3. 解体廃棄物輸送時の事故シナリオの作成および環境影響評価
3.1 解体廃棄物輸送時の事故シナリオの作成
3.1.1 解体廃棄物輸送時の様態
3.1.1.1 輸送物
1.2.2 「原子炉解体スケジュール」の項で示したように、当面、原子炉施設解体廃棄物の搬出時期が明らかになっているのは、日本原子力発電東海発電所(東海ガス炉)のみである。したがって、ここでは東海ガス炉の解体廃棄物の輸送を検討の対象とする。
東海ガス炉から搬出される解体廃棄物の仕様および輸送物の概念も検討が進んでおり、それらに基づいて、ここで検討対象とする輸送物は、次のように設定する。
(1)収納物
輸送物の収納物である解体廃棄物の仕様の範囲は広いが、ここでは環境影響評価上重要と考えられる次の材質のものを中心に扱う。なお、環境影響評価に必要となる収納物のインベントリーは「東海発電所 原子炉解体届」(日本原子力発電)に基づくものとし、個々の値は評価の項に記載する。
・金属:放射化汚染炭素鋼
・金属:放射化汚染ステンレス鋼
・金属:廃液系汚染金属
・コンクリート:放射化汚染コンクリート
・黒鉛
(2)輸送容器
輸送容器の形状、寸法、質量等の仕様は、収納量や輸送船への積載量の検討のベースとなる。ここでは、1.2.1項で検討された次のような輸送容器を想定する。
・4.6m3輸送容器(B型)
・1m3輸送容器(B型)
・5m3輸送容器(A型、IP型)
・8Rラック(IP型)
・5m3処分・輸送兼用容器(A型、IP型)
・フレキシブルコンテナ(L型)
3.1.1.2 運搬船
運搬船としては、我が国の発電所港に入港できる大きさまでの貨物船を想定する。
運搬船の検討は4章で行うものとし、事故シナリオおよび環境影響評価にあたっては、特別な要件は考慮せず、一般的な貨物船として検討する。
3.1.2 事故シナリオの作成
海上輸送の安全性については、本検討会をはじめ、国内外で多くの検討が実施されてきた。IAEAでは、これらの検討を踏まえ、調整研究計画(CRP)により「放射性物質海上輸送事故の厳しさ、可能性およびリスク(IAEA-TECDOC-1231)」を作成した。IAEA-TECDOC-1231は、IAEA2003輸送安全国際会議において、南米等広い地域の国からの支持も得られ、海上輸送の安全性について国際的な共通認識が得られる文献に位置づけられている。
本項では、東海発電所(ガス炉)解体に伴う輸送物の海上輸送について、IAEA-TECDOC-1231の考え方に基づき、想定される事故シナリオと健全性を整理した。
3.1.2.1 輸送物の事故シナリオ
(1)船舶事故の発生確率
1)衝突事故
a. 統計に基づく評価
衝突事故の発生頻度について、IAEA-TECDOC-1231に記載されている既存研究における一覧を表3.1.2-1に示す。なお、本表に記載されている発生頻度は、統計データに基づき算定されている。
表3.1.2-1 既存研究における衝突事故の発生頻度一覧
Type of accident |
Source |
Frequency
(per ship.year) |
Reference period |
Number of events |
Number of ship.year |
All collision |
MAIB (CEPNIPSN) |
44.2E-03 |
1990-1996 |
373 |
8,447 |
Serious collision |
Lloyds (JNC) |
2.32E-03 |
1990-1995 |
206 |
88,920 |
Total loss |
Lloyds (CEPNIPSN) |
0.38E-03 |
1994-1997 |
68 |
177,418 |
|
出典:IAEA-TECDOC-1231、Accident Severity at Sea During Transport of Radioactive Material
b. 該当輸送における発生確率
事故確率の算定にあたっては、IAEA-TECDOC-1231で検討された以下の式を参考に、航行中の運搬船について、出発港、到着港、寄港及び航行する海域に分けて評価可能である。したがって、衝突事故に関しては、下式のとおり表すことができる。
PSC, V= 0.5PSC, Dep P+ΣPSC, RiNi+ΣPSC, Pj+0.5PSC, Des P 式3.1.2-1
ここに、各パラメータは、以下のとおりである。
PSC, V:航行中に発生する衝突確率
PSC, Dep P:出発港を航行中に発生する衝突確率
PSC, Ri:海域iで1海里航行する間に発生する衝突確率
Ni:海域iを航行する海里数
PSC, Pj:寄港する港を航行中に発生する衝突確率
PSC, Des P:到着港を航行中に発生する衝突確率
サンディア国立研究所(SNL)により、世界各海域での衝突確率1を算定しており、日本のデータを設定することにより、算定可能である。なお、参考として、括弧内にIAEA-TECDOC-1231で設定した値も併記する。
PSC, Dep P=5.1E-05 /港 (4.1 E-05)
PSC, Ri=1.9E-06 /海里 (7.6 E-08)
PSC, Pj=5.1E-05 /港 (4.1 E-05)
PSC, Des P=5.1E-05 /港 (4.1 E-05)
上記の算定式を用いた場合、該当輸送(例)では、航路距離約400海里であり、途中寄航することはないため、発生確率は8.1E-04/航海と算定される。
輸送物の健全性に支障を来たす衝突事故の発生確率については、以下のような要素も考慮する必要がある。
(1)有意な衝突事故である確率(0.05)
輸送物の健全性に支障を来たす衝突事故は、表3.1.2-1において、重大衝突事故(Serious collision)以上のレベルの事故である。よって、有意な衝突事故である確率を、全衝突事故の発生確率(44.2E-3/隻年)と重大衝突事故の発生確率(2.32 E-3/隻年)に基づき、0.05と設定する。
(2)運搬船が被衝突船になる確率(0.5)
船舶の衝突事故において、商用船の場合には、法的に船最先端部(衝突隔壁の前)への貨物の積載が認められていないため、放射性輸送物運搬船が別の船に衝突したとしても、輸送物が衝突に巻き込まれる可能性は低い。運搬船が衝突船である場合、輸送物の健全性に支障を来たすことが考えられない。よって、運搬船が被衝突船になる確率を0.5と設定する。
(3)衝突位置が船倉位置である確率(0.7)
衝突位置が船倉位置でなければ、輸送物の健全性に支障を来たすことが考えられない。よって、衝突位置が船倉位置である確率を、船倉範囲/船長の比により、0.7と設定する。
(4)衝突角度が真横90°である確率(0.25)
運搬船が別の船に斜めに衝突された場合、合成衝突速度(エネルギー)が増減する反面で衝突船が運搬船の隔壁を貫通させる力が直角に衝突した場合よりも小さくなることから輸送物が直接衝突に巻き込まれる可能性は小さいと考えられる。そこで、輸送物が巻き込まれる可能性のある衝突事故としては、運搬船が別の船にほぼ直角に衝突された場合のみを想定する。
「真横90°を中心として、斜め正面衝突は合成速度が上がり厳しいので+30°、斜め追突は合成速度が減って楽なので-15°」の計45°の範囲が衝突角度の範囲であるとして、衝突角度が真横90°である確率は、45°/180°の比により、0.25と設定する。
以上の要素を考慮すると、輸送物の健全性に支障を来す衝突事故の発生確率は、4E-06/航海以下であると考えられる。
また、該当輸送は、他の原子燃料運搬船と同様の衝突予防設備の装備および安全体制(例:乗員数が一般貨物船で6名に対し、新燃料運搬船は11名であること)で臨む予定であり、さらに発生確率は小さくなる。なお、衝突事故発生確率は近年漸減しており、更に将来はAIS装備等によって一層低下することが見込まれる。
2)火災事故
a. 統計に基づく評価2
火災事故は、船体が火災にさらされる事故を設定する。これまでの火災事故における評価では、輸送物への影響を考慮して、以下のシナリオが検討されてきた(表3.1.2-2参照)。
・タンカーの海面火災(最も苛酷な海面火災として)
・機関室火災(最も苛酷な船内火災として)
・混載物火災(専用船を除く)
ここで、衝突事故後に火災に進展する可能性も考えられるが、Lloyd'sの海難統計に基づいたSNLの研究では、1947件発生した衝突事故のうちなんらかの火災に至ったのは50件であり、衝突事故のうちの約2.6%相当であるため、想定外とする。
火災の継続時間については、国際海事機関(IMO)が世界中の船火災報告を収集した結果(25年間で382件)によると、最短の消火活動は1分であり、最長は71日であった。なお、港湾における平均継続時間は26時間であり、航海中における平均継続時間は19時間であった。
また、船舶の火災事故が発生した場合でも、必ずしも輸送物が苛酷な熱環境にさらされるとは限らない。機関室火災を想定した既存研究では、安全対策等の事故の進展防止要因を考慮したイベントツリー分析を行った結果、機関室火災から積荷に損害を与える状況に進展する確率が1.5E-05以下となることが報告されている。
一方、混載物火災については、専用船による輸送では他の可燃物の積載はないため、考えられない。一般船の場合においても、IMDGコード(国際危険物海上運送規定)により、放射性物質は可燃性貨物との間に少なくとも防火性・防水性の隔壁又は甲板で隔てることが要求されており、火災による影響を受けにくいと考えられる。
表3.1.2-2 既存研究における火災事故の発生頻度一覧
Type of accident |
Source |
Frequency
(per ship.year) |
Reference period |
Number of events |
