3)海没事故
a. 統計に基づく評価
海没事故は、船体が海中に沈没し海水が船内へ浸入することによって輸送物に水圧が作用する状況を考える。浸漬事故(輸送物が水中環境下にさらされる事故)よりも輸送物にとっては大きな水圧が加わる苛酷な事故といえる。ここで、海没深さは海没地点に依存するものとする。
既存研究において、海没事故の発生頻度を検討している資料は見当たらないが、浸漬事故について事故統計等に基づく検討が実施されている。ただし、浸漬事故に関する研究は表3.1.2-4に示す2つのみである。このうち、核燃料サイクル機構(JNC)の研究では、平均浸漬頻度は4.95E-08件/海里と算出されている。
表3.1.2-4 既存研究における浸水事故の発生頻度一覧
Type of accident |
Source |
Frequency
(per ship.year) |
Reference period |
Number of events |
Number of ship.year |
Serious casualty |
Lloyds (JNC) |
2.97E-03 |
1990-1995 |
264 |
88,920 |
Total loss |
Lloyds (CEPNIPSN) |
1.21E-03 |
1994-1997 |
215 |
177,418 |
|
出典:IAEA-TECDOC-1231、Accident Severity at Sea During Transport of Radioactive Material
b. 該当輸送における発生確率
船舶の海没事故シナリオでは、a. の既存研究に基づき、国内の想定航路を対象とした事故遭遇確率を参考とする。
事故確率の算定にあたっては、他の事故と同様に、IAEA-TECDOC-1231でJNCが検討した値(平均浸漬頻度(4.95 E-08 件/海里))および火災事故で用いた補正係数(25)を用いることにより算出可能である。
該当輸送(例)では、航路距離約400海里であり、発生確率は5E-04/航海以下と算定される。なお、該当輸送は、他の原子燃料運搬船と同様の衝突予防設備の装備および安全体制で臨む予定であり、さらに発生確率は小さくなる。
(2)衝突の過酷度3
船舶の衝突が輸送物の位置まで貫通するほど厳しい場合、輸送物の損傷の受け方には二段階が考えられる。
第一は、衝突船の船首または船首に押しのけられた輸送船の船倉構造が輸送物と衝撃的な接触を開始する時点である。この時点では輸送物自体の慣性による抵抗が生じるので短期間ながら大きな荷重が作用し得る。しかしながら、船首の貫入速度と構造剛性とを考慮すれば、輸送物の健全性を損なうような(輸送物の構造強度を超えるような)荷重が持続的に作用するとは考えがたい。
第二は、船首または船首に押しのけられた輸送船の船倉構造が、輸送物に持続的に接触する段階である。この段階では輸送物自体の慣性による抵抗はほとんど生じないので輸送物が圧潰するためには、輸送物の両側から圧潰を導く荷重が作用しなければならない。仮に衝突船の船首を剛体として、輸送物の片側に無限に大きな荷重が作用しうると仮定した場合でも、圧潰力の大きさの限度は、輸送物の位置を保持可能な耐力となる。輸送物は船倉に固定する固縛装置によって保持されている。固縛装置は、輸送物の健全性を損なう荷重(輸送物の構造強度)よりも小さな荷重で壊れるように設計されている。そのため、固縛装置が先行して破壊するので輸送物の健全性を損なう様な荷重は発生しない。
固縛装置が破壊された場合、その後、輸送物を保持する力は船倉構造との接触摩擦抵抗のみとなり、実質的に輸送物は逆側の船倉構造物に押しつけられるまで船倉内を移動していくと考えられる。Ammerman及びLudwigsenによる、輸送物が一重船殻構造の運搬船の船側構造物に押しつけられる際に輸送物に作用する最大荷重の数値解析事例から類推すれば、一般的に船倉構造物の強度は、輸送物の強度に比べて充分低いものと考えられる。したがって、このシナリオからは、衝突事故により輸送物に荷重が作用したとしても、最悪でも輸送物は圧潰する事なく船倉の反対側隔壁を貫通して海洋へ押し出されるという結果になる。従って、海上輸送に対して、陸上輸送で求められている以外の機械的な実証試験をする必要はないと考えられる。
(3)火災事故の過酷度4
輸送物が積載される船倉内には、可燃物がないことから火災は想定できない。船倉外の火災は、それによる入熱がどの程度であり、その結果、輸送物表面又は輸送物各部の温度がどの程度になるかということが重要となる。IAEA2003輸送安全国際会議対応想定問に対する回答としては、海事局殿が作成した資料のとおり、その入熱量が、想定試験の範囲内であれば、外部温度がいくら高くても、何時間続いても何ら問題はないものとされている。
貨物船倉に影響を及ぼす可能性がある最も苛酷な火災としては、機関室火災が挙げられる。SNLでは、米国沿岸警備の火災試験船(アラバマ、モービルにあるMay Lykes号)の船上で火災実験を行い、機関室火災がIAEA耐火試験(65kW/m2)の熱流束よりも低いことを確認している。
