日本財団 図書館


2.3.2 IMO/IMDG/INFコードの課題と対応
 IMOのIMDGコードは基本的にIAEA輸送規則と同等であり、その課題等については2.3.1項と同じである。
 INFコードは、表2.3.2-1に示すように放射性物質運搬船をクラス分けし、それに応じた要件を課している。その内容については関係各国の合意のもとで定められたものであり、特に問題はない。同コードはSOLAS条約に基づく強制化により我が国国内法に取り入れられており、これら要件と解体廃棄物運搬船との関係については、2.3.3項で述べる。
 
表2.3.2-1 INFコードによる放射性物質運搬船のクラス分類
INFクラス1船 総放射能量が4,000TBq未満のINF貨物の輸送を認められた船舶
INFクラス2船 総放射能量が2×106TBq未満の照射済核燃料および高レベル放射性廃棄物の輸送を認められた船舶、および、総放射能量が2×105TBq未満のプルトニウムの輸送を認められた船舶
INFクラス3船 総放射能量が無制限の照射済核燃料、高レベル放射性廃棄物およびプルトニウムの輸送を認められた船舶
 
2.3.3 我が国の輸送関連規則の課題と対応
(1)廃棄体確認のための非破壊放射能測定
 原子炉運転中に発生する低レベル放射性廃棄物(L2)であるドラム缶均一固化体や固形化廃棄体については、外部からの非破壊放射能測定により廃棄体確認が現在行われている(処理前の廃棄物に関する放射能のバックデータはある)。しかし、解体廃棄物輸送物の場合は、処分容器の形状寸法等が異なるので外部非破壊測定法の検証が必要となる。ただし、解体廃棄物は、発生個所の特定が容易になされうることから、放射化あるいは汚染の状況を予め把握することが可能であるので、この特徴に着目して測定法を検討する必要がある。残存する放射能を評価する際には、埋設の安全確保上重要な核種に加え、輸送の安全確保に必要な核種を抽出し、評価しておくことが重要である。
 
(2)極低レベル(L3)放射性廃棄物の輸送物型式について
 我が国の輸送規則では「核燃料輸送物としないで運搬できるLSA及びSCO」は次のように定義されている。
(1)LSA-Iであって、通常の運搬状態で容易に飛散、漏えいしない措置がとられ、専用積載として運搬されること。ここで、LSA-Iとは、天然ウラン、劣化ウラン、若しくは、天然トリウムであって未照射のもの、または、これらの化合物若しくは混合物で固体状、若しくは、液体状のもの。核分裂性物質以外の核燃料物質等でA2値に制限のないもの
(2)SCO-Iであって、通常の運搬状態で容易に飛散、漏えいしない措置がとられ、専用積載として運搬されること。ここで、SCO-Iとはα線を放出する核種で0.4Bq/cm2、その他の核種で4Bq/cm2を超えないもの。(SCO: Surface Contaminated Object、表面汚染物質)
 以上のことから、極低レベル放射性廃棄物がこれに該当するとはいい難い。
 一方、IAEA安全輸送規則ではLSA-Iは、以下のように定義されている。
(1)ウラン、トリウムの鉱石
(2)固体状の未照射ウラン又は劣化ウラン
(3)A2値に制限のない放射性物質(適用除外されない量の核分裂性物質を除く)
(4)放射能が全体に分布し、その推定平均放射能が規制免除物質の放射能濃度の30倍を超えない放射性物質
 この項は、「国際海上危険物規定(IMDGコード)」の強制化に伴い、我が国では危規則に取り入れられ、平成16年1月から施行されたが、陸上の規則には採用されていない。
 IAEA安全輸送規則の前回改訂サイクルでの改定提案の1つとして、上記(3)を「A2値に制限のないもの、および、固体で10-6A2/g以下のもの」と改めるようカナダが提案した(CANADA/02/15)。この提案は、2002年9月の見直し会合で再検討の分類に入れられ、以前から実施されていたLSA物質に関する共同研究計画(Coordinated Research Project,CRP)で検討されることになった。同CRPは、低レベルの放射性物質の大量輸送に対応する新たな限度値およびそれを評価できるシステム(Gシステム)を開発しようとしたものである。
 Co-60でみると、10-6A2/gは4×105Bq/gとなり、極低レベル廃棄物の上限値である8,100Bq/gを包絡している。なお、下限値は0.4Bq/gである。一方、(4)でみると規制免除値の30倍は300Bq/gで8,100Bq/gより小さいが、濃度上限値は埋設事業許可申請ができる最大濃度として規定されており、個別の埋設施設に許容される最大濃度はこれを下回る範囲でサイト条件に応じて設定される。したがって、規制免除レベルの導入に合わせ、上記(4)の国内法令への取り入れが望まれる。更に、カナダ提案の検討進捗状況に合わせて、安全上支障のないことの確認などを行い、適切な対応を図る必要がある。これらにより、IP-Iとなれば、専用積載とすることにより、核燃料輸送物としないで運搬できることになる。
 なお、上記CRPの進捗状況は2003年2月のTRANSSC VIIIで次のように報告された。
・2002年10月までに4回のCRPが開催された(CRP参加国:ブラジル、カナダ、仏、独、南ア、英、米。他に原料鉱石の運搬に関与する数社のオブザーバー参加あり)。
・LSA-IおよびLSA-IIの上下限を与える放射線学的基盤は、現行Qシステムの延長で確立できたが、下限において通常輸送時の被ばくが現行のQシステムの事故時のものより高くなる場合があることがわかった。
・非処理の鉱石の輸送に関する検討では、適用除外限度の妥当性が示された。
・一応の目的は達成したが、新しい放射線学的モデルはできていないので、新たなCRPにて検討を継続することも考えられる。
 これに対しTRANSSCは、更なる研究は現時点では不要であること、および、CRPの結果をTECDOCとしてまとめるためのCSMを召集することを勧告した。その後、2004年3月のTRANSSCまでにCSMは開催されておらず、TECDOCの作成は進捗していない模様である。したがって、本CRPの結果に基づくIAEA輸送規則改訂等の提案はなされていない。
 
