |
3.0E-03 |
3.2E-03 |
UO2粉末 |
U-234 |
8.3E+08 |
7.5E+06 |
2.2E-07 |
2.4E-07 |
瞬時に放出されたUO2の0.9%のみが海水へ溶解、拡散する |
U-235 |
2.6E+08 |
2.3E+06 |
7.0E-08 |
7.3E-08 |
U-238 |
7.8E+08 |
7.0E+06 |
2.1E-07 |
2.2E-07 |
新燃料 |
U-234 |
1.1E+11 |
(7.5E+06) |
5.5E-07 |
6.8E-07 |
瞬時に全量が露出し核種がゆっくりと浸出する |
U-235 |
3.8E+09 |
(7.0E+05) |
1.9E-08 |
2.4E-08 |
U-238 |
1.1E+10 |
(2.0E+06) |
5.6E-08 |
6.8E-08 |
|
注: |
輸送物1体あたりの値である。なお、新燃料の放出量は、定常放出率に1年間を乗じた値を参考として示した。 |
3.2.2.3 設定条件
(1)放射化汚染炭素鋼
設定条件は、以下のとおりである。
(1)放出シナリオ:水深200mにおいて、輸送容器による放出抑制効果を無視し、核種が侵食により海洋中に放出することを想定した。
(2)被ばく評価シナリオ:水深0〜100mの平均濃度の核種が、海産物に濃縮し、その海産物を摂取することにより被ばくすることを想定した。
(3)放射能量:収納物質量を0.86t(=1.0m3×11%×7.8 t/m3)と設定し、放射能量を算定した。
(4)腐食速度:「材料環境学入門」に記載されている炭素鋼の腐食速度に基づき、0.01mm/yと設定した。
(5)放出率:比表面積0.024m2/kg(事業者調べ)および腐食速度0.1mm/yと設定し、放出率を算定した。
(6)被ばく線量:「IAEA-TRS-247の濃縮係数((Bq/g)/(Bq/cm3))」、「線量評価指針で定められた標準人の摂取量」および「ICRP Pub.72の線量係数(Sv/Bq)」に基づき、被ばく線量を算定した。
表3.2.2-4 放射化汚染炭素鋼の溶出率
廃棄体収納量
t |
比表面積
m2/kg |
腐食速度*
mm/y |
溶出率/y |
0.86 |
0.024 |
0.1 |
2.06E-06 |
|
*出典:腐食防食協会編、「材料環境学入門」、丸善株式会社 |
(2)放射化汚染ステンレス鋼
設定条件は、以下のとおりである。
(1)放出シナリオ:水深200mにおいて、輸送容器による放出抑制効果を無視し、核種が侵食により海洋中に放出することを想定した。
(2)被ばく評価シナリオ:水深0〜100mの平均濃度の核種が、海産物に濃縮し、その海産物を摂取することにより被ばくすることを想定した。
(3)放射能量:収納物質量を0.86t(=1.0m3×11%×7.8 t/m3)と設定し、放射能量を算定した。
(4)腐食速度:三原らの研究により、ステンレス鋼の腐食速度は、炭素鋼の10分の1であると仮定し、「材料環境学入門」に記載されている炭素鋼の腐食速度に基づき、0.01mm/yと設定した。
(5)放出率:比表面積0.024m2/kg(事業者調べ)および腐食速度0.01mm/yと設定し、放出率を算定した。
(6)被ばく線量:「IAEA-TRS-247の濃縮係数((Bq/g)/(Bq/cm3))」、「線量評価指針で定められた標準人の摂取量」および「ICRP Pub.72の線量係数(Sv/Bq)」に基づき、被ばく線量を算定した。
表3.2.2-5 放射化汚染ステンレス鋼の溶出率
廃棄体収納量t |
比表面積
m2/kg |
腐食速度*
mm/y |
溶出率/y |
0.86 |
0.024 |
0.01 |
2.06E-07 |
|
*資料: |
腐食防食協会編、「材料環境学入門」、丸善株式会社 および三原他、「低酸素かつアルカリ条件における炭素鋼、ステンレス鋼及びジルカロイからのガス発生率及び腐食速度の評価」、サイクル機構技法No.15, 2002.6 |
(3)放射化汚染コンクリート
設定条件は、以下のとおりである。
(1)放出シナリオ:水深200mにおいて、輸送容器による放出抑制効果を無視し、核種全量が瞬時に海洋中に放出することを想定した。なお、コンクリートの溶出率はばらつきが大きく、適当な溶出率がなかったので、保守側の設定として、瞬時放出を設定した。また参考として、10年間で全てが溶出すると仮定した計算も行った。
(2)被ばく評価シナリオ:水深0〜100mの平均濃度の核種が、海産物に濃縮し、その海産物を摂取することにより被ばくすることを想定した。
(3)放射能量:収納物質量を9.4t(=4.9m3×77%×2.5 t/m3)と設定し、放射能量を算定した。
(4)被ばく線量:「IAEA-TRS-247の濃縮係数((Bq/g)/(Bq/cm3))」、「線量評価指針で定められた標準人の摂取量」および「ICRP Pub.72の線量係数(Sv/Bq)」に基づき、被ばく線量を算定した。
(4)黒鉛
設定条件は、以下のとおりである。
(1)放出シナリオ:水深200mにおいて、輸送容器による放出抑制効果を無視し、核種が侵食により海洋中に放出することを想定した。
(2)被ばく評価シナリオ:水深0〜100mの平均濃度の核種が、海産物に濃縮し、その海産物を摂取することにより被ばくすることを想定した。
(3)放射能量:収納物質量を4.6t(=3.6m3×70%×1.8 t/m3)と設定し、放射能量を算定した。
(4)放出率:720日の溶出試験のおけるC-14の溶出率から年間の放出率を算定した。
(5)被ばく線量:「IAEA-TRS-247の濃縮係数((Bq/g)/(Bq/cm3))」、「線量評価指針で定められた標準人の摂取量」および「ICRP Pub.72の線量係数(Sv/Bq)」に基づき、被ばく線量を算定した。
表3.2.2-6 黒鉛の溶出率
対象期間 day |
溶出率*
Arel/Aova |
溶出率/y |
720 |
0.0001 |
5.07E-05 |
|
*出典: |
R. Takahashi, et. Al., "Investigation of morphology and impurity of nuclear grade graphite, and leaching mechanism of Carbon-14" |
(5)廃液系汚染金属
設定条件は、以下のとおりである。
(1)放出シナリオ:水深200mにおいて、輸送容器による放出抑制効果を無視し、核種全量が瞬時に海洋中に放出することを想定した。
(2)被ばく評価シナリオ:水深0〜100mの平均濃度の核種が、海産物に濃縮し、その海産物を摂取することにより被ばくすることを想定した。
(3)放射能量:収納物質量を1.28t(=1m3×51%×2.5 t/m3)と設定し放射能量を算定した。
(4)被ばく線量:「IAEA-TRS-247の濃縮係数((Bq/g)/(Bq/cm3))」、「線量評価指針で定められた標準人の摂取量」および「ICRP Pub.72の線量係数(Sv/Bq)」に基づき、被ばく線量を算定した。
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