また、石油タンカーやガスタンカーが運搬船と衝突するシナリオでは、衝突後に運搬船を覆う過酷火災が続き、輸送物に過酷な熱環境を与える可能性がある。しかし、衝突による火災はほとんど発生せず、複合事故は火災単独事故よりも2桁程度頻度が低く、また海面での燃焼は拡がった後すぐに失火するため、運搬船を覆うような大火災が発生することも考えにくい。
(4)海没事故の過酷度
運搬船が航行する予定の日本沿岸航路上では、水深200m以内の往路が約5割、水深2500m以内が9割である。
IAEA輸送規則に基づき、B型輸送物および核分裂性物質には浸漬試験(15m)が課せられており、105A2を超える放射能を収納しているB型輸送物並びにC型輸送物には、強化浸漬試験(200m)が課せられている。黒鉛を除くL1廃棄物5は、「105A2を超える放射能を収納しているB型輸送物」であり、水深200m以内で瞬時に漏えいすることはない。
3.1.2.2 輸送物の健全性
(1)密封性能
IAEA輸送規則は、輸送物に収納物の放射能量について段階ごとの要件を課すことにより、放射線の影響から、人、財産及び環境を防護することが担保されている。該当輸送は、IAEAの輸送規則(TS-R1)の要件を満たした輸送容器を用いる必要があり、IAEA輸送規則により安全が担保されている。なお、具体的には以下のとおりである。
・B型輸送物:「衝突の過酷度」および「火災事故の過酷度」で考察したような過酷事故においても密封性能を保つための要件が課せられている。
・A型輸送物:密封性能が喪失し、10-6A2に人が巻き込まれた場合でも、人への放射線の影響はない。
・IP型輸送物:人は10mg以上の物質を取り込むような雰囲気に居ることはないとの前提のもと、10-4A2/gの低放射能の制限を設けている。よって、万が一IP型輸送物の密封性能が喪失しても、A型輸送物より大きい障害を生じない。
さらに、衝突時には、前項で述べたように、規則要件の試験で加わる荷重より大きい荷重に遭遇する確率は非常に低い。
火災時にも、IAEAの輸送規則が想定した事故条件を超えることは考えにくい。なお、黒鉛はIP型輸送物で輸送する予定であり、密封機能が喪失することが考えられるが、放射能濃度は10--4A2/g以下であり、人への放射線の有意な影響はない。
海没時については、対象輸送物は現在輸送容器設計段階であるが、遮へい性能のための鉄の厚さ等を考慮すると、他の核燃料物質輸送と同等の耐圧性能を有すると判断できる。また収納物は金属又はコンクリートであるため、瞬時に海洋環境に影響を及ぼすような被害は想定しにくい。さらに、環境影響評価結果により、環境に有意な影響を及ぼすことがないことも確認できている。
(2)未臨界性能
低レベル放射性廃棄物には、有意な量の核分裂性核種が含まれないため、実際上は臨界安全上問題になることはない。しかし、低レベル放射性廃棄物中に核分裂性核種が完全に含まれないことを担保することは難しく、海上輸送時のように大量の放射性廃棄物を一度に運搬する際には、核分裂性核種が有意な量となる可能性が指摘されるおそれもある。このため、ガス炉解体に伴う廃棄物のα核種濃度に基づいて、核分裂性核種量を評価する。評価結果を表3.1.2-5に示す。
表3.1.2-5 核分裂性核種量
|
α核種濃度
(Bq/ton) |
Pu-239換算密度*
(g/l) |
推定臨界下限濃度 |
放射化汚染炭素鋼 |
2.26E+07 |
9.62E-06 |
7.0gPu-239/l |
放射化汚染ステンレス鋼 |
8.22E+06 |
3.50E-06 |
黒鉛 |
1.80E+07 |
7.66E-06 |
放射化汚染コンクリート |
1.31E+05 |
5.57E-08 |
廃液系汚染金属 |
2.94E+03 |
1.25E-09 |
|
* : IAEA輸送規則解説文書(TS-G-1.1)に基づき、Pu-239の比放射能を2.305E+09Bq/gとして換算した。
科学技術庁編「臨界安全ハンドブック」(1988)によれば、Pu-239-H2O体系の推定臨界下限濃度は7.0gPu-239/lである。一方、ガス炉解体に伴う廃棄物のうちPu-239換算密度が最も高いのは、放射化汚染炭素鋼の1E-05gPu-239/lである。このため、最も核分裂性核種濃度が高い廃棄物でも「臨界安全ハンドブック」の最小臨界濃度に比べて5桁以上十分小さい。よって、臨界となる可能性はない。
3.1.2.3 結論
統計データ等を用い事故発生確率を求めた場合、輸送物の健全性に支障を来たすような事故の発生確率は、衝突事故4E-06/航海以下、火災事故3E-05/航海以下、および海没事故5E-04/航海以下であった。対象船舶は、安全航行のための対応を十分取る予定であり、さらに小さい確率である。
万一、衝突事故および火災事故に遭遇した場合、IAEA輸送規則が定めた要件により、輸送物の安全性は担保できる。海没事故の場合、輸送物は十分な耐圧性能を有しており、万一の漏えい事故が発生した場合でも環境影響評価により安全性は確認できる。
参考資料