(3)発送前検査
 B型輸送物の場合は、運搬に関する確認申請の際に提出する説明書の1つに「発送前の点検に関する説明書」がある。発送前検査において、収納する核燃料物質等の特性、数量等、収納する輸送容器の設計、製作の方法、保守・点検基準等を総合的に勘案して、安全上の検査項目、検査方法および適合基準を定めればよいものである。発送前検査項目とその方法および適合基準の考え方を表2.3.3-1に示す。
 解体廃棄物の場合は、汚染の割合が低く、使用履歴が明らかである場合が多く、使用済燃料の場合にように計算による評価も可能である。
 
(4)低レベル放射性廃棄物運搬船の構造要件
 危険物船舶運送及び貯蔵規則(以下「危規則」という。)第22条の17により、放射性輸送物を運送する船舶は、貨物の種類により防災等の措置を講じることになる。貨物の種類は以下のとおりであり、防災等の措置は資料3に示すとおり、貨物ごとに講じなければならない措置が定められている。
 現在、低レベル放射性廃棄物埋設センター向けの固化ドラム缶や固形化ドラム缶廃棄体は、1988年の海査第450号「低レベル放射性廃棄物専用運搬船の特別構造設備要件」(以下「海査第450号」という。)に準拠して建造された「青栄丸」で運送されている。解体輸送物を青栄丸で運送することは、輸送物の形状寸法、質量と船倉構造や床荷重などが合致しない場合もあり、このような解体輸送物の運送の具体化が課題となる。検討に際しては、このような輸送が一時的であることを考慮し専用船以外の方法も検討する必要がある。
(1)甲種貨物 照射済燃料、プルトニウム(プルトニウム化合物を含む)、または、高レベル放射性廃棄物(以下「照射済燃料等」という)であって、1船舶に積載する照射済燃料等の放射能の量の合計が4PBq以上のもの
(2)乙種貨物 照射済燃料等であって、甲種貨物以外のもの
(3)丙種貨物 その他のもの
 ここで、危規則の規定とINFコードの規定の比較を表2.3.3-2に示す。
 選択肢の一つとして一般貨物船を借り上げることが考えられ、船体の大きさや積載質量等から499GT型貨物船が1つの候補となる。この場合、載貨質量が1,500トン強、積荷質量は1,300トン程度なので、軽水炉圧力容器(RPV)のような超重量輸送物は別途貨物船を考える必要がある。なお、499GT型貨物船に関しては、本来保守的な設計思想であった青栄丸と構造・設備要件が異なるため、沈没確率の評価、沈没時の環境影響評価を実施し、安全輸送に関する課題を検討する必要がある。499GT型貨物船を使用しても安全性上問題がないことが立証される場合には、公衆の安心感の醸成のため、Q & Aを作成する必要がある。
 また、放射線量率の基準として、船の外板、船倉、区画、または、甲板の表面の最大線量率が2mSv/hを超えず、表面から2mの点で0.1mSv/hを超えないこと、船内の居住場所その他人が常時使用する場所における最大線量率が1.8μSv/hを超えないことがあり、遮へい評価と必要な対策を講じる必要がある。
 