Number of ship.year |
All fires |
MAIB (CEPNIPSN) |
13.6E-03 |
1990-1996 |
115 |
8,447 |
All fires |
MAIB+CVAM (SRD) |
16.E-03 |
1981-1990 |
323 |
21,225 |
Serious fires* |
Lloyds (SRD) |
2.6E-03 |
1984-1993 |
859 |
324,220 |
Qualifying fires** |
Lloyds (SRD) |
0.29E-03 |
1984-1993 |
93 |
324,220 |
Serious fires |
Lloyds (JNC) |
1.71E-03 |
1990-1995 |
152 |
88,920 |
Total loss |
Véritas (CEPNIPSN) |
1.1E-03 |
1978-1988 |
317 |
287,675 |
Total loss |
Lloyds (CEPNIPSN) |
0.31E-03 |
1994-1997 |
55 |
177,418 |
|
* |
Excluding oil tankers and liquefied gas carriers. |
** |
Engine room fires which spread to the cargo area, or fires of a serious nature arising in the cargo hold. |
出典:IAEA-TECDOC-1231、Accident Severity at Sea During Transport of Radioactive Material |
b. 該当輸送における発生確率
火災事故シナリオでは、輸送物への影響を考慮した場合、以下の2種類が想定できる。
(1)海面火災:最も苛酷となるタンカーの側面に本船が衝突し船体が火災にさらされる場合
(2)機関室火災:最も苛酷な自船内の火災の場合
評価は、a. の既存研究に基づく事故シナリオに従い、国内の想定航路を対象とした事故遭遇確率を算定することにより実施する。
事故確率は、IAEA-TECDOC-1231で検討された以下の式を参考に、航行中の運搬船について、出発港、到着港、寄港及び航行する海域に分けて算出可能である。したがって、火災事故に関しては、下式で表すことができる。
PSF, V = 0.5PSF, Dep P+ΣPSF, RiNi+ΣPSF, Pj+0.5PSF, Des P 式3.1.2-2
ここに、各パラメータは、以下のとおりである。
PSF, V:航行中の火災発生確率
PSF, Ri:出発港を航行中の火災発生確率
PSF, Ri:海域iで1海里航行する間の火災発生確率
Ni:海域iを航行する海里数
PSF, Pj:寄港する港を航行中の火災発生確率
PSF, Des P:到着港を航行中の火災発生確率
SNLで整理された全火災事故の各火災発生確率(PSF, V)について、日本のデータを用いた衝突確率の比率を用いた補正を行い、下表のとおり設定した。
表3.1.2-3 火災発生確率の設定
|
IAEA-TECDOC-1231 |
補正係数 |
設定値 |
PSF, Dep P |
5.4 E-05 /港 |
1.2 |
6.7 E-05 /港 |
PSF, Ri |
9.6 E-08 /海里 |
25 |
2.4 E-06 /海里 |
PSF, Pj |
5.4 E-05 /港 |
1.2 |
6.7 E-05 /港 |
PSF, Des P |
5.4 E-05 /港 |
1.2 |
6.7 E-05 /港 |
|
該当輸送(例)では、航路距離約400海里であり、途中寄航することはないため、発生確率は1.0E-03/航海と算定される。
「輸送物の健全性に支障を来たす火災事故」は、火気がない船倉にまで影響を及ぼすような火災であり、「船舶の全損(Total loss)に至る火災事故」でなければ想定しがたい。「輸送物の健全性に支障を来たす火災事故」は、「全火災事故の発生確率(13.6E-3 /隻年)」と「船舶の全損に至る火災事故の発生確率(0.31E-3/隻年)」に基づき、0.02と算出できるので、「輸送物の健全性に支障を来す火災事故」の発生確率は、3E-05/航海以下である。
また、該当輸送は、他の原子燃料運搬船と同様の安全体制(例:乗員数が一般貨物船で6名に対し、新燃料運搬船は11名であること)で臨む予定であり、さらに発生確率は小さくなる。
1 SNLの研究では、日本周辺のデータとして、神戸港(5.1E-05/港)、横浜港(4.0E-05/港)、日本の東海岸(1.9E-06/海里)、日本の内海(9.7E-07/海里)および日本海(3.3E-07/海里)が記載されている。
2 IAEA-TECDOC-1231の記載内容を引用した。
|