●IAEA, "Severity, probability and risk of accidents during maritime transport of radioactive material - Final report of co-ordinated research project, 1995-1999", IAEA-TECDOC-1231, 2001
●海事局 「IAEA2003輸送安全国際会議対応−想定問−」、平成15年6月30日
●SANDIA REPORT, "Data and Methods for the Assessment of the Risks Associated with the Maritime Transport of Radioactive Materials Results of the SeaRAM Program Studies", SAND98-1171, 1998
これまで30年間の我が国における放射性物質海上輸送において、海没事故は皆無である。万が一海没した場合でも、海没海域の水深が200m以内であればすみやかなサルベージが可能である。しかし、輸送航路においては水深が200m以上の海域も多数存在するため、すみやかなサルベージが不可能な場合を想定した評価を実施した。
解体廃棄物は放射能濃度の範囲が広く、B型輸送物もあればIP型輸送物もある。本報告書では、水深200mにおいて輸送容器がない状態で収納物が置かれた場合について環境への影響を評価し、対象輸送物の安全性を確認した。
なお、ウラン新燃料、返還高レベル廃棄物およびMOX新燃料の輸送についても、水深200mに海没した場合について環境影響評価が実施されている。
3.2.1 評価条件
東海ガス炉解体時における固体廃棄物の推定発生量を表3.2.1-1に示す。
表3.2.1-1 固体廃棄物の推定発生量
単位:トン
放射能レベル区分 |
種別 |
第1期工事 |
第2期工事 |
第3期工事 |
合計 |
低レベル放射性廃棄物 |
放射能レベルの比較的高いもの (L1) |
金属 |
0 |
0 |
0 |
0 |
30 |
1,550 |
30 |
約1,600 |
コンクリート |
0 |
0 |
0 |
0 |
黒鉛 |
0 |
0 |
1,520 |
1,520 |
保温材等 |
0 |
0 |
0 |
0 |
放射能レベルの比較的低いもの (L2) |
金属 |
40 |
40 |
740 |
1,300 |
2,400 |
7,960 |
3,170 |
約9,300 |
コンクリート |
0 |
560 |
5,320 |
5,870 |
黒鉛 |
0 |
0 |
180 |
180 |
保温材等 |
0 |
0 |
80 |
80 |
|
* |
付随廃棄物は含まない。合計値については、百トン単位で切上げ。端数処理のため合算値が一致しないことがある。(評価条件:原子炉停止後13年基準、除染前) |
|
出典:日本原子力発電「東海発電所 原子炉解体届」より抜粋 |
ここで、表3.2.1-1に示す固体廃棄物の種別の内訳は、金属(放射化汚染炭素鋼、放射化汚染ステンレス鋼、ガス系汚染金属、廃液系汚染金属、アルミニウム等)、コンクリート(放射化汚染コンクリート、ガス系汚染コンクリート、廃液系汚染コンクリート)、黒鉛(黒鉛)、保温材等(石綿含有保温材、鉛等)であり、これらの材質のうち、物量及び放射性物質濃度の観点より環境影響評価上重要となる輸送物は、(1)放射化汚染炭素鋼、(2)放射化汚染ステンレス鋼、(3)放射化汚染コンクリート、(4)黒鉛および(5)廃液系汚染金属であり、本材質について評価を行う。輸送容器1個に含まれる各々のデータを表3.2.1-2に示す。
表3.2.1-2 東海発電所における輸送容器1個あたりの最大放射能量(事業者調べ)
|
放射化汚染
炭素鋼 |
放射化汚染
ステンレス鋼 |
放射化汚染
コンクリート |
黒鉛 |
廃液系
汚染金属 |
容器内容積(m3) |
1.0 |
1.0 |
4.9 |
3.6 |
4.9 |
廃棄物充填率(%) |
11 |
11 |
77 |
70 |
27 |
廃棄物比重(t/m3) |
7.8 |
7.8 |
2.5 |
1.8 |
7.8 |
廃棄物収納量(t) |
0.86 |
0.86 |
9.4 |
4.6 |
10.3 |
最大放射能量(Bq) |
1.127E+15 |
4.034E+14 |
7.520E+11 |
2.662E+12 |
5.293E+09 |
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3 IAEA-TECDOC-1231の記載内容を引用した。
4 IAEA-TECDOC-1231の内容に考察を追加した。
5 L1廃棄物とは、資料「解体廃棄物海上輸送時における仮想漏えい事故時の環境影響評価(東海発電所−ガス炉)」の表2-1に記載されている「放射能レベルの比較的高いもの(レベルI)」のことである。
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