表2.3.3-1 輸送物発送前検査について(B型輸送物の場合)
検査項目 検査方法 適合基準 考え方
外観検査 輸送物の外観に異常がないことを目視で検査する 傷、割れ、塗装及び形状等の異常がないこと 建屋内で輸送物仕立時
吊り上げ検査 吊金具の外観形状に異常のないことを目視で検査する 吊金具に異常な変形が生じていないこと 輸送物建屋内移動時の吊り上げ後に吊金具を外観検査
重量検査 収納物・輸送容器・付属部品の合計質量を算出する(記録確認) 安全解析書記載値以下であること 収納物作成時の質量算出式を設定
表面密度検査 スミヤ法による輸送物の表面密度測定 表面密度限度以下であること 検査点の設定
線量率検査 輸送物表面及び1m離れた点の線量率(γ線、中性子線)をサーベーメーターで測定 線量率限度以下であること 検査点の設定
収納物検査 収納物(廃棄体容器、収納廃棄物、充填物)
収納廃棄物の外観、組成、放射能量、発熱量、質量を記録確認
収納物仕様が安全解析書記載値どおりであること 廃棄体容器製作記録、廃棄体物性記録等の整備
温度測定検査 輸送物表面温度を測定 容易に接近できる輸送物表面温度が85℃以下であること 収納廃棄物放射能量から数十W程度の発熱量で実測の意味がない程度につき省略(安全解析で裏付け)
気密漏えい検査 輸送物からの漏えい率を測定 10-6A2/h以下となるよう安全解析書で規定する値を超えないこと 収納放射能は大半が放射化固定性であり、モルタルで固化され、その上容器内に封入されるので省略可能
(収納物の記録確認結果と安全解析で裏付け)
圧力測定検査 輸送容器内部に充填される気体の初期圧力を測定 安全解析書記載値以下であること 特別な設計条件はないので大気圧、測定は不要(安全解析で裏付け)
注)当該輸送物は核分裂性物質を含まないので「未臨界検査」および「封印検査」は該当せず。
 
表2.3.3-2 放射性輸送物運搬船に係る構造・設備基準の区分
*1: 4000TBq
*2: 2×106TBq(プルトニウムは2×105TBq)
*3: 甲種貨物およびB種船の基準は、INFクラス3に若干の追加要件がある。
注)海査520号:照射済核燃料等運搬船の構造設備の特別要件を規定したもの。
 
(5)今後の低レベル放射性廃棄物輸送をめぐる検討事項
 以下に、商業用原子力発電所の廃止措置に伴い埋設処分が検討される低レベル放射性廃棄物の安全輸送を確立するために、今後実施すべき検討事項をまとめる。
1)超大型金属放射性廃棄物
 東海発電所の廃止措置では、その炉型の特殊性から該当物はないが、軽水炉の場合に米国では、原子炉圧力容器やPWRの蒸気発生器について一体で輸送する方策の検討も行われている。この場合については、基準適合性の証明方法、輸送手段等の検討が必要となる。検討した輸送システムの例を表2.3.3-3に示す。
2)非固形化廃棄物の輸送
 放射性金属廃棄物を再利用の目的で、モルタル固化せず輸送する場合、型式及び課せられた要件への適合性をどのように示すことができるかの検討が必要となる。
3)使用済樹脂の輸送
 固化せず使用済樹脂を運搬する場合、密封機能の検査方法の検討が必要となる。
4)放射性廃棄物の重量物制限外許可条件
 制限外の重量物を車両輸送する許可を受けるには、積荷は分割できない1個の輸送物であるとの制限が課されている。効率的な輸送のためには、この制限を緩和することのできる条件等について検討する必要がある。
5)繰返し輸送への特別措置の適用
 IAEA輸送規則1996年版に示されるように、現行の低レベル放射性廃棄物輸送のように、大量でかつ反復輸送にも特別措置が適用できるようにするか、あるいは、法令を改定するかについて、輸送の安全確保を最重点課題として検討すべきである。
6)規制免除値の導入
 規制免除値を適用した輸送が行なえるよう、陸上輸送にも規制免除値を導入する必要がある。
7)ISO規格の適用性
 IP-2型輸送物へISO規格のコンテナが適用できれば、輸送容器の設計の合理化につながる可能性がある。
 
表2.3.3-3 軽水炉解体圧力容器、蒸気発生器輸送システム案
廃棄物 原子炉圧力容器
(L1廃棄物、B型輸送物)
PWR蒸気発生器
(L1廃棄物、IP-2型輸送物)
発電所内 廃棄体兼輸送物作成
BWR本体形状寸法:23mL×7.7mφ
質量:本体750t+充填モルタル452t
+収納物100t+遮蔽50t
+緩衝体200t+架台38t
=1590t
PWR本体形状寸法:13.6mL×6.5mφ
質量:本体402t+充填モルタル120t
+収納物100t+遮蔽50t
+緩衝体50t+架台38t
=760t
廃棄体兼輸送物作成
本体形状寸法:20.7m×4.6mφ
質量:本体440t+充填モルタル140t
+緩衝体50t+架台40t
=670t
船積港 連結キャリア(4〜6台)
積出港に重量物クレーンを仮設
または、ロールオン・ロールオフ方式により船積み
連結キャリア(4台)
積出港に重量物クレーンを仮設
または、ロールオン・ロールオフ方式により船積み
海上輸送 質量から499GT型より大きい一般貨物船を使用、船倉床に仮設固縛装置、立入制限区域出入口と巡視通路を確保
または、ロールオン・ロールオフ船を使用
499GT型貨物船を使用、他は同上
または、ロールオン・ロールオフ船を使用
荷卸港 岸壁に重量物クレーンを仮設荷卸、連結キャリアで1輸送物
キャリア表面・1mでの線量率測定
埋設センターまでの陸送には道路、橋梁などを補強、整備
または、ロールオン・ロールオフ方式により荷卸
同左
埋設センター 埋設場近辺に重量物クレーンを仮設、定置前検査、 同左







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION